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Miracle Dance Princess  作者: ロマンス王子
第一章 謎の出会い編
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第一話 出会いはミステリアスに

 むかーしむかし、あるところに世界を己の思い通りに操ろうと目論んでいた悪の組織がありました。組織の名はダークストーリーズ、彼らは人間の悪意を力の源として童話の悪い力を使い世界を窮地に陥れようとしました。しかし、そんな彼らに対抗する組織もまたありました。組織の名はホロテイルジュ。彼らは星座、宝石、童話の力でダークストーリーズと戦い、そして消滅に成功しました。戦いを終えた後、ホロテイルジュの力は全て消滅し世界に平和が訪れました。それから四年の月日が流れました。


「はぁ……。」


 都会の街に人々が行き交う中、溜め息と共に俯きながら歩く女性の姿があった。彼女の名は桜間(さくらま)依乃里(いのり)、28歳独身。普段はしがない会社員として働いている。彼女は基本的に要領というものが悪い。仕事の覚えが悪ければ他の人の話も中々理解できない。そしてよくドジを踏む。


「あいたっ!」


 依乃里は何もないところで(つまず)き、勢いよく転んでしまう。


「いたたたた……。うわ、血が出ちゃってるよ……。」


 依乃里は自身の鼻から血が流れているのを見て、慌ててポケットからティッシュを取り出す。そんな中、依乃里の携帯電話が勢いよく鳴り響く。


「おい桜間!いつまで外回りに行っているつもりだ!早く戻って来い!」 

「も、申し訳ございません!今すぐに!」


 ティッシュを鼻に詰めながら電話を取ると、それは上司からのものだった。依乃里は慌ててオフィスの方へ駆け出す。


「あいたっ!」


 またしても転んでしまう依乃里。彼女はそんな自分に呆れ果てていた。


「た、只今戻りました!」

「遅いぞ桜間。それで、今日は何件契約を取って来たんだ?」


 オフィスに戻った依乃里は、顔を(しか)める上司に怯えながら勢いよく頭を下げ、机に頭をぶつけてしまう。そんなことを気にも止めない上司は、依乃里に成果を聞き出す。依乃里は慌てて報告しようとするが、その様子を見た上司は全てを察する。


「わかった、今日も成果なしだな。」

「も、申し訳ございません……。」


 依乃里は上司の悟った表情に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そして依乃里は業務時間を終え、重い足取りでオフィスを出るのだった。


