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エルカリム  作者: Pixy
第四章 亡き王国の為のパヴァーヌ編
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第68話 『最後の仲間 後編』

大臣の騎士ガストンの罠にはまったキラ達。

こんなところで倒れるわけにはいかない。決死の脱出が始まる。

 オーウェンの裏切りによって敵の罠にはまったキラ達。

 仕掛けてきたのは何と、クーデターの実行部隊であるガストン・ボウマン率いる騎士団だった。

 魔力を付呪された武具で固めた彼らは優位に立つが、対するキラ達もソフィアの防壁により辛抱強く耐える。

 勝利を確信して崖の上から見下ろすガストンは、表には出さないが内心焦り始めていた。

(連中、こっちの矢切れを狙ってやがるな……)

 兵法家として相手の動きをこう捉えるのは、至極当然の流れである。

 包囲された状態で守りに徹するからには、反撃の見通しを立てなければならない。

 それに追い打ちをかけるように、傍らへ戻ってきたオーウェンが耳打ちする。

「ボウマン様、そろそろ矢が」

「分かっている」

 苛立たしげにガストンは答える。

 このまま撃ち続ければ、じきに矢が無くなってキラ達は反撃に転じるだろう。

 かと言って一斉射を緩めれば、反撃のタイミングを早めるだけで解決にならない。

 甲冑から剣や槍までエンチャント装備で固めたこの部隊ならば、他の仲間が反撃してきても対応できる自信はあった。

 一番気がかりなのは、キラの持つ聖剣だ。

(追跡に向かわせた部下が全滅だからな。あれだけは油断ならん)

 クーデター当日、聖剣を持って逃げたキラを追わせたガストンの部下は、一人も帰って来なかった。

 後に王城近くの山林で、木々が薙ぎ倒された中で遺体が発見されたが、ほとんどバラバラに近い状態だった。

 この一件からガストンは対聖剣を視野に入れて、自分と部下の装備をエンチャント武具に一新させる。

 だがエンチャント装備であっても、伝説の聖剣一振りの前にどこまで有効なのか、ガストンでも予想がつかなかった。

「どうしますか?」

 オーウェンが指示を求める。

 しばし思索を巡らせるガストンだが、やがて悪い笑みを浮かべて答えた。

「よし、弓兵隊に攻撃を中止させろ」

「まだ矢は残っていますが……?」

 聞き返すオーウェンだが、命令は変わらない。

「合図で攻撃中止だ、いいな!」

 ガストンの指揮により、弓兵達は矢を降らせる攻撃をやめた。

「来た……! 皆さん、今です!」

 そのタイミングを見逃さず、ルークは仲間に号令を飛ばす。

 ソフィアは、ガストンとオーウェンの居ない左の崖に面したシールドを取り払う。

 内側からの攻撃や移動を自由に行える指向性防壁ではなく、詠唱時間や消費魔力が少なくて済む普通のシールドだったためだ。

 障壁を解除して開いた道を、エドガーが先頭になって駆け上がる。

 キラは結界を展開したまますぐ後ろにつき、戦えない者やソフィア達魔術師もその後に続く。

「少し我慢してて」

 メイはギルバートを担いで、仲間に置いていかれないよう走った。

 しかし突破しようとするキラ達を待ち受けていたのは、何と敵部隊の攻勢だった。

 剣や槍を持った兵士が先手を打って一斉に、左右から崖を下って襲いかかる。

 それだけなら煙幕で無力化して突き進めばよかったのだが、敵の後ろからは弓兵による援護射撃が飛んできた。

「まさか?! しまった……!」

 ガストンの部隊は、弾切れで矢による攻撃を諦めたのではなかった。

 まだ矢が残っている状態で一度一斉射撃をやめ、キラ達の反撃を誘う戦法だ。

 守りを固められては攻め切れないが、わざと隙を見せて相手が攻撃に転じたタイミングを狙えば、楽にとどめを刺すことができる。

 ガストンも腐っても騎士団長、経験の浅いルークの考えはお見通しだった。

 読みが外れたルークは驚きの表情を見せる。

 ソフィアもシールドの展開が間に合わず、エドガーとキラが盾となって矢を受け止めた。

 まだ敵前衛とは衝突する前で、斜面を登り切る前に援護射撃により突進を潰されてしまった。

(どうする?! 敵にはまだ矢が残っている。このまま強引に突破するにも、もう勢いは削がれた)

