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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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214 細かすぎる予定

 前島先生から京都観光の予定表の許可をもらえた。ほっとして、みんなで顔を見合わせた。祇園の街歩きを提案したのは藤城皐月(ふじしろさつき)だ。

 皐月の提示した徒歩の所要時間はあまり時間的な余裕がなかった。先生に予定表を却下されるかと心配していたが、とりあえず認められた。

「ちょっと気になるところがあるんですけど……清水寺での時間、短くないですか? 1時間くらいはみておいた方がいいと思いますよ」

「それは班内でも議論をしました」

 吉口千由紀(よしぐちちゆき)が清水寺の参拝ルートを説明した。

 仁王門(におうもん)を抜けて西門(さいもん)鐘楼(しょうろう)、三重塔を見ながら、清水の舞台と言われる本堂へ行く。その後は縁結びの神様が祀られている地主(じしゅ)神社へ行く。

 時間をかけたいのは本堂だ。清水の舞台をじっくりと味わいたいというのがみんなの総意だった。

 オカルト好きの神谷秀真(かみやしゅうま)は清水寺よりも古い地主神社に興味津津だ。千由紀は本堂と地主神社での時間の使い方次第では、絶景撮影スポットの奥の院と、学問や恋愛などにご利益がある音羽の瀧(おとわのたき)は諦めることになるかもしれないことを先生に伝えた。これは清水寺訪問を希望していた栗林真理(くりばやしまり)の妥協案だ。

「混雑していると、想像以上に時間がかかるかもしれないわね。空いていれば時間が余ってしまうかもしれないし、難しいところね。全てを見なくてもいいとは思うけれど、できることなら奥の院と音羽の瀧は諦めてもらいたくないわね。奥の院からの景色は写真などでよく見るけれど、やっぱり実際に自分の眼で見てもらいたいわ」

 学校から推奨されている清水寺での参拝時間は1時間だ。皐月たちは45分でも大丈夫だと結論を出したが、状況次第では真理の妥協案になってしまうかもしれない。


「あと気になるのは昼食の時間ね。鴨川デルタでお昼ご飯を食べるのは素敵だと思いますが、時間が20分しかないのは短すぎませんか?」

「給食で実際に食べる時間が15分くらいなので、まあ大丈夫かなって思いました」

 千由紀は最初の段階では30分と考えていたが、スケジュールを詰める段階で10分削った。

「先生はもう少し鴨川デルタを楽しむ余裕があった方がいいと思うのですが……。飛び石を渡ったりして遊ぶのも楽しいですよ」

 前島先生は鴨川デルタに行ったことがあるという。大学生の時に京都の大学に進学した友だちの家に遊びに行った時に連れて行ってもらったそうだ。あまたある寺院よりも鴨川デルタの方が今でも印象に残っていると、懐かしそうに話してくれた。

「下鴨神社は余裕を持っておよそ1時間くらいの時間を充てているので、鴨川デルタとの時間配分を調整すれば大丈夫だと思います」

「先生、参道の(ただす)の森は直線距離で500メートルくらいしかないし、境内社(けいだいしゃ)を参拝するのだってそんなに時間がかからないから、実質30分くらいで一通り回れるよ。お腹のすき具合と相談して、先に神社の参拝を済ませてもいいし」

 秀真は先生の話を聞いて、河合神社よりも鴨川デルタの優先順位を上げようと提案した。秀真のお目当ての摂社(せっしゃ)・河合神社も大きくはないので、参拝をするのにそれほど時間はかからない。秀真はあまり自己主張をしてこなかった千由紀を立てようとしているようだ。

「……そうね。まあ、あなたたちならここは大丈夫そうね」

 前島先生の鴨川デルタでの思い出が聞けて、みんなの期待がより高まった。そのお陰で、秀真から新しい折衷案が出てきた。


伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)にも行くのね。先生、伏見神寶神社ふしみかんだからじんじゃは知らないんだけど、この神社はどういったものかしら?」

 ここは秀真の希望する訪問先なので、説明は秀真に任せた。

「伏見神寶神社は伏見稲荷の敷地内にあるんだけれど、摂社とかじゃなくて独立した神社なんです。しかも伏見稲荷よりも古い。それに狐じゃなくて龍が祀られているんです」

「へぇ〜、そうなんですね。とてもユニークな訪問先ですね。先生、初めて聞きました」

「伏見神寶神社には十種神宝(とくさのかんだから)という十種類の宝物が祀られていて、これは正式には天璽瑞宝十種あまつしるしみずたからとくさって言うんですけど、邇芸速日命(にぎはやひのみこと)天孫降臨(てんそんこうりん)に先立って高天原(たかあまはら)から天降り(あまくだり)する際に天照大御神(あまてらすおおみかみ)から授かった……」

「ストップ! 秀真(ほつま)、そこまで!」

 秀真が暴走し始めたのを皐月が止めた。秀真は自分の得意分野を話し始めると周りが見えなくなる悪癖がある。秀真も自分が張り切り過ぎたことを自戒して先生に謝り、訪問の予定を話し直した。

「一応、伏見神寶神社に参拝したら、引き返すつもりでいます」

「え〜っ、三ツ辻(みつつじ)までは行こうよ!」

 二橋絵梨花(にはしえりか)が珍しく感情的になった。秀真は伏見神寶神社にさえ行ければいいと考えているようだが、絵梨花はもっと観光を楽しみたいようだ。伏見稲荷の境内図にアクセスして調べてみると、絵梨花の言う三ツ辻辺りで折り返しても時間的には少ししか変わらない。

「じゃあ三ツ辻まで行こう。ごめんね、二橋さん」

 秀真は自分の強引さを謝った。修学旅行実行委員の筒井美耶(つついみや)は秀真のこの性格が苦手だと、皐月にこぼしたことがある。

「毎年、伏見稲荷大社をコースに選ぶ班の中で、稲荷山を一周するっていう子たちがいるのですが、あなたたちは引き返すのですね」

「稲荷山を踏破する人たちなんているんだ。すげ〜っ!」

「稲荷山は一周約4km、2時間ほどかかります。他の訪問先を削ってまでして稲荷山に登るんですって。そういう楽しみ方もあるんですね」

「時間があれば登りたいんだけどな……」

 神社好きの秀真は稲荷山に登る子たちがいるということにショックを受けていた。バランス型の自分たちの班の予定よりも、そういう一点集中型の予定の方が秀真の好みだ。


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