絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その17
寝ている間、人の意識は世界から離れる。
記憶の整理の為、脳の休息の為に、死の模擬体験。
果たして、そのどれが正しいかは解らないが、良は、妙な何かを見ていた。
ソレがなんなのか、解らない。
何となく、朧気に想うのは、此処は何処なのだろうという事だった。
「あっるぇ? 俺は、なんかしてた様な……」
思い出そうとはするものの、出て来ない。
ただ、何処かの草原で佇むのは見えた。
「何処だ、此処は?」
そんな事を呟く良だが、直ぐ横を、小さい誰かが駆けていく。
背丈から、幼子なのは解るが、その髪は白い。
以前に何処かで見たようなと感じながらも、見送る。
目で追う訳だが、ふと、幼子の行く先に立っている姿に気付いた。
見て見れば、寄り添う様にと立つ二人の男女。
「はしゃぐのは良いが、転ぶなよ?」
父親だろうか、そんな声を掛けるのだが、まだ走り慣れて居ないらしく、転ぶ。
慌てて母親らしい女性が駆け寄ろうとするのを、父親が手で抑えていた。
母親を抑えた父親が、ソっと子供の前に膝を着く。
手を貸すのかと言えば、ソレは違う。
「ほれ、立てるだろ?」
敢えて手を貸さないのは【自分で立て】という意味が含まれていた。
父親らしい声に、子供は立ち上がる。
ソレを見届けてから、ようやく父親が子に手を伸ばした。
嬉しそうに笑うと、ワシャワシャと白い頭を撫でる。
「そうだ、それで良い」
見ている分には、大した事でもないようだが、そんな光景は、良に取って何かを感じさせた。
「なぁ、クラウディア」
妻の名を呼ぶ訳だが、その名前は、良にも憶えが在った。
✱
「……ん?」
目を開けると、どうやら寝かされて居たらしいと気付く。
ソっと身を起こすと、良は何処かの部屋に居た。
記憶の整理を始めると、自分達が宿泊所に来たことを思い出す。
「あぁ、そういや……そうだったな」
場所が解ると、次は状況が知りたくなる。
その際、先程見ていた夢を忘れたが、ソレを気にしている暇が無い。
「よう、エイト」
耳に手を当て、声を掛ける。 程なく、耳がチリチリとした。
『ようやく気が付いたか、友よ。 心配してたんだぞ?』
顔は見えないが、声だけでもムッとして居るのが伝わる。
「悪かった……で、俺は、何だって此処に?」
『何処から説明すべきか。 友よ、君は、あの餅型超人から細胞の一部を君の生体組織に組み込まれ、気絶していたんだ』
餅田は好きであの格好をしている訳ではない。
余りに多くの人の記憶と、様々な生体の細胞が組み合わされ、形が保てないのだ。
その外見が奇怪でないのは、本人がなるべく当たり障り無い様にと努めているからである。
ソレよりも、良は思わず自分の胸に手を当てる。
移植されたのは知っているが、実感としては余り変化を感じない。
「で、俺は、どうなったんだ?」
解らない以上、尋ねるしかない。
良の質問に、耳の奥でフゥムと唸りが響いた。
『専門的な設備が無いのでな、とりあえず、解る範囲で説明すると、今の君は、改造超人と言うべき所かな?』
ポンと言われたが、良は首を傾げる。
「ほぉん? でもよう、そんな気はしねぇけどなぁ?」
『ソレはそうだろう、現状、君の身体の殆どは機械なんだ』
改めて云われると、中々に来るモノが在った。
解ったこそ居るのだが、否が応でも思い出してしまう。
「そういや、そうなんだよな」
苦く笑う良に、ウンと鼻を鳴らすのが聞こえる。
『友よ、君だから気兼ねなく云うが、今の君は以前とは違うんだ』
「いや、違うっていわれてもな」
『現状で解るのは、今、君の生体組織が少しずつだが広がり始めているという点だろう』
エイトの説明に、良は思わず手を見る。
握ったり開いたり、思いのままに動かせるのは変わらない。
「そっかぁ、でもよ、どうなるんだ?」
『友よ、今の私は君の中に居候させて貰ってるだけなんだ。 だから、解る事には限りが在る。 ただ……』
「ただ? なんだよ、勿体ぶる事ないぜ」
『私が教えなくとも、解ると想うが』
程なく、良の胃の辺りがグゥと鳴った。
腹の奥に、ポッカリと穴が空いた様な感覚。
ソレは、だいぶ前に忘れていた感覚である。
「……そうか、腹、空いたのか」
『そうだな、元来人間の空腹感とは血中の糖分が少なくなる事に起因するが、君の場合も似たようなモノではある』
「ん〜、まぁ、アレだ……なんかねぇかなぁ?」
思い出してしまうと、途端に【食物】が欲しくなった。
以前に、カンナと相談した際には、アレやこれやと考えたものだが、いざとなると何でも良く思えてしまう。
「そういや、彼奴等は?」
