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エルデ、秘密の小部屋で学習院での立ち位置を得る

 



 ――― 薔薇の大講堂での、高等部の一年次だけの始業式。




 余りにも多人数の為、この学年だけ分離開催されるに至ったらしいの。 太陽の御子、ゴットフリート=デルフィーニ=ベルタ=ロドリーゴ=キンバレー第一王子殿下が御在籍になる”この学年 ”は、特に生徒の数が多いのだものね。


 入学を遅らす者、実家の力を背景に入学を早める者。 様々な思惑が重なり、上下の学年の在籍人数は、ぐっと少なくなる現象すら表面化している。 貴族家の皆様は、淡い期待を抱くのも無理は無いのよ。 例え多少なりとも、お目見えが叶い、一言二言でも御声が掛かりさえすれば、それだけでも相当な箔が付くの。


 王領内の弱小と呼ばれる貴族家では、とても足下にさえ近寄り得ない家系の者だとしても、貴族学習院内では、王子殿下の御目に止まる機会は、格段に上がる。 ” あわよくば ” 等と、思う者が出て来るのも仕方の無い事。


 さらに、ゴットフリート殿下の御宸襟も関係するのよ。 国王陛下であらせられる、太陽の王 ゴッラード国王陛下の思召しを十全に理解され、その経験に裏打ちされた真意を、過たず遂行されているのよ。


 ―――― ええ、『 () 』 の見極め。


 過去二十七回に於いて、私はゴットフリート殿下の御様子を存じ上げているわ。 常に公明正大に、身分の上下を問わず柔らかに対応されておられ、いつも微笑を浮かべつつ、穏やかに周囲を見詰められていたの。


 その視野は広く、在学中は全ての学年の方々とも交流を持たれ、自身のサロンに多くの人達を招き入れられたのよ。 そして、既に御卒業された方々の中に、例え爵位は低くても、王子執務室付き行政官職に就かれた方もいらっしゃる。


 ゴッラート陛下からの思召し。 『 在学六年間の間に、真に手足となる者を、自身の眼で見つけ出せ 』 と、云う事ね。 コレは、何度か前の人生に於いて、私が直接聞いた事。 ええ、断罪の場でね。 



 ”我が選別し信任を与えたる『藩屏たる者』を、愚弄し穢した罪は重い。 断じて許す事は出来ぬ。 王国の未来に暗雲を引き寄せし貴様には『極刑』を申し渡す以外の選択は存在せぬ。 連れて行けッ! ”



 だったかしら? 見た目は清廉潔白で、どなたにも公明正大な態度をお取りに成られているゴットフリート殿下。 笑顔の奥には『冷徹な視線』が隠され、柔らかな態度の奥には『対象の人物の行動』が逐一記録されている。 つまりは、”王族 ”たる者の『模範』と云う訳。


 王族と近しいと云う事は、それだけじっくりと見詰められ評価され分類されていると云う事と同じ。 勿論、高位貴族の御子息、御令嬢は、肌感覚でその事は理解している。 御家の教育もそのようにされて居る。 でも、中位、下位の方々は? そこまでの御考えを巡らしているとは考え辛いのよ。


 だから、一度サロンに誘われた後、再度誘われる事が無い方々も大勢居られるわ。 見限られ(・・・・)ちゃった方々って事。 そして、現在高等部である、四年次に突入した訳だから、おおよその有力な人材は、御自身の周囲に置かれる事でしょうね。


 残りの三年間は、下の学年の者達と、爵位の無い方々への『目配せ』の期間。 有益と判断した者達の能力を見極める期間。 王国を支える侯爵家の連枝たる者達の中で、有能なモノを見出し、王城内の政務(激務)に耐えられる者達を選別(見極め)する期間だと思うの。


 過去もそうだったしね。


 私は…… 目を付けられたくは無いわ。 王侯貴族と聖堂教会に穿たれた『溝』の修復を鑑みれば、殿下に近寄るのも、有効な手立てだとは思う。 上意下達は、王国の常でもあるのよ。


