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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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211 優秀な児童会

 給食の時間が終わって昼休みになると、藤城皐月(ふじしろさつき)は急いで児童会室へ向かった。訪問先を決める話が長引いてしまった。後のことは班長の吉口千由紀(よしぐちちゆき)岩原比呂志(いわはらひろし)に任せておいても問題なさそうだ。

 修学旅行実行委員の副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)と、書記の水野真帆(みずのまほ)はすでに児童会室に来ていて、何かのプリントを見ていた。

「お待たせ〜。二人とも来るの早いね。何してんの?」

「水野さんが作ってきてくれたアンケート用紙を印刷したの。これならいい観光ガイドを作れると思う」

「へ〜。見せてもらってもいいかな?」

 真帆が印刷されたアンケート用紙を皐月に手渡した。皐月は真帆の仕事ぶりに敬意を示し、意識を集中してプリントの中身を確認させてもらった。


---------------------------------------------------

修学旅行実行委員より、アンケートの協力をお願いします


 修学旅行のしおりに、みんなが旅行前に楽しみにしている訪問先の特集ページを作ろうと思っています。

 答えていただいたアンケートは全てしおりに掲載します。みんなで修学旅行を盛り上げましょう!


1 あなたが修学旅行で最も楽しみにしている訪問先はどこですか? 京都・奈良のどこかを教えてください。(例:清水寺、法隆寺など)


2 その場所の見所など、楽しみにしていることを教えてください。(一言でも構いません。書かなくてもいいです)


3 修学旅行のしおりに、このアンケートに答えてもらえた人の名前を掲載したいと思っています。名前をのせてもいいという人は名前を書いてください。名前を知られたくない人は名前を書かなくても構いません。


__組________


4 修学旅行のしおりをにぎやかにするイラストを募集します。


 修学旅行を連想させる建物や小物、人物などのイラストをいただけると実行委員はうれしいです。義務ではありません。描かなくてもいいです。実行委員に協力してやってもいいよっていう人だけにお願いします。

---------------------------------------------------


 プリントを見た皐月は真帆の考えた文面に感心した。

「すごくよくできてると思う。わかりやすい言葉で書かれているし、強制している感じもしない。これなら高い回答率が期待できるかも」

「ありがとう。私、ちょっと自信なかったんだよね。相手が児童会や先生じゃないから、言葉の選び方が難しくて……」

 皐月は真帆のことを自信家なのかと思っていたが、思っていたよりも繊細な感性の持ち主なことを知った。

 小学校では発達段階に差があって、自分が当たり前のようにわかることでもわからない子がたくさんいる。真帆はそのことをわかっている。

「掲載とか募集とか、小学校では習わない漢字を使っているところをどうしようかなって話していたの。言葉を言い換えようか、平仮名にしようか、ルビをつけようかって」

 あらかじめ華鈴がアンケート用紙の中身をチェックをしていてくれた。華鈴も皐月ならスルーしそうな細かいところによく気がつく。児童会は低学年も相手にするので、こういう配慮ができるのは当たり前のことなのかもしれない。

「たぶん、このままで大丈夫じゃないかな。掲載も募集もよく見る言葉だし。面倒じゃなかったらルビを振ってもらってもいいかな?」

「わかった。じゃあそうするね」

 真帆が皐月の要求に即座に対応し、現行のファイルを書き直した。


「イラストの募集、いいね。このアンケートでイラストがいくつか集まったら、実行委員に描いてもらわなくて済むね」

「そう言ってもらえると嬉しいな。勝手にこんな項目増やしちゃったから、怒られるかなって心配だった。僭越なことをしたって意識はある」

「水野さんって、児童会でもそういうことする時があるよね」

「あっ、会長もしかして怒ってた?」

「別に怒ってないけどさ……でも、的外れなことされたら注意しようとは思ってたけどね」

「ごめんね……。私ってすぐに出過ぎたことをしちゃうから……」

「いいよ。水野さんのすること、全部プラスになることばかりだったから。優秀なスタッフに恵まれて、私は幸せだと思ってるよ」

「よかった……会長、怒ってなくて」

「その会長っていうの、やめてよ。ここは児童会じゃないんだから」

 華鈴の話を聞いていて、皐月は自分もまた幸せなんだなと思った。有能な真帆だけでなく、華鈴まで自分をサポートしてくれる。この二人のお陰で修学旅行実行委員の委員長が楽なポジションに思えてくる。


「水野さんにお願いがあるんだけどさ、ちょっと面倒な文字入力をしてもらいたいんだけど」

「いいよ」

 皐月は修学旅行のしおりに載っている規則の一つ一つに理由を付け加えたいことを告げた。皐月と華鈴で話し合っていることを文字起こししてもらいたいと頼んだ。

「ここでやるなら、音声入力にしようかな。ここなら静かだし、変なノイズが入らないから」

「音声入力なんてできるんだ」

「うん。手入力よりもずっと早いよ。でも編集する手間は増えるから、どっちが楽かはわからない」

「水野さんがやりたい方でいいよ」

「じゃあ音声入力でお願いします」

 とりあえず試しに少しやってみることにした。真帆がしおりの規則の文を読み上げ、それに対して皐月と華鈴が理由を考えて発言する。画面を見ていると、かなり正確に文字に変換されている。少し手直しするだけで実用的に使えそうだ。

「これなら明日中にできちゃいそうだね。明日の昼休みもここに集まってもらってもいいかな?」

「私は大丈夫。水野さんはどう?」

「私もいいよ。早くできる仕事は早く終わらせちゃいましょう」

「じゃあ、俺と江嶋はあらかじめしおりを読んでおいて、理由を考えておこうか。明日この場で迷うのも時間の無駄だし」

「そうね。その方がいいわね」

「でも、この程度の量だったら俺が家で一人でやっちゃってもいいんだけどな」

「また一人でやろうとする。二人でやるって言ったでしょ?」

「わかったわかった。二人でやろう」

 自分が一人で仕事を済ませてしまえば華鈴も楽なのに、どうして一緒にやりたがるのか。皐月には華鈴が二人で仕事をしたがるのが不思議だった。


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