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世界征服、はじめました  作者: enforcer
絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!!
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絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その22


 類を見ないで在ろう巨人同士の殴り合いだが、無限には続かなかった。

 最後の拳の交差を経て、先に倒れたのは、白黒の巨人。


 地響きとも取れる様な爆音が辺りに響く。

 

 最期まで立っていた方から勝者とは言うが、ほんの少しの間を置いて、青い粒子を散らしながら巨体は消え失せていた。


   ✱


 大きかった白黒の身体だが、ソレは、忽然と消え失せた。

 まるで、始めから無かったかの如く。

 

 ただ、全てが消えた訳ではない。


 背広姿の青年が、空を見上げて大の字で寝転ぶ。

 凄まじい戦いだったが、特に外傷を負った様子は無い。

 ひたすらに【やり切った】という満足げな顔である。


『おーい、生きてるかぁ』


 寝転ぶ青年の元へと、外套をはためかす良が現れた。

 声は届いたのか、青年の片手が少しだけ挙がる。


 澄み切った夜空を眺めるセイントからは、長いため息漏れていた。


「……まさか、負けるとは思ってませんでしたよ」


 そんな声は、僅かに残念そうではあるが、寧ろ清々しい何かを感じさせる。

 セイントの声に、良の兜から漏れ出る光が窄まった。


『いや、アレは、俺の負けさ』


 殴り合いにて、最期まで立っていた良だが、自ら【敗北】を宣言する。


『なんせよ、コッチは二人掛かりだったからな。 二対一で勝ったって、そんなモン勝ちって言えるかよ』


 良の声に、青年は目を丸くする。


「そう言えば……彼女は?」


 実際、魔法少女は巨人同士の戦いの最中にずっと居た。

 マトモな人間ならば、死んでいても不思議ではない。


『川村さんか? あぁ、まぁ、なんだ、そのな……』


 問われた良だが、気まずそうにウームと唸る。


 川村愛がどうなのかと言えば、無事ではある。

 但し、本人の意志とは無関係に絶叫マシンに放り込まれたならばどうなるか。


 然も、その絶叫マシンは遊園地に在るモノとは全く違う。

 敷かれたレールに沿って走るならば、或いは軽い浮遊感や擬似的な落下を愉しめば良い。


 では、愛の場合はどうかと言えば、カクテルシェーカーに放り込まれた氷に等しかった。

 縦横無尽に動き回る巨体に振り回されつつ、離れられないという縛りが付く。

 

 良が力を振るう為に、死もの狂いでしがみ付いていた少女は、少し離れた場所で、誰にも見えない様にえずいていた。


「ま、過程がどうであれ、結果は結果です。 私は、全身全霊を向かいましたが、こうして倒れてますし」


 やり切った顔のセイントでは在るが、良は何とも言えない気分である。

 兎も角も、変身を解いた。


「なぁ、本気だったのか? ソッチはその気に成れば色々出来たんじゃないのかよ」


 青年が光線を腕から放てるのは今更に言うまでもない。

 その筈が、戦いの最中でも、セイントはソレを使おうとはしなかった。

 実のところ、良は【またしても手加減されたのでは?】という疑問が残る。


 投げ掛けられる疑問に、青年が軽く笑った。


「もし、貴方が地球を破壊しようと企む宇宙人とか、全てを破壊してしまう怪獣なら、或いは私も止める為にそうしたでしょうね。 でも、貴方は違うでしょ?」


 返ってくる声に、今度は良が苦く笑う。


「どうだかな、俺達ぁ、世界征服を企む悪の組織だぜ? 然も、俺は其処の首領なんだが」


 言葉をだけを吟味するならば、良はとんでもない悪党だろう。

 ただ、本人の言がどうであれ、他人がどう見るかは別である。


「以前にも言いましたが、もしも貴方が世界征服を出来たなら、世界は変わるでしょうね」


 青年の言葉は間違いでもない。

 良は、自分と同じ顔が世界を変えたのは知っていた。


「とにかく、負けは負けですよ」


 そう言うと、青年は背広の内側へと手を入れる。

 スッと取り出されたのは、半分に畳んだメモ用紙らしき紙片。


 差し出される紙を、良は一応は受け取った。

 開いて見れば、何処かの電話番号らしき数字が書いてある。


「何だこりゃ?」

「万が一、私が負けた時は、渡してくれと頼まれてまして」


 誰が頼んだのか、大凡の察しは付いた。

 わざわざ宇宙人にメモ用紙を渡せる者は多くは無い。


 思い当たる節は、良の中には一つだけ在る。

 この場でソレを確かめる事も出来なくはないが、ソっと紙片をポケットへと丁重にしまった。


「……さてさて、と?」


 倒れた青年を助け起こそうと思うが、良はその場にへたり込む。

 急に膝から力が抜け、ドスンと尻餅を着いてしまった。


「何だ何だ、どうなって……」

 

 自らの身体の異変。 ソレに応える様に、グゥと腹が鳴る。

 終ぞ忘れていた感覚に、良は異変の原因に気付いた。


 元々から蓄電切れの所に、魔法少女から力を借り受け、巨人と殴り合いをして居る。

 

 凄まじい動きから、身体が栄誉よりも栄養を欲していた。


「コリャ、参ったな」


 思わず出た良の一言に、青年が笑う。


「貴方も、そんな事も云うんですね」


 決して膝を折ろうとしない首領でも、空腹には勝てないという事実。

 

