エルデ、幾重にも重なる【憤怒】を胸に立ち上がる。
静かな薬師処の作業所。
その片隅に丸椅子を用意して頂き、二人して対面で座る。 一息付けたわ。 場所をお借りしているだけで、なんの ”おもてなし” も、出来ないけれど、今は彼女から事情を聴く方が先決ね。 だって、未だに思う所が有って、一言も言葉を発していないのだから。 仕方ないわね……
「改めまして、初めまして。 私はアルタマイト教会 薬師院所属 第三位修道女 エル に御座います。 貴女の御話を承りたく、そして、私に出来る事が有れば、それを成そうと思いますが?」
私の言葉にビクリと反応する彼女。 よっぽど、聖堂教会の者と云うのが、心に深い傷を与えているのかもしれない。 だけど、これだけは云えるの。 それは、きっと貴族派の方々。 そして、その方々は既にこの世にはいらっしゃらない…… って。 薄いコートのフードを落とし、初めて御顔が見えた。 目の下の隈が酷いわ。 疲れ切ってらっしゃるの。
ギラギラとした光がその青い双眸に浮かんでいるのよ。 手負いの魔猪の方が、まだマシなくらいね。 もはや殺気と云ってもいい程の強い視線。 小さく…… 本当に小さく、言葉を紡がれるの。
「『ご挨拶』は有難う。 わたくしは、ファンデンバーグ法衣子爵家の一女よ。 ……そ、それで、対価は何? 先程、店先であの男が言っていた通り、私が…… 法衣子爵家が購える金穀は、ほぼ無いに等しい。 身体を差し出せば、効能の高い薬を呉れるとでも?」
高圧的に…… そして、どこか諦めた風に、投げ槍に口にする言葉。 こちらを睨みつける様な顔に、少し違和感が有るの。 なんでだろう? よくよく顔を見てみるの。 何かが…… 足りない。 そんな風に感じてしまう。 とても…… 手入れされているとは思えない様な赤茶けた御髪。 眉を顰める様に、此方を伺う彼女の双眸はとても澄んだ『青』。 不健康そうな青白い肌に、折れそうなほど細い手足。
もう既に、気温は落ち寒いと感じる日が続いていると云うのに、未だ夏物の古びた質素なドレス姿……
それなのに、眼には意思の力が強く、強く、灯っているのよ。 こけた頬を、想像で膨らませてみる…… もっと手足に力が有り、もっと女性らしい身体付きだったら…… そして、青い瞳の中に灯る強い意志の光。 ……そうか。 足りない物が判った。
「ファンデンバーグ様。 一つ、お尋ねしたい事が有ります」
「何よ……」
「視界がボヤケていませんか? モノが二重に見えたり、遠くが見えなかったり」
「そ、それが、どうしたと云うのよッ!」
やっぱり……
この方の御顔…… どこかで見た様な記憶が有るの。 ええ、会った事は無いわよ、今世ではね。 『記憶の泡沫』の中に有ったの。 でも、記憶の中の彼女は、もっと健康的だったし、もっと貴族令嬢らしい装いをしていたわ。 レンガの様に紅い御髪は、美しく結い上げられていた。 双眸に浮かぶ光は同じでも……
もっと、平坦な…… 感情を何処かに置いてきたような、そんな表情を張り付けていたわね。
なにより一番違うのが、彼女の特徴と云うか…… そう、『眼鏡』を掛けていない事。 成人男性が掛けるような、重厚で重い感じの黒縁の眼鏡を掛けていて、その奥から青い炎の様な目の光が覗いていたんですものね。 無茶をする私をジッと観察しつつ、その行動を見張り、そして記録していたのよ。
貴族学習院での、私の行動を逐一 ”寄り親 ” に報告する、密偵の様な存在。 その忠誠はリッチェル侯爵家に有り、その末娘の安寧の為に何処までも、何処までも、滅私奉公をするのが…… 彼女だったの。
二十七回のどの過去でも、彼女は常にヒルデガルド嬢の背後に居たわ。 私の爪がヒルデガルド嬢に向く気配が有れば、すぐさまに呼応して、それを阻止する。 何度も、何度も遣り合った。 時が満ちた後は、私の悪行を全て書き記したモノを、その時々に愛した方々へ向けて手配し、そして、私が犯した罪を、白日の下に明らかにしたのは…… そう、彼女。
” グレイス=ケイトリッチ=デル=ファンデンバーグ法衣子爵令嬢 ”
過去の中のヒルデガルドは、ずっとケイティって呼んで、何時いかなる時にも傍から手放さなかった。 そうか…… それで、私の心の中で警鐘が鳴ったのね。 気を付けろッ! って。
……でも今世では、今日初めてお会いしたのよ。
それに、なんだか感じが違う。 全くと言っていい程、過去の彼女の面影が無いのよ…… 何故だろう? 過去に於いて、高等部の一年次と云う時期は、既にヒルデガルド嬢の良き相談役として、彼女の背後に立ち護っている時期なのよ?
