第五話 タンゴの女を探して
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。蓮葉雨幸を仲間にしたもののもう少し仲間が欲しいと考えていた依乃里に、女子高生の新原桐菜が現れる。桐菜は日本舞踊の家元の子で、最初は戦いを断るも、自身の母親が危険に晒されたことにより戦う決意を固めるのだった。
ある日、ダークサイレンスではクリークが澄ました表情で戻ってくるがブラクスとボードクローの視線は冷たかった。
「おやおや、どうされました?」
「どうされましたじゃねぇだろ!」
何事もないように振る舞うクリークに、ブラクスは苛立つ。
「言ったはずです、世界は常に思い通りには行かないと。たまたま僕が行った時に新たな戦士が覚醒した、それだけのことです。」
「聞いたかブラクス、どうせ俺達が世界を支配しようとしたって時間が掛かるだけだ。ここは気長に人間界で暴れようぜ。」
「ちっ。」
ボードクローはクリークの言葉から世界の支配を軽く考え、ブラクスに言い聞かせる。ブラクスは舌打ちしながらも納得する。そんな中、大きないびきの音が響く。
「んがぁ~。」
「うっ……、その声は。」
ブラクスがそう言って振り向くと、そこにはいびきを掻きながら寝転ぶ怪物がいた。
「おやおや、スノアがあんなところにいたとは。」
クリークはその怪物をスノアという。スノアはどうやらのんびりとした性格のようだった。そんなスノアにブラクスは苛立ちを覚える。
「スノア!お前も人間界に侵攻して行ったらどうだ!」
「ブラクス、ここは抑えましょう。」
「くっ……。」
ブラクスはスノアに怒鳴り散らすが、クリークがブラクスを宥める。ブラクスは憤りを感じて歯ぎしりをしてしまう。
「ブラクスの怒りはまだ治まらねぇか。しょうがねぇ、また俺が行ってやるか。」
ボードクローは怒り狂うブラクスに呆れ、人間界へと赴く。
「ボードクロー、頼みましたよ。」
クリークはボードクローに望みを託し、見送るのだった。
一方その頃、桜間依乃里、蓮葉雨幸、新原桐菜の三人は休日に集まっていた。
「それでは改めまして、桜間依乃里です。」
「あ、蓮葉雨幸です。」
「新原桐菜で~す。」
三人は改めて自己紹介をする。そして三人は戦いに関してわかっていることを整理する。
「まず、私達は花と宝石とダンスの力で戦う戦士ってこと。敵は音を嫌う組織ダークサイレンス。」
「戦士になる人は恐らく指輪の宝石が選ぶ。そして花がフラヴァイスとなって戦士になれるってことですね。」
「指輪が幾つあるのか、つまり戦士になる人が何人いるのかは未だわからない、って感じか……。」
三人は現状を整理するが、未だにわからないことが多かった。
「何で私達が宝石に選ばれたのかも、敵の詳細もわからないのに戦いを強いられてるんだもんね。」
「そうですね、せめて何か知っている人が一人でもいればいいんですけど……。」
「本当にさ~、こういうのって知ってる人が一人くらいいそうなのに誰もいないとか致命的じゃない?」
三人は何もわからない状況に揃って頭を抱えてしまう。そんな中、桐菜がふと依乃里にあることを聞く。
「そういえばいのりっちってさ、ダイヤモンドの指輪とバラの花を誰かから貰ったんだよね?」
「うん、女の人から。私の名前を知っていて、急にタンゴに誘ってきたりして。」
「その人が依乃里さんに戦士の資格があるって知っていたということは、その人が事の詳細を知っているということですよね。」
「多分……。」
桐菜が気になったのは依乃里にダイヤモンドの指輪とバラの花を渡した女性のことだった。依乃里が女性に出会った時のことを話すと、桐菜も雨幸もその女性が何か知っていると考える。
「じゃあそのタンゴの女を探せば何かわかるってことだね。」