『うん? ソレは組織全体か、それとも、あの四人かな?』
「言わすなよ」
良がボソリと云うと、クスクスと言った笑いが聴こえた。
『まぁ、掻い摘んで話すとだね、君が起きる迄、見守れるかと競い合っていたんだ。 だが、途中でアナスタシアとカンナも我慢仕切れなかったのだろう、私もアタシもと、餅田に頼んでいたよ』
思わず、四人の様が目に浮かぶ。
騒がしいのは勿論、どんなやり取りが在ったのかも。
更に、残った愛とリサにせよ、二人共に譲る性格をしていない。
加えて、酔っぱらいだからか寝落ちし、運ばれて行く事は想像に難くなかった。
微笑ましくも在るが、ソレよりも、今の良を動かすのは空腹感である。
腹が減っては何とやらで、良は部屋を出て行った。
✱
充てがわれた個室を出て見ると、既に宴会は終わっているらしく、辺りに在るのは夜の静寂である。
すっかりと片付けも済まされて居り、食物の気配が無い。
思わず、腹を手で擦りながら鼻を唸らせる。
「参ったなぁ……こんなに成るなら喰っときゃ良かったぜ」
宴会の間、良が口にしたのはビールを少しだけであった。
思い出してしまうと、無性に食べたくなる。
空きっ腹を抱えるという表現は在るが、その通りであった。
「な、エイト……近場に、コンビニとか、なんかねぇかな?」
この際、贅沢は言って居られない。
かくなる上は自分の脚で買い物に行こうと決める。
『友よ。 残念だが、此処から周辺数十キロ以内に店は無いんだ』
「うそ、マジかよ~」
守護天使の御言葉とは言え、その言葉に良は衝撃を覚えた。
生涯に置いて【ガ~ン】と言った感覚を覚えたのは初めてである。
力が抜けたからか、思わずその場で座り込んだ良。
『友よ、今の所は君の身体は駆動して居るから、歩いて行こうとすれば出来る筈だが』
エイトの言う通り、今の良は改造超人である。 動こうとすれば動けなくはない。
ただ、不思議なモノで腹が空いているという感覚は気力を削がれてしまう。
「いやまぁ、そんな気はするんだがなぁ」
如何に守護天使と言えども、何でも出来る訳ではなかった。
無論、出前の注文程度ならば可能ではある。
但し、注文した品がいつ届くのか定かではない。
悩む良の耳に、ストンと何かが降り立つ音が響いた。
バッと立ち上がり、身構えるが、其処には立っていたのは見知った顔である。
「あんた、セイント」
「や、お久しぶりですね、首領」
軽い声を掛けて来たのは、若い青年である。
但し、彼が何者かと言えば、地球人ではなく宇宙人だ。
今では組織には席を置いてこそ居ないものの、以前は大幹部の一人であった。
「あんた、いったい……」
何事かと訝しむ良だが、顔立ちの整った青年は軽く笑うと、持参したらしい紙袋を差し出してくる。
「ソレは、こちらの台詞かと。 半年もの間、何処へ行ってたんです?」
言われて見れば当たり前だが、誰に言う暇も無く、世界から放り出されていたのだ。
「何処かぁ、何処なんだろうな?」
異界が何処に在るのか、そんな事は良には見当も付かない。
もしかしたら、別の自分に尋ねれば答えが見付かるやも知れないが、ソレこそ今更であった。
「ま、とりあえず……お土産です、冷めない内にどうぞ」
「うっす」
何を差し置いても、空腹感には勝てないものである。
渡された紙袋を開けてみると、中には包装紙に包まれたハンバーガーが入っていた。
「おぉ、こりゃたまらん……てか、わざわざ買って来てくれたか?」
「えぇまぁ、頼まれたので」
果たして、誰が青年に買い物を頼んだのか。
加えて、今の時点で良が空腹なのを知っているのか。
疑問は尽きないが、ソレよりもと、包みを一つ取っていた。
開いて見れば解る。 中身は、チーズバーガー。
それ自体は、大して特別なモノではない。
何処かの街にフラッと立ち寄れば、帰るモノである。
だが、今の良からすれば、とてつもないお宝に見えていた。
「んじゃ、まぁ、早速……いただきま~す」
口を開き、頬張る。
モノの味に付いては、改造された後でも解ったが、今の良に取って、単なる味とは違う意味が在った。
よくよく味わいつつ、飲み込む。
無い筈の胃に、モノが落ちていく感覚は新鮮と言えた。
「……何つんだろうなぁ……」
忘れていた感覚は、妙な郷愁を誘う。
ソっと顔をあげると、良は青年にペコリと頭を下げた。
「ありがとな、手間掛けさせたみたいで」
良の礼に、青年は肩を竦めて見せる。
「恩に着せるって訳ではないのですが、ホントですよ。 わざわざハンバーガー届けるのに、遠くから空飛んで来たんですから」
そんな声に、良はまた手の中のモノを頬張っていた。
「ん〜……美味えなぁ」
モノを食べるという実感は、良が思う以上の充足感を与えてくれた。




