エルデ、予期せぬ二人が参加する朝食会に臨む。
フェルデン別邸の朝は…… 早い筈。 ただ、聖職者の朝が異様に早いだけなんだけどね。 『お勤め』を一通りこなし、本棟の私の部屋に戻ると、丁度お部屋付きの侍女達と鉢合わせに成るのよ。 多分…… 彼女達は、私が朝の『お勤め』を終える時間を、測っているとは思うんだけどね。
「お嬢様、『お勤め』お疲れ様です。 本日の装いはどのように致しましょうか?」
「華美に成らず、清楚に」
「御髪の方は?」
「見苦しく無いように」
「承知いたしました。 こちらでご用意しても?」
「お願いします。 貴方達の見立ては、とても素晴らしいので、満足しています」
「有難き御言葉。 では、皆、取り掛かります」
朝の決まり事のように、全ては進んで行くのよ。 私が第三位修道女から侯爵家の『養育子』になる為の儀式みたいなもの。 前世と違うのは、私自身が装う事に、拘りを持っていない事。 前世は酷かったわ。 ええ、自分が美しく見えるように、細部まで拘って、拘って……
ドレスの御色は元より、スタイルも何かしら最新のモノを取り入れて、お飾りも色々と指定して……
でも、要望とは微妙に違う物しか用意されてないのよ。 だってねぇ…… 私はその時、リッチェル侯爵家の『食客』って立場だったでしょ。 云わば、お情けで暮していたのよ。 そして、用意されたモノは、全てヒルデガルド嬢に用意されたモノの余り…… 出来るだけ要望に沿うように、リッチェルの使用人達は、頑張ってくれていたのよね。
だって、それまで全然 構って居なかった、『リッチェルの娘』だったんですものね。 かなりの『罪悪感』が有ったのかな。 そして、出来るだけ要望に沿って、自分達の罪悪感を緩和しようとしていたのかもしれないわ。 そう考えると、シックリ来るもの。
『食客』と成ってからは、家人…… つまりリッチェル家の方々とは、ますます交流も無くなり、ただ、ただ、そこに居るだけだったものね。 孤独な私は、誰かに見て貰いたい。 誰かに、エルデと云う娘が居るのだと、認識してもらいたい。 その想いが募っていたのだと思うのよ。
そして、出来上がる、傲慢で驕慢な態度。
そうしなければ、誰も自分を見る事が無いのだと、強迫観念にも似た憔悴感が有ったのだと思う。 誰かに愛して貰いたい。 私が愛せば、きっと、愛して貰えるに違いない。 そんな事ばかり考えていたのよ。
だから、着飾っていたの。 だから、敢えて驕慢に振舞っていたのよ、関心を得る為に。
リッチェルの部屋付きの侍女達の視線は、徐々に冷たくなっていった。 私がアルタマイトの孤児院から連れて来た、専属従者であるアントンも、その中の一人。 事情を知る家政婦長辺りは、痛ましいモノを見るかのような視線だった事は、「記憶の泡沫」の一部に残っているのよ。 そう、あの時の私は、『食客』であり、人目を憚る存在だったのよ。
ヴィクセルバルクの片割れが、本当の娘の傍に居るなど、貴族としては醜聞に違いないのよ。 私に与えられるモノは、全てが ヒルデガルド嬢に用意されたモノであって、『借り物』だったのよ。 其処に、気が付かなかったのは、私の過失でしか無いわ。 そんな事をツラツラ考えてながら、侍女達の作業を、黙って受け入れていたのよ。
――― 侯爵令嬢としての装いを、粛々と調えられて行く私。
大鏡の中の私。 ここでは、『借り物』ではなく、全て私の為に誂えられたモノばかりなの。 もし…… もし、前世の私が此処に居たら、きっと、自重などしなかったでしょうね。 華美に華麗に容姿も含め、最高のモノを用意するように求めていたかもしれない。 いいえ…… 違うわね、『別邸』では無く『本邸』に棲む事を 『要求』 していたかもしれない。