それが、こんな煤けた感じなの? トレードマークの黒縁の眼鏡すら無いのよ…… 何故なんだろう? ……取り敢えず、御話を聴かなくては。
「何か、勘違いしていらっしゃるようですが、『神職』を戴いている第三位修道女のわたくしは、金銭を要求する事は有りません。 全ては、倖薄き人々に対しての神様と精霊様方の慈悲の手の代行。 私は『誓約』しております。 よしんば、対価を求めるとなると……」
「なると? どうせ、支払いきれない、とんでもないモノなんでしょうにッ!」
「いいえ、わたくしが欲するのは、『祈り』に御座います。 真摯に、誠実に神様と精霊様方に感謝を奉じる、そんな『祈り』が対価と成ります」
「『祈り』? そんな、馬鹿な…… 聖堂教会の神官共は、その聖なる衣の裏柄に、野心と獣心を滾らす者達じゃないの? 現に……」
「その方々は、リッチェル侯爵家が御令嬢に対する咎で、既に罰せられ命を対価にその罪を償われておりますわ」
「えっ? ど、どういう事?」
「ええ、聖堂教会の貴族派と呼ばれていた方々。 高位聖職者は勿論の事、一連の出来事に関与していた人は、異端審問官様の厳しい詮議を受け、そして、罪が確定され断罪されました。 ご存知なくて? 聖堂教会からの発布も御座いました」
「そ、それは…… 知らなかった」
「そうですか。 それは、残念に御座います。 が、『不逞の輩』に関しては聖堂教会内でも、その行為を看過できず、聖職者にとって一番重き罰を受けられました。 『邪教信奉者』として…… 処分されました。 ファンデンバーグ法衣子爵令嬢。 教会は教皇猊下の元、『原点』に立ち戻り、真摯に祈りを捧げる者達が、聖堂教会の主流にして唯一と成っております。 わたしが成している、倖薄き人々への医薬品の頒布も、その方々の御意思に沿うモノです」
「…………な、ならばッ!! 救いの手をッ! 差し伸べて下さると云うのですかッ!!」
「はい、お嬢様。 『神職』に有る者として、『困難に遭遇している方』に、手を差し伸べるのは、当然の事です」
必死の形相で、私を見詰めるファンデンバーグ令嬢。 法衣子爵家の御長女と云う事で、色々と有ったのでしょうね。 そう…… 色々とね。 さて、彼女の心の中にある、垣根と云うか壁と云うか、そんな隔意を叩き割って、彼女の ”御話 ”を、聴きましょうか。
――― § ――――
それまでの高圧的で敵愾心丸出しの彼女が嘘のように、私を食い入る様に見詰めて来たの。 まるで、此処に唯一の希望の光が有るかのように。 だから、彼女の希望を繋ぐようにしなくてはね。 まずは現状、本当に困っている事から。 そう、御母堂様の事。 『病い』か『怪我』か、はたまた『呪い』か…… 何が、彼女をしてここ迄憔悴させているのかを、背景情報を含めて、全てを知らなければ対処できないもの。
「御母堂様がお倒れに成っているとか? そちらが、『焦眉の急』と思われますが?」
「そう…… なんです。 お母様が倒れられて、既に三年…… 私が『失敗して』しまった後…… 直ぐに倒れられて…… 最初は風邪かなって位だったの。 でも、日に日に衰弱して行くの…… ファンデンバーグ家に、良くない事が立て続けに起こって…… それで…… 心労も重なって、ついに立てなくなったのが、先頃…… 私が学習院の四年次に進級した直後なの…… ど、どうして……」