「そんなにおかしいかよ」

「改造人間の腹が減る、可笑しいでしょ?」


 軽い笑い声に、良も身体の力を抜いて倒れる。

 見上げれば、人工の光に遮られない星が空を輝かせていた。


   ✱


 暫く後、首領は組織が回収していたが、その間には、セイントはとっとと逃げ出していた。

 何故そうなのかと言えば【怒った彼女達が何をするか解らない】という理由からである。


 飛んで逃げ出せるセイントとは違い、良はそうは行かない。

 

 とりあえず、宿泊所まで戻った悪の組織。


 其処では、何とも珍妙な光景が在った。


    ✱


 回収された首領である良が、先ず言ったのは【何かない?】というモノである。


 腹が減っては戦は出来ぬ。

 とは言え、即席麺(インスタント)では余りに味気無い。


 其処で、何と四人が【何かを作る】と言い出していた。


 しかしながら、実のところコレが難問なのだ。

 果たして、ろくすっぽ家事をした事が無い人間に、ソレは可能か。

 

 無論の事、不可能ではないが、熟練度は見て取れる。


 簡易な宿泊所とは言え、其処には台所が用意され、やろうとすれば調理は可能だ。

 ただ、やる気が在れば何でも出来るという訳でもない。

 

「ね、ちょっと、コレ何?」


 そう言うカンナが手に持つのは、所謂、皮剥き器(ピーラー)である。

 

「何って、野菜の皮剥くんですよ」

「へぇ、流石は博士なんだ」


 カンナは誉めるが、知識だけは一端のリサでは在っても操作が覚束ない。

 頭の中の情報だけでは、体は動かないモノである。


 リサに対して、道具の使い方はカンナの方が上手と言えた。


 そんな二人の横では、負けず劣らずの二人が、台所へと向かう。


「そうではないだろう? レシピはしっかり守らんと」

「そんな事言い出したら足りないモノ在ったらどうすんの?」

「……うむむ、しかしだな」

「しかしもカカシも無いでしょうに」


 携帯端末(スマートフォン)を用いるか、或いは本を読めば、調理法(レシピ)を見る事は難しくはない。


 ただ、此処で問題が発生する。

 

 書いている材料、製法をキッチリ守らんとするアナスタシアに対して、適当で良いと言う愛。


 当たり前の事として、全てが用意されている訳ではない。

 つまり、事に際しては臨機応変が求められる。


 性格故か、どうにも適当な愛とは噛み合わないアナスタシア。


 そんな四人を傍から見ている良だが、何とも歯痒い。

 どうせなら、自分が作りたくも在るが、ろくに動けないのでは手伝いも何も無かった。


「しっかしさぁ、さっきのは凄かったよね?」

「……もう二度とごめんですけどね」

「良いじゃん、別に減るもんじゃなし」

「いやぁ、メッチャお腹減るんですけど」


 まるでボクシングでも見終えたかの様なカンナの声に、愛は露骨に嫌がっている。

 実際に振り回される方からすれば、堪ったものではないのだが、見ている方にはソレは解らない。

 

 気楽な虎女と魔法少女に、女幹部と博士は怪訝な目を向ける。


「馬鹿を言うものではない。 見ている方からしても、あんな戦いはコチラが困る」

「そうですよ。 偶々勝てたけど……」


 気を揉む二人からすれば、先の戦いは肝を冷やすモノであった。

 セイントが怪し気な必殺技を用いなかったからこそ、良が爆散する様な事は無かった。

 

 逆に言えば、もし相手が良を殺そうとして居たならば、話は違う。


 先に倒れたのが良である場合も想像に難くない。


「はぁい、ごめんってば」

「まぁ、私もなんだかんだで大変だったし……」


 戦いの後、少女が何をしていたのかを言う程に良も野暮ではない。


 とは言え、何とも微笑ましい光景に、良も何か温かい気持ちにさせられる。

 ソレと同時に想うのは【今後をどうすべきか?】という事だった。


 栄養補給と充電が済めば、良はまた立ち上がれるだろう。

 で在れば、再び戦いに赴ける。

 

 但し、次も勝てるのかと自分に問えば、答えは出ない。


 セイントとの殴り合いだが、気心知れた間だからこそ、其処には節度が在った。

 互いに、相手を殺そうとはして居ないのだ。


 精々が、わからず屋を無理やり解らせ様とした、程度に過ぎない。

 

 ソレに対して、真首領へと戦いを挑むと成れば、相手も次は遠慮をしないという事も往々にして有り得た。


 そうなると、良の中には【怖い光景】が浮かんでしまう。

 

 やいのやいのと姦しい四人が、力尽き倒れ伏す姿に、良はソレに背筋が寒く成るのを感じていた。


「首領? どうかされまして?」


 掛けられる声に、ハッと顔をあげる。


「ん?」


 見て見れば、其処には皿が並んでいた。 

 作り立てらしく、湯気が立ち昇る。


「良さん、凄く難しい顔をしてましたけど?」

「いや、何でもないよ」

 

 顔を横へと振ることで、悪夢を振り払う。

 事が起こっていないという時点で在れば、ソレは、単なる可能性の一つに過ぎない。

 

 寧ろ、全てが上手く行くという可能性もある事を、良は思い出していた。

 

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