「タンゴの女って……。」
桐菜は依乃里が出会ったという女性をタンゴの女と言い、探すことを提案する。タンゴの女という名付け方に苦笑いする依乃里だったが、依乃里は女性を探すことに賛同する。
「よし、じゃあ今日は例の女の人を探そう!」
「「はい、リーダー!」」
「ちょっと、リーダーはやめて……。」
依乃里は張り切って女性を探すことを決めるが、雨幸と桐菜から突然言われたリーダーという言葉にたじろいでしまう。
「だっていのりっちが一番年上なんだし。」
「依乃里さんは28歳で、私達ともかなり年が離れてますし。」
「年の話しないで、色々気にしちゃうから。」
依乃里は二人から年齢の話をされて少し暗くなってしまう。そんなやり取りをしながら歩く三人は、ふと一人の少女とすれ違う。
「あの人達がしてる指輪……。まさか、あれは消滅したはずじゃ⁉」
その少女は三人がしている指輪に目を大きくし、三人の後をこっそり追うのだった。
依乃里達三人がまず訪れたのは、依乃里が女性からダンスに誘われた際に入ったダンス会場がある場所だった。しかしその場所は依乃里が次に訪れた際に既にその存在が消えていた。
「ここに大きなダンス会場があったんだよね。」
「でも、大きなダンス会場なんてこの近辺では聞いたことがありません。」
「でも確かにここで踊ったんだよ。」
「何~、それもう心霊現象じゃ~ん。」
雨幸と桐菜は依乃里の話が俄かには信じられなかった。そしてそれは話している依乃里自身も同じだった。
「確かに私も夢かなって思ったんだけど、でも指輪と花は貰ってるし夢には出来ないかなって。」
「そうですね、結局その女の人はダークサイレンスが現れることもわかっていたようですし。」
「タンゴの女も戦士ってことなのかな?」
依乃里も女性と出会ったことを夢と思いたかったが、実際に依乃里が戦士になっていることから夢には出来なかった。雨幸と桐菜は女性が戦士であると考える。そして雨幸はある推測をする。
「もしかして、その女の人って昔のダイヤモンドの戦士とかだったんじゃ?」
「あそっか、それであえなく死んで未練があってその幽霊がいのりっちに指輪と花をあげたんだ。」
「ちょっと、心霊で話を進めるのやめて。私本当にそういうの弱いから。」
雨幸は女性が嘗てのダイヤモンドの戦士だと推測する。桐菜もそれに納得し女性が幽霊と推測するが依乃里は心霊の話が苦手であるためそれを受け入れられなかった。怯える依乃里の姿を雨幸と桐菜は面白く感じ、幽霊の手を象り依乃里に見せつける。
「「しんれい~。」」
「そこ普通うらめしやでしょ。自分で心霊とか言っちゃう幽霊なんていないから。」
依乃里は二人に呆れるように言う。
「雨幸ちゃんも無理に桐菜ちゃんに合わせなくていいから。」
「ごめんなさい、こんなに話す仲間が出来たの初めてで。」
「まあ、楽しいならいいけど……。」
依乃里は雨幸が性格に見合わぬ弾け方をして心配になるが、雨幸が楽しそうなのを見て一先ず安心する。
「ていうかいのりっちさ~、もう何回も怪物と出くわしてるのに今更心霊ダメとかないでしょ。」
「桐菜ちゃん、そこは本当に別問題なの。」
桐菜は依乃里が何故心霊系を苦手とするのか疑問に思うが依乃里にとっては心霊と怪物は別問題のようだ。兎にも角にも、三人が例の女性に関する手掛かりを掴むことは出来なかった。
「はぁ……、一旦どこかで休もうか。」
「さんせ~い。」
「そうですね。」
三人は疲れてしまい、移動する。そんな三人を先ほどの少女が陰から覗いていた。
「あの人達も戦いに巻き込まれた人?」
少女はそう言い、引き続き依乃里達の後を追うのだった。
「あとどうやって探そうか?」
三人はまた街中にあるテーブルを囲み、女性を探す作戦を考えていた。