「はぁ……。」


 溜め息を吐く依乃里の重い足取りは家まで続こうとしていた。


「もうやだ……、何でこんなに上手く行かないんだろう……?」


 依乃里はそう呟きながら夜の星空を見上げる。満天の星空も今の依乃里には憂鬱に感じられるものだった。


「何だか浮かない表情ね、桜間依乃里。」

「え……?」


 依乃里はふと横からねっとりとした口調で喋る声を聞く。そしてその方向を向くと、長い茶髪を(なび)かせ、黒くきらびやかなドレスを身に纏った女性を見つける。


「あなたはここで溜め息を吐くような人ではないわ、桜間依乃里。」

「あの、どちら様ですか?どうして私の名前を……?」


 女性は全てを知っているかのように語りかける。依乃里は女性が自身の名前を知っていることも含めて気味悪く感じる。しかしそんな依乃里を気にも留めず女性は語り続ける。


「あなたは私の名前を知らない。でも私はあなたの名前を知っている。それはあなたが運命の人だからよ。」

「はい……?」


 女性は語りながら依乃里に近づき、依乃里の手を取る。


「私と、踊って下さらない?」

「お、踊る……?」


 女性は何故か依乃里をダンスに誘う。依乃里は女性の突拍子も無い言動に終始混乱していた。


「さあ、こちらへいらっしゃい。」

「え、えっ……?」


 混乱する依乃里の手を引き、女性は歩き出す。すると間もなく大きな洋館のようなものが見える。


「あれ、こんなのあったっけ……?」


 依乃里は見慣れた街に佇む見たことのない洋館に首を傾げる。そして二人が洋館の中に入ると、黄金に輝くダンス会場が広がっていた。


「うわ〜、広いなここ……。」

「ここで踊るの。あなたと私の運命の出会いに相応しい場所ね。」

「でも私、ダンスなんてやったこと……。」


 依乃里は自信のないダンスに不安を覚えるが、突然タンゴのメロディーが鳴り響く。


「え、まさかのタンゴ⁉こういうのってもうちょっとゆったりめのダンスを踊るんじゃないの?」

「タンゴは私の一番好きなダンスなの。さあ、私の手を取って。」


 タンゴに驚く依乃里に女性はそう言い、二人は手を取り合う。すると女性は激しいステップを踏み出す。


「ちょ、ちょっと激しい!」


 依乃里は女性の激しいタンゴのステップに翻弄されながらなんとかついていく。 


「やはり私の思った通りね。あなたのステップには激しい情熱を感じるわ。」

「どこが?ダンスなんてやったことないのに……。」


 女性の言葉が、依乃里には理解できなかった。そして女性は(おもむ)ろに一輪のバラの花を出し、依乃里の胸辺りのポケットに入れる。


「あなたの情熱には、このバラの花が似合うわ。」

「バラ……?」


 バラを差し出された意味がわからない依乃里に、女性はまた何かを取り出す。今度は金色に縁取られたダイヤモンドの指輪だった。


「もう一つ、このダイヤモンドの指輪をあげるわ。」

「そんな、ダイヤモンドなんて高いもの受け取れないです!」


 依乃里はダイヤモンドの指輪にたじろいでしまうが、それを余所目に女性は依乃里の左手の中指に指輪を嵌める。


「いいえ、あなたは運命の人だもの。このダイヤモンドの指輪を嵌める資格があるわ。」

「あの、さっきからその運命の人って……?」


 依乃里は女性の口から度々発せられる運命の人という言葉が気になる。そして女性は依乃里の手を離す。


「それじゃ、今日はここでお別れね。」


 女性はそう言って依乃里の頬にキスをする。


「え、キス……⁉」

「運命の出会いの記念よ。」


 キスをされてたじろぐ依乃里に、女性は微笑みながら返す。


「最後に一つだけ言うわ。この世界は悪の心に満ち溢れている、あなたは近い内にそれを目の当たりにするわ。そんな時はバラの花とダイヤモンドの指輪、そして今日の情熱のステップを思い出しなさい。」


 女性は最後にそう言うと、依乃里を横切って離れる。


「それじゃあごきげんよう桜間依乃里。あなたといずれまた出会える日を楽しみにしているわ。」

「ちょっと、まだ聞きたいことが沢山……。」


 依乃里は慌てて女性を追いかけようとダンス会場を出る。しかし不思議なことに女性の姿は既になかった。


「あれ、どこに行ったんだろう……?」


 依乃里は狐につままれたような気分になり、この日は帰るのだった。


「バラ……、ダイヤモンド……。」


 翌日、依乃里は自身の左手の中指に嵌められたダイヤモンドの指輪を眺めながら呟いていた。バラの花は結局家にあった花瓶に入れて飾ることにした。指輪を眺める依乃里に、後輩社員が話しかける。


