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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『ねえ誰がここは貴女の為の世界だといったの?』~転生した三つ子は復讐に生きる~

作者: さくら


今回はシリーズ共通のクライマックスというか…ざまぁだけを書きたくて…三つ子と言えど前世の生い立ちも今世の性格も違うので今回はまとめた感じのざまぁを書きました。






「ソフィア・フォン・カントール!」

「セシリア・フォン・カントール!」

「エミリア・フォン・カントール!」


『俺(僕)等はお前(君)と婚約破棄をする!!!!』



煌びやかな学園最後の舞踏会の筈なのに急に始まった騒動に周囲は興味津々だ。

この国の第一王子、騎士団長子息、宰相子息とこの国の次世代を担うであろう三人は整った顔立ちを怒りで顰め仁王立ちで三人の令嬢たちを睨みつける。

名前からお察しの通り令嬢たちは三つ子だ。母親は前聖女で渡り人つまり異世界転生者として名を馳せたが三つ子を産み落とすと共に産後の肥立が悪く亡くなった。

この世界には異世界転生者は多くはないが稀に現れる存在でその知識で土地や国を潤す存在であることから平民なら貴族或いは王族に保護され見返りにその知識を使うことを求められた。前聖女で母であるメグは元は平民であったが母が亡くなって直ぐ父親と名乗るメイフェル男爵が引き取りに現れた。貴族は15歳から3年間学園に行くことが多くメグも貴族としてのマナーもままならないまま入学が決まり入学式前夜に前世の記憶を思い出したそうだ。転生者が前世の記憶を思い出すタイミングが人によって違うのは神々の気まぐれらしい。そして三つ子である三人は3歳の時に覚醒した転生者である。正し転生者であることはごく数人の者しか知らない。所詮保護とは聞こえが良いだけの囲い込みであること、三つ子の場合特殊なケースの転生であること、何より亡き母であるメグの遺言でもあった。


「理由をお伺いしても?」


静かに取り乱すこともせず淑女として完璧と名高い長女ソフィアが漸く口を開く。


「アンナに散々酷い虐めを行っておいてよくそんな冷静でいられるな!」

「そうだぞ!お前らのせいで何回もアンナは泣いていたのに!」

「僕たちを甘く見ない方がいい。証拠は揃っているんですよ。」


一斉に騒ぎ始めた三人の後ろをよく見ると桃色の髪をした庇護欲をそそるタイプの女の子が震えながら三人に守られるようにして立っていた。

三つ子はセンスで口元を隠しながら目配せをする。


「では証拠とやらを披露して頂きましょうか?皆様申し訳御座いませんが今暫く殿下方の素敵なヒーロー気取りの断罪劇にお付き合いくださいましね。」


「ソフィア!!お前不敬だぞ!!」


the王子様な金髪蒼顔イケメンのエリオット第一王子はソフィアの余りにも不敬な発言に焦ったように声を荒げる。


「何を言っておられますの?これで冤罪だった場合どうされるおつもりですか?私達三人はもうこの国に嫁入り先は無くなるということですのよ?!冤罪だった場合はそれ相応の慰謝料頂きますから覚悟してくださいましね!!」


物静かで動作や言動には気品が満ち溢れ淑女として完璧な振る舞いや母譲りの銀髪ストレートに父譲りの碧く少し釣り目とその見た目の美しさから完璧の聖女と渾名のつけられたソフィアの捲し立てる様子に周囲も当事者も息を飲む。


「ソフィー、素が出ちゃってるわ。さぁ殿下方どうぞ。あ、冤罪の場合は一発殴らせて頂きますね!それくらいしないとスッキリしませんものね!もうこんな断罪劇のせいで私達の名は既に傷がついてしまってますし…いいですよね?」