「こうなったら似顔絵でも描いてひたすら聞くしかないでしょ。」
「私もそう思います。人探しには最適な方法ですし。」
「やっぱりそれしかないよね……。」
桐菜は似顔絵で探すことを提案し、雨幸もそれに賛同する。しかし依乃里は賛同こそすれど少し憂鬱な表情を浮かべていた。そして依乃里はスケッチブックを鞄から取り出し、女性の似顔絵を描く。
「いのりっち準備いいじゃん。スケッチブックなんて絵が好きとかじゃないと持ち歩かないよ。」
「依乃里さん、絵がお好きなのですか?」
「いや、似顔絵を描くっていう手段に行き着くだろうなって思って用意してただけ。絵は好きっていうか寧ろ……。」
桐菜は依乃里がスケッチブックを用意していたことに少し驚いていた。雨幸は依乃里が普段絵を描くのかと思ったが、依乃里は少し暗い口調で話しながらなんとか似顔絵を描く。
「はぁ……、描けた。」
「どれどれ?」
「どんな方ですか?」
桐菜と雨幸は少しわくわくしながら依乃里の描いた女性の似顔絵を見る。しかし依乃里の描いた絵は特徴がわかりづらかった。
「ていうかチョー下手じゃん!」
「昔から絵が下手なの!」
桐菜は依乃里が描いた絵のあまりの酷さに驚いてしまう。依乃里は絵が上手く描けないことをコンプレックスとしていた。
「依乃里さん、似顔絵の手段をなるべく取りたくなかったんですね……。」
「うっ……、実はそうなの雨幸ちゃん。」
雨幸は依乃里が絵を苦手としていることを察する。そして似顔絵の手段も潰えてしまった。
「いのりっち、せめて特徴の一つや二つどうにか言えない?」
「そうですね、特徴を言語化すればなんとか探すことはできます。」
「そ、そうだね。」
今度は特徴を言葉で言い表すことを提案し、三人で女性の特徴をまとめることにする。
「それじゃあ依乃里さん、まず女の人の目はどんな感じでしたか?」
「う~ん、ちょっと垂れ目っぽかったような……。」
「なるほど、垂れ目ね。」
「髪型は?」
「私より少し長かったような気がする……。色は黒かった。」
「服装はどんなの着てた?」
「黒くてきらびやかなドレスだった。それは印象に残ってる。」
「なるほど……。」
三人はなんとか女性の特徴をまとめる。
「よし、これで取り敢えず聞き込みだね。」
「はい。」
「うん。」
三人はまとめた女性の特徴を元に、近辺の人に聞き込みを開始するのだった。
「あの、人を探しているんですけれど……。」
「垂れ目で黒髪で……。」
「黒いドレスを着た女性です。」
三人は分かれてそれぞれ聞き込みをするが、当然のことながら特徴も曖昧にしかわからないため中々女性に辿り着けなかった。
「桐菜ちゃん。」
「ゆっきー、手掛かりは見つかった?」
「いえ、こちらは特に何も。」
「こっちもだよ。」
雨幸と桐菜は合流し、互いに何も収穫がなかったことを報告する。
「やっぱ情報少なすぎかねぇ。」
「はい、やはり素人が人探しをするのは難しいのでしょうか。」
二人は実りのない探索に疲れてしまう。そして依乃里も疲れ果てた様子で二人の元に合流する。
「お疲れ~。」
「大丈夫ですか?依乃里さん。」
「もういのりっち、ボロボロじゃん。」
雨幸と桐菜の二人は今にも倒れそうな依乃里を支える。
「はぁ……、もうあの人を探すのは諦めて地道にダークサイレンスと戦うしかないのかな……?」
依乃里がそう言って諦めかけた時、ふとガラス張りのドアに貼ってあるポスターが目に入る。
「ん……?」
依乃里はそのポスターが引っ掛かり、ゆっくりと歩き出す。
「依乃里さん?」
「いのりっち、どうした?」
雨幸と桐菜も依乃里の後を追うように歩く。そしてそのポスターが貼られていたのはとある社交ダンス教室のドアだった。そしてポスターには講師の写真が並んでいた。依乃里はその中の一人の講師が目に留まる。
