第二話 情熱的に覚悟を決めて
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里は要領の悪い性格で何も上手く行かない生活を送っていた。そんな折、依乃里は謎の黒いドレスの女性からダンスに誘われ、バラの花とダイヤモンドの指輪を授かる。具体的な詳細を何も話さない女性に依乃里は気味悪く感じていたが、ある日依乃里は騒音で人々を苦しめる怪物を目撃する。焦る依乃里だったが、バラの花とダイヤモンドの指輪に守られ、そしてフラメンコを踊って戦士ローズレーザーへとその姿を変え、戦うのだった。
雲一つない晴天の昼下がり、依乃里にバラの花とダイヤモンドの指輪を与えた女性はとあるビルの屋上に腰を掛けていた。女性が開いた手の平の上には四つの指輪が置かれていた。
「ペリドットにガーネット、真珠、そしてオパール。」
女性は四つの指輪を置いた手をゆっくりと空に掲げる。
「さあ、行ってらっしゃい。」
女性がそう言うと、四つの指輪は光を放ち何処か遠くに散らばる。
「これで指輪は資格者の元へ行くわ。これからどんな人が指輪を手にし、桜間依乃里と出会うのかしら?」
女性はそう言いながら不気味な笑みを浮かべるのだった。
依乃里がローズレーザーになった日から一週間。あれから怪物も謎の女性も現れることはなかった。依乃里はオフィスでバラの花が変化した携帯ゲーム機のような機械とダイヤモンドの指輪を眺める。
「結局何もわからないまま一週間も経っちゃった……。」
依乃里は怪物と対峙した日からモヤモヤする日々を送っていた。
「ていうかまずこれが何なんだろう……?」
依乃里はそう言ってバラの花が変化した携帯ゲーム機のような機械を開く。
「液晶画面がついているけど、ゲーム機ではないんだよね……?」
依乃里がそう呟きながら液晶画面を見ると、液晶画面にFloviceという文字が映し出される。
「ふろばいす……?いや、多分花のフラワーからきてるからフラヴァイスか。なるほど、これがこの機械の名前……。」
依乃里はバラの花が変化した機械の名前がフラヴァイスだと理解する。しかし、それでもわからないことは山積みだった。
「本当にあの怪物と戦わなくちゃいけないのかな……?あの怪物は何で騒音なんか出してたんだろう……?」
依乃里は先日戦った怪物のこともよくわからなかった。怪物は音が嫌いと言っていたが、何故音が嫌いなのか、そのために何故騒音を出すのか、その一切がわからなかった。
「はぁ……。」
依乃里は思わず溜め息を吐いてしまう。そんな中、またしても上司の怒号が鳴り響く。
「こら桜間!まだ外回りに行っていないのか!」
「も、申し訳ございません!今すぐに!」
依乃里は慌ててオフィスを飛び出すのだった。
「はぁ……、やっぱりないな……。」
依乃里は外回りの道中、謎の女性とタンゴを踊った洋館を軽く探していたが、やはりどこにもなかった。
「もう、あの人がいないと怪物のことも私が戦士になったこともわからないのに〜!」
依乃里は謎の女性に中々会えないことにやるせなさを感じていた。
「今ある手掛かりはこのフラヴァイスとダイヤモンドの指輪だけ、か……。」
依乃里はそう言って再びフラヴァイスとダイヤモンドの指輪に目を配る。しかし依乃里はもう一つ、フラメンコを踊って戦士になったことを思い出す。
「そうだ、あとフラメンコか。もしかして、これからあのフラメンコを踊りながら戦うのかな……?私ダンスとか苦手なのに……。」
依乃里はふと思い出したように怪物と戦った時のフラメンコを軽く踊ってみる。するとそこに、依乃里の後輩が通りかかる。
「依乃里せんぱ〜い、そこで何をやっているんですか?」
「え!?いや、その……。」
