表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Miracle Dance Princess  作者: ロマンス王子
第一章 謎の出会い編
4/33

第四話 ギャルはお淑やか?

 何処にでもいるはずの女性、桜間(さくらま)依乃里(いのり)はひょんなことから戦士となった。仲間が欲しいと考えていた依乃里に、ペリドットの指輪に選ばれた蓮葉(はすば)雨幸(あまゆき)が現れる。雨幸は気弱で戦う勇気を出せずにいたが、依乃里のおかげで勇気を出しベリースパークラーとなって戦うのだった。

 ある日、依乃里と雨幸はそれぞれ仕事と大学の講義を終え二人で会っていた。


「私と雨幸ちゃんで、戦士は二人か……。」

「戦士って何人いるんですか?」

「わからない。指輪の数によると思うんだけど、指輪が何個あるのかわからないし……。」


 雨幸が晴れて戦士になったとはいえ、それでも戦士が二人しかいない状況は依乃里と雨幸にとって厳しかった。


「はぁ……、せめてあと一人は仲間が欲しいかな……。」

「そう上手く行くんでしょうか……?」


 依乃里と雨幸はそう話しながらこれからの戦いに憂鬱になるのだった。



 時を同じくして、楽しく語らいながら帰路を辿る複数人の女子高生がいた。


「えー、マジー?」

「それヤバー!」

「ぎゃはははは!」


 女子高生達は楽しく語らった後、寄り道をしようとする。


「そうだ、近くにできたアクセサリーのお店行かない?」

「あそこ?あそこ可愛いよねー!」

「じゃあ今から行こうよ、桐菜は?」

「あ、私?」


 女子高生の一人は桐菜という茶髪のポニーテールの女子高生に声を掛ける。声を掛けられた彼女の名は新原(しんばら)桐菜(きりな)、いつも元気一杯な女子高生で17歳である。しかし桐菜は友人からの誘いに少し苦い表情を浮かべる。


「ああ、私今日はちょっと……。」

「ああ……、そっか……。」

「仕方ないよね。」

「じゃあ桐菜、バイバイ。」


 こうして桐菜は悲しげな感じで友人と別れるのだった。


「はぁ~あ。」


 桐菜はつまらなさそうな表情で家へと歩を進めていた。


「何で私だけ……。」


 桐菜はふとそう呟く。どうやら桐菜には友人と寄り道できない不本意な理由があるようだった。そんな中、桐菜は近くの草むらに輝く光を見つける。


「ん?何か光ってる。」


 気になった桐菜が草むらに手を突っ込み取ってみるとそれは金色に縁どられたガーネットの指輪だった。


「マジ⁉指輪だ!これって確かガーネット?やったー!」


 桐菜は突然拾った指輪に興奮し、思わず自身の左手の中指に嵌めてしまう。


「うわー!綺麗……。」


 桐菜は指輪を嵌めた自身の指に見惚れてしまう。


「……って、いかんいかん。ここは交番だよね、そう交番。」


 桐菜はふと我に返り、指輪を交番に届けようとする。しかし家の門限が迫っていることに気が付く。


「……ってヤバ!そろそろ帰んないとヤバいじゃん!」


 桐菜は交番に行くのを忘れ、指輪を持ったまま走って家に帰るのであった。


「ママ!ごめん遅くなった!」

「5分遅刻ですよ、何を考えているのですか?」


 桐菜は慌てて家に帰る。すると正座で荘厳に佇む和装の女性がいた。その女性は桐菜の母親らしく、桐菜は女性にママという。


「いつまでもママというものではありません。あなたは新原家を継ぐ者なのですから」

「そう言われてもなぁ……。」

「いいから早く着替えて稽古の準備をなさい。」


 女性は桐菜に厳しい口調で言葉を放つ。桐菜の家は日本舞踊の家元で、桐菜はその後を継ぐため日夜稽古に励んでいた。


「ママ、私まだ高校生なんだからもうちょっと友達と遊ぶ時間くらいくれてもいいんじゃないの?」


 桐菜は和装に身を包んだ後、母親に話す。しかし母親はまるで聞く耳を持たなかった。


「何を言っているのですか桐菜さん。あなたは産まれた時からこの新原家を継ぐと決まっているのです。本当は今のままでも十分遊ぶ時間を与えていると思うのですが、不満ですか?」

