絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その19
聖人と称される青年だが、実のところは星人の誤りでもある。
セイントというのは彼の通り名であり、実名は誰も知らない。
そして、その戦力だが、他を圧倒する程と言えた。
傍目には何処かの商社に勤める美男子と言えるが、その実態は、途方もない力を持つ者である。
ジリジリと、二人の間合いが詰まる。
ただ、何方も仕掛けようとはしなかった。
だからか、青年がクスッと笑う。
「どうされました? 以前の貴方なら、もっと突っ掛かって来たのに」
軽い挑発だが、良もフンと鼻を唸らせる。
『あんときゃエライ目に遭ったからな』
以前にも、セイントと拳を交えたが、その際には苦もなく倒されて居た。
圧倒的な戦力差は、如何ともし難い。
かと言って、どうすれば勝てるかと自分に問い掛けても、答えは出ている。
バカ正直に仕掛けたとして、勝てる保証など無いのだ。
寧ろ、この場で降参するか、サッサと逃げ出す方から余程正しい。
では何故、そうしないのか。
答え単純に【したくないから】である。
意地を張っているだけと言われれば、間違い無い。
ソレが如何に馬鹿げて居ても、譲りたくなかった。
でなければ、当の昔に良は同じ顔の自分と同じ事をしていただろう。
自分の意思など投げ捨て、柔順に成れば楽かも知れないが、同時に恐ろしい未来が浮かぶ。
部下を使い捨てにし、言われるがままに誰かを殺す。
ソレは、良に取っては有り難く無い未来と言えた。
『ところでよ、ソッチも仕掛けて来ねぇじゃねぇか?』
「言った筈ですよね? 不本意ながら……と」
お互いに、実のところは【戦う理由】が無い。
今こうして居るのは、価値観の違いからである。
「ですがね、もしまた貴方が向こうと戦って居なくなるぐらいなら、私が止めたいんですよ、首領」
『ビッグなお世話だぜ、宇宙人』
互いの意見は噛み合わず、噛み合わない歯車は、ぶつかるしかなかった。
先に動いたのは、青年である。
傍目には細見の彼だが、見た目と動きは見合っていない。
人間の目では追いきれない程の速さにて、迫る。
それでも、良には見えていた。
改造されたからという事も在るが、以前にも増して見える。
掴み掛かる腕を、逆に掴み背負い投げの体勢に入った。
腕の力だけでなく、全身を生かす。
『せい、や!!』
上半身を丸めつつ、その際に突き出る腰で青年の身体を払う。
今まで、何人もの怪人や敵を放った。
ただ、この時は違う。
ドンと当たった筈なのだが、青年の身体をは宙に浮くどころか、根でも生えたかの如く動かない。
『……冗談だろ』
嘘だと信じたいが、嘘ではない。
それどころか、青年は自らの掴まれている腕を振って、文字通り良を放った。
普通の人間でも、空き箱程度なら放り投げるのは難しい事ではない。
かの青年は、重い筈の良をポイと放り投げていた。
転がりつつも、サッと立ち上がる。
今の一合だけでも、戦力差を示すには十分と言えるだろう。
「さて首領、どうします?」
仕掛けて来ない所を見る限り、青年は良に降伏を促して居るのは明白であった。
投げ掛けられる声に、兜から漏れる目の光が窄まる。
考えて見れば、これ程馬鹿げた話は無いだろう。
世界の裏側や、真首領など忘れ頭を下げさえすれば、全てが終わる。
もはや戦う事など無く、理想の生活が待っていた。
セイントの忠告通りにしたならば、何か起こるのか、想像に難くない。
圧倒的な資金さえされば、不可能な方が少ないと言える。
何処かの島を買い取るなり、はたまた、大きな船を自分専用にも出来る。
事実、そうした贅沢を極めた人間は多い。
溢れる資金を活用し、更に増やせば、もはや怖い者など居なくなる。
仮に、あの四人に拘らず、別の誰かを飼う事すら可能であった。
想像すれば、其処は正に人の理想郷だろう。
空想現実問わず、数多くの美女に囲まれ、贅沢三昧の日々に溺れる。
何をしようが、誰に咎められる事も無い。
但し、ソレは良が望む理想ではなかった。
カッと、兜から漏れる光が強まり、良が立ち上がる。
『俺ぁ、とんだ大馬鹿なんだろうな』
ポンと出される良の声に、青年が目を丸くした。
『あんたの言う通り、大人しく尻尾振ってりゃ、こんな楽な話はねぇんだろうよ。 ソレこそ、意地張ってる方がよっぽど惨めさ』
そう言うと、バサッと音を立てて外套を翻る。
落ちていた布が、風に揺れた。
そうすると、異界の自分が思い出される。
本来ならば、あの篠原良にせよ、上手い遣り方は幾らでも在った筈である。
力を見せつけ権力者に取り入れば、ソレこそ魔王等と呼ばれず、英雄としての扱いを受けていたかも知れない。
奴隷の開放などしたところで、世界は変わらないのだから。
