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世界征服、はじめました  作者: enforcer
絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!!
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絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その21


 リサに心配される愛だが、当の本人はと言えば非常に厳しい立場に在った。


 高所という点は省けたとしても、事はソレだけに留まらない。

 何せ、自分が仕出かした事に対しての困惑も大きい。


「えぇ……ちょっと、すんごく……不安……」


 言い出した言葉を、少女は慌てて飲み込む。

 今更、泣き言を言えばソレは良に取っては不利に成るだろう。

 

 今はただ、グッと奥歯を噛み締めて、白黒の巨人を睨んだ。


 ズシンと音を立てるセイントに対して、良の足は不思議と音が少ない。

 ただ、足が着いた時点で周りから土埃が舞い上がる事から、その巨体が虚仮威しではない証明と言えた。


『フン! ヘヤァ!!』

『よっしゃ! 来いや!!』


 二人の巨人がそれぞれに声を発する。

 ソレは、あたかも試合の開始を告げる銅鑼(ゴング)の役割を果たしていた。


『ダァ!!』

『オラ!!』


 ブオンと鈍い風斬り音を立てながら、白黒と青白い腕がこうさする。

 一見する分には遅くも見えるが、ソレは大きい故に相対的にそう見えているだけである。

 実際に首に張り付いている愛からすれば、巨人の繰り出す拳は凄まじい勢いでぶつかっていた。

 

 互いの拳が、互いの頬を捉える。


 その衝撃は、波となって辺りに広がる程だった。

 そして当然ながら、良にしがみ付いている愛にすれば堪ったものではない。


 ろくな風防すら無いのだから、否が応でも全てを受け止めねば成らなかった。

 それでも、決して手を離そうとはしない。

 

「ほら! 篠原さん!! 相手が怯んでる今がチャンスでしょうが!!」


 自分に出来る事として、愛は声援を送っていた。


   ✱

 

 巻き起こる風に、思わず腕で顔を庇うリサ。

 ヘルメットを着けている以上、その必要はないかも知れないが、そうしてしまう程に風が強いのだ。


 それでも、目を向ければ、其処には信じられない光景が広がっていた。

 画面越しとその場にて格闘技の試合を見るのとでは、迫力が違う。


 更に、ソレをして居る者が巨大ならば、尚更である。


『あぁ!? 良さん!!』


 唐突に、リサが声を張り上げる。

 ソレもその筈で、セイントの拳が、良の頭を大きく揺さぶっていた。


 ただ、殴られると同時に、腰を捻り、回転を生かして殴り返す。

 無敵と恐れられる筈の白黒の巨人ですら、身体をのけ反らす。


 殴られたセイントもまた、空いていた片手にて良を殴っていた。


 拳が打つかる度に、地響きとも取れる爆音が轟く。


 互いに、防御を捨てての殴り合いに、ソレを見守る三人は目を奪われる。

 

 大きな巨人同士が、ただひたすらに互いをぶつける。

 ソレに対して、リサがギリッと歯を軋ませた。


『どうしてなんです!! 何だって、あんな……』


 聡明な少女からすれば、まったく面白くも無い。

 本来ならば、友人どうしの二人が互いに力の限り殴り合う。


 其処にはどんな意味が在るのかを理解出来ないで居た。


 そんなリサに、変身を解いたアナスタシアがチラリと目を向ける。


「若いな……」


 ボソリとした一言だが、聴こえたのか顔が向く。


『歳とか関係無いでしょう!! どうして止めないんですか!』

 

 必死の訴えに、今度はカンナが鼻をフンと鳴らした。


「雄ってさ、言っちゃ悪いけど……皆バカだから」

『だから! どういう意味ですか!?』


 憤慨するリサに、カンナは顔を向けるが、其処には本気で驚く色が在った。


「ね、アンタさ、本気で聞いてる?」

 

 嘲るという事とも違う。

 真摯な疑問に、リサは歯噛みをさせられた。


『解らないから聴いてるんでしょ!!』


 普段ならば、一応はアナスタシアとカンナに敬語を使うリサでは在るが、この時ばかりはそうも行かない。

 目の前で、良が凄まじい殴り合いを敢行しているのだ。


 肩をいからせるリサに、虎女はフゥと悩ましい息を吐くと、小さく吸った。


「あのさぁ……」

「ソレについては、私が答えよう」


 いきなり、別の声に聴こえれば、三人は驚く。

 振り向けば、其処には剣豪の名を冠する片角の壮年が立っていた。


『ソードマスター、さん』


 唐突に現れたからか、リサは思わず慌てた。

 対して、壮年は軽く笑うと顔を上げて殴り合いを見る。


「すまないな、驚かせてしまった様で。 ただ、皆来ているのでね」


 皆、という声に、三人が辺りを見れば、其処には悪の組織が全員集結していた。


「あないに馬鹿みたいな音してたら、そら誰かて目ぇも覚めますわ」


 壮年と同時に来たらしい餅田の声だが、無理もない。

 ソレこそ、連続で爆弾を爆発させたが如く音が轟くのだ。


 戦闘員達もまた、首領の殴り合いを固唾を呑んで見守る。


 そんな中、壮年がコホンと咳を払う。


「さて、お嬢さん。 君の疑問だが、答えは難しいモノではない。 あの二人は、互いに意地を張り合ってるんだ」


 そんな説明だが、リサにすれば理解が及ばない。


『はぁ? だったら、話せば良いじゃないですか!』

 