次女のセシリアが柔和な笑みを浮かべ会話に参戦する。


「は!お前の腕力じゃ猫に殴られるようなもの!もしも冤罪だった場合一発と言わず100発でも受け入れよう!」


赤髪に銀の瞳の見るからに脳筋なハンサムマッチョの騎士団長子息グレゴリー・フォン・クラークは豪快に笑う。


「最近はファーガソン将軍のもとで鍛錬も出来ていませんし…そうですね…『瞬殺の黒猫』という将軍からの渾名は返上するようかもしれませんね…」


「ちょっと待て。今不穏な名前が聞こえたが?」


「昔グレゴリー様との婚約が決まった時、将来騎士団を率いる方の奥方になるのなら旦那様に背中を守らせて頂けるような女性にならねばと弟子入りしておりましたの。」


困ったように微笑むセシリアは父譲りの黒髪ウェーブに母譲りのアメジスト色の垂れ目の蠱惑的美貌とその物腰の柔らかさや積極的に慈善活動を行う姿からつけられた渾名は慈愛の聖女。不穏な名前と呼ばれたファーガソン将軍は大陸中に名を馳せる伝説の剣豪で英雄。そして弟子を取らないことで有名だった。気まぐれで騎士団でも稽古をつけることもあるがその鍛錬は非常に厳しく熟練の騎士でもついていくのはかなり難しい。つまり渾名をつけられた時点でその存在は王国の誇る騎士団より強いということだ。心なしかグレゴリーが微かに震えているのはきっと気のせいではないだろう。


「もうシシーまで…さあ殿下方今度こそどうぞ。」


フワフワな母譲りの銀色の髪に碧い瞳と色はソフィアと同じなのに顔立ちのせいか柔らかい雰囲気の三女エミリアは分野を問わず書物を読み漁り様々な発見をした結果全知の聖女と渾名をつけられた。基本的に室内で研究に励んでいるので肌は淡雪の如く白く儚げな姿で密かに彼女目当てで図書室に通う者たちもいるほどだそうだ。



「む、そうだな!まずソフィア!お前はアンナに嫉妬して彼女の悪い噂を流したろう!そのせいでアンナは友達が作れなくて悩んでいたんだぞ!」


「セ、セ、セシリアは彼女の私物を壊したんだろう!!」


「エミリア、君は暴漢を彼女に差し向けたね?彼らは僕らが取り押さえたよ。」


紺色の髪に黄色の瞳に眼鏡をかけたイケメンの宰相子息ジュリアン・フォン・ハミルトンの最後の爆弾発言に周囲がざわつく。


「…で?証拠は?」


「アンナがそう言った!これが何よりもの動かぬ証拠だ!」


「…は?」


「それに捕まえた暴漢もそう言ってた!」


『はぁ』


「では殿下私が流したとされる噂とは?」

「グレゴリー様、私が壊した私物とはなんでございましょう?」

「ジュリアン様、暴漢など本当に私が手配したとでも?」


内容の薄い断罪に三つ子は溜息をつきながらそれぞれの婚約者を見つめる。


「本当よ!嘘じゃないわ!エリオット様!私はソフィア様に殿方とあれば婚約者がいても気にせず色目を使う淫乱と酷い噂を流されたわ!そのせいで誰もお茶会にも呼んでくれなくて私とっても寂しい思いをしたわ!グレゴリー!セシリア様は私の筆記用具や教科書をボロボロにしたり大切なお母さんの形見のネックレスを壊したのよ!ジュリくん!エミリア様の容姿に惑わされないで!彼女は本当にあの暴漢を私に差し向けたのよ!皆が助けてくれたじゃない!」


まるで勇気を振り絞って断罪をする悲劇のヒロインのようなアンナ・フォン・キートンだが実は内心焦っていた。

(なんでなんでなんで?!こんな展開シナリオにはなかったのに!!!頑張ってこの世界に転生したのに!!!ここは私のための世界なのに!!!!!)


