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世界征服、はじめました  作者: enforcer
絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!!
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絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その18


 胃が無い筈なのだが、腹が満ちる。 そんな感覚を、良は味わっていた。


 袋の中の紙ナプキンにて、口と指を拭う。

 特に凝ったチーズバーガーではなかったが、まるでフルコースか満漢全席でも食べたかの様な満足であった。


「あぁ、食った食った……どんだけ振りかな、こんなのは」


 そう言うと、良は青年の方を見た。


「なぁ、買って来て貰っといて云うのも何だか、わざわざ俺の為にハンバーガーをデリバリーしに来てくれた訳じゃないよな?」


 思った事そのままを告げると、青年は頷いた。


「まぁ、そりゃあそうですね。 出前に関して言えば、ついでみたいなものですから」


 やはりと言うべきか、わざわざ強大な力を持つ青年が出前だけに来たとは思えない。

 ならば、何か別の要件が無ければ来る意味が無いだろう。


「んじゃ、まぁ、ついでじゃない方を聞かせてくれるか?」


 良の声に、青年はスッと息を吸い込むと、長く吐いた。


「首領。 今食べた事でお解りになると思いますが、どうでした?」


 ポンと出された質問に、良が鼻を唸らせる。


「え? あ、うん、たいへん、美味しゅう御座いましたけど?」

「味に付いては別にどうでも良いんですがね、食べる事以外も出来そうですよね? 昼寝とか、性行為とか」


 言われて見れば、思い当たる事は在った。

 俗に言う三大欲求【食欲】【睡眠欲】【性欲】である。

 生き物で有れば、何に由らず備わっている喰う寝る増えるという本能。


 その三つとは無縁の筈の改造人間と、今の良は少しだけ違いが在った。

 寝ると喰うは、既に済ませた。 後は、一つだけだった。


「ん〜……まぁ、な」


 試したくないと言えば、嘘になってしまう。

 寧ろ、思い出したからこそ、良の胸の奥を弾ませていた。

 当の昔に無くした筈の心臓が、脈打つ様な錯覚が在る。


「……って、おい! まさか、そんな事言いに来たのか!?」


 すわ青年まで、壮年の様な事を言い出すのではないかと焦るが、実際にはセイントは何とも言えない顔を見せていた。

 口元には笑みが在るが、茶化すモノではなく、寧ろ憐れみに近い。


「首領、どうでしょうか? 向こうの申し出を受け入れては?」

「……あん?」

 

 青年の言葉に、良は眉を潜めた。


「あれ、急になんか入れたから耳がおかしく成っちまったかな? 今なんか、俺に降参しろって言われた気がしたんだが」


 新しいモノのせいで、万が一不調という事は往々にして起こる。

 だからこそ、先ずは自分を疑う良に、青年はフゥと息を吐く。


「その通りです。 言葉は悪いのですが、軍門に降っては如何かと」


 友人の具申と言えど、聞けぬ事もある。


「なぁ、なんでだ?」


 今の所、一度は敗北を期しては居る。

 だが、ソレは味方の損害を恐れたからだった。


 良自身に関して言えば、仕方なく引き下がっただけなのだ。

 言葉を受け入れようとしない良に、青年は顔を向ける。


「首領、私達が調べた所、あの篠原良ですが、一応は人の為に成っては居ます」


 青年の言葉に付いては、良も知っては居た。

 無論、その裏で何が行われて居るのか全容は解明出来ていないが、多少は世の中を変えたとも言える。


「新技術を公開し、政治の腐敗を削ぎ、世界の貧富を無くそうとして居る」

「ほぉん? そら立派だぜ。 だがよ、裏でゴチャゴチャやってそうだろ?」

 

 気のない良の相槌に、青年は苦く笑った。


「ソレに付いては、同じじゃないですか? 誰が支配管理するにせよ」

「お?」

「今も昔も、恐らくは此れからも、裏側の腐敗は消えないでしょうね。 事実として、幾ら新しい技術が産まれても、人は変わりませんでしたから」


 青年の言わんとして居る事に付いては、良でも解る。


 人間の進化自体は、実の所、石器時代で終わっていた。

 

 無論の事、技術(テクノロジー)は格段に進歩しても、ソレを使う人間自体は大して変化をしていない。


「新しい技術を幾ら創ろうとも、人はソレを過去の棍棒か石のナイフと同様にしか使えない。 仮に言語を一つに統一しても、やはり変わらないでしょう。 恐らくは、滅びるまで人は変わろうとはしないでしょうね。 だったら、せめてマシな方を選ぶべきではないか、と」


 語られる持論に、良はフンと鼻を鳴らした。


「で? 俺にどうしろってんだ?」

「別に、何も」

「あん? 何もすんなってのか?」


 良の驚く声に、青年は頷く。


「考えて見てください。 貴方には今や無限の可能性が在り、向こうの申し出を受け容れれば使え切れない金が入って来るでしょう?」


 そんな指摘は、間違いではなかった。

 同じ顔の篠原良は、良が千兆という額を提示しても、寧ろ少ないと驚いていた。


 ソレが可能なのは、あの篠原良は世界の銀行を既に手中に収めている証明だった。

 国家の通貨を発行するのが銀行である以上、実のところはほぼ無限に印刷は可能なのだ。

 その材料には限界が在るというだけである。


 加えて、情報としての資産ならば、数字が許す限り無限に増やせる。

 厳密に言えば、其処には制限など無いのだ。


 単に、通帳に数字が並べられるだけである。


 そうは言っても、現行の社会では数字が全てとも言えた。

 ソレさえ在れば、何をするにせよ苦労はしない。

 