「あれ〜先輩、これダイヤモンドですか〜?」

「ちょっと、何?」


 後輩は依乃里が嵌めていたダイヤモンドの指輪に興味を示していたようだった。


「もしかして、羽振りの良い彼氏に貰ったとかですか〜?まさか依乃里先輩が玉の輿を狙っているとは。」

「そんなんじゃないって、彼氏なんかいないし。この指輪は貰ったの。昨日、女の人から。」

「女の人から?」


 後輩は依乃里が女性からダイヤモンドの指輪を貰ったという話に不審感を覚える。


「それ、詐欺じゃないですか?後からウン百万とか取られるかも。」

「やっぱりそうなのかな?」


 後輩は依乃里が詐欺に遭ったと推測する。依乃里も段々昨夜の女性を怪しく感じる。


「向こうは先輩の連絡先とか知っているんですか?」

「どうだろう……?何故か私の名前は知っていたんだけど……。私が運命の人だって。」

「じゃあますます怪しいですよ〜!前々から先輩のことを調べていたんですよ、先輩って如何にもカモられやすそうですし。」

「ちょっと、一言多いよ。」


 後輩は依乃里の話から昨夜の女性が詐欺師であると確信する。


「先輩、外回りのついでにその指輪を返してきて下さい。強引にでも返せばなんとかなりますよ。」

「う、うん。わかった。」


 依乃里は後輩に言われるがまま外回りに行く。


「ええと……、昨日の洋館はと……。」


 依乃里は外回りの傍ら、昨夜に女性と出会った洋館まで行く。しかしそこには洋館がなかった。


「あれ、道間違えたかな……?」


 依乃里は自身が道を間違えたかと感じる。しかしどこを探しても洋館も女性の姿もなかった。


「どこにもない……、昨日のは何だったんだろう……?」


 依乃里は昨夜の出来事を夢のように感じ、外回りに戻ろうとする。すると、道行く人が苦しそうに耳を押さえて倒れこむ光景を目にする。


「あれ……、何これ……?」


 依乃里は人々の様子をおかしく感じる。


「何か騒音……?私には何も聞こえないけど……。」


 依乃里は不思議に感じながら歩く。すると、体中に黒板のような物が貼りついた怪物を見つける。


「お前ら!どんどん苦しめ!そしてこの世界から音を失くすんだ!」

「音を失くす……?」


 依乃里はその怪物の言うことがよくわからなかった。そしてその怪物が恐らく出しているであろう騒音が一人だけ聞こえないこともわからなかった。


「あの~……、ちょっと宜しいですか?」

「あ⁉何でお前だけ苦しんでいねぇんだ⁉」

「それが、私にもよくわからなくて……。取り敢えず、皆さん迷惑がっているのでやめていただけますか?」


 依乃里は恐る恐る怪物に騒音をやめるよう交渉する。しかし逆に怪物の逆鱗に触れる結果となってしまう。


「うるせぇ!俺は音が大嫌いなダークサイレンスの幹部、ボードクロー様だ!俺の音が響かねぇなら直接地獄に送ってやるぜ!」

「ダークサイレンス……?」


 怪物は自身をボードクローと名乗り、騒音が通じない依乃里に襲い掛かろうとする。


「ちょ、ちょっと待って!落ち着いて下さい!話せばわかります!」

「問答無用だ!」


 依乃里はボードクローを説得しようとするが、ボードクローは聞く耳を持たず依乃里に襲い掛かる。


「誰か助けて~!」


 依乃里がそう叫んだ瞬間、依乃里の嵌めていたダイヤモンドの指輪が光りだす。


「指輪が……?」


 そして依乃里の家に飾ってあったバラの花が依乃里の元に瞬間移動し、ボードクローから依乃里を守る。


「な、何だ⁉」

「バラの花、私を守ってくれたの?」


 依乃里もボードクローもその光景に驚く。そしてバラの花は二つ折りの携帯ゲーム機のような形へとその姿を変える。


「何これ……?」


 依乃里は不思議に感じながらそれを手に取る。バラの花のモールドがついているその機械を開くと、中には液晶画面のような物があった。


「何で昨日のバラがこんなゲーム機みたいなものに……?それにダイヤモンドの指輪も光るし……。」


 依乃里がそう言うと、バラとダイヤモンドの言葉に反応したのか、液晶画面にRoseとDiamondの文字が映し出される。


「うわ、文字が映った。」


 そして依乃里は昨夜の女性の言葉を思い出す。


「最後に一つだけ言うわ。この世界は悪の心に満ち溢れている、あなたは近い内にそれを目の当たりにするわ。そんな時はバラの花とダイヤモンドの指輪、そして今日の情熱のステップを思い出しなさい。」