依乃里は慌てて両手を後ろに回す。
「今のって何かフラメンコっぽかったですよね?興味があるんですか?」
「興味があるっていうか、必要になったっていうか……。それより、何であなたが外回りに?」
依乃里は後輩にフラメンコを踊っていたことを問いただされ、逆に外回りに来ていることを聞いてはぐらかす。
「私ですか?私はあの上司が依乃里先輩のこと心配してて、様子を見てこいって言われちゃって。」
「そんなに信用ないんだ、私……。」
「まああの業績じゃ仕方ないですよね〜。私の方が後輩なのに私の方が仕事の覚え早かったですし。」
依乃里は後輩の言葉に何も言えなくなる。そして後輩は再び依乃里が身につけているダイヤモンドの指輪を見つける。
「先輩、まだそのダイヤモンドの指輪を持っているんですか?もしかして例の女の人に会えなかったとか?」
「うん。不思議な人だったし、掴みどころがないっていうか……。」
「なるほど、確かにやり手の詐欺師っぽい感じですね。先輩がコロッと騙されるのも無理ないか……。」
「ちょっと、いちいち失礼だよ。」
依乃里は後輩の棘のある言い方が気になる。しかし謎の女性に会えずにいたこともまた事実だった。そして後輩はダイヤモンドの指輪を物欲しそうに見つめる。
「せんぱ〜い。その指輪、ちょっと嵌めさせていいですか?」
「え?いや、これはちょっと……。」
「いいじゃないですか、減るものじゃないですし。それとも、先輩が外回り中にこっそりフラメンコを踊ってたことを報告しちゃってもいいんですか~?」
「わかった!貸すから。」
「ラッキー♪」
後輩は依乃里の弱みを握って指輪を借りる。依乃里は少し苛立ちながらも渋々指輪を後輩に差し出す。
「やっぱりダイヤモンドは憧れですよね〜。……って、あれ?」
「どうかしたの?」
後輩は気分を高揚させながら指輪を嵌めようとするが、何か違和感を感じたようだった。
「わからないんですけど、上手く嵌められないんですよね。余裕で指は通りそうなのに。」
後輩は何故か指輪を嵌められないことを疑問に感じる。そして無理矢理指輪に指を通そうとする。
「痛っ!」
「だ、大丈夫?」
後輩は指を通そうとした時に激しい痛みを感じたようだった。
「ダメです先輩、何か変な力に阻まれてる感じでどうしても指を通せません。」
「本当に?」
依乃里は後輩の話がにわかには信じられなかった。試しに指輪を再び自分の指に嵌めるが、何事もなく嵌めることが出来た。
「全然何ともないけど……。」
「この指輪、嵌める人を選んでるんですかね?何かますます怪しい……。」
後輩は指輪に対する不信感が募っていた。そして依乃里も自身が戦士になったことを段々恐ろしく感じるようになる。
「そ、それじゃ私外回り続けるからバイバイ!」
「しょうがないですね、上司には適当に言っておきます。」
依乃里は慌てて後輩に別れを告げ、逃げるように外回りに向かうのだった。
週末、依乃里はフラメンコ教室の入学手続きに行っていた。
「それでは、お手続きは以上になります。」
「はい、ありがとうございます。」
依乃里は手続きを済ませ、フラメンコを習うこととなった。
「ところで、どうしてフラメンコにご興味を持たれたんですか?」
「ま、まあ、興味を持ったというか、必要になったというか……。」
依乃里はふと手続きの対応をしてくれた講師に問われ、慌ててはぐらかすように答える。
「もしかして、宴会にとかですか?」
「まあ、そんなところです。」
講師は依乃里の言葉をそう解釈し、依乃里も話を合わせる。まさか世界を守るために必要など、理解してもらえるとも思っていなかった。
「はぁ〜、遂に申し込んじゃった。まあ仕方ないよね、世界を守るためだし。」