「……あぁ~~!」
「え?」
「何かわかった?」
依乃里は一瞬沈黙し、その講師の顔に驚いてしまう。
「この人だ。」
「「え⁉」」
依乃里は確信をする。依乃里が見つけた社交ダンス教室の講師、黒崎真理紗と名前が書かれていた人物こそ依乃里にダイヤモンドの指輪とバラの花を渡した女性だった。
「黒崎真理紗って言うんだ、あの人……。」
「なるほど、社交ダンス教室の先生でしたか。」
「タンゴの女だもんね、その線で調べればよかったのか~。」
雨幸と桐菜も例の女性が社交ダンス教室の講師であることに納得する。
「よし、早速会いに行こう。」
そして依乃里ら三人は例の女性改め黒崎真理紗に会おうとドアを開くのだった。
「あの~、すみませ~ん。」
「はい、入門希望の方ですか?」
教室に入ると、とある女性が出迎える。しかしその女性は黒崎真理紗ではなかった。
「入門希望ではないんですが、黒崎真理紗先生っていらっしゃいますか?その、少しお会いしたくて。」
「真理紗?」
女性は真理紗の名を聞くと急に目を丸くし、依乃里に詰め寄る。
「真理紗に会ったんですか?いつ、どこで⁉」
「いや、一ヶ月ほど前に夜の街中でお会いしたきりなんですけど……。」
「どんな様子でした?真理紗は元気だったんですか?」
「いや……、その……。」
女性の詰め寄り方に依乃里は困惑する。それを見た雨幸と桐菜も女性を止めようとする。
「すみません、これでは依乃里さんもゆっくり話せません。」
「ここは場所を変えてゆっくりと。」
「そうですね、取り乱しました。」
女性は落着きを取り戻し、依乃里ら三人をスタッフルームに案内する。
「うわ……。」
「すご……。」
「こんなに……。」
スタッフルームに案内された三人は、そこに飾られたトロフィーの数に圧倒されてしまう。
「これ全部、真理紗が今までに獲った賞なんです。」
「これ全部ですか⁉」
依乃里はこの沢山のトロフィーが全て真理紗の獲った賞であることに更に驚いてしまう。
「彼女の競技ダンスの腕は世界レベルだったんです。もうどんな大会に出ても優勝間違いなしで。」
「そんな凄い人だったんですか……。」
女性は真理紗が世界レベルのダンサーであることを明かす。そして女性は真理紗の話を続ける。
「真理紗は小学生の頃からずっと社交ダンスをやっていて、私は高校の頃に出会ったんですけど彼女のダンスはとても艶やかで、官能的で、その場にいた人の目をいつも釘付けにしていました。」
女性は真理紗について語るが、突然悲しげな表情を浮かべる。
「でも、彼女は完璧過ぎて次第に思い悩むようになりました。」
「どうしてですか?そんなに優秀な人が……。」
「彼女は完璧過ぎるが故に、自分に合ったパートナーが見つからなかったんです。どんなに技術の高い男性のダンサーをパートナーにつけても、彼女が満足するだけのダンスにはなりませんでした。」
「なんか贅沢な悩み。」
「少し憧れます。」
女性は真理紗が満足の行くパートナーに巡り会えなかったことを明かす。しかし桐菜と雨幸はそんなん贅沢な悩みに少し羨ましさを感じていた。
「他の人からすれば贅沢な悩みと思うかもしれません。実際、彼女は誰がパートナーでも見劣りするようなダンスはしませんでしたし。でも彼女はダンスを愛しているからこそ満たされなかったんです、自分のダンスを最大限に表現できないことに。」
「そうだったんですか……。」
女性は真理紗の気持ちを代弁するように語る。依乃里は真理紗に対する印象が少し変わっていた。
「そして真理紗は不満を抱き続ける自分自身に嫌気を覚えるようになりました。彼女はよく言っていました、自分は悪意の塊だって。」
「そんな、自分を卑下するなんて……。」