「だってまだ高校生だし、小さい頃から稽古ばっかりだし、私が卒業するまではもうちょっと好きにさせてくれてもいいかなって……。」


 桐菜は稽古の日々に嫌気が差していたようで、もう少し友人と同じくらい遊びたいと感じていた。しかし、桐菜の母親はそれをよしとしなかった。


「跡取りが生意気な口を聞くものではありません!幼少の頃からしっかり稽古をつけておかないと継承できないのですよ。わかったら早く稽古をしますよ。」

「はい、ママ。」


 桐菜は母親に捲し立てられ、いつものように稽古をするのだった。



 それから翌日のこと。桐菜はまたいつものように学校で友人と語らい、そして帰り際に別れるのだった。


「はぁ~、今日は貴重な稽古のない日だし思いっきり遊ばなくちゃ。何して遊ぼうかなっと……。」


 桐菜がそう考えながら歩いていると、ポケットに入れてあったままのガーネットの指輪に気付く。


「あ~~~!」


 桐菜は交番に届けようと思っていたガーネットの指輪をずっと持っていたことに焦ってしまう。


「ヤバ~、どうしよう。ずっと指輪をネコババしてたってこと?ていうか普通に窃盗?いや、今から交番に届ければ大丈夫だ。そう、きっと大丈夫。」


 桐菜は自分にそう言い聞かせて交番えと急ぐ。そんな矢先、共に歩いている依乃里と雨幸とすれ違う。


「依乃里さん、今あの子が持っていたのって……!」

「あ、あれって……!」

「「指輪!」」

「え、何?」


 依乃里と雨幸の二人は桐菜が指輪を持っていたことに気が付き、思わず叫んでしまう。その声を聞いた桐菜は驚いて立ち止まってしまう。


「あの、その指輪ってどこかで拾いました?」

「それとも、誰かから貰いました?」

「え、え~と……。」


 依乃里と雨幸の二人に詰め寄られる桐菜は更に焦ってしまう。


「これ、拾っていて今から交番に届けようと思っていたところだったんです!この指輪の持ち主ですか?良かった~。じゃあお返ししますね、さようなら!」


 指輪を押し付けるように返す桐菜。そして桐菜はそのまま逃げるように走り出すが、依乃里が引き留めるように問いだす。


「もしかしてこの指輪、嵌めました?」

「えっ!……と~、嵌めてません!」

「そうですか、無闇に嵌めようとしたら大変なので良かったです。」

「……へ?」


 依乃里は桐菜に指輪を嵌めたかどうか尋ねるが桐菜は慌てて嵌めていないと嘘をつく。依乃里は資格者以外が指輪を嵌めようとした場合を考えて安心するが、その言葉に桐菜が反応してしまう。


「ヤバっ、嵌めちゃった。」

「「嵌めた⁉」」


 桐菜は思わず口が滑ってしまい、依乃里と雨幸は驚いて桐菜の元へと駆け寄ってしまう。


「本当ですか?本当に指を通しました?」

「それで、何ともないんですか?」

「あっ、はい。何ともないで~す……。」


 詰め寄ってくる依乃里と雨幸の圧力に押されながらも、桐菜は細い声で答える。すると依乃里は深刻そうな目を見せ桐菜に伝える。


「大事なお話があります。お時間はありますか?」

「あ、はい……。」


 桐菜は依乃里に言われるがまま、不安になりながらもついていくのだった。


「怪物と戦う戦士?」

「「はい。」」


 桐菜は依乃里と雨幸に連れられ、とあるカフェに来ていた。桐菜は依乃里と雨幸から指輪や戦いに関する一切を聞き、思わず聞き返してしまう。


「何それ凄いじゃん!」


 桐菜は自身が戦士に選ばれたとして喜ぶ。依乃里と雨幸はそんな桐菜の様子を珍しく感じる。


「ねぇ、この話疑ったりしないの?」

「え、だって本当の話なんでしょ?別に嘘をついてるように見えないし。」

「そう、なんですか……。」


 依乃里は桐菜に疑っていないのか問い掛けるが、桐菜は何も疑ってはいなかった。そんな桐菜に、最初は半信半疑だったことを恥ずかしく感じる雨幸だった。そして桐菜の前向きな様子を見て依乃里は仲間が増える希望を見出す。


