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エルデ、灯った光の先で、異国の朋を得る。

コメントを戴いた中に、フェルディン卿の名前が、変わっているとのご指摘が有りました。

ありがとう御座います。 


グストール=レノアール=ヴェル=フェルディン卿

     ↓

グルームワルト=エバンデン=ロイス=フェルディン卿


と、させて頂き、既出の御話について、訂正を致しました。

ご指摘いただきました事、誠に有難く、自身で気が付か無かった事がとても恥ずかしく……


本当に有難う御座いました。 感謝、多謝です!!

 


 帰りの馬車を待つ私の前に、高貴な青年貴族が現れた。 そう云えば、玄門付近が慌ただしい。 その人は、にこやかな微笑みをたたえ、私に言葉を紡ぎ出す。




「……おや? フェルデンが賢姫は、もう御帰りか?」


「これは、これは、フェルディン卿。 遅くまでお役目、お疲れ様に御座います。 ええ、もう帰邸いたしますの」


「気品に満ち、美しい令嬢が早々に立ち去るのは、如何な事があった?」




    ―――― 遅参された、本日の主賓。 ――――


 そう、グルームワルト=エバンデン=ロイス=フェルディン事務次官様が、御到着された様ね。 私がにこやかに受け答えするも、フェルディン卿は徐々にご機嫌が斜めに…… フェルデン侯爵閣下の御意向もあり、本日の晩餐会は私の御披露目をする手筈に成っていたらしい。


 と云うのも、その旨を目の前に居るフェルディン卿が、私に伝えてくれたから。 




「本日の主賓たるフェルディン様の御到着を、御連枝の皆様方が談話室でお待ちの様です。 公明で高潔なる魂の持ち主と、御話する機会はそうそう有る物では御座いません。 みなさま、首を長くして御待ち申し上げておられるご様子」


「主賓? 私が? それは違うぞ。 今日の主賓はエルディ嬢、貴女だ。 貴女がフェルデンの賢姫として、一族に紹介するように、宰相閣下は宣せられたのだぞ?」


「あら、なにか、行き違いがあったようですわね。 本日の晩餐会で、本邸では御継嗣様の資質を見極められようとされていたご様子。 その『設問』がわたくし。 そして、既にその試問は終えました。 必要のなくなった『設問』は、使い終わった試薬と同じく、屑籠へ。 フェルデン侯爵家、王都別邸と云う、屑籠(・・)へ戻りますの」


「何を言っているのか? 皆は談話室に居るのだな。 エルディ、一緒に……」


「わたくしは、此処に居てはいけないのでしょう。 本邸のご家族とも言葉を交わす事も有りますまい。 別邸に於いて、神との誓約を護る事と致します。  お捨ておき下さい。 本日の詳細をお知りになりたければ、本邸執事長様にお伺い頂ければ、全容は判りましょう。 大変美味な晩餐でした。 アルタマイトから王都に向かう荒野を思い出し、わたくしが何者か…… 再認識させて頂きました。 ……馬車の用意が整ったようです。 フェルディン卿。 それでは、ごきげんよう」




 帰邸の準備…… 馬車の用意が整ったと、私に告げに来た二人の執事長達が、視界の片隅に移り込んだの。 だから、早々に御暇のご挨拶を口にした。 その際に使用したのは淑女の礼では無く、呪印を結んだ右手を胸に当て、首を下げる修道女(神職)のご挨拶。


 ドレスを着用しての この(・・)『ご挨拶』は、貴族の作法としては失格。 不作法極まりない事なのよ。 でも、敢えて行った。 私が何者であるかを知らしめる為に。 


 でも、私はもう偽らない。 学習院では、もう少し韜晦するけれど、二度と本邸では韜晦などしない。 私はアルタマイト神殿所属『第三位修道女 エル』なのよ。 修道女の御暇の仕草(いとま乞い)をしつつ、フェルディン卿と言葉を交わす私を見て、バン=フォーデン執事長も、ベルクライト本邸執事長も顔色を無くしている。 