「私もそんなことないって彼女に言い聞かせました。でも彼女は笑顔を見せてくれませんでした。」
女性は真理紗のことを語りながら次第に涙を浮かべるようになっていた。
「そして真理紗は四年前、姿を消しました。失踪したんです。」
「「「失踪⁉」」」
依乃里ら三人は女性の口から発せられた失踪という言葉に声を揃えて驚いてしまう。
「この教室にも来なくなっちゃって、心配して彼女の実家にも連絡したんですけど親御さんとも音信不通になったみたいで……。」
「そんな……。」
「彼女が来なくなった日、書き置きが残されていました。」
真理紗は四年もの間、音信不通となっていた。女性は依乃里に真理紗が書き残した手紙を渡し、依乃里は手紙を音読する。
「『この世界は悪意に満ちているわ。私は悪意が産んだ悲劇を終わらせたい。それまでは帰りません。さようなら。』……?」
真理紗の書き残した手紙には彼女の覚悟が感じられた。それと同時に、独りで抱え込む寂しさも感じられた。そして女性は真理紗の手紙に涙を溢す。
「真理紗に会いたい。彼女、本当はお茶目で明るい人なんです……。どうして真理紗ばかりが苦しまなければならないの……?」
依乃里ら三人は女性の言葉に何も返せなかった。女性には意味深長に感じられた手紙の内容も、三人はダークサイレンスと戦うことだと確信していた。真理紗はきっとダークサイレンスと戦うために姿を消したのだ。しかしダークサイレンスのことを女性に話す訳にも行かなかった。するとそこに、ある男性が現れる。
「おい、久し振りに来てみたら何で真理紗の話なんかしてるんだ?」
「あ、ごめんなさい……。」
その男性は怪訝そうな顔をして言う。依乃里はそれが少し気になっていた。
「あの……?」
「この人、昔真理紗と組んでいたことがあるんです。まあ結局真理紗の御眼鏡に適わなくて全国大会優勝してからコンビ解消したんですけど。」
「俺はあのまま行けば世界まで行けていたんだ。それなのに真理紗の奴が急に解散とか言い出しやがって……。」
男性は以前の真理紗のパートナーだった。しかし真理紗に捨てられたことを未だに根に持っていた。
「あいつはパートナーに拘るから世界まで行けなかったんだ。それがあんなに拘るから挙句の果てに自滅しやがって。」
「あなたは真理紗の気持ちをわかってあげられなかった、ただそれだけよ。」
「何だと⁉」
「落ち着いて下さい!」
男性と女性は真理紗のことで喧嘩をしてしまう。依乃里は慌てて仲裁に入る。
「……ったく、気分が悪いな。今日はお暇させてもらうぜ。」
男性は不機嫌そうに部屋を出る。依乃里はそれを心配に感じていた。
「いいんですか?あの人。」
「いいんです。真理紗と組む人は大体優勝することしか考えてなくて真理紗のことを考えてない人ばかりですから。」
「でも……。」
女性はあくまでも真理紗の味方のようだった。しかし依乃里は部屋を出た男性が気掛かりで仕方がなかった。
「真理紗の奴、この俺を捨てやがって……。」
不機嫌そうに部屋を出た男性は真理紗への恨みが湧きながら街中を歩いていた。そんな男性の元に、ボードクローが現れる。
「お前も中々の悪意を溜め込んでいるじゃねぇか。」
「あ?……って、怪物⁉」
男性はボードクローの姿を見て驚くが、ボードクローは男性の悪意が気に入ったようだった。そしてボードクローは男性の頭に手を翳す。
「その悪意、俺に寄越せ。」
「何をする⁉うっ……、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
男性は黒いオーラに包まれ、その中からマリスが現れる。
「これ以上戦士が増える前に、片づけてやる。」
ボードクローはそう言ってマリスを引き連れて行くのだった。