今度は、『養育子』と云う立場を忘れ、フェルデン侯爵令嬢として、同じように愛情を求めて『狂って』いたかもしれない。 『道理』と『理』とを、理解出来ない愚か者だったんですものね。 断片的な『記憶の泡沫』により、多少は賢しらだったかもしれないけれど、二十七回の過去の中で、誰かが私を評したように、
”人品骨柄の卑しい下賤の女 ”…… に、成っていたでしょうね。
――― 徐々に『侯爵令嬢』と、姿を変える私。
王宮女官の趣味はとても素敵なのよ。 私がどうやったって思いもつかない、装いを選び整え着付けてくれるの。 今日もまた、とてもシンプルだけど素敵な装い。 『お出掛け』する予定も無いし、朝食会が終わったら、又、装いを元に戻し『小聖堂』に戻るのを、判ってらっしゃるもの。
今日の装いは……
首元がスタンドカラーのブラウス、ネッカチーフはシルクレイドの幅広のモノ。 スカートは腰の部分が胸下まで来るモノ。 それと、裾の短い上着が用意されていたの。
”コルセットは、あまり好まない ”と、そう告げていたから、このスカートを用意してくれたのね。 背中でひも付きリボンが絞められて行くのは、コルセット替わり。 腰の下、お尻の上の方で、紐は幅広の生地となり、リボンと成って結わえられ、後姿を整えてくれるの。
スタンドカラーのブラウスは、キラキラと光を反射するアイボリーホワイト。 最高級のシルクレイドの地色だったかしら。 見る角度によって、若干、翠掛かって見えるの。
上着は丈の短いモノ。 小さなポケットがついているけれど、コレは飾りね。 懐中時計くらいしか入らないもの。 袖はフレアは無く、筒袖。 手首には届く『お袖』は絞られて、お食事する時にも邪魔には成らない。
スカートとジャケットは濃紺。 重い色だけど、ブラウスの色味を引き立ててくれているわ。 袖口、袷、襟もとには、金糸で刺繍が入っているの。 フェルデン侯爵家の紋章にもある蔦の刺繍。 勿論、スカートの裾にもね。 ある程度の『重さ』を与える為に、スカートの刺繍は幅広。
足元は、御色を合わせたツイード生地で覆われたハーフヒールの素敵な靴。
絶対に外では、履いてはいけないわよね。 コレ…… 足に馴染む感覚は、靴革になにか特別な革を使っているのだろう事は予想できるけれど、それが何かは判らない。 判らないけれど、まるで羽が生えているのかと思うくらい軽いのだから、素材がとても高価なのは、推して知るべし。
髪は軽く編み込まれ、後ろで纏められて、幾分かの束は、顔の横から素直に下ろされる。
薄くお化粧も施されるの。 華美では無く、アクセントくらいにね。 ただ、色を入れる位置がまた絶妙で、今一つパッとしない私の顔が、見事に『侯爵令嬢』へと変貌して居たのよ。 流石は王宮女官であり、後宮女官を目指す方々。
そのセンス、磨き抜かれた技術は、神の御業かと思うばかり。
「整いまして御座います、お嬢様」
「有難う。 大変、満足のいくモノです。 素敵な『見立て』、感謝いたします」
「勿体なく。 では、朝食会へ参じられますか?」
「ええ、もう準備も整っている頃合いでしょう?」
「御意に。 では、大食堂に」
大鏡の前から歩を進め、お部屋を退出。 その足で大食堂に向かったのよ。 そろそろ、時間だしね。
お部屋付きの侍女の方は、此処でお別れ。 扉の外にはミランダが待機していたわ。 私の姿を見て、目を細め笑みを浮かべると、軽く頭を下げられる。
それを受けて私は、手に持った母様の扇を三分の一程開き、口元を覆い、首を右に傾ける。 その後、笑みを頬に乗せ、真っ直ぐにミランダを見詰めてから、目を伏せる。 ミランダは手を体側に落とし、もう少し深く首を下げる。