 フェルディン卿は、冷徹で凍える様な視線をベルクライト本邸執事長様に投げつけ、叩きつける様な質問を口にされる。




「ベルクライト卿、委細、正直に詳らかにせよ。 事と次第によっては貴様は……」


「あ、あ、あの…… そ、それは……」


「フェルディン卿、わたくしは帰邸致します。 何かございましたら、別邸の方に。 あちらでしたら、十分なおもてなしも出来ましょうから。 それでは」




 御暇(暇乞い)の礼を解き、玄門を抜ける。 其処には立派な六頭立ての馬車が止まっていた。 うん、コレ、私が乗っていい物じゃない。 困惑が表情に浮かび、(かんばせ)をバン=フォーデン執事長に向ける。




「本邸よりのせめてものお詫びと成ります。 どうぞ…… 何卒…… どうか……」


「ふぅ…… 仕方ありませんね。 陳謝を受け取ります。 帰りましょうか、小聖堂に」


「御意に……」





「待てッ! エルディ、待て!」



 玄関ホールから駆け出して来たフェルディン卿が、私の手を取るのよ。 もう、何でよ! お話するなら別邸でって云ったでしょ? 母様の扇を半分開き口元へ。 眉根を思いきり(ひそ)め、フェルディン卿を見遣る。 状況により、この『仕草会話(ムヴェトク)』では、二重の意味があるの。


 一つは、同じ貴族的階層又は、女性から男性への不快の表明である『懇願』。


 ” 不快ですので、離して下さい ” 


 今の状況で、私が ”意図 ”したのは、もう一つの方の意味…… 

 上位者から下位者へ向けられる『拒絶』。 



 ” 下がれ、下郎  ”



 ヤラカシタッ! その仕草(・・)が、思わず出てしまったの。 かつての『驕慢な自分』の傲慢な態度そのものが…… 少し、凹んだ……  慮るは相手は、成人で事務次官であり、此方は未成年。 でもね、曲がりなりにも、私は本家血統に属する者。 フェルディン卿はフェルデン侯爵家の傍系の者。 貴族の『階級的な意味合い』と、私が持つ『神聖聖女』の権能から云えば、私の方が上位者と成るのよ。


 ――― だから…… やってしまった。


 この方は何も悪くないのに…… ゴメンナサイ…… 自身のヤラカシに呆然自失となってしまった私。 そんな私から早々に手を離し、深く腰を折り謝罪を口にされたフェルディン卿。 身の置き場も無い程、無礼をしてしまった事に、恥ずかしく…… 下を向いてしまう私……




「す、すまないッ!! しかし、ここで貴女を『別邸』に帰してしまったら、フェルデン侯爵閣下に何と申し開きしてよいか判らぬ。 い、今しばらく、本邸に居ては呉れぬか? 連枝の者達に、君と云う存在(・・)を……」


「もう…… 無理なのです、フェルディン卿。 お気持ちは嬉しく思いますが、その気も無い方(・・・・・・・)に無理強いしても、詮無い事。 先程も申しました。 何か…… わたくしに『お話』が有れば、別邸にてお伺いいたします。 ではッ!」




 頭も上げずに、振り返る事無く、身を翻す様に馬車に乗る。 バン=フォーデン執事長も後に続く。 しっかりと扉が閉められ内鍵がカチリと掛かる。 もう、これで、どうやったって扉を開ける事は無理よ。 だって、宰相閣下が乗る馬車よ? 頑丈な事、この上ない仕様なんだもの。 バン=フォーデン執事長が(ステッキ)でコツコツと、御者台に合図を送る。 滑り出す様に馬車は動き出した。


 窓に掛かるカーテンは開けない。 だから、外の様子など判る事も無い。 じっとりと重い空気が漂う。 私は、自分の感情を持て余しているとも云えたの。


 これは…… なんだろう。


『怒り』なのかな? 確かに、怒っては居たけど、激怒していたとは言えないわ。 でも…… なにか…… 変な感じ。 その何かを、思いついたの。 私は、他人の矜持を傷つける発言をしてしまったと云う事。 これはいけない…… 神様と精霊様の御加護を戴く者にとって、しては成らない事。 謝らなくちゃ!