「あれ……、あの指輪の人達どこに行ったんだろう……?」
一方その頃、依乃里達の後を追っていた少女は依乃里達をすっかり見失って彷徨っていたのだった。
「結局、真理紗さんの居場所は誰もわからないんですね……。」
「せっかく真理紗を訪ねて来てくれたのに、力になれず申し訳ございません……。」
依乃里達は黒崎真理紗について知ることは出来たが、彼女に会う手段は得られなかった。
「あの真理紗さんが頼りでしたのに……。」
「か~っ、ここに来て振り出しとは~!」
雨幸と桐菜も真理紗に会うことができず残念に感じる。そんな時、女性は突然耳を塞いで苦しみだす。
「うっ……!」
「ど、どうしました⁉」
依乃里は慌てて女性の元に寄る。
「何かこう、黒板を爪で引っ掻くような騒音が……。」
「黒板を爪で……、ボードクローだ。」
「怪物が出たんですか?」
「ヤバいじゃん!」
雨幸と桐菜も驚いてしまう。
「みんな行くよ!」
「はい!」
「うん!」
そして依乃里の合図で三人は社交ダンス教室を飛び出すのだった。
「苦しめ苦しめ!この世界から音を消すためにな!」
街ではボードクローがマリスを率いて暴れていた。依乃里達三人はなんとかそこに辿り着く。
「そんなことはさせない!」
依乃里はボードクローに向かって叫ぶ。そして三人はフラヴァイスを振り下ろして開け、口の前に持って行く。
「バラ!ダイヤモンド!フラメンコ!」
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」
三人がそう叫ぶとフラヴァイスの液晶画面に文字が映し出される。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
「踊ります!」
「踊っちゃうよ!」
そして三人はそれぞれ流れてくる音楽に乗せて踊りだす。三人は戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!」
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」
「情熱のメロディー、響かせてあげる!」
三人はそれぞれ名乗ると、ボードクローとマリスに立ち向かう。
「ふん、今日こそ息の根を止めてやる!」
ボードクローも本気になり、マリスと共に立ち向かう。
「はぁぁ!」
「おりゃぁぁ!」
ベリースパークラーとチェリーエッジはそれぞれダンスを踊りながら剣と鉄扇でマリスに斬りかかる。しかしマリスは両手で簡単に受け止めてしまう。
「そんな……!」
「ちっ……!」
そしてマリスは二人に拳をぶつけようとするが、二人は踊りながらひらりとかわす。
「へへ~ん、残念でした。」
「いつまでも短絡的な攻撃に翻弄される私達ではありません。」
二人は余裕気な様子でそう言うとそれぞれ剣と鉄扇に力を込める。
「ベリースラッシャー!」
「鋭刃の舞!」
二人の攻撃がマリスに直撃し、マリスは消滅してしまう。
「何っ⁉マリスが!」
「次はあなたの番だよ!」
マリスがいとも簡単に消滅したことに驚くボードクローに、ローズレーザーは隙を与える間もなく攻撃を続ける。
「ボードクロー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「あ、何だよ?」
ローズレーザーはレーザー銃をボードクローの顔面に突きつけ、問いかける。
「私達以外の戦士って知ってるの?」
「ああ、前に黒い服の奴が来やがったことがあったな。あいつは中々厄介な奴だったぜ!」
ボードクローは反撃しながら答える。どうやらローズレーザー以外にも戦士がいたようだ。
「そう、それなら良かった。」