 ……でも、上から強制された事で、真の意味での『()』の修復は出来ないわ。 最高に上手く事が運んで、殿下に認められたとして…… 殿下が号令を掛けられ修復を促されても、それは表向き。 内情は嫉妬心やら怨嗟やらで、ドロドロとした嫌悪感情を覆い隠すだけなの。


 また、それが、違う腐敗に繋がるのは、王国史を勉強すれば誰だって理解出来る事柄よ。 単に臭いものに蓋をしただけ。 蓋をされた感情は腐敗し、毒と化すの。 その毒はいずれ王国の国体をも侵し、王国の未来から光を潰えさせるに至る……


 定期的に、王国と教会はその立ち位置を、近くしたり遠くしたり。


 癒着と離反の歴史そのものなんだもの。 だけど、今回の問題は、過去の出来事と比べて、最も深く大きいわ。 だから、(神聖聖女)が遣わされた。 そう感じているの。 穏便に、最悪な現状をマシな状況に導けと、そう申し付けられているのよ。 だから、劇症を伴う処方は『不可』。 


 故に、殿下に近寄り無理矢理に関係修復を願う事は『問題の隠蔽』と『先送り』を誘発し、一物を抱えた貴族達の心情を腐らせ『二心を芽生えさせる( 反逆の苗床と成る )』に至る。 そして、この処方(・・)は未来での、もっと大きな断裂への道と成りそうなの。


 出来無いわよね。 目的を鑑みれば、完全なる悪手。


 此方から(聖堂教会から)、殿下に近寄る事は、もうこの時点では遅すぎると云う事。 


 だから、小さな事から始めなくてはならないのよ。 ハッキリ言って、かなり状況は悪いの。 種まきの時期は済んでいる。 芽吹きも既に終わっている。 何なら花も咲いている。 そんな、黄金の花壇の中で、地面を解す事をしなくてはならないのだからね。





     ―――― § ――――





 有難~~~い、ウルティアス大公閣下…… いえ、副学習院長様の言祝ぎと訓示。


 その後に続く、学生代表であらせられる第一王子殿下の麗し~~い、決意表明の答辞。 




 殆ど最後尾に並ぶ私の所には、ほんの小さな御声しか届かない。 内容は判るし、云っている事も御尤も。 全てに於いて、「建前」 であり、「表向き」 なのは、貴族の身分であれば、自明の理。 もし、本気で、あの御言葉の羅列を信じていらっしゃるのならば、相当に御目出たい。


 美辞麗句で最後まで飾られた、そんな始業式は恙なく式次第を終える。


 副学習院長が退席され、最大グループである殿下の集団が『薔薇の大講堂』から消えると、そこからはざわざわとした雰囲気に戻る。 この後の予定…… 



 ――― 無いのよね。



 いまだ、何処にも身の置き場が無い私だから、何処に行く事も出来ない。 侯爵令嬢ともなれば、本来ならば、殿下のグループにでも突撃して、ご挨拶を済まし、サロンへご一緒するべきなんだろうけど、それは嫌かな?


 繋がりを持ちたく無い人ばかりだもの。


 まして、教会関係者である私から突撃しようものなら、なにを噂されるか、判った物じゃない。 今は『 贄 』 だけど、そんな事をしたら、『 邪悪 』とか、云われちゃうかもしれないし、そうなれば、関係修復には、程遠い状況に陥るのは明白なんだもの。


 さて…… どうしようかな?




「エルディ様、ご一緒しません? 色々と、御話したい事も有るのよ。 もし、お時間が御有りになるのならば、是非」


「わたくしと…… ですか? 宜しいのですか?」


「あら、もう、お友達になったと、そう思っているですが、ダメでしたか?」


「いいえ。 大変嬉しく思います。 是非。 ……どちらへ?」


「…………いい所よ」




 口元を扇で隠しつつも、意味有り気に、微笑むのは、クレオメ=ロザリータ=エステファン嬢。 なんだろ、この意味深な笑顔。 まぁ、別に取って食われる事も無いし…… それに、ルカだっているし…… あまり、警戒しすぎても、良くは無いわよね。