そうすれば、異界ではリサは今でも生きていた可能性は在る。
事実、良達が現れなければ、あの篠原良は腕と脚を無くしたままに終わっただろう。
『でもよ、嫌なんだよな。 俺がやってる事は正しいか間違いなのか、んな事は知ったこっちゃない』
そう言うと【間違い続けた自分】が思い浮かぶ。
果ての宇宙にて、何もしなくなった姿が。
『どうせ一回こっきりの人生さ、意地を通させて貰うぜ』
構えを取り直す良に、青年は、寂しそうに笑った。
「ホントに、馬鹿だと思いますよ」
言葉ではそう言うが、決してセイントは良をバカにしては居なかった。
寧ろ、何か尊いモノを見る様な目線を向ける。
死んでいないだけで、生きていない眼ならば幾らでも見ていた。
意地を張ることは、生きようと足掻く姿でも在る。
そうした者達を、セイントは地球人の為と多く屠って来た。
この時もまた、両腕をガッキとバッテン型に構える。
『……デュヤァ!!』
今までの声とは違い、腹の底から響く様な声を出すセイント。
まるでその声を合図に、組み合った腕から怪し気な色の光線が放たれた。
『ぬぁ!?』
以前にも、同じ怪光線を受けた事は在るが、やはりとんでもない熱量が在った。
戦車砲の如く、弾き飛ばすというよりも、光線の熱に由って相手を溶かすか蒸発させようとする。
受け止める為に、良も腕を構えるが、当たった所から激しい光が散った。
一見冗談にも見える光景なのだが、実際に受けている良からすれば堪ったものではない。
腕だけでなく、全身を溶鉱炉にでも叩き込まれた錯覚すら感じる程に、光線は熱かった。
『友よ!! もう止めろ!! 装甲が保った所で、中身が焼けるぞ!!』
今まで静かにしていたエイトだが、流石に我慢が出来なかったのだろう。
その指摘だが的確とも言えた。
生卵にしても、湯に入れられても殻は其処まで変化はしない。
だが、中身はそうも行かなかった。
卵ならば、茹で卵に成るだけだが、今の所、良はそうなり掛けていた。
いっその事、防御を解いてはどうかとも思う。
改造超人とはいえ、不死身では無い。
中身が焼ければ、殻が残るだけで有る。 そんな姿も、良は既に見ていた。
最期まで戦い抜き、終わった自分の姿も。
『とんだ大馬鹿だぜ……茹で卵ってのは、こんな気分なのかもな』
永遠に続くかとも想われた光線だが、それが止む。
時間にすれば、ほんの数秒間だろうが、良はもっと長くかんじていた。
光線は止むが、良は動かない。
それどころか、その場へとどうと倒れた。
『やっべー……バッテリー……切れちまったな』
超人の細胞を受け継いたとはいえ、現時点での良はまだ機械の部分が多く、ソレを動かすは蓄電が要る。
光線の凄まじい熱に対して、体内の放熱機が蓄電を使い果たして居た。
対して、青年はと言えば、涼しい顔である。
袖は見る影も無くボロボロだが、其処からは黒と白の地肌が覗いていた。
「首領……解ってください。 私は、貴方を止めたいんです」
何とか一言でも言い返してやりたい良ではあるが、動けないのではそれもままならない。
ズシャリと足音を立てて、青年が良へと近付く。
もはや良が動けない以上、煮るなり焼くなりどうとでも出来る。
ソレこそ、腕や脚を破壊し、戦闘不能にさせる事も。
もはや抵抗も出来ない良へと近付く青年だが、ふと、背を後ろへと反らす。
直ぐ様、顔が在ったで在ろう場所を岩が飛んで行った。
「おやおや……起こしちゃいましたかね?」
戯けて見せる青年の目線の先には、現れる姿が四つ。
モンハナシャコ女に虎女、ピンクレンジャーに魔法少女と、その出で立ちは派手の一言だった。
「起こしちゃいました、じゃあないでしょうが」
『セイント……貴様』
声色は落ち着いてこそ居るが、怒りを隠せていない大幹部。
対して、横の小柄な二人もまた、青年を睨む。
『……良さん!?』
「全くぅ……どうしていつも独りでいっちゃうかなぁ」
慌てるリサに、フゥと息を吐く愛。
四人のおどろおどろしい声は、良にも聴こえる。
『おい、エイト……』
今更だが、誰かを四人を呼び寄せたかは問う迄も無い。
だからか、理由欲しがる良に、耳がチリチリとした。
『すまない、友よ。 君は怒るだろうが……』
如何にも申し訳無いという声に、良の鼻が唸る。
『全くだぜ……喧嘩に、女巻き込むなんてのはよ、男のやることじゃねぇんだが……』
強がりこそすれども、今の良は動けない。
それどころか、仮に四人が参戦したところで、セイントに勝てるかと言えば難しい。
だからこそ、良の鼻は唸っていた。
思惑がどうであれ、良を庇う様に立つ四人に、青年は息を吐くと眉をハの字にして見せる。
「……怖いなぁ……そんなに睨まないでくださいよ」
怯えた風である。 だがソレだけでも在った。