「それじゃ私達と一緒に戦ってくれる?」

「ごめん無理!」


 しかし桐菜の返答は無慈悲なものだった。


「私って家が日本舞踊の家元で、ただでさえ遊び盛りな年頃なのに稽古ばっかりな状況なんだよね。怪物と戦うとかママは絶対信じてくれないだろうし、厳しいかな?」

「そうだよね、まだ高校生なのに大変だね。」


 依乃里は桐菜の大変さを察し、同情する。それと同時に仲間を増やせない絶望を感じるのだった。


「でもせっかくだし、交換しよ。」


 そんな中、桐菜は徐ろに携帯電話を出しながら言う。


「え、交換って指輪?」

「連絡先に決まってるじゃん、察し悪いなぁ。」

「あ、そっか。」

「そうですね。」


 桐菜はフランクに連絡先を交換しようとする。桐菜のペースに踊らされる依乃里と雨幸だったが、なんとか三人は連絡先を交換する。


「じゃあまた連絡するねいのりっち、ゆっきー。」

「い、いのりっち?」

「ゆっきー、ですか?」


 そして桐菜は突然依乃里と雨幸をあだ名で呼ぶ。突然のあだ名に二人は驚いてしまう。


「そう、依乃里だからいのりっち、雨幸だからゆっきーでしょ?」

「まあ、呼びやすいならそれでもいいけど……。」


 桐菜は仲良くなったと感じた人なら自然とあだ名で呼ぶようだった。依乃里と雨幸はそれに困惑するがなんとか受け入れる。


「それじゃ私行くね、バイバイ!」


 桐菜はそう言って嵐のように去って行くのだった。


「何か……、凄い子だね……。」

「ちょっと、馬が合わないかも知れません……。」


 依乃里と雨幸は桐菜を見送った後、気が抜けてしまう。しかし二人はどうしても桐菜が気になっていた。


「でも、あの子日本舞踊の家元って言ってたよね?」

「はい、もしかするとダンスに関しては……。」


 二人は桐菜が仲間になった時のことを想像し、希望を見出すのだった。



 一方その頃、ダークサイレンスではこれまでと逆にボードクローがブラクスを睨みつけていた。


「お前、デカい口を叩いておきながら何だあのザマは。結局戦士がまた一人増えてるじゃねぇか。」


 嫌味を言うボードクローに、ブラクスは逆に怒り狂ってしまう。


「うるせぇ!だったら次はお前がやれ。そんな大口を叩くくらいならお前がやって見せやがれ!」

「逆ギレかよ!自分に都合が悪くなると当たり散らしやがって。」


 ボードクローとブラクスは互いに言い合ってしまう。そんな中、また新たな怪物が姿を現す。その怪物は体中にドアのようなものが貼り付けられている不気味な姿をしていた。


「またスマートではない喧嘩をなさっているのですか?ブラクスにボードクロー。」

「クリークか。」


 ブラクスはその怪物をクリークという。クリークは紳士的な口調でブラクスとボードクローの喧嘩を落ち着かせようとする。


「善があるところ悪があり、悪があるところ善がある。つまり僕達の前に敵対する戦士が現れるのは当然かと。」

「だったらお前がやってみろ。俺達ダークサイレンスにとって邪魔な奴らを一網打尽にな。」


 ブラクスはクリークに人間界へ行くよう言う。


「ええ、しかし世界は常に思い通りに行かないことをお忘れなく。」


 クリークはそう言い残し、人間界へと赴く。ブラクスはクリークの言葉が気に入らなかった。


「あいつ、出来なかった時の保険を掛けやがったな。」


 ブラクスはそう言いながらクリークを見送るのだった。



 とある休日、桐菜はいつものように日本舞踊の稽古の準備をしていた。


「さぁて今日もか、憂鬱だなぁ。」


 桐菜はそう言って和装に着替え稽古場に行く。そしていつものように母親が厳かに出迎える。


「遅いですよ桐菜さん、準備くらいもう少し速やかになさい。」

「もう、いちいちうるさいなママ。」

「口答えは結構です。」

「は〜い。」