 逆に、敵の兵士が勢いづいて眼前に迫りつつある。

 更に反対側の崖からも、突撃してくる兵士と援護射撃。

 この状況で煙幕を使っても、ほんの少しの延命にしかならないだろう。

(だからと戻るわけにも……。崖が駄目なら、せめて進路上の障害物をどかせれば)

 進路も退路も、崖の上から落ちてきた無数の丸太によって塞がれている。

 これをどけるには、腰を落ち着けて作業をしなくてはいけないだろう。

(……いや、圧倒的な破壊力さえあれば。だがそうなると……!)

 ルークは考えながら、前方で敵の攻撃を食い止めるキラに目を向けた。

 王女である彼女は、今もこうして命懸けで戦っている。

(私は、どうすれば……)

 迷っている間にもキラの命は危険に晒されている。

(約束を破るわけにはいかない……。しかし、このままでは全滅だ)

 ここで全員殺されるか、一人の犠牲で残りを生かすか。

 考えてみれば簡単な引き算だった。

 この状況を打開できる唯一の方法に気付いてしまった以上、後は実行するかしないかの二択。

 誓いを違えるのが罪ならば、解決法を知りながらそれをしないのもまた罪だと、彼もよく知っている。

 腹を括ったルークの決断は早かった。

「ユーリさん、煙幕で時間を稼いでください!」

 理由を聞く余裕など無く、ユーリはすぐに手持ちの煙幕を目の前の敵へ投げつける。

 爆発と共に煙が立ち上り、吸い込んだ兵士達は咳き込んで動けなくなった。

 だが安全圏からは、相変わらず弓兵の矢が襲いかかる。

 ユーリの作った僅かな時間の間に、ルークは来た道を戻ると大魔法の準備に入った。

 魔法剣の切っ先で宙に魔術文字を描き出し、標的を行く手を阻む丸太に向ける。

 ルークは一発しか撃てないが、それなら一発で戦況を打開すればいい。

 敵に撃てば破壊力の高い呪文というだけで終わるが、丸太を除去できるならば一か八か撃つ価値はある。

「ルーク、駄目ーっ!!」

 彼の意図に気付いたキラは、慌てて止めようとする。

 術者に大きな反動をもたらし重傷に至らしめるあの呪文を今使えば、もう動けないルークを担いで逃げる余裕は無かった。

 ルークを置いて逃げるという選択肢だけは選びたくないキラは、必死で呼び掛ける。

「約束したでしょ?! 一緒に生きるって!」

 彼女の言葉がルークの心に突き刺さるが、ここで振り返ってしまうと決意が揺らぎそうで、無心に術式を組み立てた。

「すみません、キラさん。せめてあなただけでも、生きてください!」

 例え自分を犠牲にしてでも、キラが生きて目的を達してくれるのなら。

 約束を破った汚名は甘んじて受けるつもりだった。

 この状況から彼女を救ってくれるなら、悪魔にでも魂を売っていいとさえ思ったからだ。

 死ぬ覚悟でルークが大魔法を放とうとした、その時だった。

 深手を負ってメイに抱えられていたギルバートが、突然雄叫びをあげる。

「うおおおおおお!!」

 何と彼はその勢いで骨折しているはずの右腕で三角巾を引き千切り、メイの手を離れて丸太の山目掛けて駆けて行く。

 傷口から激しく出血するが、ギルバートはお構いなしだった。

「おいジジイ、何やって――」

「カルロ、馬車を動かせ!」

 ディックの制止も聞かず、ルークを抜いて丸太の前に出るギルバート。

 そのまま彼は腰を落とし、闘気を集中させた左腕から衝撃波を放って丸太を薙ぎ払った。

「今じゃ! 馬車なら逃げ切れる!」

 言い終わる前に、メイとユーリは作戦を理解して仲間を馬車まで引っ張っていた。

「逃がすな! 弓兵!」

 ガストンはさせまいと一斉射撃を命じるが、辛うじて間に合ったソフィアの障壁が馬車ごと仲間を守る。

「ギルバートさんも、早く!」

 馬車に乗り込んだキラは叫ぶが、ギルバートは背を向けて敵部隊の前に立ちはだかった。

(まさか……)

