絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その23
腹が満ちれば、自ずと眠気がやって来る。
中でも、魔法少女として力を振るった川村愛の消耗は著しい。
本人が気丈な性格故か、弱音を吐くという事は無いのだが、充てがわれたベッドに横になるなり、寝息を立て始めていた。
そんな愛に、良がタオルケットを掛ける。
考えても見れば、滅茶苦茶を押し付けていた事を思い出す。
体感的には数日間でも、実時間として半年以上連れ回した。
更に戦いに駆り出し、助力も願っている。
「ありがとな……」
詫びでなく、感謝を贈る。
起きている時に言わなかった事を、我ながら卑怯とも思うが、そんな良の見ている前で、愛は起きる事は無かった。
さて、この部屋には良と愛しか居ない訳でもない。
寧ろ、他の面々は別の事に気が向いてソチラに集中していた。
「やっぱりさ、あたし達もさ」
「むぅ……しかしだな……」
虎女の声に、女幹部は苦しげに鼻を唸らせる。
アナスタシアを悩ませる程の議題だが【自分達はどうすべきか?】というモノである。
餅田から細胞移植を受け入れる事で、改造人間にどんな可能性が生まれるのか、今の所はまだまだ未知の領域と言えた。
だが、既にソレを終えた良には特段の問題は見られない。
それどころか、改造人間には無用の筈の飲食を可能として居る。
ソレは、改造人間である二人にとっても魅力的でないと言えば嘘になる。
単純な飲食というが出来るだけでも、無性にソレは恋しい。
「良いでしょ? 博士」
気楽に尋ねて来るカンナに、リサも【駄目】とは言い辛い。
本来、影響どの程度及ぶのかも解らないのだから、これ程に無茶苦茶も無いのだ。
それでも、未だ生身の人間であるリサにすれば、二人の気持ちは理解が出来る。
「……良さん」
余り強く出られない性格故か、チラリと目を向ける。
そんな少女の不安気な目に、良は軽く笑った。
「まぁ……俺だけやっといて、アナスタシアとカンナに駄目なんて言えねぇわな」
楽しみを独り占めにするつもりは無い。
餅田に関して言えば、後でブー垂れられるだろうが、其処は埋め合わせをする事で補える。
兎にも角にも、首領である良が【いいよ】とお赦しを出せば、アナスタシアとカンナの二人も目の色を変えていた。
「首領が、其処まで仰いますならば……」
女幹部からすれば、良に背中をポンと押された形であった。
無論の事、崖からドンと突き落とす訳ではない。
自前の性格故に踏ん切りが付かないアナスタシアを、良がソっと押した形と言えた。
「おっしゃ! それじゃ、善は急げってね! まぁ、あたし達は悪の組織だけど」
言葉は兎も角も、カンナはドンとアナスタシアの背を押す。
こちらの場合は、急かす意味が在った。
「こら、押すでない!」
「なに今更? 興味津々だった癖にさ」
グムムと呻きつつも、押し切られてしまうアナスタシア。
大幹部二人は目的の為に部屋を一旦出る訳だが、ふと、カンナがリサに目を向けていた。
「あ、そう言えば……リサ、どうせ川村は起きないだろうし……何ならしちゃっても良いよ?」
ヤケに意味深な言葉を残すと、バタンと戸を閉じる。
残された三人の内、起きているのが二人であった。
そして勿論、良とリサも、カンナが言っていた事の意味が解らない程に子供でもない。
「……あ~、参るよな?」
とりあえず、気楽に流そうとする良であるが、リサの反応は違っていた。
ベッドの縁に腰掛けながら、思い詰めた様な表情でツバをゴクリと飲み込む。
「良さんは、どう思います?」
具体的に【ナニを】とは問われて居ないが、リサの言わんとして居る事は理解は出来る。
「いや、まぁ……」
したい、したくない、という観点だけで言えば、したくないと言えば嘘になる。
何せ、その結果に付いては既に別の世界の自分から聞かされていた。
その際には、端的に【良かった】としか言われて居ない。
思わず、良の目がリサを見てしまう。
意識をして居る暇が無かったからか、よく見るという機会は珍しくも在った。
今の彼女だが、何時もの制服の如き白衣姿でもなく、変身した際の全身ピンク色でもない。
部屋着の代わりか、シャツと短いパンツ。 否が応でも、腕と脚が覗いている。
そんな無防備な姿には、今度は良が唾を飲んでいた。
良いよとは言われたが、なかなかに煮え切らない良。
コレに付いては、やはり大幹部が一人の剣豪から苦言を呈されて居る。
膠着状態かとも想われたが、スッとリサが先に動いた。
「私……シャワー浴びて来ます」
「お、おぅ……お?」
驚く良に、リサが顔を向けた。
見える顔には、気恥ずかしいという色は無く、寧ろ、何かを思い詰めた様である。