「…そうですか。で、それの何処が酷い噂ですの?事実ですよね?他人様の婚約者の名前を堂々と呼んでる時点で自分が浮気相手だって宣言してるってわかってます?」

「婚約者の為に相応しくあろうと努力を惜しまずいた私達が浮気されたのに何故私物を壊すだけで終われると?」

「だいたい私達アンナ様のこと今知りましたけど?王妃教育で忙しいソフィーと慈善活動と鍛錬で忙しいシシーと研究と侯爵夫人教育で忙しい私達にそのような時間あるとでも?」


冷静な三つ子の切り替えしに周囲も納得し始める。


「そうだよね、学園の勉強だけでも大変なのにそんなこと出来ないよね。」

「婚約者のある殿方に不用意に馴れ馴れしく近づく方など嫌ですわ。白昼堂々いろんなところで逢引してるのをいろんな人に見られているって自覚無かったのかしら?」

「セシリア様が本当にあの『瞬殺の黒猫』なら暴漢なんて使う必要ないんじゃないか…」


周囲が完全に納得したところで広間の扉が開かれる。


『このバカ息子がああああああああ』


そこに現れたのは騎士団を引き連れた現国王、騎士団長、宰相である。


「当事者たちは別室を用意してある。今すぐそこへ。その他の者たちよ。せっかくの良き日に申し訳なんだ。詫びの品を用意した故帰りに受け取るがよい。」


国王はそう言うと踵を返し別室へ向かった。当事者である7人も急いで王の後を追いかける。突然の国王の登場に静まり返った場内は国王の言った詫びの品に既に興味が持っていかれたらしい。周囲はこの後の展開に後ろ髪を引かれつつ会場を後にした。


「それで?」


移された別室は会議室で既に人払いされ上座に国王が座り宰相と騎士団長は鬼の形相で王の後ろに控えていた。右に第一王子達4人と左に三つ子が座ると国王は静かに誰にとでもなく言葉を発した。


「父上!」

「お前じゃない!愚か者!お前は廃嫡だ!簡単なハニートラップにひっかかりおって!」

「お前もだ!騎士の風上にも置けぬ!何処へでも行け!!」

「私に恥さらしの息子はいらない。」


三種三様の廃嫡宣言が行われ取り縋る島もないと自覚した3人は思い出したように三つ子を見つめる。


「そんな捨てられた子犬のような目をしたところで許しませんよ?慰謝料しっかり頂きます。」

「…100発でしたっけ?」

「これで自由だわ!宰相子息の癖に顔だけでそんな頭よくないし本当苦痛だったのー!一種の拷問かと思って最初は楽しかったけど飽きて来ちゃって…本当馬鹿でいてくれてよかった!」


「…エミリア君そんなキャラだったっけ?」


儚げな容姿のまま狂ったように明るく笑うエミリアの姿にその場にいた全員がドン引きである。


「10年以上も婚約していて婚約者のこと何も知ろうともしなかった貴方方にわかる筈がないでしょう?ところで貴方方はどうするつもりでしたの?アンナ様はお一人ですわよ?愛人にしてシェアでもするつもりでしたの?」


そう一番の問題はここである。妄想や”ゲーム”の世界でしか許されないことで現実では在りえない。


『…あ。』


「でも彼女にはそんなつもりありませんわよ?」


「そんなことわから「わかりますよ。彼女の本当の狙いはハーレムエンドの後にあるボーナスエンドの隠しキャラである隣国の帝王のルシウス様ですもの。ね?安田アンナ様」


「え?」


突然前世の名前を呼ばれたアンナはブツブツと呟くのを辞め三つ子を見つめる。


「貴女でしょ?私達を殺したの。」


「何言ってんだよソフィア!」


「駅で急に背後から押されて電車に跳ねられ殺害される事件が3件起きた。ご察しの通りたまたま駅も日時も別々で起きた事件で殺されたのが私達三つ子。私達は前世では全くの赤の他人であった。」


「あの駅とか電車って「誰もがこの事件に震えたわ。でも探したら一人だけ共通の友人がいた。誰もが彼女が犯人だと勝手に勘違いをしそして特定犯によって彼女の人生はボロボロになった。」


