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エルカリム  作者: Pixy
第四章 亡き王国の為のパヴァーヌ編
86/94

第86話 『鉄は熱いうちに』

戦場の概略図がある程度描けてきたので更新します。


みんな大好き戦闘準備回。

キラは安全のために新しい甲冑を用意されるが……。

 夜が明ける。日光はあらゆる者に等しく注がれた。

 それは、今のロイース王国の実権を握る大臣、ジョルジオ・バルバリーゴにも同じであった。

 クーデターを起こして以降、ジョルジオは見る見る肥えていった。

 敵になり得る存在は全て排除し、広大な王国から吸い上げた富で贅沢三昧の日々をおくっているうちにこうなったのだ。

 彼の趣味で飾り立てられた部屋の扉が叩かれ、入ってきた人影は開口一番にこう言った。

「バルバリーゴ様、奴らに動きがありました」

 大臣の忠実な守護騎士、ガストン・ボウマンである。

 ジョルジオは今、朝の湯汲みを終えて侍女達に派手な紫色の服を着せて貰っている最中だった。

 朝の時間を邪魔されて最初不機嫌そうだった彼だが、ガストンの一言で表情を変える。

「まさか、王族派の連中か?」

「はい。監視部隊の定時連絡が途絶えました。恐らくは……」

 その言葉で、ジョルジオは大体のことを察した。

 ガストンが取り逃がしたキラが王族派と合流し、自分を討伐しに来ようとしているのだ。

「おのれ! 元はと言えば、お前が女一人仕留め損なうからだぞ!」

 ガストンはそれは優秀な騎士で、政敵の始末を命じて仕損じたことは今まで一度も無かった。

 クーデターから程なくして、王国内でジョルジオに逆らおうという貴族は居なくなった。

 貴族達はジョルジオと、その右腕であるガストンを恐れて従順になったのだ。

 そのガストンが失敗したと聞いた時、ジョルジオは耳を疑ったものである。

「申し訳ございません。しかし、早急に防衛が必要です」

 キラと聖剣が無事であると知ったなら、次に王族派は議会へ乗り込み大臣政権の不当を訴えるはず。

 ここまではガストンも読めていた。

「ええい、分かっておる! 全兵力を使って城を守り抜くのだ!」

「お言葉ですが閣下、正規軍は王女に取り込まれる恐れがあります」

 これもガストンは予想していた。

 貴族だけでなく、正当な王族が戻ってきたと知った王国軍兵士は、容易くあちらに寝返るだろう。

「ならばワシの私兵を使え。傭兵も全員だ! いいか、全員だぞ!」

 ジョルジオは傍目からでも分かる程、キラに怯えていた。

 何せ一族を皆殺しにした彼に、古代の遺物を持ち出して復讐しようと言うのだ。

 私兵しか動員できないと言っても、兵力の上では大臣軍が圧倒的に優位。

 そこへガストンの指揮が加われば盤石なのだが、ジョルジオはそれでも安心できなかった。

「既に出撃命令を出しております」

 キラに逃げられた時、こういう展開になることも想定に入れている。

 ガストンの動きは早かった。

「総指揮はお前だ。今度こそ、王女を逃がすなよ?」

「はっ。必ずや、王女の首と聖剣を持ち帰りましょう」

 ジョルジオが欲しがっているのは、この2つ。

 特に王家の象徴たる聖剣は、彼が新たな国王を名乗るのに必要不可欠な道具だった。

(そうだ、勝てる戦じゃないか。落ち着け。むしろ鴨が葱を背負って来たと思えばいいのだ……)