「バン=フォーデン。 フェルデン侯爵家、王都別邸を『屑籠』なんて言ってゴメンナサイ。 別邸は素敵な場所で、皆様も素敵な方々。 それに、大切な小聖堂もあるもの。 歴史的な経緯から、特別な御役目を今も果たしている場所。 そんな場所を『屑籠』だなんて…… どうかしていた。 心からの陳謝を」


「いえ、お嬢様…… それは…… はい…… そうですね。 『その陳謝』を受け取りましょう。 本来ならば、謝罪せねば成らぬのは、わたくしの方なのですが……」


「……有難う。 わたくしが怒って居たのは事実よ。 でも、それは表に出すべき感情では無かった。 『設問』が感情を顕わすなんて、まだまだね、わたくしは……」


「当然の『御怒り』に御座いましょう…… 本邸があのように成っていたとは、思いもよりませんでした。 今宵、これから…… 大変な事に成りますでしょうな」


「バン=フォーデンもそう思う? 苛烈なフェルディン卿の事ですから、遣り過ぎないかしら?」


「苛立つ獅子の尾を踏んだも同然でしょうな。 フェルディン卿が、収めて下されば、まだよい方でしょう」


「と云うと?」


「旦那様の御耳にこの事が入れば…… あの方は鉄血宰相(炎吹き龍)の血を濃く受け継ぐ方ですので」


「……こちらから、面会の申し出を出しましょうか」


「そうですな。 それが良いかもしれません。 エルディ御嬢様には、誠にご苦労をおかけ申し上げました。 何卒、良しなに……」


「なにか…… 考えてみましょう。 バン=フォーデンも、お疲れさまでしたね」




 ふわりと笑みを浮かべ、この老練な執事長様を労わる。 苦労してるからね、この御仁は。 さて…… どうするべきか……


 小聖堂で祈りを捧げて……


 何かしらの指針を見出せたらいいな。


 ホントに、厄介な事ばかりよ。






      ――――― § ――――― § ――――





 その日は、別邸に帰って早々にドレスを脱ぎ、何時もの修道女服に着替えるの。 もうコリゴリよ。 心の安寧の為に、宵闇深くなる御庭を突っ切り、小聖堂に向かう。 夕べの御祈りの時間はすっかり過ぎてしまったけれど、私の『お勤め』なのだから。


 小聖堂の聖壇の前に跪き、一心に祈りを捧げる。


 ボンヤリと…… 心が温かくなる。 そう、私は聖職者。 一心で真摯な祈りは、私の本懐でもあるのよ。 口から聖句が零れ落ちる。 神様と精霊様方への賛歌。 古代語の聖句は、唄のように小聖堂に流れる。 広がる和音の様な響き。 周囲から、私の唄のような聖句に、精霊様方の奏でる 鈴 や 鐘、竪琴の調べが乗るのよ。


 それは、とても心を安らかにしてくれる。 鎮静音楽の様でもあり、何より 『癒し』( ・・ )の効能が強い。 聖句による『精霊魔法』の一種ね。 魔力が声に乗り、波動が私を中心に広がるの。 そして、周囲の音がその波動に共鳴して、音の穹窿(きゅうりゅう)を形成する。


 その内側は、聖域とも云える空間が完成する。


 色々と問題の有る現状で、気持ちが鬱々としてしまいがちな私は、癒しを得るの。 神様と精霊様方を讃え奉じる『お勤め』に、上位存在たる方々が、慈愛を示して下さったの。 胸の内がとても温かく、新たな力が湧いてくるような気持ちが、とても心地いい。


 祈りと共に口にする聖句の調べ。


 最後の一節を終えると、周囲の音も徐々に小さくなり消えてゆく。 夏の光蟲が暗闇に消える様に、秋の夕日が地平に落ちるように……



「成程、貴女は真の神官ですね。 〈コンナ ステキナ ジョウケイヲ、ミタコトガナイ。 『メギツネ』デハナク、『セイジョ』ダッタトハ。〉」


「フュー卿。 〈ワタクシハ、第三位修道女。 ケッシテ、『セイジョ』デハ、アリマセンワ〉」


「〈ヨキ ミミ ヲ モツモノモ、キキミミ ヲ タテル フトドキモノ モ ソンザイスル……カ。 ヨウジンブカイ…… デスナ。 ワカリマシタ、アナタハ 第三位修道女 エル 。 ソウ、ニンシキ シテオキマショウ。 〉」


「私の事は、修道女 エル と、および下さい。 その方が、嬉しいですわ」


「ならば、私の事は、グウェン(・・・・)と。 友誼を結ぶならば、相応に礼節を以て親しく…… でしょう?」


「……そうですね、グウェン様。 ところで、夜分にどうして小聖堂に?」


「何、天上の調べが唄と共に流れてきました。 【精霊魔法】の気配すら波紋の様に広がっていた。 光に引き寄せられる羽虫の様に、此方に足が向かいました。 些細な情報が、大商いに繋がる事を知る『商務官補』としては、この様な稀有の出来事が有れば、首を突っ込むのは至極当然では?」