ローズレーザーは何故か安心したようなことを言い、レーザー銃に力を込める。そしてローズレーザーは可憐なフラメンコを踊り、ローズレーザーの周りに無数のバラの花びらが舞う。
「情熱怒濤、レーザーストライク!」
ローズレーザーはそう叫ぶといつもよりも強いレーザー光線をボードクローに放つ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ボードクローは今までにないダメージを受けてしまい、体が徐々に塵となって消える。
「そんな、この俺が死ぬのかよ……。」
ボードクローは自らの両手を見て自身が消えかかっている事実を目の当たりにし、絶望しながら消滅してしまう。
「勝った……、幹部を倒したんだ……。」
ローズレーザーはボードクローを倒し、疲れて依乃里の姿へと戻ってしまう。
「依乃里さん!」
「いのりっち!」
雨幸と桐菜も元の姿に戻り、依乃里の元に駆け寄る。
「ボードクローを倒したよ……。」
「やりましたね。」
「幹部を倒せるなら組織壊滅も行けるじゃん!」
雨幸と桐菜は依乃里がボードクローを倒したことでダークサイレンスを倒す希望を見出す。
「そうだね、でもまずは社交ダンス教室に戻らなきゃ。」
依乃里は社交ダンス教室の女性が気になり、三人は先を急ぐのだった。
「あの、大丈夫ですか⁉」
依乃里達は社交ダンス教室に戻り、女性の様子を伺う。
「はい、騒音も治まりましたしなんとか大丈夫です。」
「良かったです。こちらもなんとか大丈夫です。」
依乃里は女性の無事を確認し、安心する。そして依乃里はある決意をする。
「あの!」
「はい?」
「真理紗さんのこと、私達が必ず見つけ出します。そして、ここに連れて帰って来ます。」
「ちょっと、いのりっち?」
「そんな約束していいんですか?」
依乃里が約束したのは真理紗を見つけ、社交ダンス教室に連れて帰ってくるということだった。雨幸と桐菜は無謀な約束に戸惑うが、女性はその気持ちが嬉しかった。
「はい、真理紗のこと頼みましたよ。」
「わかりました!」
こうして依乃里は女性と約束をし、社交ダンス教室を後にするのだった。
「依乃里さん、黒崎真理紗さんってもう四年も失踪しているんですよね?」
「そうそう、その間に大変なことになってたらどうするの?」
帰り道、雨幸と桐菜が心配事を吐露する。二人が心配していたのは真理紗が失踪した四年の間に無事でいる確証がないということだった。しかし依乃里は真理紗が無事でいることを信じていた。
「多分大丈夫だと思う。だって私は真理紗さんと一回会ったし、それにボードクローが私達の他に黒い服の戦士がいるって言っていた。それって多分真理紗さんのことだと思う。」
「なるほど……。」
「そう言うなら……。」
雨幸と桐菜は依乃里が真理紗のことを信じている根拠に対し、真理紗が無事なことを信じる気になる。そして三人はこれからのことに気合を入れる。
「よーし、これで私達のやることがはっきりしたね。」
「はい、ダークサイレンスと戦うと同時に黒崎真理紗さんを探す。」
「そして私達が戦士になった理由なり何なりを洗いざらい聞き出す!」
三人はこれから自分達のやることが明確になり、気持ちが晴れる。
「じゃあ今日は私の奢りでどこか食べに行こうか。」
「おぉ~、ゴチになります!」
「ありがとうございます、依乃里さん。」
気持ちが晴れやかになった三人は、依乃里の奢りで食事に行こうと決める。そんな三人の前に、後を追っていた少女が現れる。
「やっと見つけました。」
「え?」
三人が少女に戸惑う中、少女は話を進める。
「私の名前は赤園風布花、14歳。嘗て皆さんと同じ指輪の力で戦っていた者です。」
「「「はい?」」」
少女は赤園風布花と名乗り、戦士だったと語る。しかし依乃里達はその話が一瞬では理解できなかった。