「ずっと……考えてたんです」
「何をだ?」
「今回は、勝てたけど、この前は負けました」
秘密基地を奪還せんと殴り込みを仕掛けた際には、悪の組織は撤退を余儀なくされていた。
その際には、今寝ている川村愛が負傷を負っていた。
撃たれた彼女は、弾丸が背中を掠めただけで済んでいたが、もしほんの少しだけ弾道がズレて居たなら、今頃、愛はこの場に居なかった可能性も在る。
「だから、何もせずに死んじゃったら……嫌じゃないですか、そんなの」
それだけ言うと、スタスタと風呂場へとリサは向かう。
決意らしきモノを見せる彼女の後ろ姿に、良は壮年から言われた一言を思い出していた。
【死んでからでは、愛も恋も無いのだ】と。
勝負とは、絵空事ではない。
今までは偶然に勝ちを拾い続けだけである。
僅かの失態や、選択の誤りに因っては、良自身が死んでいたとしても、何ら不思議でもなかった。
何せ、事実として死んだ自分を良は既に見ている。
地下深く、中身が焼けて機械の殻だけが残された自分。
誰に寄り添われるでもなく、寂しげな姿。
思い返せば、ソレは恐ろしく、同時に哀れである。
ふと、良の耳が水滴の弾ける音を拾う。
リサが身を清める為にと、シャワーを浴び始めたのを思わず想像するのは難くない。
強気な性格でもして居れば、或いは自らすすんで乗り込むという事も出来るだろう。
何故ならば、既にリサは自分の意思を見せている。
今更逃げ出す様では、始めからそんな事を言う訳もない。
それどころか、異界に置いては混浴露天風呂すら既に済ませていた。
その際には、蝦蛄女が空から落ちて来るという不慮の事故に因って邪魔が入っただけだった。
思わず、ウーム唸る良だが、何か違和感を感じる。
何かとポケットから出すと、ソレは、一枚の折られた紙片。
「あ、そういや貰ってたな」
セイント曰く【自分に勝った証】だと言っていた。
既に中身は知っているが、今一度よく見る。
何度見返した所で、書いている数字は変わらない。
其処で、良はふと携帯端末を取り出す。
なんの気無しに、書かれている番号へと電話を掛けてみた。
呼び出し音が、八回鳴った所で、通話が繋がる。
「もしもし?」
『やぁ、友よ。 久しぶりだ』
声自体は、良の中に居るエイトと変わらない。
ただ、聞こえる声色は若干違っていた。
「久しぶりって言いたい所なんだが、知ってるんだろ? なぁエイト」
敢えて、良は名を呼んだ。
以前にも良の中のエイトは連絡を付けようとしていたが、その際には【着信拒否】をされたと語っていた。
『名乗ったのは、そちらの私か?』
「いや、ちょっと違うかな」
名を知る切っ掛けに成ったのは、良を模した人工知能の失言である。
とは言え、ソレをわざわざ言う必要は無かった。
もはや過ぎ去った世界であり、あの後がどうなるかを考える意味は無い。
『友よ、君はどう思う?』
「ん?」
『私の名だよ』
どうと言われても、答えるのは難しい。
だが、特に考えるでもなく、良は口を開いていた。
「良いと思うけどな」
思い感じた事を率直に述べる。
すると、電話の向こうからは軽い笑いが響いた。
『やはり、君は私の友である篠原良らしい』
短いながらも、発せられた言葉から察する事も在る。
未来から連れて来た方ではないエイトも、同じ顔の篠原良を本物ではないと言った。
「なぁ、アイツの事は知ってるよな?」
自分で自分の名前を言うというのも気が引けたからか、敢えてボカす。
『勿論知っている。 というよりも、最初に彼が現れた時には、君が戻って来たとすら思ったよ』
名前は勿論の事、顔も声も同じである。
であれば、そう錯覚するのも無理はない。
そもそも機械のですら区別するのは不可能と言えた。
「無理もねぇさ、俺だって鏡でも見てる様な気がしたからな」
『ところで、君が連絡をして来た、という事は、セイントは倒れたのか?』
される質問に、良は唸る。
厳密に言えば、あの喧嘩を勝ちとは見ていなかった。
「どうなんかねぇ、ま、ダウンぐらいは……取れたのかな?」
『そうか、彼は生きてるか。 やはり君らしいよ』
別に殺し合いをした訳ではない。
強情な二人が、意見の相違から止む無く拳を交えただけである。
「ところでよ、何だって今まで連絡くれなかったんだ?」
ふと、以前に感じた疑問を良は投げ掛ける。
単純に出来ない理由が在ったのかも知れないが、その理由を知りたかった。
暫しの間、沈黙が訪れる。
機械の思考速度は、人間の比ではない。
にも関わらず、言葉に詰まるという事は、それだけ深く悩んでいるという証明であった。
『……端的に言えば、君に合わせる顔が無い、というべきかな』
やっとの事で返ってきた返事に、良は首を傾げた。




