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一年目の『青天の霹靂』 : 時は満ち、新たな旅路へ


 



「わたくしが…… ですか?」


「ええ、そうなんですよエル。 廃聖女様…… いえ、『大聖女様』の ” 秘蔵っ子 ” と、云うのは、なにも領都教会で有名なだけでは有りません。 大聖女様の御手から作り出される数々の(ポーション)は、聖堂教会では特に重要視されておりますしね」


「まったく、王都には居るな、それでもって薬は寄越せ…… 王都聖堂教会総本山は、変わらぬな。 それに、エルまで寄越せとは…… 何を考えているのか……」





 領都教会の大聖堂に面する『面談室』に、呼び出された私。 今回は大聖女様も一緒にって。 呼び出されたのは、二回目なのよね。


 前回はエオルド様の横車によって。 そして、今回は本領、王都聖堂教会によって。


 なんで私なのよ…… 私に王都の大聖堂に来いって。 召喚するって…… 召喚状が王都大聖堂から領都教会に届けられたのよ。 ―――― その結果が今の面談に繋がっているのよね。 はぁ……





「それは、拒否できませんか?」


「それは、難しいですねエル。 教皇猊下が、とても気にしておいでですから」


「気にして…… それは、『私』では無く、『大聖女様』で御座いましょうか」


「そうだね、エル。 彼の尊き御方は、大聖女様の献身をとても高く評価されておいででした。 枢機卿の面々も。 しかし、貴族派の者達がもう高齢になった大聖女様では、貴族の方々のご要望にお応えできないと、そう申しましてね。 十八人会議の席上で、大聖女様を廃聖女となし『隠遁』させては?の『動議』に、様々な思惑から賛成に回った教皇派の者達もいたのです。 教皇様は御心を痛められました。 私が大聖女様をこちらの教会にお誘いしたのは、そう云った理由もあるのですよ、エル」


「そうでしたね。 隠遁する先を決定する時に真っ先に手を上げておいででした。 では、何故私ではなくエルに召喚状が?」





 大聖女様は、懐疑的な視線をオズワルド大司教様に向けられる。 わたしが「聖女」の任に付いた事は、未だに大聖女様により秘されている。 勿論、オズワルド大司教には内々にお伝えに成ったのかもしれないけれど、それは、あくまでも内々(・・)。 領都教会に於いては、私の立場は第三位修道女であることに変わりは無いわ。


 オズワルド大司教様はそんな大聖女様の視線を受けても、何時も通りの涼やかな視線で、柔らかく微笑みを絶やさない。 大聖女様の方がよっぽど直情的な感情を御向けに成るの。 静かに言葉を紡ぎ出すオズワルド大司教様。





「第三位修道女エルには、大聖女様からの薫陶があり、よく(ポーション)を錬成できると、それは、あちらにも報告が上がっています。 大聖女様の御懸念は、何故エルかと。 そうですね、コレは此処だけの話として戴けますか?」


「ここだけ…… つまりは、表に出せない話があると?」


「ええ、大聖女様。 領主様の御家からだけでなく、王都からもエルの出自についての問い合わせが有りました。 それが理由かもしれません」


「なんと! 何処の家ですか」


「今は、まだ、お知らせできかねるのです。 何分と色々と柵と思惑が渦巻いておりますので」


「エルを! エルデを教会の『駒』となす御積もりかッ! 心を決めた修道女を、世俗の穢れに浸すかッ!」





 強い御言葉を述べられる大聖女様。 そんな大聖女様に少々困った表情で言葉を続けられる大司教様。 上辺だけの要請では無く、何かしらの事情が其処に含まれるのは『理解』できる、そんな表情だったわ。





「大聖女様。 物事には様々な側面が御座います。 また、彼女の倖せについても併せて考えねばなりません。 最後の判断は神籍にある彼女の判断では有るのですが、それだけでは通らない事もこの国には有るのです。 かつて、貴女がそうであったように」