帰り際、依乃里は体を大きく伸ばしていた。しかし、依乃里はこれからの戦いに不安を感じていた。
「それにしても、戦いっていつまで続くのかな?もし何年も続いたら……。」
依乃里はふと自身が年老いたまま戦っている姿を想像し、背筋が凍る。
「まずい、これは洒落にならない。お婆さんになっても戦ってるとか嫌だよ〜。」
依乃里は先行きに不安を感じてしまう。しかし依乃里は、未だ戦いが本当にあるのかも半信半疑だった。
「まあ戦ったのもあの一回だけだし、あれが錯覚の可能性も拭えないしね。もしそうだったらフラメンコ教室もちょっと通ってすぐやめよう。」
依乃里はそう言って気持ちを切り替え、帰宅するのだった。
一方その頃、人間が住む世界とは違う世界の存在があった。そこに佇む不気味な城、そこに以前依乃里が姿を変えたローズレーザーと一戦を交えたボードクローという名の怪物の姿があった。
「……ったく、この前の奴は何なんだよ!またダンスとか踊りやがるし。」
ボードクローは自身の前に現れたローズレーザーに怒りを覚えていた。そんなボードクローの前に、胸に歯のような装飾が施された怪物が現れる。
「マリスを使わねぇからいけねぇんだよ、ボードクロー。」
「ブラクス……。」
ボードクローはその怪物の名をブラクスという。彼らは音を嫌う悪の組織、ダークサイレンスの幹部である。
「マリスは人間の悪意を俺達の力に変えるためにも必要なものだ。わかってるのか?」
「ちっ、わかってるよブラクス。今度はマリスを使うさ。」
ボードクローはそう言い残し、城を離れて人間界へと赴くのだった。
そして明くる日、この日も依乃里はまた上司から怒鳴られる一日だった。
「桜間!書類の整理は終わったのか⁉」
「すみません!今すぐに!」
「外回りは行ってきたのか?」
「すみません!今すぐに!」
「もっと成果を上げろ!」
「すみません!この次はもっと!」
依乃里は謝罪の連続で心身共に疲弊していた。
「今日はいつも以上にオフィスが騒々しかったですね。」
帰り際、依乃里は後輩に皮肉めいたことを言われてしまう。
「まあ、いつものことだし。このままじゃダメなのはわかってるんだけど……。」
依乃里は反省を込めるように返す。依乃里も自身の不甲斐なさに嫌気が差していた。
「先輩、もうこの世界が嫌になって来ませんか?」
「……え?」
依乃里はふと呟いた後輩の言葉に耳を疑う。
「だって今の先輩を見ていたら不憫ですもん。」
「でもそれは、私が悪いから……。」
「それはそれですよ。普通はあそこまで言われちゃったらきっと『この世界なんか無くなってしまえ!』って自暴自棄になりますよ。」
「そんなものかな……?」
依乃里は後輩の言うことにいまいち合点が行かなかった。
一方その頃、依乃里と同じく上司に怒鳴られながらコンビニで働く若い男の姿があった。
「おい、この商品の陳列はまだか⁉」
「すみません!今すぐに!」
「掃除はやったのか?」
「すみません!今すぐに!」
「もっと効率を上げろ!」
「すみません!」
男も依乃里と同じくどんよりとした表情を浮かべながら仕事を終え、店の裏口から出る。
「くそっ、何であんなに怒鳴られなきゃいけねぇんだよ。もういっそこの世界なんか無くなってしまえ!」
男がそう呟くと、そこに不気味な微笑みを浮かべたボードクローが現れる。
「お前、いい悪意を持ってるな。」
「あん、何だよ?……って、怪物か⁉」
男は話しかけてきたボードクローを睨みつけるが、その禍々しい姿に驚いてしまう。しかしボードクローは男の見せる悪意が気に入っていた。ボードクローは男の頭に手を翳す。
「その悪意、解放しろ。」
「何だ、俺に何をする?」
男は戸惑うが、ボードクローがそんなことを気にも留めない。そして男は頭から湧き出す黒いオーラに包まれ、その中から一体の怪物が出てくる。