「情熱のステップ……、まさかフラメンコとか……?」


 依乃里がフラメンコという言葉を発すると、液晶画面にFlamencoの文字が映し出される。


「え、フラメンコ⁉ダメ、踊ったことないから!」

「何をぶつぶつ言ってやがる!いいから地獄に落ちやがれ!」


 依乃里はフラメンコを踊るのかと慌てる。そんな依乃里に襲い掛かろうとするボードクロー。しかし機械から甲高い女性の声のようなものが響く。


「Let's Dance!」

「本当に踊るの⁉」


 依乃里はたじろぐが、機械からフラメンコのメロディーが響く。そして不思議な力が働き、依乃里は勝手にフラメンコを踊らされる。


「待って、体が勝手に踊ってる!どうなっちゃうの⁉」

「何だ、こんな状況で踊るとは呑気なやつだな!」


 ボードクローは依乃里のフラメンコに呆れる。しかし依乃里の体は踊るうちに段々とその服装を変える。

 依乃里はフラメンコドレスを身に纏い、顔には情熱的なメイクが施され、頭にはバラの髪飾りがつけられていた。そして腰にはレーザー銃が備わっている。


「何この姿……?フラメンコダンサーになったみたい……。」

「ふん、何かと思ったら拍子抜けだなその恰好!」


 ボードクローは姿を変えた依乃里を嘲笑(あざわら)い、再び襲い掛かろうとする。しかし依乃里は華麗に攻撃をかわす。


「あれ、なんか攻撃を()けられてる……?」

「何だと⁉こんなふざけた恰好している奴に攻撃を外す俺じゃねぇ!」


 ボードクローは怒り狂って暴れるが、依乃里はまた華麗に()ける。そのステップに昨夜のことを思い出す。


「情熱のステップ……、昨日あの人が言っていたことだ。私が運命の人って、この怪物と戦う戦士ってことなんだ。」


 依乃里は女性の言葉を理解し、腰のレーザー銃を手に取りバラの髪飾りに手を当てる。


「名前は……、ローズレーザー!」


 依乃里は自身の戦士の姿をローズレーザーと名づける。


「ふん、何がローズレーザーだ!俺の敵じゃねぇ!」


 ボードクローは攻撃を続けるが、依乃里が姿を変えた戦士であるローズレーザーは情熱のステップで攻撃を寄せ付けない。


「悪いけど音を失わせはしない。」


 ローズレーザーは勇ましい声でそう言うとレーザー銃をボードクローに向ける。そして、レーザー銃に力を込める。


「レーザーストライク!」


 レーザー銃から強力なレーザー光線が放たれ、ボードクローは受けてしまうがギリギリのところで踏みとどまる。


「くそっ、戦士が増えやがるとはな。ここは退いてやるか。」


 ボードクローは不利になった状況を見て撤退する。ローズレーザーは疲れ果てて依乃里の姿に戻ってしまう。


「ふぅ……、疲れた。」


 膝をつく依乃里、そしてどうやら騒音は消えていたようで街の人々は苦しみを忘れて歩いていた。


「元に戻ったみたい、良かった~!」


 依乃里はほっと胸を撫で下ろすが、依乃里の携帯電話が鳴り響く。


「おい桜間!また道草食っているのか!」

「わああ!すみません今すぐに!」


 依乃里はまた上司から怒鳴られ、オフィスへと駆け出す。そんな依乃里を、依乃里とタンゴを踊った女性が木陰から見つめていた。


「戦士へと覚醒したわね桜間依乃里。あなたの運命は今、その大いなる扉を開けたわ。」


 女性はミステリアスな表情を浮かべ、どこかへ去るのだった。

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