「本当の犯人である貴女は嬉しかったでしょうね。『ときめき♡王国の聖女は溺愛される♡2』に転生する方法は3つの魂を生贄にする必要があると知った貴女は私達を殺した。知ってた?神様は全て見ていたのよ?」


「私達の友人で今世では私達の母であるメグの魂を哀れに思った神様は1作目の『ときめき♡王国の聖女は溺愛される♡』に転生させたのよ。メグは優しい子だったから略奪なんて無理だと婚約者の居る攻略対象つまり今の陛下、騎士団長様、宰相様には一切近寄らず同級生で完全モブであったカントール公爵家長男と恋に落ち結婚しパート2で悪役令嬢の三つ子を身籠った。」


自分の父親のことモブって言っちゃったよ…と話が壮絶過ぎてまだ突っ込める範囲内のことに現実逃避気味の殿下方と

え、俺らも対象者だったの?と初めて知る事実に驚く陛下たち。そして、冷たい笑顔で話を続ける三つ子にブツブツと小さく何かを呟き続けるヒロインと場の空気は最悪である。


「神様はメグだけじゃなく私達の魂にも慈悲を下さり三つ子として「それよ!!!!貴女達転生した時に何かギフトでも貰ったんでしょ?そのせいでこの世界はおかしくなったんだわ!!!」


急に鬼の形相で顔を上げ叫び出すヒロインの姿にその場にいた男性陣は現実に引き戻されドン引きだ。


「そんなわけないでしょう?あのね、覚醒した時から精神は大人なのよ?やることないし精神は大人なのに体や脳の柔らかさは子供だからどんどん吸収するし必然的に勉強が楽しくてしてたら結果が伴ったの。」


「メグからの遺言で幸せに生きてほしいと言われたし加護を与えてくれてる女神様方から真実を教えて頂いた時も迷ったわ。真摯に婚約者と向き合えばもしかしたらちゃんと絆が生まれて貴女の目論見通りにならないのではって努力もしたわ。」


「幼い時は私達と比べられてへそを曲げる貴方達にまあ仕方ないと思っていたわ。でもへそ曲げるだけで努力もしないしどんどんひねくれるしもうこれダメだって思って考えを変えて賭けることにしたの。」


自覚がある殿下達は顔色が悪い。あれ?今女神から加護って言った?と国王は後ろに控える二人に確認を取るのに必死だ。


「もしシナリオ通りの展開になったらそのまま廃嫡コースを歩んでもらって私達は自由。シナリオ通りにならずに殿下方が真面目に勉学に励むなり将来の為に努力をするようになれば婚約は継続。」


「なんで?廃嫡されないかもしれないじゃない!シナリオでは廃嫡されていなかったわ!」


必死に食い下がるヒロインに三つ子は悪役令嬢に相応しい笑みを浮かべる。


「おバカさんね。貴族の婚約は契約なのよ?メグは正しく聖女としての力を発揮し嫁いだカントール家は豊穣の地となった。力を分割させる為、少しでもその血を取り込む為、そしてその血を他国から守る為に私達は国の中で最も強い家に嫁ぐことを決められた。これは王命でもあったのよ。」


「それについてはちゃんとその御三方に陛下方から説明があった筈なんだけどね…まさかこんな簡単に引っかかってしかもあんな嘘まで信じるなんて…」


「何もしてないから証拠なんてないし流石に断罪イベントは無理かと思ったけど本人の言葉が一番の証拠だ!だなんて言い張るなんて…こっちは学園入学と同時に王家の影をつけてもらってるのに…異世界転生で悪役令嬢になったら攻略対象を先に全クリか王家に影はマストだって言うのに…そんなことも考えつかないなんて本当脳内お花畑のヒロインと何も知らないにしても実行力のある馬鹿って素敵な組み合わせよね。」