「ふぅ、マリスを一匹産み出すだけでも一苦労だぜ。だがこれでこの間の奴も恐くないな。」
ボードクローはその怪物をマリスと言う。マリスは人間の悪意から産み出される怪物だった。そしてボードクローはマリスを連れ、街へ繰り出すのだった。
「まあつまり、先輩ももうちょっと気楽に考えた方がいいってことですよ。」
「でも私、本当に何もできないし……。」
後輩が依乃里を励まそうとするが、依乃里は後輩の言葉を素直に受け取れずにいた。
「そんなんじゃ私、心配だな~。安心して先輩の元を離れられないですよ。」
「何それ、どういうこと?」
依乃里は後輩の突然の言葉に依乃里は耳を疑う。
「私、来週から部署異動するんですよ。ああ、来週から先輩もしばらく独りぼっちか。」
「そう、なんだ……。」
依乃里は後輩の言葉にショックを受ける。依乃里にとっても後輩は数少ない心の拠り所だった。
「ま、何かあったら私に連絡してください。いつだって力になりますから……、うっ……。」
後輩は依乃里に励ましの言葉を投げかけるが、突然耳を塞いで倒れこんでしまう。
「何、何かあったの?」
「よくわからないんですけど……、突然黒板を爪で引っ掻いたような不快な音が響いて……。」
「黒板を爪で……、まさか!」
依乃里は後輩の言葉に心当たりを感じ、先を急ぐ。
「やっぱり!」
依乃里が駆け付けた先には、マリスを従えて街中を歩くボードクローの姿があった。それを見た依乃里も合点が行く。
「また騒音を……、しかもあんな不快な音を出してたなんて……。」
依乃里はボードクローを見つけるとすぐさま前に立ちはだかる。
「あの、またこんなことをやっているんですか!」
「あん、またこの前の奴か。」
依乃里はボードクローを前にして、再び説得を試みる。
「言葉が通じるならわかってもらえるはずです。あなたが出す騒音でみんなが苦しんでいるのでやめていただけませんか?」
「うるせぇ!」
依乃里が必死に説得しようとするが、ボードクローは聞く耳を持たずマリスを使って依乃里に襲い掛かろうとする。
「うっ……。」
依乃里は戸惑いつつもなんとかマリスの攻撃をかわす。しかしマリスは再度依乃里に襲い掛かり、依乃里は膝をついてしまう。
「いいか、人間は悪意で出来ているんだ。そしてその悪意が俺達の力の源になる。お前だって思ったことないのか、この世界なんか無くなってしまえってな!」
「この世界なんか無くなってしまえ……?」
依乃里はボードクローの言葉に、後輩から言われた言葉が重なる。
「今お前を襲っている怪物はマリスって言ってな、人間の悪意から産み出される怪物なんだ。このマリスを産み出した奴は言っていたぜ、『この世界なんか無くなってしまえ!』ってな。」
「私は……。」
依乃里はボードクローの言葉に一瞬心が揺らいでしまう。
「そうだ、私が戦わなかったら世界は怪物に支配される。そうしたら会社で辛い思いをしなくて済むかもしれない、楽になれるかもしれない。でも……!」
しかし依乃里は鋭い目つきを浮かべてボードクローとマリスを睨みつける。
「今動かなかったら、何も出来ずに終わる。何で私がこの力を受け取ったのか、何も知らないで終わるから!」
依乃里は立ち上がり、ボードクローとマリスの前に不敵に立つ。
「私、覚悟を決める。言葉が通じるのに気持ちが通じない相手には情熱的に戦う!」
依乃里はそう言ってフラヴァイスを持って構える。そして勢いよく手を振り下ろしてフラヴァイスを開く。開いたフラヴァイスを自身の口の前に持って行き、叫ぶ。
「バラ!ダイヤモンド!フラメンコ!」
依乃里がそう叫ぶとフラヴァイスの液晶画面にRose、Diamond、Flamencoの文字が映し出され、そしてフラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