泣き崩れる彼女。 えっと…… 徐々に何かに削られている? そう云う事? お家の不幸が重なって? いや、背景情報は後でいいわ。 今は患者さんの容態を確認しなきゃね。 努めて優しく声を掛けるの。 話を聴いてもらえると安堵したのか、彼女…… 貴族の淑女としてはどうかと思う程、感情を昂らせてポロポロと涙を溢しながら、嗚咽を漏らしているのよ。 そんな彼女を叱咤激励するかのように私は問うわ。 ええ、重要な事なんですもの。
「御母堂様は、今は床に伏しておられるんですか? 御不浄は、御一人で? 食事は? 最後に治癒師様に掛かられたのは? その時の診断は? 誰が御側についておられるの? お部屋は暖かくしているの?」
立て続けに、質問をぶつけるの。 感情が溢れ出して、潰れそうになっている彼女にしっかりとして貰わないと、『救う手立て』は立てられない。 嗚咽の元、何度も何度もつっかえながらも、言葉を絞り出していた彼女から、詳細を『聞き出した』のよ。 目下の最大の懸案事項と成っている御母堂様の事をね。
まぁ、想定出来る事は幾つか見つかった。 まだ、完全に寝たきりと成っている訳じゃない。 でも、相当に酷い状態ね。 御手を取って見なくては、詳細は判らないけれど、話を聴く限り御母堂様の症状は、病でも怪我でも無かった。
そう、僅かばかりの例外を除いて、想定できる事は幾つかの『呪い』
まだ、お家に余裕があった時、ファンデンバーグ法衣子爵様は奥様の御容態に胸を痛められ、王宮治療院の治癒師様に無理を言って診て貰ったらしいの。 その時は、まだ重篤な容体では無かったらしいのだけど、それでも不調が続いている事には違いないから。 診断の結果は、『不明』。 特に、何処かが悪い…… と云う事は無かったらしいわ。
その後、ファンデンバーグ法衣子爵家に次々と不幸が訪れるの。 奥様の転地療養も叶わぬ位にね。 最たるものが、ファンデンバーグ法衣子爵の左遷。 閑職に配置転換され、今では国史編纂室付けの三等事務官だそう。 若くして、上級官吏試験に合格した英俊なのに、そんな閑職に追いやられた理由すら判らないのだって。
彼女のお兄様も同じ。 こちらも、さして重要な役割を振られる事も無く、日々王城にて雑務を与えられる毎日だそう。 お兄様に至っては、歴代最年少で上級官吏試験に合格され、未来を嘱望されていたにも関わらず…… 今は総務部の下部職で…… 御不浄掃除の毎日だそう。
これじゃぁ、あっという間に干上がるわよ。 王城勤務が高給取りなのは、あくまで政に参画している官吏のみ。 あとは、市井の人々と何ら変わりは無いわ。 特に下職などは、その仕事に見合ったお給金しか出ないモノなのよ。
誰にでも出来る仕事は、それなりにしかお金に成らない。 貴族の看板を背負っている以上、支出はどうしても出て来る。 たとえ、ほとんどの使用人を解雇しても、喘ぎながらでも、それに応えなくては、貴族の矜持は護られない。 特に文官として王城に出仕する者にとっては、王城こそが生活の糧を得る場所で在り、そして、行政職からの離脱は ”法衣 ”と付く貴族にとっては死活問題に直結するのよ。
―――― 寄り親は何をしているのよッ!! 困った寄り子を助けるのが、寄り親の使命じゃ無かったの?