いくつかわからない単語が出てきたが取り合えず自分たちが馬鹿だと言われていることに気がついている王子達のメンタルはもう粉々だ。王家に影を願った時「もしかしたらいつの日か大事な証拠になるかもしれない」と謎の説得をされた国王は(あぁこの時の為だったのか…)と一人納得し遠くを見つめる。国王の後ろに控える宰相と騎士団長はあまりの状況に次男はしっかり教育しようと心に誓う。


「では、慰謝料のほう宜しくお願いしますね。あ、謝罪とかいらないので。婚約時に取り決めた額しっかり頂きます。」

「じゃあグレゴリー様、お外に出ましょうか?100発でしたっけ?」

「廃嫡された御三方に王命に背くよう唆した稀代の悪女で国家反逆罪のアンナ様かぁ。いいなぁどんな拷問にあうのかしら?うふふ」


王妃教育や淑女教育の賜物でずっと微笑のままこの長丁場を乗り切った三つ子の異様な姿にエリオットは冷や汗が止まらず廃嫡されることに恐怖で震えが止まらない。

1発ではなく100発と言ってしまった30分前の自分を殴りたい気持ちで一杯のグレゴリーは1発でも命の危機なのに100発なんて…と想像しただけで気絶した。

自分の未来が真っ暗になったことを受け入れられないジュリアンは「ぼ、ぼくは被害者なんだ!ぼくは悪くない!」と喚きながら椅子から滑り落ち皆の視界から消えた。

次世代を担う自慢の息子だった筈が実は自分たちはちゃんと息子を理解していなかったとショックを受けながら反省する国王と後ろに控える騎士団長と宰相。

まだ状況を理解しきれないアンナはまたブツブツと一人呟き始めていた。


「あ、そうそう!別に意図してではないのですけどね、貴女の大好きなルシウス様に誘われて私達あちらに移住することにしましたの。」


ソフィアはアンナに笑顔を向けるが目は笑っていない。


「は?なんで?!」


アンナは両目を見張らき今日一番理解が出来ないという顔でソフィアたちを見つめる。


「なんでって言われても…私達がナロウ出版の共同経営者兼作家だからでしょうね。あらまあ殿下方は本当に何も知らなかったのですね!」


「私達の前世での知識をフル活用した結果料理系チートは既にこの世界にあるし技術系も無理だなってことで専門書から小説まで扱う出版社を立ち上げましたの。」


「ソフィーは話術とか自己啓発系、シシーは介護系や幼児向け童話、私は拷問を中心としたファンタジー小説。その他にもプロじゃない人たちが書いた本を片っ端から本にして売ってみたらかなり儲かったのよー!それで帝国にも支店出してみようかなって話してたら丁度聖女の豊穣の力の研究の為お忍びで我が領に来たルシウス様に出版社の話をしたら是非って!今回の件が起きる可能性も加味して話し合った結果支店じゃなくて本社を移転になっちゃったけど!うふふ」


「ちょっと待て!ナロウ出版は国内屈指の出版社だぞ!ってか拷問を中心としたファンタジーってなんだよ!そんなファンタジー俺は嫌だ!!」


楽しそうに計画を話す三つ子にいち早く回復したエリオットは叫ぶが「いや、そこじゃないだろう」と突っ込む体力と気力のあるものはもうこの場にはいなかった。


「女神の加護があるものを他国になど渡せません!」


次に回復した宰相の言葉に国王も「そうだ!そうだ!」と激しく同意する。


「何を言ってるんですか?女神の加護のあるものを大事にしなかったのは貴方方でしょう?知らなかった?笑わせないでくださいまし。加護があってもなくても婚約者を大事にするのは当たり前のことでしょう?」


「私達が離れても我が領は元聖母である母の加護が残っているので大丈夫ですしね。だいたいよく考えてみてください。若い一番楽しく輝ける時間全てを拘束され制限された挙句馬鹿に引っかかってポイ捨てですよ?ちゃんと息子を監視しなかったそちらの過失でしょう?」