 ルークも一度は自分を犠牲にすることを考えた身。

 ギルバートの考えていることはすぐに察せた。

「ワシが殿しんがりになる! 早く逃げろ!」

 それでもキラは食い下がる。

「駄目です! 皆でここから逃げないと!」

 かつて非力だった頃、やむを得ずとは言えエリックとエレンを見捨てて逃げるしか無かった。

 あんな悔しさをもう味わわないために、力を手に入れたはずだとキラは叫ぶ。

「そうだぜ! カッコつけんなジジイ!」

 そう言うディックとキラは馬車を降りようとするが、それぞれメイとルークが取り押さえた。

「離してルーク!」

「いけません!」

 敵は魔力を帯びたエンチャント装備で固めている。

 魔力に弱いギルバートにとって、まさに天敵。

 そんな相手に一人で向かって行けば、まず間違いなく殺されるだろう。

 だからと殿を残さず全員で逃げれば、激しい追撃により馬車ごと潰されるのはルークにとっても想像に難くない。

 敵が軍馬を持っていないはずはなく、ただ逃走するだけでは逃げ切れない。

 誰かが、死ぬ覚悟を決めて敵を食い止める必要があった。

「行け! 王国を取り返すんじゃ!」

 そう叫びつつ、ギルバートは最後に一度馬車を振り返る。

 泣きながら手をのばすキラとディックに、その二人を押さえるルークとメイ。

 押さえる側の仲間も、やるせない表情でギルバートを見つめていた。

(すまんな、このような別れ方で。さらばじゃ、最後の仲間達よ)

 昔も旅の中で様々な仲間と出会い、そして別れを告げてきた。

 今回が、最期の別れとなる。

 それっきり、ギルバートは後ろを振り向かなかった。

 猛獣のような咆哮をあげ、迫りくる敵部隊に死力を尽くして立ち向かう。

「見せてやろう! 『オーラアーツ』の恐ろしさを!」

 いくら魔力に弱いとは言え、エンチャント装備が完全に闘気術の硬質化を無視できるわけではない。

 降りかかる矢も、槍の穂先も、突き刺さって血を流させはするが、貫通して致命傷を負わせるには一歩足りない。

 骨折により右腕が思うように動かない中、ギルバートは両腕でガードしながら敵を食い止める。

 防戦一方ではなく、闘気の衝撃波を纏ったパンチやキックを繰り出し、ギルバートを無視して先へ進めないよう敵を薙ぎ倒した。

 一度覚悟を決めた彼の前に、騎士団は苦戦を強いられる。

 馬車が見る見る遠ざかる中、指揮官のガストンは苛立ちを覚えていた。

「……あの老人、負傷していたと聞いたが?」

「はっ。そのはずですが」

 オーウェンの報告では怪我人扱いだったが、今の暴れっぷりを見るにとてもそうは思えない。

 とうとう衝撃波で粉砕されることを恐れて、兵士達はギルバートに向かって行かなくなった。

 一旦こうなってしまうと、膠着状態に入り時間稼ぎを許してしまう。

 他の部下にはすぐに森を出て、外に停めた馬で馬車を追うよう命じたが、少数では返り討ちに遭ってそのまま逃げ切られるだろう。

 しかし前線部隊を引き上げさせれば、まだ体力が残っているギルバートが逆に攻勢に転じるはずだ。

(早くあの厄介な老人を仕留めたいところだが……)

 ガストンは何度も攻撃を命じるが、傷は負わせられてもトドメが入らない。

 仕留めることに失敗すれば、衝撃波による強烈なカウンターが待っている。

「どうすればいいんだ?!」

「このジジイ、タフ過ぎる!」

 すっかり兵士達は及び腰になり、エンチャント装備で全身を固めた集団が、丸腰の老人一人に恐れおののく状況が出来上がる。

 ギルバートも度重なる出血で体力の限界に達しつつあったが、闘気術の呼吸だけは維持していた。

「お前達、遊んでるんじゃない! 八方から取り囲んで一斉にやれ!」

 ガストンの命令により、敵兵がギルバートの周りを包囲する。

 全員で一斉に切り込むつもりだと気付いたギルバートは、いよいよ覚悟を決めた。

(ジョイス、お前さんには全てを授けた。国の未来を頼む。ディックよ、キラのことは任せたぞ……!)