「……そうですか。 しかし、その好奇心は、時として魔山猫をも殺します。 お気を付けください」


(いにしえ)の警句を、ここで持ち出されるか。 エルディ嬢の事情には、あまり深くは立ち入りません。 と、云うより『過去』などどうでも良いのです。 これからの方がずっと大事ですから」


「貿易立国たる『バリュート共和王国』の方の視線は、常に未来に向いておられるのですね」


「そうしなければ、やっと手に入れた場所が、砂上の楼閣と化してしまいます故。 色々な事柄に深い見識を お持ちだろう事は、朝食会の会話から判ります。 そして、私も手を尽くして貴女の事を調べ上げた。 幾つもの難事は有りましたが、貴女に関する事柄の全貌は、ようやっと掴めたかと」




 ちょっと、睨みつけて置く。 グウェン様が何を意図して言葉を紡がれたか、それが気に掛かった。 私の何を知ったと云うの? 秘匿すべき事柄は多岐にわたるのよ。




「怖い顔は似合わないですよ。 貴女の出自とか、事情とか…… そう云ったものは、サラリと撫でただけ。 専ら、私の興味を引いたのは、貴女が成した冒険者ギルド、探索者ギルドに申し入れた『継続依頼』の方です。 私達商人は常に商売の事を考えます。 如何に価値あるモノを、如何に安価に入手し、如何に高く売りつけ、それでも尚、御客様に満足していただけるか…… 修道女エル殿の考えと行動は、その対極にある。 善き例が、市井に流している安価な医薬品類。 アレなど、同等のモノを『バリュート共和王国』で手に入れようと思わば、相当な金穀を用意せねば成らぬでしょう。 懐に余裕のない、市井の最下層の者達へまで…… たしか、最低限の対価(・・)が『祈り』でしたか?」


「生活に追われ、世の理不尽に晒され、個人の力ではどうにも成らない倖薄き人々。 その上、病に蝕まれ、傷病に怯え、痩せ衰えた身体に鞭を打ち、日々の糧を得る為に重労働に勤しまねば成らぬ立場の人々。 食べるだけでやっとの人々は、通常の医薬品を購う事など、出来はしません。 故にです」


「祖国の基準に基づき考えると、貴女の行動は ”異常な事 ”とさえ思えるのです。 巨万の富を得る事が出来るモノを、低価格 又は 無料で、貧困庶民に流し続けている。 その最低限の対価が、神への『祈り(・・)』ですからね」


「……『貧者の一灯』を尊ぶべし。 聖堂教会の聖典にも御座いますわ。 持たぬ者が、最後に差し出せる物は、『祈り』。 真摯で深く、切実な『祈り』なのです。 尊い物だと思うのです。 金穀で測る事も出来ぬ程に。 聖堂教会は、その為に有るのです。 聖堂教会薬師院の修道士、修道女の中でも『志を継ぐ者達』も居られるのです。 王都では、探索者ギルドの方々が支援して下さってもいます。 皆様の行動の根底には、慈愛と祈りがあるのですよ」


「貴女方の国が良く判らない。 同じ国の中に、二つの忠節を尽くす対象が居る様なモノ……。 ……合理的ではないですよ」




 顎に手を添え、深く沈考するグウェン様。 そうよね、彼の生国では全てが『商い』と密接に関係するんだもの。 実力主義と云うか実利主義と云うか…… 国の成り立ちを考えれば、そんな極めて現実的な心情に成るのは、理解も出来る。 あの国の王侯貴族は、遣り過ぎたんだもの…… 塗炭の苦しみの中から生まれ落ちた、とても不思議な政体を取っているのだもの。


 ――― 政治に貴族以外の階層の人々が、国民の信任を受けて参加している。


 他国では類を見ない、政体なのよ。 『共和王国』とは、国の行く末を憂いた一部貴族と、塗炭の苦しみに喘いだ大多数の国民が、奇跡の様に手を取り合って、遣り過ぎた王国貴族を排除して成立した国なんだもの。 今の『バリュート共和王国』の国王陛下は ”主権 ”すら保持していない。 主権は、貴族院議会と一級国民議会の、二院制議会が保持している。