「それに婚約時の誓約書にも書いてあるではありませんか。そちらの有責での婚約破棄の場合自由にさせると。不履行は困ります。」


三つ子の正論に息子を制御しきれなかった陛下たちはぐうの音も出ない。が、ただ一人完全に立ち直ってる居るものがいた。


「なら!私も連れてってよ!”めぐみ”のことは私じゃなくて勝手に騒ぎ立てたネット民のせいじゃない!せっかく生贄まで用意して悪魔と契約してこの世界に来たのに恋が叶わないなんて可哀想でしょ?いいじゃん!あんたたちには手に職があるんだし!!」


「今めぐみって言った?知ってたの?」


「知ってたわよ!大学の時一緒で気に食わなかったからどうせ生贄にするならあいつの友達にすれば捜査の目はあいつに向くだろうって選んだんだもん!小学校時代の親友でしっかり者のカナと中学校時代の親友で天然なマユと高校時代の親友の天才のシオリでしょ?同じサークルの時嬉しそうに自慢してたわよ!

あいつ誰にでもいい顔してブスの癖に男にチヤホヤされて邪魔だったのよ!同じゲームプレイしてるから仲良くなれるか思ったらまさかの名前もないモブが推しとか馬鹿なこと言うし!なんなの?他とは違うアピールとかまじで痛いのにさ!だからあんたたちを選んだの!大切な親友が次々死んでしかも勝手に犯人扱いされたら流石にあいつも目が覚めていい人ぶるの辞めるだろうと思って転生する前にその顔を拝みに言ったら憔悴してる割に綺麗ごと言うの辞めないしさ!しかもあいつ犯人が私だって気づきやがって…本当計画が危うくおじゃんになるとこだったんだから!」


堰が切れたように一気に捲し立てるアンナに誰も何も言えずにいると急に部屋が眩い光に包まれた。


「はい、そこまで!全くもう!この子達を思ってその部分は伏せていたのに!」


「我らが愛し子達よ、落ち着きなさい。」


「やっぱり屑はどこに行っても屑なのね。」


突然現れた3人の女性たちは落ち着いた様子で三つ子の傍に立っていたが何かがおかしかった。人間離れした美しさは壮絶で異様だった。親しみやすくある筈なのに何故か膝をつき許しを請いたくなるようなそんな違和感を感じさせる存在に三つ子以外は戸惑いを隠せない。


「ディアーナ様、フローラ様、メルーナ様。御久しゅうございます。」

「女神様方また会えて嬉しいですわ。」

「それで何故伏せていたのでしょう?」


「あら、当たり前じゃない。だってメグの願いですもの。」

「不思議ではなかった?何故メグは今世でも早くに亡くなったのか。」

「メグは自分のせいで貴女達が殺されたのをとても悔いていたの。だから貴女達が一番幸せになれる世界を選んだの。なんだっけ…あ、そう乙女ゲームは乙女を幸せにしてくれる世界だもん!例え悪役令嬢に転生したとしても彼女たちなら絶対自分たちの手で幸せになれる筈!とかわかるようなわからないようなことを言ってたわね!」


慈悲と慈愛に満ちた女神達は愛おしそうに三つ子とその先にいる筈もない唯一人を思って見つめる。女神の襲来に男性陣はついに気を失っていた。つまりもうここにはツッコミ役はいない。更にシリアスな空気が流れる。