 そう自分に言い聞かせ、ジョルジオはまだ震える手で朝食を口に運ぶ。

 新鮮なサラダに卵のスープ、彼の好みだからと肉もある。

 いつもは悠々と楽しむのだが、今ばかりはどれも砂のような味に感じられた。

「我々にお任せください、バルバリーゴ様。失礼します」

 ガストンは落ち着いた様子のまま、部屋を後にした。

 大臣の期待に応えるべく、彼はすぐに私兵部隊を王都周辺に展開させる。

 カヴェナンター奪還戦が始まる、数時間前の出来事であった。


 少し時間を遡り、合戦当日の早朝。

 前日に食べるだけ食べ、早めに休んだキラは出陣の準備をしていた。

 王族派が用意してくれた上質な白い洋服の上から着るのは、新しい鎧だった。

 キラに万が一のことがあっては作戦が根底から覆るため、全身を覆う鉄の甲冑が用意されたのだ。

 彼女は今、屋敷の侍女達に手伝って貰いながら、インナーの上から甲冑のパーツを身体に固定していく。

 急所の集まる胴体に胴当てを、腕は篭手だけでなく肩当ても装着して念入りに。

 腰回りはスカート状の装甲、足も太ももからつま先までの前面を覆う。

 関節部分は防御力と柔軟性を併せ持つ鎖帷子チェインメイルが使われる。

 キラも生まれてこの方、ここまでの重装備は初めてだ。

「いやぁ、何かごめんね? 私のお下がりでさ」

 同じく甲冑を身に着けている最中のシエルがそう言う。

 大至急キラの新しい鎧を用意するため、体格が一番似ているシエルのものが使われることになった。

 それでも筋肉質なシエルとキラでは所々サイズが合わないため、彼女が屋敷に着いてから突貫工事で打ち直されたのだ。

 本来、甲冑は着用者に合わせてオーダーメイドで作られる。

 体格が合わないと、鎧の関節部分が上手く身体と連動せず、ほとんど身動きが取れなくなってしまうからだ。

 しかし数日の猶予のうちに、新しい甲冑を作っている時間は無い。

 やむを得ない妥協点だった。

「気にしません。それより、シエルさんの装備は大丈夫なんですか?」

 一番新しい鎧はキラに譲っているため、彼女はそれを心配した。

「ヘーキヘーキ、替えの鎧何着か持ってるし」

 鎧の手入れは簡単に終わらないため、修理中は予備の鎧を着るものだった。

 今シエルが装備しているのが、その予備である。

 彼女はその予備の甲冑を慣れた動作で着終え、空いた手でキラを手伝った。

 ようやく全てのパーツを装着し終えたキラだが、改めて鉄の甲冑の重さに驚く。

「うわ、お、重い……!」

「そりゃ、鉄の重り全身にくっつけてるようなモンだし」

 軽量化の工夫がされていても、総重量は30キロ程。

 だが重さを除けば、見た目よりも動きやすく、慣れれば走ったり剣を振り回すこともできそうだ。

 最後に白地に赤と黄色の刺繍で飾られた外套を鎧の上から被れば、完成である。

 この外套は王家の者であることを示すもので、過去の合戦で王族が着たものをクロムウェル家で保管しており、それを引っ張り出した。

 甲冑はお下がり、身分を示す外套は昔のものと、戦場に出る王女の装備としてはツギハギもいいところだった。

 ここはキラとシエルに充てられた女性用の更衣室で、鎧を着終わった二人は侍女の案内で味方が支度中の広間へと向かう。

 そこでは旅の仲間と一緒に、アルバートやギャレスと言った面子が装備の最終チェックを行っていた。

「姫様」

 キラの姿を見つけたアルバートは、会釈すると調整中の長弓を一度置き、彼女の傍らにつく。

 彼もまた甲冑を着込み、黒と赤の外套を羽織っていた。

 同じようにライオネルもまた、鎧を着終わったところだった。

「申し訳ございません、姫様の鎧を仕立てる時間が無く……」

「いえ、とても立派な鎧です」

 ライオネルにしてみれば、一世一代の決戦に専用の鎧を用意してやりたいのは山々だった。

 時間さえ許せば、キラの身体にぴたりと合うオーダーメイドの甲冑を鍛冶屋に作らせたかった。

 だが何も無いよりはマシで、ある程度体格の合うシエルが居たことで何とかこの合戦に間に合った。

 もしシエルの鎧が無ければ、男の鎧はどれもキラに合わないということで、粗末な装備のまま戦場に出すしかなかったのだ。

「キラさん。調子はいかがですか?」

 革製の指ぬきグローブをはめながら、ルークも横に立つ。

 彼も軽装備ながら準備は万端な様子だ。

「うん、いいよ。勝って生き残ろうね、ルーク」

「そのつもりです」

 ルーク、アルバート、シエルの三人が側につき、キラはぎこちない足取りで部屋の中を進んでいく。

 そこで数日ぶりに会う友、メイとエドガーと目が合った。

「キラ、元気そうでよかった」

 メイは毛皮のマントの下、腰の武器ベルトに片手持ちの斧を何本もぶら下げていた。