”ご機嫌麗しく…… ”
”装い、とても満足しております。 彼女達に感謝を”
”有難い御言葉。 あの者達に伝え置きます”
声無き会話が、ミランダとの間で交わされるの。 これも、教育の一環なんだと、そう思う事にしているの。 十五歳の小娘が、『仕草会話』を、上手く操れる事は無いもの。 だから、こうやって、練習して、練習して、練習して、意識なく会話出来る程に成らなくてはね。
大体、お茶会とか、晩餐会なんかで、大人の貴族女性達の社交では、口から紡ぎ出される『言葉』と、掌で示される『掌 会 話』、さらに『仕草会話』で違う話をする事なんて日常茶飯事。 何か一つ…… 見落とすだけで、もう話は通じなくなるのよ。 そして、そうやって意図的に作り出された複雑な会話術は、私に混乱をもたらし、隙が生じるの。 それは、突っ込まれ、必ず差し込まれる。
勿論、此方が不利になるようにね。
もう、とっても大変。 アルタマイトのリッチェル邸に居た頃、お茶会は、大嫌いだったのよ。 幾つもの並行した話題を捌くのは、ある程度年齢を重ねないと、無理だもの。 だから、社交界の華と呼ばれるような『高貴な夫人達』を、とても尊敬している。
アレを、息をする様に出来るんですもの。
こうやって、ミランダと練習をして大食堂に向かうと、私の意識が切り替わるのが判るの。 ええ、聖職者である低位の『修道女』から、『侯爵令嬢』へと。 こんなにも大切にして貰っている手前、私だって全力で ”応え ”なくては、いけないもの。
大食堂に歩みが到達する頃、私の意識の切り替えは完全に終わっている。 隙有らば、狙ってくるのよね、あの方々。 言質を渡さぬ様に、友好的に、まだ指示は無いけれど、この国の意思に沿うように誘導しなくてはならないのよ。
――― 戦闘準備は成ったわ。
いつも通り、頬に淑女の笑みを浮かべつつ、大食堂に入って行ったの。 さて、何の話題を持ち出そうかと、思案してたのよ。 朝食会を少しでも有意義なモノにしたかったらね。 大きな観葉植物で遮られていた視線が通り、大食堂に設えられた食卓が見えたその時、ちょっと固まったの。
――― その場でね。
大食堂に入って、何時もの通り『ご挨拶』申し上げようと、視線をテーブルに向けたら、居る筈の無いお二方を含め四人の男性が、既にテーブルに付いておられ、歓談されていたんだもの。 今朝の朝食会は…… 波乱が有る事は、確実。 だって…… 四人の内の、居る筈のない『お二人』は……
ウィル = トルナド = デ = フェルデン侯爵閣下
グルームワルト = エバンデン = ロイス = フェルディン伯爵様
……の、お二人だったんだもの。
――――――― § ―――――――
朝食会に、居る筈のないお二人が、にこやかに座っておられるのよ。 そして、フュー卿とシロツグ卿と、歓談されているの。 まぁ、怜悧な瞳はそのままだけどね。 彼等の動向は、バン=フォーデン執事長を通じ、王城宰相府には通達されて居るし、何かしらの確認が有ったのかしら? 公務の一環として、この場に来られたのよね。 さて、ご挨拶 ご挨拶っと。
「おはようございます。 遅参した事、申し訳なくあります。 失礼いたしました」
「いいえ、いいえ。 わたくし達も、先程席に着いたばかり、〈キニ シナクテモ ダイジョウブ デスヨ〉」
「〈ソレハ、アリガタク ゾンジマス〉 皆様に善き日が訪れ、万端整います様に、そして、命を繋ぐ糧を与えて下さいました神に感謝を。 朝餉の会を始めましょう」