 母親は桐菜を厳しく叱りつける。桐菜は気だるそうに返事をすると、母親は何かを思い出したように話題を切り出す。


「そうそう、あなたの友人と名乗る方々が稽古の体験をしたいといらっしゃったのですが。」

「私の友達?誰だろう……。」


 桐菜は稽古を一緒にしてくれる友達に心当たりがなく、不思議に感じるが出てきたのは依乃里と雨幸だった。


「あ、ヤッホー桐菜ちゃん。」

「お邪魔してます。」

「いのりっち、ゆっきー!」


 桐菜は二人に驚いてしまう。そして二人に歩み寄り、母親に聞かれないようにこっそりと話す。


「どうしたの?日本舞踊に興味が出たとか?」

「いや、桐菜ちゃんのお母さんを説得してなんとか出来ないかな〜って。」

「やっぱ私に戦って欲しいってこと?」

「はい、私達が戦うにはダンスも必要ですから。桐菜ちゃんみたいな経験者がいると心強いです。」

「それにしたってわざわざ体験しに来るかね?」


 依乃里と雨幸はどうしても桐菜に戦って欲しいようで、桐菜の家を訪れていた。そしてこそこそ話す三人を桐菜の母親が一喝する。


「そろそろ稽古を始めますよ。内緒話なら終わってからになさい。」

「「「は、はい!」」」


 三人は桐菜の母親からの一喝を受け、思わず背筋をピンと伸ばすのだった。


「はいもう少し厳かに!足の運びに注意なさい!」

「えっと、はい!」

「わかりました!」


 そして稽古が始まると、桐菜の母親はスパルタ教育の如く怒鳴るように指導する。依乃里と雨幸はそんな指導に翻弄されてしまう。


「ヤバっ!」

「足が!」


 そして二人は揃って足を絡ませてしまい、転んでしまう。


「あいたたた……。」

「依乃里さん、大丈夫ですか?」

「うん、なんとかね。」


 二人はなんとか起き上がるが、横で踊っていた桐菜に思わず見惚れてしまう。


「うわ、綺麗……。」

「凄いです……。」


 桐菜の踊っている姿はいつもの喋っている時の様子からは想像も出来ないほど上品で美しかった。しかしそれでも母親が厳かな表情を変えることはなかった。


「桐菜さん、まだ足の運びが甘いですよ。」

「はい、ママ。」

「厳しい……。」


 依乃里は自分から見れば完璧に等しい踊りにも厳しく言う桐菜の母親の圧力に押されてしまう。


「それから、桜間依乃里さんでしたか。」

「は、はい!」


 桐菜の母親はふと依乃里を名指しする。先ほどまでの厳しい物言いから、依乃里は肩を竦めて反応してしまう。


「あなた、お幾つでいらっしゃいますか?」

「えっと、28歳です。」

「そうですか。」


 桐菜の母親はふと依乃里に年齢を問い掛ける。依乃里が正直に答えると、母親は少し呆れた様子を見せる。


「桐菜さんに珍しく年上のご友人が出来たかと思えば年齢に見合わぬ落ち着きのなさで、無駄に年齢だけを重ねたような人ですね。」

「なっ……!」


 依乃里はその言葉にショックを受ける。しかしそれは桐菜にとっても聞き捨てならない言葉だった。


「ちょっとママ!いのりっちを悪く言うのは違うじゃん!」

「あなたの交友関係に問題があります。学校でもこんな落ち着きのない友人と慣れ親しんでいるのであればいつまで経っても跡取りとして大成しません。一度関係を整理しなさい。」

「そんな……!」


 桐菜の母親の言葉はあまりにも無慈悲で、桐菜も言葉に出せないほどショックを受けてしまう。そんな中、依乃里が真剣な目つきで口を開く。


「あのお母さん、少し宜しいですか?」

「はい。」

「私がお母さんを不快にさせてしまったなら謝ります。必要なら娘さんと縁を切っても構いません。でも娘さんも一人の人間です。気の合う友達と一緒にいたいし、お母さんの知らない趣味だってあります。家の仕来りが何なのかはわかりませんが、そこまで娘さんを縛って良い理由にはなりません。」