 王都カヴェナンターへ向かう道中の鍛冶屋で調達したもので、今までずっと手放さなかった決戦装備だ。

「今まで顔を見せられなくてごめんね、メイ」

 要人警護のためとは言え、仲間達にもしばらく会えなかった。

 変わりない様子を見てキラも安堵の表情を浮かべる。

「俺達も護衛につくことになった。また一緒だな」

 エドガーは小剣の刃を研ぎ終え、大盾の裏に仕舞っている。

 そして傍らには魔法大学で新調した槍。

「一緒に頑張りましょう。でも、気をつけてくださいね?」

 旅を共にしてきた仲間が守ってくれる。こんなに心強いことはない。

 これもライオネルの図らいで、現場の指揮官となるアルバートも彼らを受け入れることに協力的だった。

 その先では、ソフィアとヤンが一足先に準備を終えていた。

「こんな状況だけれど、気負い過ぎても良くないわ。肩の力を抜いて」

「僕は後方支援に回ります」

 軽装備の二人は鎧を着るような手間も無く、体力の温存のために休憩中のようだ。

「はい。まだ緊張してますけど……大丈夫です」

 キラはゆっくりと息を吐いて呼吸を落ち着ける。

 だがいくらリラックスしようとしても、自ずと鼓動が高鳴り力が抜けなかった。

 更に進むと、今度はユーリとカルロが装備の点検をしていた。

「よ、よぉ……。俺、皆を乗せる馬車の御者やることになっちまって……」

 また戦場に出されることになり、浮き足立つカルロ。

 屋敷まで乗ってきた馬車と馬は、彼と共に再び戦場に出ることになった。

 旅の仲間は彼の馬車で戦場に運ばれ、キラの護衛として展開する予定になっている。

 全員が乗馬の心得を持っているわけではなかったからだ。

「…………」

 ユーリはキラを一瞥しただけで何も言わず、黙々と矢を検品して矢筒に収めていく。

 今回も彼は遊撃手として本隊と離れて動く。

 大規模な合戦も慣れているのか、動じる様子は全く無い。

 その無愛想さも平常運転と見れば、かえって安心するというものだ。

「危なくなったら、隠れてください。皆さん心強いですから」

 その反対側では、真っ青な顔でうずくまるレアをディックが介抱している。

「えっ? レアちゃん、どうしちゃったの?」

 キラは驚いて駆け寄る。まだ動きがぎこちなく、鉄板の音がガチャガチャと鳴り響いた。

「いや、昨日こいつ食い過ぎたんだよ」

 説明するディックは呆れ顔だ。

「だ、だって……あんな美味そうな飯、食い放題とか……うぐぐ」

 今回のレアは戦える状態でなさそうだ。

 ヤンと一緒に後方の部隊へと回されるだろう。

「俺はキラちゃんと前線に出るぜ。ディックにお任せってな」

 胸当て以外は軽装備の彼だが、動きやすい装備の方が合っていることもある。

「無理はしないでくださいね」

 そしてその先では、エドワードが甲冑の上からキラのものとよく似た王家の外套を羽織っているところだった。

「おぉ、キラ。立派な姿だ。甲冑には慣れたかい?」

「ま、まだちょっと不自由で……」

 エドワードの方は流石に慣れており、キラのように鎧に着られている様子は無い。

 彼女に近いのが、スコットとジェームズの貴族二人。彼らもまた普段甲冑など着用しない。

 マチルダは敢えて軽装備で済ませており、慣れていなくともその分動きやすいようだ。

 騎士団長でもあるギャレスは当然、身体の一部のように着こなしている。

「私も手が震えているよ。この一戦に王国の未来がかかっていると思うとね」

 一見慣れているように見えるエドワードも、キラと同じく緊張していた。

 自分と同じなのだと分かると、彼女も少し肩の力が抜ける気がした。

「さて、そろそろ行こうか。兵も待っている」

 王族派を引き連れたエドワード、そしてキラとアルバートが部屋を出て向かったのは、屋敷の敷地内にある広場前の壇上だ。

 広場には鉄騎隊、クルセイダー、そして数百人の私兵が勢揃いしている。

 彼らは自分達の指揮官の演説を待っているのだ。

 エドワードとキラが壇上に上がると、否が応でもどよめきが起こる。

 斜め後ろから見守るライオネルに促され、エドワードは息を吸い込んで大声を張り上げた。

「勇敢なる騎士団の諸君、よく今まで耐えてくれた!」

 普段は穏やかな彼だが、こういう時は芝居でも何でも張るのが王族の努めである。

「これより我々は王都へ攻め入り、王国を取り戻す! あの逆賊、ジョルジオ・バルバリーゴの手からだ!」

 拳を振り上げ、エドワードは懸命に勇猛な指導者を演じる。

「バルバリーゴはクーデターで王国を乗っ取り、国中を腐敗させた! これ以上、奴の搾取を許すわけにはいかない。今こそ奴を討ち、王国民に平和をもたらす時である! そのために、諸君の命を私に預けてくれ!」