依乃里はフラヴァイスの音声に答えるように叫び、そしてフラメンコを踊る。すると依乃里はローズレーザーへとその姿を変える。
「私の名前を教えてあげる!情熱の舞姫、ローズレーザー!」
ローズレーザーは勇ましく名乗り、ボードクローとマリスに立ち向かう。
「『この世界なんか無くなってしまえ!』なんて逃げの言葉にしかならない。私は逃げたら私じゃなくなる、だからそんな弱音を吐かない。例え全部が不器用で、上手く行かなくても!」
そしてローズレーザーは腰のレーザー銃を手に取り、マリスにレーザー光線を浴びせる。
「くっっ……、こいつ本気か……。」
ボードクローはローズレーザーの本気を感じる。そしてローズレーザーはボードクローを睨みつける。
「あなた、音が嫌いなんでしょう?だったら私が!情熱のメロディー、響かせてあげる!」
ローズレーザーはそう言い放つと情熱的なフラメンコを踊りながらボードクローと戦う。しかし上手くフラメンコを踊れずステップを踏み外してしまう。
「あれ?」
ローズレーザーは勢いよく転んでしまう。
「いたた……、やっぱりフラメンコ教室は通わなきゃダメか……。」
ローズレーザーは未だフラメンコに慣れず、踊りながら戦うのが難しかった。
「ていうかやっぱり踊りながら戦うって条件厳しすぎだよね。」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
ローズレーザーの独り言にボードクローは怒りを覚える。そしてボードクローはローズレーザーに攻撃するが、ローズレーザーは何とかかわす。
「そうだよね、そろそろ決めなくちゃ。」
ローズレーザーはそう言ってレーザー銃をボードクローに向ける。
「レーザーストライク!」
ローズレーザーの放ったレーザー光線はボードクローを目掛けて勢いよく向かう。
「危ねっ!」
しかしボードクローはマリスを無理矢理自身の前に立たせ、盾にする。マリスはレーザー光線を浴びて消滅してしまう。
「仲間を盾に?」
「マリスは捨て駒だ。悪意は溜まったからな。」
ローズレーザーはボードクローがマリスを盾にしたことに驚くが、ボードクローは特に悪びれる様子もなくローズレーザーに背を向ける。
「今日のところは帰ってやる。だがお前だけの力で俺達ダークサイレンスに勝てると思うな。」
ボードクローはそう言い残し、ローズレーザーの元を去る。そしてローズレーザーは依乃里の姿に戻ってしまう。
「ふぅ……、疲れた……。」
依乃里は疲れて膝をついてしまう。そして後輩の元へ戻るのだった。
「大丈夫?」
「はい、もう平気ですよ先輩。」
後輩もすっかり騒音が消えて楽になったようだった。依乃里は一先ず安心する。
「それにしても先輩、あんなにうるさいの聞こえなかったんですか?」
「うん、多分この指輪のおかげかも。」
後輩は依乃里が騒音を聞いていない様子を不思議に感じるが、依乃里は指輪のおかげだと後輩に指輪を見せる。
「あ、例の怪しい指輪。やっぱりこの指輪は何かありますね~。」
「まあ、少なくとも悪い力じゃなさそうだし。」
依乃里はそう言って、密かに指輪に戦いの覚悟を込めるのだった。
「これから宜しくね。」
そして時が経ち、後輩の部署異動の日がやってきた。
「先輩、これから離れ離れですけどしっかりやって下さいね。」
「うん、そっちも新しい所でしっかりね。」
こうして依乃里は、後輩との別れを告げるのだった。
週末、依乃里はフラメンコ教室でフラメンコのレッスンに励んでいた。
「あいたっ!」
しかしフラメンコのステップを習得するのは難しく、依乃里は転んでばかりであった。