「いのりっち……。」

「依乃里さん……。」


 依乃里は桐菜の母親に桐菜を縛らないよう訴える。その姿に桐菜も雨幸も胸打たれてしまう。


「依乃里さん、あなたの言いたいことはよくわかります。私も厳しい修行を経験した身ですから。しかしその同情の精神で個人の自由を尊重できるほど家元というのは甘くありません。」

「そんな……。」


 しかし桐菜の母親が意見を変えることはなかった。桐菜は俯いてしまう。


「とはいえ、桐菜さんの交友関係に口を出してしまったのは少々言い過ぎました。依乃里さんにも酷いことを申しましたね。」

「ママ……。」

「いえ、とんでもございません。」


 桐菜の母親は依乃里や桐菜に言ったことを思い改める。その言葉に桐菜は少し救われたような気がした。そして桐菜の母親が外の方を向くと庭にある桜の木に咲いていた桜の花びらが舞っていた。


「桜、もう散ってしまう季節になりましたね。」

「いや、もうここ以外の桜は既に散ってしまわれているのですが……。」

「毎年うちの桜だけいやに長く咲くんだよね。」


 桜の花びらは美しく舞っていたが随分と季節外れなものだった。依乃里や桐菜は少し違和感を覚えるが、桐菜の母親はそれを余所目に語りだす。


「そういえば、桐菜さんが産まれた時もこんな風に桜の花びらが舞っていましたね。」

「はぁ……。」

「この子もいつかあの桜のように麗しい方に成長して欲しいと思ったものです。まあ家元に相応しくない言葉遣いになったのは不本意ですが、これもまた、桐菜さんの個性なのかもしれませんね。」

「ママ……。」


 桐菜は母親の思いを知り、嬉しさを感じる。その場がほんの少しだけ和んだ時、突然桐菜の母親が両手で耳を塞ぎ倒れこむ。


「どうしたのママ⁉」

「うっ……、何かドアの軋む音が響いて……。」

「これって、例の騒音だよ。また別の怪物が現れたんだ。」


 桐菜が慌てて母親の元に駆け寄ると、母親はドアの軋む音がすると訴える。依乃里はダークサイレンスの出現を予測する。


「そういえば、桐菜ちゃんは大丈夫なの?」

「そうだ、そういえば。」


 依乃里は桐菜が騒音に苦しんでいないことに違和感を覚えるが、桐菜は偶然ガーネットの指輪をしていた。


「指輪、嵌めてたの忘れてた。」

「良かった、これをしていれば騒音が聞こえないから。」

「マジ⁉助かった~。」


 桐菜は安堵の気持ちを覚えるが、苦しむ母親の姿を見て気持ちを改める。


「……っていかんいかん。ママ、なんとかするからね。」

「行きましょう、依乃里さん。」

「そうだね。」


 桐菜は苦しむ母親に騒音を封じ込めることを誓う。そして三人は街へと急ぐ。


「さぁ、どんどん人間共を苦しめなさい!」

「やっぱり、新しい怪物。」


 街へ行くと、クリークがマリスを率いて暴れていた。依乃里は騒音がまた別の幹部の仕業だと確信する。


「あんたでしょ、ママにうるさい音を聞かせてるの!」

「おやおや、またしても騒音をものともしない方が現れるとは。自己紹介をしましょう、僕の名はクリーク。僕達ダークサイレンスの幹部は人間の不快な音を操ります。僕はドアの軋む音ですね。」

「やっぱり、幹部で出す騒音が違うんだ。」


 桐菜は苦しむ母親の恨みをクリークにぶつける。しかしクリークは平静を崩すことなく自己紹介とダークサイレンスのことを話す。依乃里は幹部によって騒音の種類が違うことを確信する。