フュー卿がにこやかに席を立ち、私の座るべき椅子を引いてくれた。 作法に則り、首を下げて感謝を示す。 シロツグ卿も、厳めしい顔に涼やかとも云える、素敵な笑顔を載せていたわ。 男性のゲストが、朝食会の女性主人に差し出す、正当で儀礼に則った作法通りね。 嫌々でないのが、とても嬉しいわ。
「我がフェルデンが賢姫は、外国に知己を得たか。 ……何よりだ」
フェルデン閣下がそう、口にする。 なにか、ちょっと思案気でもあるのよ。 方やフェルディン卿は、雰囲気をぶち壊しにしそうなほどの渋面。 それは、不作法ですわよ、フェルディン卿。 まぁ、昨日の今日だから、そんな顔にも成るでしょうね。 私も昨日の帰りに ”ヤラカシタ ”から、卿の振る舞いに対して、文句を言える訳では無いのだけれどね。 でも、アレは…… まぁ…… いきなり手を握られたんですもの、少しは怒っても…… いいよね。
着席すると、朝食が運ばれる。 銀器の大皿に乗った、朝に焼かれた白パン。 濃いポタージュスープに、卵料理と、ボイルしたソーセージ、カリカリに焼いたベーコン。 サラダはたっぷりとボウルに入っているし、搾りたての果実のジュースは、良き芳香を漂わせていたわ。
メニューとしては、簡素な部類なんだけれど、そのどれもが厨房方が心を込めて、美味しく調理されているのよ。 飽食と贅は、私には禁忌。 でも、これなら大丈夫。 ええ、大聖堂でも供せられるような、内容なんですものね。 ただ、その品質が尋常じゃ無いのよ。 『普通の食べ物』でも心を込めたモノは、お金に飽かした豪華な食事よりも、私には好ましいのよ。
『朝餉の祈り』を、神様と精霊様に捧げ、食事は始まる。 食べながらでも、『お話』は出来るもの。 さて、どんな話題が飛び出る事やら……
「宰相殿、旨いですな」
「フェルデンが心尽くしです。 しかし、質素ではあるな。 もし、物足りなくば……」
「いえいえ、とても素晴らしい朝食です。 ここ最近は、邸内の雰囲気も明るくなりました。 これも、フェルデンが姫が、別邸にお住まいに成ったからでしょうね。 それに、邸内に精霊様方の加護が強くなりましたね。 言葉は悪いが、陰鬱とした雰囲気が、一気に払拭されたかのようですよ」
「左様ですかな? 私はそちらの方面は、不作法でして…… 良くは、判りかねる」
「小聖堂が、小聖堂らしくなり、その『祈りの間』より、精霊様方の気配が漏れ出し、其処此処に恩寵が戴けておりますな。 これは、とても珍しい事なのですよ、閣下。 エルディ嬢が見えられてから、この別邸は変わりました」
「……何が、云いたいのですか、フュー卿」
「別に。 だた、事実を述べた迄。 フェルデンが賢姫には、一度 我が祖国にも、お運び願いたいと思っては居りますよ。 ……切実に」
「ほう…… 左様ですか。 それは、また……」
「まだ、首を縦には振っては貰えませぬがね。 シロツグ卿の所もそうでしょう?」
ふぇ? シロツグ卿も、そんな事考えていたの? 私を蓬莱に招待したいって? ホントに? まさかぁ…… 少し、『蓬莱』と云う国には、興味が在るのは事実だけど、この国と蓬莱は相当離れているわ。 陸路を辿り、近くに港町で船に乗り換え無くてはならないし、軽く二ヶ月以上の時間が掛かるのよ。
最初からこの国の港から出航したとしても、船旅は一月以上の時間が掛かるし……
遠い、遠い、そんなシロツグ卿の祖国。 何もかもが、我が国とは違う、そんな場所。 行ってみたいなぁ…… 何時か。 そんな、私の憧れを、見抜いたかのようにシロツグ卿は口を開くの。 聴く方は、この国の言葉でも大丈夫なんだけれど、まだ、会話する程修得していないから、御国の言葉でね。 寡黙な人かと思っていたけれど、朝食会では結構饒舌なのよ。