「……わ、わたくしが、失敗をしてしまったから」
呟く様に、彼女はそう私に告げる。 その沈んだ面持ちと、その言葉を意味を考えると、自ずと答えは見えてくるのよ。 そう、この方は何かしらの失敗をしてしまった。 それが、寄り親たる方の御不興を買う事となってしまった。 そして、その方は怒りの方向は、彼女だけに留まらず、より強く ご家族に向いてしまった。
そして、ファンデンバーグ法衣子爵家に『禍』が落ちた。 法衣子爵夫人が倒れ、法衣子爵とその御継嗣様の職が不当に貶められ、さらに『呪い』が上乗せされた。 意地の悪い事に、その失敗をしてしまった当の本人には直接的な『禍』を落とさずに。
よって、彼女の精神は削り込まれる事となったのよ。 ホントにもうッ! なにをしているのかしら、リッチェルと云う家は。
元々、あの侯爵家は気に入らないモノに対して、とても冷淡になれる家系の方々。 半面、気に入った者に対しては、どこまでも甘やかす傾向にあるのよ。 それが故に、甘い汁を吸いたいモノには、それこそ『乳と蜜の溢れる場所』と成るのよ。
―――― その皺寄せが全部『御領』アルタマイト領に降りかかって来るの。
ええ、ええ、散々に経験させて頂きましたよ。 見栄の為、膨大な贅沢の為、アルタマイトに追加の重税を課すのは当たり前で、その遣り口は領の代官でさえ閉口していたんだもの。 わたしが…… 幼少の頃に全てを押し付けられて、アルタマイト領の安寧に尽力したのは、その為でもあったのよ。
幸いにして、アルタマイト領は、王国の食糧庫と云われるほどの穀倉地帯だったから、如何にか無茶ぶりに応えられたわ。 もしも、他の領…… 物成の薄い、交易も活発でない御領であれば、応えきれるものでは無いのよ。 領政に携わっていた者として、その事は身に染みて判っている。 判っているからこそ、その事に酷く腹を立ててたのも事実なのよ。
……リッチェルの御継嗣であられる、エオルド=ミルバースカ=リッチェル従伯爵は、今頃どんな思いを抱えて、領政を仕切っておられるのでしょうね。 貴族学習院ではとても優秀な生徒であったと、そう云われているけれど……
今も、変わりは無い家風なのね。 うん、コレはいけない。 絶対にダメ。 神様の御意思に背くわ。 でも、どんな「不始末」をしたのかしら? 此れを聴いておかなくては、今後の対処にも影響が出るわよね。 だから、無言で『続き』を促したの。
「わたくしは…… ヒルデガルド様との交流をと望まれておりました。 侯爵令嬢であるヒルデガルド様は、少々奔放な所が御座いまして、侯爵令嬢としては余りにも気安い。 コレはと思い、ご指摘差し上げたのです。 でも……」
「侯爵家はそれを容認していた。 いえ、言い換えれば後押ししていたとも言えた?」
「ええ…… まさしく。 ”家では、そんな事云われた事は無いわ? どうして、そんな酷い事を言うの? ” そう…… 告げられました。 淑女教育も滞りがちで、良くて伯爵令嬢並み…… 実際は……」
「男爵令嬢並みの淑女でしか無かった。 ……でしょうね」
「えっ?」
「なんでも御座いません。 それで、それがリッチェル卿の逆鱗に触れたと?」
「はい…… 年若き従僕を通じ、強く叱責を受けました。 ですが、そこで……」
「その ”家令見習い ”の態度も又、侯爵家の家令としての態度では無かった…… " 家令見習い " の者がリッチェル侯爵令嬢の言葉に過剰に反応したと…… アントン…… 馬鹿じゃ無いの?」
「は?」
「いえ、失礼しました。 ……それをご指摘されたと」
「ええ…… かなり、柔らかくお伝えしたのですが、それが気に入らなかったのでしょう。 寄り親としての援助はその時からパッタリと途絶えました。 そんな折、母が…… まだ、我が家も余裕の有る時でしたので、父が母の容態を案じ、無理を願って王宮治療院の治癒師の方に見て頂いたのですが、『病』では無いと云う事で……」