 二人の弟子に思いを馳せた彼は、残り少ない闘気を全て左腕に集中させる。

「ぬおおおぉぉぉーっ!!」

 雄叫びをあげ、拳を地面に突き立てるギルバート。

 その直後、彼を中心に激しい爆発が巻き起こる。

 地鳴りのような轟音と共に、薙ぎ倒される木々。

 囲んでいた数十人は見事に木っ端微塵にされ、爆心地は土が抉れてクレーターができていた。

「な、何だあれは!」

「こんな奥の手が?!」

 爆風で飛んできた土を被った残りの兵士達は、揃って浮足立つ。

 魔法でもないのにクレーターを作る程の爆発を見せられては、兵隊だろうと恐怖するのは仕方のないことだった。

 これこそがギルバートの奥義、最後の手段だった。

 練った全身の闘気を一気に放出し、爆薬に勝る程の破壊力を生み出す。

 またあの一撃が来たらどうしよう、そう思った敵兵は及び腰になり、ギルバートに近付けなくなった。

 対するギルバートは構えを取った状態で、じっと動かない。

 するとそこへ、業を煮やしたガストンが直々に槍を携えてやって来た。

「何をやっている! さっさとトドメを刺せ!」

「で、ですが……」

 腰が引けたまま言い訳をしようとする部下を他所に、ガストンはギルバートと距離を詰める。

「団長、危険です!」

 制止しようとする部下だったが、あの爆発は襲ってこない。

 もうすぐ槍の間合いに入ると言うのに、相手は沈黙したままだった。

「愚か者め、よく見ろ!」

 ガストンはそう怒鳴ると、付呪された特注品の槍でギルバートの左胸を突き刺す。

 すると構えたまま、ギルバートの身体はゆっくりと後ろに倒れ、槍は抜けた。

「死体に怖気づいてどうする!」

 奥義を放ったギルバートは既に息絶えていた。

 あの一撃は、全身の闘気全てを放出して使い切る技。

 そして闘気の源は人間の生命力。

 生命力を使い切ればこうなることが分かっていたため、ギルバートはずっと禁じ手としてきた。

 だがそれを知らない兵士達は、死んでなお倒れないギルバートを見て絶命していることに気付かなかったのだ。

「ぼさっとするな! すぐに王女を追え!」

 ガストンの号令を受けて慌てて追跡に入る部下達だが、この戦いで膨大な額をかけて強化した兵士を大勢やられてしまった。

(一番の驚異は聖剣ではなく、この老人だったか……)

 地面に転がる骸を、ガストンは忌々しげに見つめる。

 事前のオーウェンの報告ではそこまで恐ろしい相手とは思えなかったが、これは判断ミスと言えるだろう。

「オーウェン、我々も本隊として追撃に加わるぞ。王女を生かして首都に向かわせてはならん」

「はっ」

 気持ちを切り替え、ガストンとオーウェンは森を出て騎馬に乗る。

 ギルバートは確かに強敵だったが、まだキラ達を完全に見失ったわけではない。

(ここでキラ王女を仕留められれば、私も更に出世できる。邪魔されてなるものか!)

 必死で逃げるキラ達の馬車に、ガストン率いる本隊が牙をかけようとしていた。


To be continued

登場人物紹介


・ギルバート

さようなら高性能じいちゃん。

自爆技まで使ったおかげで兵士のトラウマになった。


・ルーク

自爆しようとして未遂で終わった男。

もしルークが自爆してたら重傷で殿できなかったんだけど、誰が時間稼ぎする予定だったんだろうか。

そう、何も考えていないのである。

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