「……エルの『身の安全』の為か」





 ソファの背もたれに背を預け、面談室の天井を見上げ嘆息する大聖女様。 昔…… ずっと昔に、大聖女様も同じような局面に立たされたのかしら? 大司祭様の御言葉に何か思う事が有るのでしょうね。 でも、『身の安全』とは、穏やかでは有りませんね。





「エル。 君の出自に関しては、君が一番よく知っている。 しかし、知らない側面もあるのだよ。 その闇の部分から手が伸びてきている…… そう考えて貰ってもよいのですよ。 『闇の部分』とはいえ、『善意』の様なモノでは有るのですが、それに付随する思惑が色々と厄介なのです」


「なんとなくですが、理解致しました。 事象の表面をなぞると、教皇猊下が大聖女様の御指導の下、研鑽を積んでいる第三位修道女の噂をお知りに成り、その技を以て王都聖堂教会で研鑽せよとの思し召しになった。 ついては、王都大聖堂へと赴き、彼の地の薬師院にて研鑽を求めたと。 そう云う事ですか」


「そうだね。 表向き(・・・)には、そう云う事になる。 幸いにして、君の神籍についての移譲は、求められなかった。 よって、君は今までの通り、領都教会所属 第三位修道女に他ならない。 あちらで困った事や、合わぬと云うならば、手紙を出して欲しい。 君の身柄は、このオズワルドが引き受けよう」


「有難うございます。 出来るだけご迷惑をお掛けはしたくは無かったのですが……」


「出自が出自だから、仕方ないのです。 君の父は貴種である、直参グランバルト法衣男爵であるのですからね。 さらに厄介なのは、君を生んだ母君の事が有ります。 他言無用では有りますが、君には知る権利があるので、問題になる一部を教えましょう」


「はい」


「君の生母は、筆頭侯爵家フェルデン侯爵家の末娘で在りました。 判りますね。 現筆頭侯爵が君の伯父にあたるのです。 その事を、彼の蒼き血の持ち主が、認めました。 水面下に於いて、様々な動きが有る様です。 貴族派の枢機卿達が、君を王都大聖堂へ迎えようとするだけの『理由』があるのです」


「成程…… 何かしら、貴族の力関係(パワーバランス)の天秤が傾いていると。 その均衡を保つために、『分銅(使える駒)』が必要であると。 それは、貴族社会だけでなく、王侯貴族と聖堂教会の関係性にも、影響を及ぼしている…… のですか」


「よく見える目を持っているね。 聡い子だ。 大聖女様が御放しに成らないのが良く理解できるね。 ……エル。 第三位修道女エル。 気を付けるんだよ。 遠くリッチェル侯爵領からの手助けは、直ぐには出来ない。 私達が手を出せるまで、出来るだけ穏便に過ごせるかい」


「神様から頂いた『試練(・・)』と思い、努めましょう」


「うん。 いい子だ。 大聖女様、誠に遺憾な事では有るのですが、どうかご理解を」


「…………仕方ありません。 物事が其処迄進んでいるのならば、仕方のない事。 願わくば、神様と精霊様の御加護を頂きたいと思います」


「喜んで、御一緒に祈りましょう。 ええ、ええ、必ず」






 こうして、私は、一年間の領都教会生活に幕を下ろすことに成ったの。 ずっと、此処に居ると思っていたのに。 王都なんかに行くことは無いと思っていたのに。 なんだか……


 なんだか……


 蜘蛛の巣に絡めとられる様な気がしたの。


『記憶の泡沫』が云う、『物語の流れ(シナリオ)』に無理やり組み込まれて行く……



 そんな気がしたの。





 でもね。 でも……





 私は負けない。 


      悲惨な末路には向かわない。





                私は……











 ―――― 私は、



   『定められた』かのように見える



       『運命(シナリオ)』に







  ――――― 決して怯まず、抗い続けるのよ。 ―――――








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― 新着の感想 ―
タイトル回収ですね 頑張れ!
[一言]  ぬうう‥‥‥。  読者は無力。  無念極まりない‥‥‥!  とにかくエルさんの身と心の安全を願い祈ります。
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