絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その20
揃い踏みの四人では在るが、実のところ彼女達もまた、セイントの力は知っていた。
如何にも美男子と言った彼だが、ソレは本気の姿ではない。
実のところ、未だに【変身】すらして居ないのだ。
にも関わらず、良は倒されていた。
『……くそ、ヤベェぞ……』
青年だが、基本的には自分からは手を出そうとはして来ない。
その理由は【振り払う火の粉は払う】という信条故だろう。
そうなると問題なのは、良の危機に駆け付けた四人である。
誰にせよ、怒ると手が付けられないのは良が一番良く知っていた。
無論の事、良の場合は彼女達を怒らせる理由が良の身勝手である事が多く、それ故に、基本的には【長時間のお説教】か【骨身に染みるお仕置き】で済んでいた。
では、セイントの場合はどうかと言えば、話が違う。
下手すれば、冗談では済まないだろう。
そんな事態にも関わらず、良は動けなかった。
身体が動かないのであれば、どうすべきか。
ならば、動く場所を働かせるしかない。
そして、良が今動かせるのは【頭】だけである。
胸の内で【考えろ! 考えろ! 考えろ!】と繰り返す。
そうすると、不思議な感覚を覚えた。
本来ならば、ある事すら感じない部分が動くのだ。
良の顔を覆う兜の更に奥、動く筈が無い脳味噌が、何と運動を始めていた。
実に奇妙だが、ソレが解る。
何故そうなのかを考えると、答えは難しいモノではない。
かつて、超人である餅田から細胞を受け継いだ者達は、全員が超人と化していた。
腕や脚が無い者は、その場から生えてくる。
ソレだけでも超人的だが、まだ先が在った。
かの者たちは、自らの身体をある程度自由に変化させられる。
ゴムの様に柔軟にも成れば、歯や爪の如く硬質化させる事を良は見ていた。
そして、今の良もまた、餅田の特性を分け与えられて居る。
元々の身体は既に無いが、ある程度はまだ残されているのだ。
ソレが身体の制御装置としての脳であり、伝達の為の神経である。
少ない分だけ、速く浸透したのだろう。
機械ではない部分を、良は動かせる様に成っていた。
『……あぁ、クソ……どうやんだコレ……』
此処で問題なのは、不慣れという点にあった。
誰であれ、初めて何かをする際、戸惑いを感じる。
自転車に乗るにせよ、泳ぐにせよ、口笛なり指を打ち鳴らすフィンガースナップなり、体得せねば成らない。
その意味で、良には脳や神経を動かした経験などある筈が無かった。
だが、出来る出来ないではなく、やらねば成らない。
目を閉じ、意識を身体の奥へと向ける。
手や足を動かすという事ならば、文字通り簡単だろうが、自分の中身を動かすというのは難しい。
だが、やって見ると見えて来る事が在った。
実際には見えいないが【手探り】という表現が正しい。
脳から伸びる神経網を【手】として使う。
『よぉしよし、そうだ、確か……この辺に……』
良の胸の奥には、異能に対抗する為の装置が備え付けられている。
物理法則に逆らい、改造人間程度で対抗出来ない相手に対応する為に、と。
だが、ふとした時、良はその装置に改良を加えて居た。
【打消】のではなく、寧ろ逆に【増幅】する為に。
操作自体は難しいモノではない。
単に、装置の一部を逆に変えるだけである。
しかしながら、コレが難しい。
本来ならば、胸を開いて操作せねば成らない事を、誰の手も借りずに自ら操作する。
そんな良を庇う様に、四人は立っていた。
✱
怒って居るとはいえ、全員が馬鹿ではない。
セイントの力に付いては、皆が知っている。
味方にすれば、頼もしい事この上ないが、逆に言えば、敵に回した場合は著しい脅威であった。
巨大な怪獣にも引けを取らない青年を相手にするとなると、如何に大幹部や魔法少女とはいえ、オイそれと手が出せない。
攻め手が見付からないからか、睨み合うだけの膠着状態である。
そんな中、青年はウーンと鼻を鳴らした。
「まぁ、貴女方が怒るのも解りますよ。 ただ、解って欲しいのは、別の生き方だってあるんじゃないですか?」
言わんとして居る事だが、四人共に理解は出来ていた。
無理に戦わず、寧ろ逃げて何処かで静かに暮らす。
リサと愛は勿論の事、アナスタシアとカンナにせよ、餅田から細胞を分けて貰えば、可能性は在る。
無理をしてまで戦う理由は無いと言えた。
だが、青年の声に虎女の鼻がフンと唸る。
「そりゃあ在るでしょうね」
カンナの声を受けて、モンハナシャコも身体を揺らす。
『そうだな』
想像する事は難くない。
ソレが何処にせよ、やろうとすれば可能性は在った。
『しかしだ、首領にこの様な真似をした輩を放置したとあっては、大幹部とは言えんのだ!』