 でもね、そんなお国柄でも、力無き人達も居る。 唯々諾々と力ある者達に首を下げ、黙々と日々の糧を得る為に働き続けている…… のよ。 そこに、『慈しみの念』は無い。 全ては才覚が決めると…… あの国は『国是』でそう規定している。 脱落した者に非常に冷淡だもの…… そうしないと、国が持たないと云う事は理解できるのだけれど…… 


 ――― 私は、納得がいかない。




「事 個人の『才覚』と云う側面から事象を俯瞰し、グウェン様の生国の成り立ちを鑑みれば、グウェン様が仰る通り。 御国を維持するのには、それしか方策が無かったのも事実。 しかし、それだけでは、国民の過半数以上が救われません。 人心が荒れ果てれば、国は持たない。 法で縛るのも限界が御座います。 我が国においては、対処する方法があったと云う事です。 貧困に喘ぎ、倖薄き人々に寄添う姿勢と、それが出来る組織が有るのです。 神の御心を具現化する、『聖堂教会』が、その組織に当たるのです。 我が国では、困難に巡り逢った人に寄添うのが、聖堂教会の『使命』と…… 心ある神官様方は、信じております」


「成程…… 『情動(・・)』と云う訳ですか」


「『情動』…… 言い得て妙だと思います。 事、私の事情から見れば、その通りに御座いましょう。 言い方は悪いですが、私が成した事、そして成す事は、全て私の『自分自身の最大幸福(死の末路から逃避)』の為に、成している様なモノ。 一般的に云えば、褒められた発露では有りません。 自分自身がそれを良く理解しておりますもの。 だから…… 一層、真摯に祈るのです」


「御自身が救われる為に?」


「ええ、私の根底に有るモノですわ」


「なんとも凄まじい事ですな。 我が良き朋は、既に人生の深淵を覗き込まれているのか。 俄然、興味が深まりました。 貴女は…… もっと、こう…… 教条的な、妄信的な…… そんな方だと思っておりましたが、まさかの『自己愛』が原点。 誠、人間的というか、何と表現すべきか…… 驚くべき事に、その事を自覚さえしてらっしゃる。 成程、これは本腰を入れねば成りますまい」


「本腰? と、仰いますと?」


「なに、お誘いしたいのですよ、我が国に…… 貴女を」


「何故に?」


「…………まぁ、その辺りの事情は追々と。 そうか、自己愛か…… それが原点なのか…… ”神は自ら生きる事を選択した者にのみ、御手を差し伸べる” ……か。 いや、有意義な御話でした。 ……夜も更けてまいりました。 エル殿…… 本棟には?」


「ええ、戻ります。 戸締りを終えてから」


「エスコートは…… 必要無いでしょうね」


「ええ、私は自身の道を歩みますから」


「強き心をお持ちだ。 増々、興味が湧きました。 ……また、明日の朝食の席で」


「ええ。 おやすみなさい、グウェン様」


「善き夢を、エル殿」




 小聖堂から踵を返し、本棟へ向かわれるグウェン様。 心情の吐露は、ちょっぴり恥ずかしいモノが有るけれど、嘘偽りを告げる必要も無い。 自身を偽る事は、もうしないと、そう決めたんだもの。 


 お陰で、グウェン様から、強い興味を持たれてしまった。


 でも、まぁ…… 貴族学習院でのアレコレと比べたら……



 随分マシだと、思うのよ。



 少なくとも、悪意は感じなかった。 興味深く私を見詰める瞳を思い出す。 少なくとも、友誼は結ぶことが出来た。 どう転ぶかは、判らない。 けれど、最初が『悪意』で無いだけ、ずっと状況は良い。 ええ、此れからね。 此れから。




 そして、私は認識出来たの。







 ” 異国の大人の朋を得た ” と。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 再読してました! 誤字以外は気にならないって素晴らしい… [気になる点] 全体を通して、日常使わない単語が多いため、誤字なのか、あえて なのか判断に苦しむ箇所がちらほら… ですが もし書籍…
[良い点] いつも面白く夢中で拝読しています。 更新ありがとうございます。 今回は特にエルデの祈りのシーンがとても美しく、心に響きました。
[良い点] フェルディン卿が本邸のエルに対する仕打ちに怒りを見せたこと。 第三位修道女エルの祈り。 [気になる点] ベルクライト卿、頑張って生き延びてね!(※主に社会的に) ”下がれ、下郎” され…
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