 私は皆の後に続き、『薔薇の大講堂』を退出したの。



     ―――――



 遠巻きに、小グループの方々が、口元を扇で抑え、意味ありげな視線を私に投げている。 そうね、只一人、始業式の終わった大講堂で佇むなんて、『侯爵令嬢』としては、少々問題がある行動でもあったのよ。


 本来ならば…… 出来るかどうかは別に……


 貴族が家の方々の誰かと、早々に繋ぎを付けて、第一王子殿下の元に向かいご挨拶するのが、編入生としては本来の道筋。 でもねぇ…… 私にそんな繋がりを持つ方は居ないわ。 順当に考えれば、フェルデン本家の御継嗣様が、その役割を果たさなくてはならない筈。


 だって、身内だもの。 


 でも、彼は早々に『薔薇の大講堂』を退出された。 つまりは、彼としては、私を身内とは認めていないって事を、この小さな社交界に於いて宣言されたのも同然なのよ。 フェルデン侯爵家の御継嗣が、身内認定していないと云う事は、即ち私の立場が、貴族の方々からすれば、『侯爵令嬢』として、成立していない。


 私があの『薔薇の大講堂』を退出する前に、どなたかに介添えをお願いして、殿下の前に出ても…… まぁ、色々と軋轢をもたらす事にしかならないしね。 


 一人でどこかに居るのも手だけどね。


 だったら、ルカの様に貴族では無い方々、若しくは、貴族社会から距離を置かれている方々と同席している方が、まだ、混乱を引き起こさずに済む。


 大人たちが認めている『侯爵令嬢』を、一人きりにする事は、貴族学習院としても ”恥 ”として、認識されるもの。 何らかの方針が、ウルティアス大公閣下から、教諭陣に対して下される筈。 でも、それは、今日じゃない。 大人たちは、観察しているの。 此処が【学び舎】として、王国の若き貴族達の精神修養の場として、国王陛下より下賜された場所なんですもの。


 だって、一番最初に、それ(●●)を成すべき人が居るのだもの。 高等部進学に際し、フェルデン侯爵閣下より仮爵が与えられた、フェルデン侯爵家の御継嗣様。


 ヴィルヘルム = エサイアス = ドゥ = フェルデン従伯爵


 まぁ、次の登院日には、何かしらの行動が有るかも知れないし、その前に本家本邸に呼び出される可能性も無きにしも非ず。 でも、私には『小聖堂の守り人』と云う、お勤めが有るので、ご辞退はさせて頂くわ。 時間が無いもの。 その気の無い人に、何を言ってもやっても、同じでしょ? 認識を改められてからの、交流となるでしょうね。


 まずは、ルカやロザ様にくっ付いて行くのが、私的には正解。 独りぼっちで、無意味に時間を過ごす事に成るのは、どうかと思うし、『役割』の手掛かりになるかもしれないものね。


 粛々と歩みを進める。 複雑な構造物である、貴族学習院の建物の中を、ロザ様は迷う気配も見せずに歩を進められる。 ん? 余程、精通していないと、迷うわよ? それに、こっちの方向は、多分多くの方々が向かうであろう『大食堂』や、高貴な方々が使用するサロンの御部屋が集中している区画でも無い。


 はて?


 廊下は徐々に狭くなり、両側に幾つもの扉が並ぶ。 薄暗い場所だったわ。 迷う事の無いロザ様の歩みは、ドンドンと暗く狭い場所へと向かう。 回廊と云うべき廊下が曲がり突き当たる先に、一つの木の扉が有ったわ。 目を凝らさなくても、その扉には【結界】の魔方陣が浮かんでいるのよ。


 初歩の【隠遁】【欺瞞】なんかが、綴られていたわ。




「【隠遁】【欺瞞】ですか。 余程この先の部屋の存在を秘匿しておきたいのですね」


「いや、まって…… あの扉が見えるの?」


「ええ、南部辺境域の冒険者ギルド判定で、D級 ですね」


「なんで、そんな事…… へ、【辺境の癒し手】…… そうだったわ、うちの父様に頼んだように、辺境で冒険者ギルドに、薬草の採取を無期限依頼をしたのは…… 貴女だった…… その時に、知見を得たのね」