持ち前の性格故か、アナスタシアが前に出る。
「そう来なくっちゃ!!」
そう言うと、虎も地面を蹴っていた。
二人の大幹部だが、特に凝った戦略など無い。
青年と間合いを詰め、相手を倒そうとする。
その後ろでは、愛とリサが良へと寄っていた。
『良さん!』「篠原さん!?」
左右から掛かる声に、良の兜から目らしき光が僅かに瞬いた。
『川村さんとリサか』
小さな声に、二人は胸を撫で下ろしたくなるが、そんな場合では無い。
青年に大幹部二人が仕掛けたが、余り効果が有るとは見えていなかった。
殴り掛かって来るアナスタシアを片手でいなしつつ、虎女が振るう刃を避ける。
とてもではないが、勝てる図が見えない。
仮に、魔法少女とピンクレンジャーが参戦しても、状況が変えられるのかと問われれば、ソレは難しい。
最善の策として思い付くのは、四人がペコリと頭を下げて良を引き摺っての撤退であった。
そんな中、良の兜から漏れ出す声を愛が聴き取る。
「え? 篠原さん、今なんて?」
『何かないか、アイツを、ブッ倒せる何かが』
良の声に、愛は以前に使った方法を思い付く。
自分だけではどうにも成らない事でも、良の力を借りる事によって、自らを増幅させた事例は在った。
「……でも」
其処で、愛はある事に気付いた。
普段ならば、彼女が良に触れれば変身は解かれてしまう。
その筈が、今は触れているにも関わらずそうではない。
ソレは、リサにも見えていた。
『どうして? まだ何も弄ってないのに』
不可解な事態では在るが、究明して居る時では無かった。
訝しむリサの前で、愛が良の背へと跨がる。
『な!? ちょ、愛さん!!』
当惑するリサには目もくれず、魔法少女は手の杖を握り直す。
「後で謝るから!」
川村愛は、自分の中の引き出しを探っていた。
数多くの魔法は在るが、この場で最適なモノは何なのかを。
其処で思い付くのは、ろくに使い道が無かったある一つの方法。
「……えい!! マジカルアーマー!!」
そんな声と共に、愛の持つ杖の先が良の背中へと当たる。
次の瞬間、青白い光が良を包んでいた。
本来ならば、単に相手に防御効果を付与する為のモノだが、悪の組織と関わる内に、使う事が無かった。
青白い小さな光は、良の胸の奥の装置が増幅してくれる。
次の瞬間、良の身体が動き出していた。
✱
青年に苦もなく振り回される大幹部だが、唐突に背後から降り注ぐ光には気付いた。
「なに……って!」
『首、領?』
今その時ではまで居なかった筈だが、なんとこの場に、青白く光る巨大モノが現れたのだ。
その様には、セイントですら目を剥く。
立ち上がった青白い巨人は、青年に向かって片手をクイクイと動かして居た。
『よう、変身しろよ。 本気でやろうや』
響く声は、良のモノだが増幅されて大きく響く。
聞こえる声に、青年応える様に片腕を空へと向かって挙げていた。
「首領……貴方は、私が思うよりもずっと大きい何かなんでしょうね」
そう言う青年だが、怖じ気付くどころか、寧ろ嬉しそうである。
声も共に真っ黒な霧の様な何かが青年の身体を取り囲むと、ソレは瞬く間に拡がる。
僅か数秒間にて、セイントが本来の姿を現していた。
ドンと音を立てて立つのは、白黒の巨人である。
その中でも、目らしい部分が黄色に輝く。
かつて世界を護って居たという、正義の味方の成れの果て。
ソレに対して、青白く光る巨人と化した良が笑いを響かせる。
『悪かったな気ぃ使わせて。 いっつもソッチにばっかり手加減させちまってな? 消化不良だったろう。 でも、今度は良いだろ? 本気でやってもな』
挑発とも取れる声に、白黒の巨人も構えを取った。
『ジェア!!』
返事なのか気合なのかは兎も角も、セイントが吠えた。
✱
向かい合う巨人の足元では、悪の大幹部三人が慌ててその場を離れる。
「ちょっと!! どうなってんの!? 何な訳!!」
カンナの疑問に、バタバタ走るモンハナシャコが唸る。
『そんな事知るか、良いからとっとと走れ!!』
「はぁ!? そんなドタドタ走ってるのに言われたくないんですけど!」
『ぃ喧しい!?』
何か起こって居るのかを確かめている場合ではない。
ただ、リサだけがチラリと後ろを振り向く。
よくよく目を凝らせば、見えるのだが、青白い巨体の首の辺りには、川村愛がしがみ付いて居た。
その顔には、引きつった様な驚愕が張り付いている。
空すら飛べる魔法少女とは言え、巨大な何かに乗るのは初めてなのだろう。
然も、マトモな操縦席どころかシートベルトすら当たり前だが無い。
だが、力を出しているのが愛である以上、離れる訳にも行かない。
その姿に、リサは羨ましいと同時に、あんな所で大丈夫かなと心配もしていた。