「いのりっち、ゆっきー、お願い!」

「わかった、行こう雨幸ちゃん。」

「はい、依乃里さん!」


 桐菜は依乃里と雨幸に望みを託し、安全なところに逃げる。依乃里と雨幸は同時にフラヴァイスを持って構える。そして振り下ろして開け、口の前に持っていき叫ぶ。


「バラ!ダイヤモンド!フラメンコ!」

「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」


 二人が同時に叫ぶと液晶画面に文字が映し出され、甲高い女性の声が響く。


「Let's Dance!」

「踊るよ!」

「踊ります!」


 二人は同時に叫び、それぞれのダンスを踊る。そして二人は戦士へとその姿を変える。


「情熱の舞姫、ローズレーザー!」

「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」

「情熱のメロディー、響かせてあげる!」


 二人はクリークの前で名乗り、立ち向かう。


「あれが戦士……、チョーカッコいいじゃん!」


 桐菜は華麗に踊りながら戦うローズレーザーとベリースパークラーの姿に興奮する。


「なるほど、あれになる資格を私も持っているってことか……。」


 桐菜は戦いを眺める中で徐々に闘志が湧き立つ。


「今、私が戦士になって、苦しむママをなんとか出来るなら……!」


 桐菜の湧き立つ闘志に反応するように、庭の桜の花びらが桐菜の元に向かう。そして桐菜の前で渦巻き状に舞うと、フラヴァイスとなって桐菜の手の上に落ちる。そのフラヴァイスには桜の花のモールドが施されていた。


「これっていのりっちとゆっきーと同じ奴?」


 そして桐菜はクリークとマリスを睨みつける。そしてローズレーザーとベリースパークラーの前に立つ。


「桐菜ちゃん?」

「どうしました?」

「私、戦う!」


 二人は一瞬戸惑うが、フラヴァイスを持った桐菜を見て察する。


「花と宝石とダンス、私には全部わかってる。」


 そして桐菜はフラヴァイスを振り下ろして口の前に持って行く。


「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」


 桐菜がそう叫ぶと液晶画面に文字が映し出され、甲高い女性の声が響く。


「Let's Dance!」

「踊っちゃうよ!」


 そして桐菜は扇子を取り出して日本舞踊を踊り、戦士へとその姿を変える。

 その戦士は藤色の和服がセパレートになっていて、通常の日本舞踊の和装よりも露出が高めになっており、桜の模様が散りばめられている。そして頭には桜の花を模した髪飾りが着けられている。


「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」

「チェリーエッジ……。」


 その戦士はチェリーエッジと名乗る。チェリーエッジは扇子を振り回してクリークとマリスを攻撃する。


「くっ……!」


 扇子を振り回しただけであったが、クリークは狼狽える。


「これ、鉄扇か。ヤバ。」


 桐菜の扇子は鉄扇と化していた。チェリーエッジは驚くが、同時に闘志が更に湧き立つ。


「よーし、行っちゃうよ!」


 チェリーエッジはそう言って華麗な日本舞踊を踊りながら鉄扇を振り回してクリークとマリスを翻弄する。


「くっ……、これが新たな戦士の誕生ということですか。仕方がない、ここは退くとしましょう。」


 クリークはそう言ってマリスを置いて去ってしまう。


「逃げた、ずるっ。」


 チェリーエッジは退いたクリークに呆れる。そしてマリスだけとなり、チェリーエッジはローズレーザーとベリースパークラーの元に行く。


「ここは三人で決めよう。」

「うん。」

「そうですね。」


 チェリーエッジがそう言うと三人は一斉に構える。


「レーザーストライク!」

「ベリースラッシャー!」

「秘技・鋭刃(えいじん)の舞!」


 ローズレーザーはレーザー光線を放ち、ベリースパークラーは刀身の光波を放つ。そしてチェリーエッジは無数の鉄扇の刃を召喚して放つ。三人の必殺技がマリスに命中すると、マリスは消滅してしまう。


「お、終わった……。」


 元の姿に戻った桐菜は疲れて膝をついてしまう。それは依乃里と雨幸も同じだった。


「結構疲れちゃうでしょ、これ。」

「慣れるまで時間が掛かりますね。」

「えへへ、そうだね。」


 三人はそう言って笑い合うのだった。


「ママ!」


 桐菜は依乃里と雨幸と共に母親のもとに戻る。心配していた桐菜だったが、母親はなんとか落ち着きを取り戻していた。


「ええ、危うく難聴になるところでしたがもう大丈夫です。」

「ママ~!」


 桐菜は母親の無事を確認すると嬉しくなって抱き着いてしまう。


「桐菜さん、跡取りがそんなはしたないことをするものではありませんよ。」

「だって、ママが心配だったんだもん。」

「そうですね、ありがとうございます。」


 桐菜の母親は桐菜の気持ちを嬉しく感じる。その様子を依乃里と雨幸は見守るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