「はい、そうですね。 色々と教えて頂きましたよ」


「理解したわ。 ……入って、ココは私達の隠れ家みたいな場所だから」




 解除呪を手に浮かべて、扉の把手を回すロザ様。 中に入るように促され、私は足を踏み出したの。 皆さんも、その後に続いて中に入って来るの。 特別、緊張する事も無く、いつも通りだと云うように。 


 御部屋の中は明るい。 先程歩いて来た廊下よりも、数段。 細長い縦窓が、お部屋の壁の二方向についている。 と云う事は、角部屋かな? 細長い窓は、嵌め殺しで、薄い生地のカーテンが視界を切っているの。 でも、薄っすらと、外の景色は見えるわ。


 特徴の有る、尖塔が見えた。


 薄っすらと、ボンヤリと光の粒を纏っている、落下する水滴の様な形の屋根。 尖塔の最上部近くに、渡された橋廊下。 その向こう側は…… 白亜の巨城、王城ガングレーが(そび)え建っていた。




「ついこの間から、あの尖塔に光が灯ったのよ。 【守護】と【豊穣】の結界の波動だそうよ、父様がそう云っていたわ」


「左様ですか。 それは、王国にとっては素晴らしい事ですね」


「そうね。 これで、王領の魔物達が大人しく成ってくれると良いんだけれど」


「期待してしまいますね」




 私の視線を追って、ロザ様がそう口に言葉を載せる。 もし、あの尖塔があの部屋ならば、聖壇に刻まれた魔法陣は相当に強力なモノだと推察出来るの。 だって、上位枢機卿が編んだ重結界を透過して、周囲に影響を与えているのよ。 それは、それは、強力な魔法陣と云う事ね。 流石は初代様の魔法陣ね。 納得だわ。


 席を勧められ、座り心地よさそうなソファに腰を下ろしたの。 窓の無い壁面には、天井まで届く本棚。 天井には明り取りの天窓が二つ程。 壁には、魔法灯のランプ火屋(ホヤ)が、釣鐘草の形を模して掲げられ、深い色合いの応接テーブルにソファ、それとサイドテーブルの調度は、とてもシックで格調も高かった。




「此処が隠れ家…… ですか」


「ええ、そうよ。 特待生は、何かと貴族から目の敵にされるの。 たとえ、爵位持ちの家柄であっても、父母が陛下より綬爵されて居ないと、平民扱いに成るのよ。 表向きだけ、繋ぎを付けられたら良いかと思って、学習院には来たものの…… って事ね」


「そうなのですか。 皆様、王都でも有数な組織や組合の長である方の御子弟でしたでしょ? そんな事が、横行しておりますの?」


「うん。 そう。 間違いなく。 エルディだって、困った立場に立たされているんでしょ?」


「ええ、まぁ……」


「父様からも、くれぐれも気を付けて欲しいと、お願いされて居たのもあるし、ルカも相当に心配しているから。 エルディ、貴女の立ち位置は、相当に難しいわ。 暫くは、学習院に於いては、私達と行動を共にすれば…… 悪目立ちはしない筈。 宜しくて?」


「有難い御言葉です。 少なくとも、所在無げに立ち竦む事は無くなりました。 どうぞ、宜しくお引き回しの程、お願い申し上げます」


「い、いや、待って。 アナタ、『侯爵令嬢』なのよ? その言葉の使い方は……」


「わたくしの出自、それに、何者なのかを正確にご存知ならば、おかしくは御座いません事? わたくしは、アルタマイト教会所属、第三位修道女 『 エル 』 に御座いますれば」


「……ルカの言っていた通りね。 これは、相当な頑固者ね。 判った。 この部屋の中では、爵位や公的な立場は度外視する。 それでいい? 私も、『お嬢様』は、苦手なの」




 闊達に笑う、ロザ様。 私は、曖昧に笑って、肯定も否定もせずに済ますの。 まだ、この人達の意図が良く判らないもの。 ルカは多分、私の立場を良く判っているから、純粋に好意だろうけれど…… ね。 ロザ様は、父君の言い付けを護って、私を一人にはしない為だろうけれど。 他の方々の意図が読めないわ。


