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藤城皐月物語 2  作者: 音彌
第4章 深まる季節
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210 京都旅行でどこに行きたい?

「とりあえずみんな、絶対に行きたいところを一カ所だけ言って」

 岩原比呂志(いわはらひろし)が班のみんなに聞くと、食べかけていた八宝菜を一気に啜った。比呂志は食べながらではなく、食べ終えてから話をしたがっていた。

「私、清水寺」

 真っ先に栗林真理(くりばやしまり)が答えた。

「僕は下鴨(しもがも)神社にしておく。世界遺産だから異論はないよね」

 神谷秀真(かみやしゅうま)木嶋坐天照御魂このしまにますあまてるみたま神社を諦めた。だが藤城皐月(ふじしろさつき)は秀真の真の目的を知っている。

 秀真の本当の目的は下鴨神社の摂社(せっしゃ)の河合神社だ。ここは八咫烏(やたがらす)が祀られている。八咫烏は色々な意味で興味深い。

「俺は祇園(ぎおん)ね。あと八坂(やさか)神社も」

「藤城氏、一カ所って言ったよね?」

「祇園と八坂神社はセットじゃん。八坂神社から祇園四条(ぎおんしじょう)駅に行く途中で、祇園の花見小路通(はなみこうじどおり)を歩こうよ。それに清水寺から祇園に行くのだって、歩いて八坂神社を経由するわけだし、八坂神社は重要な中継点だ」

「まあ、そういうことならしょうがないか……」

 一瞬だけ比呂志に怒られたが、事情を説明するとすぐに納得した。比呂志は皐月が清水寺と下鴨神社を接続するために八坂神社を入れたことを理解したようだ。これは二人で一緒に地図を見て、地理が頭に入っていたので阿吽(あうん)の呼吸で伝わった。


 皐月は八坂神社に行くのなら知恩院(ちおんいん)にも寄りたかった。だが時間のことを考えると諦めざるを得ない。皐月は吉口千由紀(よしぐちちゆき)に欲張り過ぎと言われた犯人の一人だ。

「私は東寺(とうじ)に行きたいな。講堂の立体曼荼羅(りったいまんだら)が見たい」

 二橋絵梨花(にはしえりか)は今まで話題に上がらなかった東寺を見たいと言い出した。皐月はてっきり広隆寺(こうりゅうじ)弥勒菩薩半跏思惟像みろくぼさつはんかしゆいぞうを見たいのかと思っていた。

「だって広隆寺は方角が違うでしょ。それに弥勒菩薩像は法隆寺で見られるから、今回はいいかなって思ったの」

 絵梨花は仏像を軸に訪問先を考えているのかもしれない。ならば三十三間堂さんじゅうさんげんどうはいいのか、と思ったが、絵梨花も三十三間堂を諦めたのかもしれない。

「私は伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)に行ってみたい。でもあそこは広すぎるから、千本鳥居(せんぼんとりい)の中を歩ければ、全部まわらなくても満足かな」

 吉口千由紀は班長だからなのか、遠慮がちだった。方角的には下顔神社からのアクセスがいいから、伏見稲荷は有りだと皐月は思った。

「伏見稲荷に行くなら伏見神寶(ふしみかんだから)神社に行こうよ。僕はここで十種神宝(とくさのかんだから)ペンダントを買いたいんだ。千本鳥居を少し歩いた所にあるから丁度いいと思うよ」

「それってどういうこと?」

 千由紀は伏見神寶神社のことを知らないようだ。皐月もこの神社のことは初耳だった。

「伏見神寶神社は伏見稲荷の中にある神社で、千本鳥居を抜けていく途中の丘にあるんだ。この神社は伏見稲荷よりも古いって言われているんだよ。いや〜、吉口さんが伏見稲荷って言ってくれてよかった! 僕、伏見神寶神社のことすっかり忘れてたよ」

「私はよくわからないけど、神谷君がそんなに喜んでくれるなら良かった」

 皐月は秀真の言う伏見神寶神社のことを何も知らないことが悔しかった。後で情報を注入してもらわなければならない。


「岩原氏はどこに行きたいの?」

「僕はいいよ。これ以上希望しても、まわり切れないと思うから。それに、今挙げたところだって、全部まわり切れるかどうかわからないし……」

「それじゃあ、あんまりだと思う。どうしよう……」

 千由紀が悩み始めた。班長としての責任を感じているのかもしれない。もしも時間が足りなくなったら、千由紀は伏見稲荷を諦めてしまうかもしれない。

「僕は移動で鉄道に乗れるだけで楽しいから、気にしないでほしい。関西の私鉄に乗ることが僕の修学旅行だから。この心理は女性の方には理解ができないかもしれないけど」

「俺はわかるぞ、岩原氏」

 皐月は比呂志のオタク心がよくわかる。京阪(けいはん)電車に乗れるだけでも楽しいし、比呂志のことだ、あわよくばダブルデッカーに乗ろうと目論んでいるに違いない。

 伏見稲荷大社から東寺に行く時は、JR西日本の奈良線と近畿日本鉄道の京都線にも乗れる。三河(みかわ)に住んでいる人間にとって、関西の路線に乗れるのはそれだけで嬉しいことなのだ。


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