 仮に何処かの島を買い取り、潤沢な資金を用いて改造し、のんびり暮らすという事まで可能だった。


 誰もが思い描きはすれど、実現出来そうもない夢。

 其処で、良は思うままに過ごせるという可能性が在った。


 魅力的でないと言えば、嘘になる。

 

 ただ、同時に見えるのは首輪を嵌められた自分であった。


 飼い主が誰にせよ、愛玩動物と成れば可愛がって貰えはする。

 野生に比べ、人に飼われる動物の寿命は数倍という事が何よりの証明だろう。

 

 雨風に怯えず、飲食に困らず、怪我や病気には直ぐに治療が施される。

 但し、ソレは生殺与奪の権利の相手に与えるに他ならない。


 贅沢と自由は違う。


 自由に振る舞うという事は、その責任全てが自分に降り掛かる。

 何かに縛られぬ代わり、ありとあらゆる困難が待っていた。


 そして、良が選びたいのは後者である。


「あ~、確かに、実に魅力的なんだけどよ……俺はさ、別にペットに成りてぇ訳じゃねんだわ」 


 敢えて良が愛玩動物(ペット)と言うのは、別の自分を見たからである。

 

 自己を捨てて、他者に委ねる。

 ある意味では、奴隷ではなく家畜の域であった。


「第一、真首領ってのがナニモンか知らねぇが、野良には野良の意地ってのがあんのさ」


 今や宿無しの身である。

 だからこそ、取り戻したい訳だが、首輪が欲しいとは良は思えなかった。


「そうですか……どうしたら良いんでしょうね? 私も友人も、貴方には居なくなって欲しくないんですが」

「解ってんだろ? あんただって、元は悪の組織に身を置いてたんだ」


 良は、グッと拳を突き出す。


「俺を従わせたいってんなら……やり方は、知ってる筈だぜ」

 

 そんな声に、青年はポケットから手を出した。


「仕方ありませんね。 私も、その方法は嫌いじゃ在りません」


 言いながら、周りを見渡す。


「ただ、此処では狭く、寝ている皆を起こしたく在りませんので、表に出ましょ」

「ま、一応はもう表だけどな」


 喧嘩を始めそうな割には、軽口を叩き合う。

 ソレはある意味、良と青年の関係を現して居た。


   ✱


 宿泊所モーテルから離れる事、数キロ。

 其処まで離れれば、銃声はおろか砲声ですら届かない。


 ろくに草も生えない荒野にて、二人は対峙していた。


「殺したい訳じゃないんです。 ただ、少しだけ、動けない様にさせて貰いますよ」

「抜かせ、前は負けたが、今度はどうかな?」


 強がる良だが、その耳の奥では、エイトが激しくがなっていた。


『正気か友よ!? セイントと一騎打ちだと? 蟻が戦車と戦う様なモノだ!!』


 そんな声は、間違いではない。

 実際、良は以前にも拳を交えたが、その際は赤子の手をひねるが如く負けていた。


「……るっせぇな、んな事ぁわあってんよ。 だがよ、やって見なきゃ解んねぇだろうに?」


 旗から見れば、独り言を呟いて居るだけである。

 だからか、青年が首を傾げていた。


「あの、誰と喋っているんです?」


 いきなり何かを言い出した事を訝しむ声に、良は軽く胸板を叩いた。


「すんげー力を持ってても見えねぇだろ? 何と俺様には、守護天使が付いてんのさ」


 実際には、単なる強がりに過ぎない。

 エイトは電子の妖精とも言えるが、出来る事には限りが在った。


『馬鹿か君は!? 現状では私は何も支援出来ないんだぞ!? いや、するにしてもだな……』

 

 必死な訴えだが、ソレは良にしか聴こえない。  


「おうおう、なんと、天使は頑張れって言ってるぜ」


 良の強がりに、青年は静かに笑う。


「そうですか。 まぁ、なるべく早く済ませますから。 友人を苦しめるのは、本意では在りませんし」


 青年が構えを取るのに対して、良も構えを取る。

 左手を右肩に向かって伸ばす。


「変……」

 

 伸ばして居た左腕を一気に巻き戻しつつ、今度は逆に右手を左肩へと向かって伸ばした。


「……身」


 起動動作を終えた途端に、良の全身がカッと光る。

 本来ならば、目眩ましの効果がある筈だが、青年は瞬きすらしなかった。


 改造超人と成った良の背中に、赤い布がバッと広がる。

【不撓不屈】の四文字が月の明かりに照らされた。


 以前とは少しだけ違う良の姿に、青年が目を丸くする。


「あれ? そのマントどうされたんです?」

『お? まぁ、チョイとした贈り物でな、格好いいだろ』


 自慢げな良に、軽い笑いが返ってくる。


「貴方らしいと想いますよ……」


 そう言う声と共に、整った顔立ちから笑みが消えた。

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