 兵士達は各々の武器を掲げ、鬨の声を上げる。

「王国に勝利を! 栄光は我らにあり!」

「「王国に勝利を!!」」

 エドワードが煽り、兵も口を揃える。

 場のテンションが盛り上がってきたところで、エドワードは一歩引いてキラに譲った。

「ではここで、我々の勝利の鍵を見せるとしよう!」

 前に出たキラは総勢5000人近くの兵を前に、思わず生唾を飲み込む。

 彼女が言葉を選んでいる間にも、騎士団の面々は顔を見合わせる。

 王女が生きて戻ってきたということは、兵士の間でも噂になっていたのだ。

「あ、あれが王女様か……!」

「本当だったろ? 生きておられたんだよ!」

「聖剣を持ってるって話だぞ」

 そんな彼らも、キラが口を開くと一斉に大人しくなった。

「……私は、キラ・サン・ロイース。バルバリーゴの魔の手を逃れた、第三王女です」

 自分が何者か名乗った上で、彼女は腰に帯びていた聖剣を鞘ごと引き抜き、兵達に見せる。

「これが王家の聖剣です。父王は亡くなる直前、私に聖剣を託してくださいました。これで王国議会を説得します!」

 そう宣言し、キラは最も求められていた行動を起こす。

 聖剣を抜刀して高く掲げ、魔力を込めて刀身から光を発する。

『聖剣は王家の者の呼びかけに応え、陽光の如き光を放つ』

 王国に伝わる伝説が、彼らの目の前で具現化したのだ。

「この光が! 私達を勝利に導いてくれます!」

 その奇跡を目の当たりにした騎士団の高揚は、エドワードの演説以上だった。

「うおおおーっ! 本物だぁ!」

「勝てる! これなら行けるぞ!」

 勝利の確信を得た兵達の目は爛々と輝き、屋敷の外、林の向こうまで聞こえそうな歓声を上げる。

 これこそが、人を命懸けの戦場へと駆り立てる狂奔であった。

 兵士の反応を見届けたキラは聖剣を鞘へと収める。

 本来はここで彼女の出番は終了となるはずだが、キラは更に兵に語りかけた。

「皆さん、聞いてください! 戦いはこれで終わりじゃありません。大臣を倒した後、国を立て直すのも立派な戦いです!」

 キラが何を伝えようとしているのかと、大はしゃぎだった兵達は再び静まり返る。

「国の再建のためにもどうか、どうか……命を粗末にしないでください! 一人でも多く、生きて帰ってください! それが私の願いです!」

 台本に無い、キラの言葉で綴られた本音だった。

 それを聞いた兵士達は一瞬顔を見合わせるが、すぐに歓声を上げて彼女の頼みに応える。

「「共に戦おう! 生きて帰ろう!!」」

 兵は口々にそう叫んだ。

 今度こそ、キラは最前列から身を引いた。

 壇上から降りた彼女へ、エドワードは拍手を贈る。

「君も板についてきたな。これで騎士団の士気は十分だ」

 表舞台がまだ慣れていないキラのこと、最後の締め括りは自分でやらねばと考えていた彼だが、この分なら必要無さそうだった。

 ライオネルとギャレス、そしてアルバートもそれにうなずく。

 キラが突然台本に無いことを言い出した時は焦った彼らだが、結果的に上手く行ったならそれでいいという考えだ。

 しかし演説を締めくくったキラ本人は、複雑な表情で唇を噛みしめる。

 大国同士の全面戦争を避けようと、今まで仲間に無茶をさせてきた。だが結局、武力衝突は発生する。

 彼女自身も理解していた。無血での国盗りなどあり得ない。

(……私が、聖剣の力で全部解決できたらいいのに)