 皆さんが、思い思いの席にお座りに成られ、『お話』は始まったの。 今後の私の行動についての、ある種の『討議』と云う事ね。 主座にロザ様がお座りに成られ、皆さんにお話を振られるの。 サロンの主催者とも云える振舞いに、根っからの『貴族』の風格を見る事が出来たわ。



「編入してきたエルディは、良く知らない事が多々あるとは思う。 でも、編入の『見極め(●●●)』と云う、悪意の塊の様な試問で、貴女はトンデモナイ大物を引き出しているの。 宰相府 事務次官様の事よ。 それに、既に王宮では密かに囁かれている事柄も…… アナタ、上級官吏登用試験を受けさせられたのよね」


「ええ、まぁ…… フェルディン事務次官様は、そう仰っておいでになりましたが?」


「アノ試験は、学習院卒業者にして、一般官吏登用試験を突破出来た者だけが、五年以上の実務を経験した後に受ける事が出来る試験なのよ。 いくら、”悪意 ”が有ったとしても、それを単なる貴族学習院の『見極め』に使用するのは、異例も異例な事なのよ。 まして、今回使用した問題は、今年の登用試験問題。 つまり、今まで、誰もその設問を見た事が無いって所がまたねぇ……」


「つまり?」



 沈黙を守っていた、王都法曹協会( C. O. O. )協会幹事が御子息 ベルナルド=ポール=デュー=ブライトン様が、口を開かれ言葉を紡ぎ出されたの。



「副学習院長閣下は、相当に貴女を見込んでおられる。 それだけの知見をアナタは既に有しておられると、そう判断されたと云う事だ。 その見識を宰相府に持ち込まれ、その確認を宰相府はした。 当然ながら、上級官吏登用試験というモノを使用した『見極め』が、それを裏付けている。 貴女は…… 一体何者なのか?」


「要領を得ぬご質問ですね、ブライトン様。 私は、第三位修道女のエルです。 それ以外の身分を保証するモノは御座いませんわ」


「統治に関して、一体どこで身に付けられた? 私見ではあるが、あの登用試験を『受けさせる』と宰相府が決したと云う事は、君にその能力が有ると、判断した結果と考えれるのだが? さもなくば、あれ程法知識と、統治実務を問われるような試験を受けさせる謂れは無い。 副学習院長が何を判断基準とされたのかも、理解に苦しむ。 ……故に、問うた」


「……理解しました。 その質問に対してのお答えは、『黙秘』致します。 わたくしの出自に関係する事であり、(いたずら)に口の端に乗せると、様々な方に対しご迷惑が掛かります。 重秘匿事項として、扱われて居る筈の事柄に御座いますれば、緘口令に基づき『黙秘』致します」


「……そうか。 守秘義務が課されている。 そう判断できる御答えだ。 理解した。 先ずは、表にうっすらと漏れている事柄なので、これ以上は聞かない。 只、君が途轍もない知見の持ち主であると云う事だけは、確認できた。 今は、それだけで十分だ。 ルカ…… 君の幼馴染は、トンデモナイな」



 ルカは…… 笑っていた。 私の知る、とても上機嫌な笑顔で、笑っていたの。 何故だか判らないけれど、とても心が暖かく感じる。 死の淵から、逃れる事を考えれば、あまり親しくはしない方が良いのに、とても、そんな気に成れないわ。


 屈託なく笑う『(ルカ)』は……


 アルタマイトの孤児院に居た時のままの……


 『(ルカ)』だったの。




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― 新着の感想 ―
「統治に関して、一体どこで身に付けられた?」 仮にも侯爵令嬢に対し、何問い詰めてるの?この人たち、本当に立場を弁えてるの?
[良い点] ありがた〜〜い、うるわし〜〜い 長かったんやろなw 退屈で長い美辞麗句w
[良い点] 始業式って退屈よね~。 そこもまたお子様達の社交の場とか。 状況確認にもってこいだけど、よっぽど毅い心を保たないとめげそうな場の説明がお見事。 [気になる点] 特待生の皆様地獄耳。『見極め…
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