〔 ……エルディ嬢の祈りが、八百万の神々に、届いておると、そう フュー卿が説明してくれたのだ。 その奇跡を導ける者は、我が祖国では天界から降臨した天女と云う。 出現すれば、皇家も含め国を挙げ、御守りする対象となるのだ。 祖国には、皇王陛下がおわします、皇居内に於いて、神祇尚賢所と云う場所が有りましてな。 四方を御簾に囲まれた、天女がお座りに成る『天女玉座』が設えられておりまして、そこに天女が座らば、『天下泰平』は神々より与えられ齎されると、古書に在り申す。 御伽噺のような、雲を掴むような話ではありましたが、この屋敷に於いて『その奇跡』を、我が目で見て我が肌で感じたのですよ。 エルディ嬢が御業は誠に、素晴らしい。 皇王陛下に、ご報告申し上げようかと、思案しておるのだ〕
「わたくしは、その様な尊き方とは違いますよ、シロツグ卿。 聖堂教会が第三位修道女。 階位も低く、ただ懸命に祈っているだけに御座いますわ」
[ ……そう云われると思って居た。 思案しているのは、エルディ嬢が御心内。 『異国の異教の戯言』と、一笑に付されてましては、当方も困惑しますからな。 まぁ、それは、追々…… こちらの聖堂教会? でしたか。 その経典や聖典を手元に取り寄せて、拝読させて頂けたら幸いですな。 我が国の神の教えは、大地と天空より生まれ出流もの、故に聖典やら経典と云うモノは、存在しません。 神祇官に至っては、成るべきモノが成ると云われるほど…… まぁ、緩い。 宗教と云う観点から見ると、『規律』すら曖昧なのだ。 エルディ嬢にしても、こちらの宗教観と、折り合いが付きそうならば…… ご来訪叶うかと、思いましてな〕
シロツグ卿の言葉は、蓬莱が言葉。 朝食会の参加者は、皆、蓬莱の言葉をよく理解できる方々だったから、シロツグ卿も忌憚なく彼の国の言葉を紡がれるの。 私がそう望んだから。 こちらの言葉を習得するまで、だんまりじゃぁ、意思疎通も難しくなるからって、お願いしていたのよ。
そうは言っても、良く判らない単語も混ざっている。 けれど、意味は取れた。 成り立ちの違う国に於いて、その宗教観も又違う。 その違いから、激しい対立も生まれる。 蓬莱では、かなり様相が違うらしいの。 だから、とても興味が在るのよ。
そんな朝食会の話題から、私は一つの可能性を見出しているの。
―――― 私が第一に心に置くべきは…… 『神様との誓約』。
あまねく世界の人々に、安らぎと安寧を。 『誓約』は、たったそれだけ。 世界の理を護り、人々の安寧の為に立ち働く。 そして、私は願うのよ。 出来る事ならば、私達が住まうこの国の者達だけではなく……
”広い世界に於いて、私はその『誓約』を押し広げていきたい ” と。
例え、何かしらの不都合が生じ、聖堂教会の『神職』で無くなったとしても、私に付随する権能や権限は、神様の御心を違えぬ限り、行使する事が出来るのだもの。 教会の高位神官や、教皇猊下を介さずに、直接神様と『誓約』を交わしたのだものね。
『誓約』を違えれば、私の命は神様が召し上げられ、常世の闇の中に投じられる。
だからこそ…… 私は、私の心のままに、『誓約』を護り抜かねば成らないのよ。 神様と精霊様方に、個人的な契約を結んでいると云ってもいいの。 其処に、何の条件も無い。 『私』が『私』で有る為に、そこに何らかの制限は課されていない。 誰にも掣肘される事も、押し留められる事も無いのよ。
言い換えれば……
――――― わたしが、『神職』で有る事すら、必要でないのよ。
それは…… 可能性の問題。
前世に於いて、狂う程に『切望したモノ』を得て……
共に世界を渡り歩き、倖薄き人々を救いながら、旅して行く事すら……
――― そんな事すら、可能なのよ。