 別に無理に二人が殴り合い事も無く、話せば解る。

 少女にすれば、そう思えて成らない。


 ソレに対して、壮年は小さく首を横へと振った。


「話せば解る。 そう思いたいのは解るんだが、話して分かり合える様なら、人は戦うまい?」


 リサの言う事自体は最もだろう。

 話して解り合えるならば、そもそも戦う意味は無い。


 だが、首領とセイントは激しく殴り合う。


『でも、だからって……なんであの二人は』

「簡単だ、お嬢さん。 あの二人は互いが好きなんだ」


 唐突な【好き】という単語に、ピンク色のヘルメットが僅かに傾く。


「憎悪と好意は相反する様でいて表裏一体なのだよ。 ただ、今君が考えた様な蔭間や男色と言った意味ではないぞ?」


 思わぬ指摘に、リサの動揺は見て取れた。


『あや、別にそんなのは』

「ま、ソレよりも、よく見てご覧。 二人の戦いを、ね」


 壮年の声に、リサは目を戻す。


 其処では、痛々しい戦いがまだ続けられて居た。

   

   ✱


 鋭い左右の拳を繰り出すセイントに、ソレを受けながらも良は前に出る。

 僅かに出来た合間を縫って、下から顎を打ち抜く。

 

 白黒の巨人は、目を回したのかよろめき下がる。

 僅かの間を置いて、体勢を立て直す。


『ジェア!!』


 吠える様な気合を張り上げ、構えを取る。

 少し離れても、また二人は間合いを詰めていた。


   ✱


 見ろ、とは言われたが、やはりリサに取っては辛い光景であった。

 互いに友人と認め合い、好きとまで言われる二人が殴り合う。


『……解りませんよ。 あんなの』


 胸の内の痛みを隠さないリサに、隣で見ているカンナがソっと肩に手を置いた。


「だから言ったでしょうに、雄なんてさ、ホントにみんな馬鹿だからって」

 

 そう言うカンナだが、決して二人の巨人からは目を離さない。


『解る様に言ってよ』 


 そのリサの声に、アナスタシアがチラリと目を向ける。


「二人の意見は食い違う。 お互いに自分は正しいと信じている。 ならば、どうなる?」

 

 説明とも取れる声に、リサの中で二つの歯車が思い浮かんだ。


 巨大な歯車は、互いに噛み合い連結をする事で力を生む。

 だが、もし何かが起こり、歯車が僅かにズレたなら。


 答えは単純に、歯車が噛み合わない。

 

 それだけでなく、本来なら、合致して生まれる筈の力同士がぶつかり合ってしまう。


『意見が、対立するから……』

「せや、人ん意見を変えるっちゅうほど面倒くさいモンはおまへん。 そら、自分が無いアホなら、簡単に他人様に従いますわ」


 ポンと出される餅田の声に、リサは過去を想う。

 

 良の首領へと収まる前にも、別の首領が居た。

 その頃の博士というリサは、自分で考える事を捨てていた。


 何を言うでなく、ただ出された指示を吟味もせずに実行する。

 

 実のところ、コレほど楽な事はない。

 

 自分で考えないならば、其処には責任が存在しないからだ。

 自分はただ、与えられた指示に従うだけなのだ、と。


 だが、良とセイントは主従ではなく、対等な友人と言える。


 だからこそ、互いに思いをぶつけ合う。

 全く違う意見を持つからこそ、噛み合わない。


 ようやく、リサも理解が出来た。

 

 お互いを想い合うからこそ、青白い巨人と白黒の巨人は小細工無しで殴り合うのだ、と。


 やろうとすれば、幾らでも汚い真似は出来る。

 もし格闘技の試合なら、コレほど馬鹿げた事をしない。


 如何に効率良く相手を倒そうとするのかが大事なのだから。

 

 ソレに対して、二人の巨人の戦いはお世辞にも洗練されたモノではない。

 真っ向からバカ正直に拳を相手へと叩き込み、また叩き込まれた。


「大丈夫だよ、リサ」


 唐突なカンナの声に、ハッとなる。


「ソレよりも、応援してあげようよ」


 掛けられる一声に、リサが立ち上がっていた。


『良さん!! 頑張って!!』


 月次で在ろうとも、少女は腹の底から声を張り上げていた。

 そして、ソレに負けまいと、首領の背中へと向けて組織も声援を送っていた。


   ✱


 どれだけの間、殴り合って居たのか。 誰も数えていない。

 特に、その戦いをして居る張本人達からすれば、時間など忘れていた。


『よう、皆、ああ言ってるぜ?』


 巨人と化しては居ても、音は聞こえている。 

 だからこそ、良は天下無双の巨人と張り合えていた。


 白黒の巨人にせよ、顔は本来のモノとは違う形へと変貌し、表情は見えない。

 ただ、身体の揺れから、消耗は見て取れた。


 無論の事、良も無傷ではない。

 青白い輝きが隠しているだけなのだ。


『来いや!』

『デェヤァ!!』


 互いに一歩離れたと思った途端に、一気に前へ出る。

 繰り出される拳が、交差した。

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