 それが不可能なことは、ガストンの罠にかかって痛い程知らしめられた。

 聖剣も万の軍勢に無力である以上、味方を頼る他無い。

 他人を頼り、そして死なせるのだ。

 だからこそ、せめて一人でも多く生き残って欲しいと台本に無い言葉を付け足した。

 今はそれが兵士達に届いていることを願うのみ。

 エドワードやライオネル、アルバートもそんな彼女の心中が分からないではない。

 その上で、敢えてこの場は何も言わなかった。

(さて、向こうは向こうでやっている頃だろうな)

 ライオネルが目をやった先は、同じようにアルバトロスからの特務隊が集結している。

 壇上に立つのは総大将のクラウス、そして斜め後ろにサイモンとジョン。

 副将のトマスとナスターシャは、整列する兵の最前列に立つ。

 特務隊9000人を前にしたクラウスは、ここまで響いてくるロイース軍の歓声を背に、自分の部下を鼓舞すべく演説を始める。

「特務隊の皆よ! そなたらは選び抜かれた精兵としてここに立っている。アルバトロスとロイースの講和を繋ぐためにだ!」

 彼が部隊の士気を高めるために持ち出したのは、両国の停戦だった。

「この戦いに勝利すれば、ロイースとの無用な争いを止め、民にこれ以上の犠牲を強いることもなくなる。我々は平和のため戦うのだ!」

 クラウスの言葉に賛同し、連合兵は声を張り上げる。

「そなたらの中には、ロイースとの国境線で産まれた者も居るだろう。そんなそなたらがこの戦場に立つ――これは偶然であろうか?」

 その問いかけに答えを持たず、兵達はクラウスの次の言葉を待った。

「必然たり得ない偶然は無い! そなたらは故郷の救い主となるべく、この地へ導かれたのだ! 平和を掴み取るため、皆の命を私に預けてくれ!」

 ここでクラウスは右手に握る十文字槍を高く掲げる。

 それと共に、直接の部下である黒鉄騎士団も、他の兵達も一緒に、鬨の声を上げて武器を振り上げた。

「団長! お供します!」

「俺が、俺達が! 国を救うんだ!」

 声の限り叫ぶ兵達に向け、クラウスは更に畳み掛ける。

「今日こそ我らは一丸となり、バルバリーゴ政権を打倒する! 宿命に導かれた勇士達よ、立ち上がれ!!」

 歓声に見送られながら、彼は壇上を後にした。

 演説中とは打って変わり、ため息をつきながらクラウスは戦友サイモンにぽつりとこぼす。

「……これでよかったのだろうか。私は、とんでもない過ちを犯しているのやも知れぬ」

『平和』という耳触りの良い言葉で兵を焚き付け、その熱気のままに戦場へ走らせる。

 掲げる言葉とは裏腹に、これからやることは殺し合いだ。

 それも、西方の小国が行う小競り合いの比ではない、大規模な合戦である。

 この戦いだけで何千人死ぬか分からない。

 そして歴史を左右する戦である以上、この時の判断が原因で先々は何万人という規模の人命が失われるかも知れない。

「クラウス殿、ここまで来たら後はもう進むしかない。独りでは行かせない、我々も一緒だ」

 戦友が将として共に戦ってくれる。こんなに心強いことはない。

 同時に、サイモンの言葉には将三人で責任を分担するという意味も込められていた。

「かたじけない。そうだな、自分にできることをするしかないだろう」

 それを一歩引いた位置で見ていたジョンは、水を差すように言った。

「んじゃ、さっさと殺りに行きやしょうぜ。士気が冷めねぇうちにな」

 彼にしてみれば、クラウスと連帯責任を負うのは御免だったが、これも命令ならば仕方ない。

 癪だがクラウスの言う通り、できることをして最善に近い結果を手繰り寄せる他ないだろう。

 士気とは熱しにくく冷めやすいもので、一度温めても放っておくとすぐ冷たくなる。

 煽るだけ煽った今、勢いに乗って出陣するのみだ。

 こうして、ロイース・アルバトロス合同軍は屋敷を発ち、王都カヴェナンターへ向けて進撃を開始する。

 勝利すれば二大大国の停戦が実現し、負ければ関係悪化は避けられない。

 戦乱の世が終息へ向かうか、更に混迷を深めるか、歴史を左右する戦いが始まった。


To be continued

登場人物紹介


・ジョルジオ

ようやく出てきた諸悪の根源。

こんだけやって負けたら極刑モノだと自覚してるだけ賢い。


・ガストン

今回の合戦の大将ポジ。

最初で最後のミスが致命傷になるって現実でもあるあるな話。

指揮を丸投げされてるんで案外苦労人かも知れない。

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