「ねえそこの屑。じゃなくて連続殺人犯さん。うーんこれも物騒ね。まぁなんでもいいや。この世界に来ておかしいと思わなかった?」


「この子達が全くシナリオ通りにいじめてこないとかじゃなくてね?」


「そうもっと根本的なことよ。」


「それ以外?なんにもないわよ!イベントは勝手に起きたし順調に3人の好感度は上がっていたもの!」


「本当に救いようのないおバカさんね。貴女、目覚めてないじゃない。」


出来損ないの生徒を見るような目で見られている筈なのに何故か背中を流れる冷や汗は止まらない。


「何言ってんの?」


「だからぁ貴女、聖女の力に目覚めてないじゃない。」


『…あ』


ディオーナのじれったそうな言葉にアンナだけでなく三つ子も目を見開く。


「悪魔と契約したみたいだけどね、悪魔が聖女の力なんて授けられるわけないでしょう?」


「この子達がいじめをすることで起きるイベント以外は全部私達が起こしたのよ。そしたら貴女きっと馬鹿だから信じるでしょう?」


「誰も貴女のことを聖女だと呼んだことはなかったわ。この子達は自身の功績で勝手にそう呼ばれてたけどね?」


「でもでもでも!!!ここは私の為の世界の筈でしょう?だってあの悪魔が生贄を捧げればこの世界に転生させてくれるって言ってたもん!」


「もう、お馬鹿過ぎる子は嫌いよ?」


「あの悪魔なら私達の父である創造神様が笑顔で潰したわ。ちゃんと全部自白させてからね?」


「本当あの笑顔は血の繋がりに戦慄するほど怖かったわ…あの拷問は凄まじかったし…」


その光景を思い出したのか心なしか女神達の顔は青く引いている。そして「いいなぁ私もされたい」と一人羨ましそうに頬を膨らませるエミリアにソフィアもセシリアも更にドン引きである。


「話がズレたわね。貴女は聖女の力に目覚めなかった。」


「そしてこのゲームの名前は『ときめき♡王国の聖女は溺愛される♡2』なのよ?」


「つまり貴女はヒロインじゃないの。だって聖女じゃないもの。」


「そ、そんなこと在りえない!!!」


「はぁもうこの子はダメね。ちょっと黙って頂戴ね。」


「貴女のこれからの人生はもう終わってるけどこの子達の人生はまだまだ続くのだから主要な人物達と話合わなきゃいけないしね。」


「まずはそろそろ気絶してるのをどうにかしなきゃ。」


その言葉と同時にアンナは口をパクパクしているのに音が出ない状態になり気絶していた男性陣は目を覚ます。


「め、女神様方!ご機嫌麗しゅう!!」


途端土下座の勢いで国王は首を垂れる。


「この子達は理不尽に前世で生を奪われたのにも関わらず今世では腐らず努力を重ね貴方達に貢献もした。」


「これ以上この国に貴方達に縛り付けるようなら容赦はしません。」


「この子達は私達の愛し子達。その子らを傷つけ縛り付けてきた貴方達を父である創造神はそれはもう引くほどいい笑顔で見ています。」


「だ、だが女神様方の加護を受けている彼女たちを外に出せばこの国は衰退し攻め込まれてしまいます!」


「何を言っているのです?この子達の加護は健やかに美しく育つ祈りだけよ。」


「過ぎたる加護はその人の人生を壊しかねないとメグから止められたのよ。」


「本当は不老不死とか考えてたんだけど絶対ダメだって…」


「え?それだけ?」


「つまり彼女たち無くして国が衰退するのは貴方達の力量の無さです。」


スッパリ言い切った女神達に国王達は今度こそ本当に諦めたようだった。


「じゃ、そろそろお暇しましょうか!」


「えぇ積る話もありますし荷造りもしなきゃね!」


「あ、最後に言いたいことは言っておきなさいね!」


女神達の言葉にこれがきっと最後だし言いたいこともう少し言ってもいいよね?と三つ子が笑顔で頷く。


「エリオット様、貴方のその話のつまらないところ本当大嫌いでした!俺って将来国王で責任に圧し潰されそうになりながら耐えてるイケメン風味出されても全く努力しない姿に説得力が1ミリもありませんでしたし第一語彙力もない、学もない、度胸もないアホの癖に散々妬んでくるしチマチマ小姑みたいな嫌味は多いし本当婚約破棄してくれた時以外何一ついい所なくて漸く離れられてせいせいしております。それから地獄のような王妃教育でしごかれたおかげで並大抵のことでは動じない精神も習得出来てこれからの人生薔薇色です。ありがとうございます。」