「何らかの『呪い』では無いかと、当たりを付けた。 ……朧気に事態の推移は理解出来ました。 それなら、ファンデンバーグ法衣子爵が何処に【解呪】を願い出たのでしょうか?」
「…………その後、父の左遷と、兄の配属先が決まって………… わ、わたしのせいです! ならば、私がどうにかしなければと、無理を承知でヒルデガルド様にお願い申し上げ様としたのですが……」
「裏目に出たと。 彼女はアナタの云う事には聞く耳を持たなかった? 若しくは、彼女には近寄れなかった? 従僕が邪魔をしたと?」
「ええ…… そうなのです。 そして、困り果てた私に救いの手を差し伸べて下さったのが…… ヒルデガルド様の導師様であらせられますジョルジュ = カーマン様に御座いました」
「……力の薄き、”修道士 ”が、何をしようと云うのよ」
小声で思わず口から漏れた言葉は彼女には届かなかったらしいわ。 でも、彼女がバッと顔を上げて此方を見たの。 その瞳には青い炎が燃えていたわ。 ……怒りと、憤りが、綯交ぜに成った、強い光だったの。
「あの方はッ!! 対価に途轍もないお金を要求されましたッ! アノ時の我が家に有る、殆どと云っても良いお金をッ! 聖堂教会の正規の神官ならば、当たり前の対価であるとッ!! ……背に腹は代えられません。 母が良くなって呉れなくては、我が家は瓦解してしまいます。 無理に無理を重ね、要求された金員を準備してお願い致しました。 願いは叶い、我が家に来られて【解呪】の儀式をして頂いたのです」
「彼は云ったのですか、ご自身が正規の神官であると」
「はい、ハッキリと」
「王都聖堂教会の神官と?」
「はいッ!」
「……【解呪】 上手くいかなかったんでしょ?」
「………………はい。 単に我が家にとって膨大な金員を奪い取られただけで、なんら状況に変わりなく。 兄と相談して、父には報告せずに家財迄売り払ったと云うのに…… 家族は…… 徐々に容態の悪くなる母も含め、誰も私を責めたりはしませんでした。 ”善かれ”と思って、仕出かした私に…… 結果的に家門の面目を潰す様な事になってしまった事に対し、責めては呉れないのです……。 当然の事なれど、わたくしは、ヒルデガルド様の傍付には成れず…… 家は貧困に喘ぎ、母はもう直ぐ立ち上がる事も出来なくなるでしょう。 私にしても、いつまで学習院に通えるか。 いえ、通う意味が有るのか……」
「真摯に生きている方が、その生き様に応じた結果を出せぬのは辛い事。 まして、自身に罪なき場合は特に。 判りました。 事情はよく理解いたしました。 アルタマイト教会 薬師院所属、第三位修道女エルが、私の出来る限りを以て、状況に対応しましょう。 ……ファンデンバーグ法衣子爵令嬢。 お家に帰りましょう。 そして、諸々の悪しき事柄に終止符を打ちましょう」
「は、はい…… お願いいたします…… どうか…… どうか…… 母を……」
頭に来た。 怒りで胸が悪くなるほど。 それ程までに驕慢に成れるものなのか。 かつての私が可愛く思える程よ。 二十七回 巡った過去で、私が成したのも相当に悪しき事。 でも、それは対象者が個人なのよ。 そのご家族まで、手を出した事は無いわ。 彼等の成した事と比べたら、わたしの成した悪行は、まるで箱庭でのお遊び。
……怒ったのよ。
『憤怒』が心を締め上げたのよ。 この怒りは、私だけのモノじゃない。 神様の御手先たる『神職』に就く者が、等しく感じる『憤怒』でもあるのよ。
でも、その対処は後回し。
今は、一刻でも早く、彼女の御母堂様をどうにかしないと。
正しく、矜持高く生きていた者に、倖あれッ!
私の持てるモノを全て使ってでも、この状況を正さねばッ!!
悪しき巡りは、その根源から清めなくてはならないのよ。
だから……
悪心を持つ者達…… 神の鉄槌の重さを知れッ!