「グレゴリー様、私本当は貴方のお顔が大嫌いでしたの。長女だし性質も考慮した上でソフィーは第一王子と婚約でしたけどイケメンだけは信用できないから絶対嫌だと泣いて喚いてまだジュリアン様よりは若干劣る顔だから選んでは見たもののやっぱりイケメンは信用できないんだと心から納得しましたわ。まぁおかげでファーガソン将軍に弟子入りしたり姉妹を守れるほどの力を得ることが出来ましたのでそこだけは感謝いたしますわ。」


「グッバイジュリアン様。」


「え?僕だけ短くない?」


「いや、かまちょで隠れドMとか無理なんです。私はするよりされる方が好きなんで。」


今までの張り付けた笑顔ではなく清々しいほどの笑顔で最後に思う存分毒を吐く3人は次の獲物を見つめる。


「アンナ様、ごめんなさいね。私達ルシウス様の元で幸せになりますわ。」


「ここに来るために連続殺人犯になって裁きを受けるギリギリでこっちに来たのに結局裁かれる身になるなんて可哀想に…まぁ身から出た錆よね。」


「これからきっと楽しくなるよ!元気出して!書物で読んだけどこの国の拷問ってなかなかいい線いってるからさ!羨ましいくらいだもん!」


毒を吐くだけ吐いて満足した3人は笑顔のまま最後に完璧な礼を取り部屋を後にする。


「なによなによなによーーー!ここはわたしのための世界なのにいいいい!」


魔法が解けて喋れるようになったアンナが叫び出す。


「もう、せっかく皆様が説明してくれたのにまだわからないの?」


「聖女の力を持たない貴女は聖女じゃない。」


「つまり最初から貴女はヒロインなんかじゃなかったの。」


『ねえ誰がここは貴女の為の世界だといったの?』


3人で揃ってそう問うと今度こそ本当に部屋を出た。途中でアンナの爆弾発言により女神達の参戦など予想外のことは起きたものの凡そ想定内に話し合いと言う名の断罪倍返しを終えこれ以上は三つ子の口を出せる範囲ではない。何も口を出さなくても確実に3人の元婚約者は廃嫡され放逐されるだろうしぬるま湯のような環境で育った彼らには市井の暮らしは想像を絶する辛さなことは考えるまでもない。元々貴族や平民関わらず評価や好感度の高かった三つ子が勝手な理由で婚約破棄をされ国を出るしか無くなるなんてこれで王家や宰相、騎士団長に対する信頼は地に落ちる。ご機嫌取りの為にもアンナは目を覆いたくなるような残忍な刑を受けるだろう。それも広場で晒される形で。そして死んだ後は笑顔の創造神様が待っている。三つ子は親友であり母であったメグの遺言通り幸せに生きることだけを考えて会場を去る。


「ああああああああああ!100発殴り忘れた!!!」


「ならその100発私に!!!!」


「いや言葉で散々殴ってたから大丈夫よ。」


三つ子はまだ知らない。彼女たちが転生したのは「『ときめき♡王国の聖女は溺愛される♡2』ではないことを…新しい試みで3人の主人公から心理テストで似た性格の主人公を選択し始まる乙女ゲーム『どきどき♡三つ子の聖女は帝国で溺愛される♡』の世界に転生したことを…





連載の方は覚醒してすぐの幼少期から前世の記憶もしっかり描く予定です。


面白かった!ソフィーの毒舌好き!シシーの変な方向に頑張るところ好き!エミリーのどM 具合ツボ!と思った方高評価お願いします!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] エミリーのドM具合w [一言] エミリーの元婚約者に対する最後の言葉がスッキリしてて良かったです。 グッバイw
[気になる点] 強姦てw 暴漢の事?
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