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世界征服、はじめました  作者: enforcer
絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!!
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絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その16


 宴会に誘われた良だが、イマイチ気が乗らなかった。

 と云うのも、宴会と言うよりも、負けたことに対する鬱憤晴らしという側面が強いからである。


 それでも、わざわざ宴会をブチ壊そうとは思わない。


 例え仮初とはいえ、気晴らしが必要な事は解っていた。

 常に戦々恐々と戦いに備える事は出来るが、それではいつか無理が来てしまう。


 そういった恐怖に耐えられず、狂っていく者は珍しく無いのだ。


 だからこそ、良は演じた。 宴会を楽しむ自分を。


   ✱


 飲食いが進めども、無限ではない。

 中には酒がすっかりと回り、呂律が怪しい者も出て来る。

 

「しゅりょ〜、すみません! さきにやすんでもよろしいでしょうか!」


 首領の前で堂々と戦闘員が酔っ払うなど、本来ならば処刑モノである。

 とはいえ、当の首領である良が問題視しなければ不問である。


「おう、ちょっと誰か、肩貸してやってな」

「は! おまかせを!」


 酔いの浅い者が、同僚を助ける。

 悪の組織と言うよりも、何処かの大学の交流会といった光景であった。


 そして、場が場だけに、別の酔っぱらいが現れてしまう。


「篠原さぁん」


 若干間延びした声に、良が振り向くと、其処には目の座った川村愛がフラフラとしていた。


「え? 川村さん、もしかして呑んじゃった?」

「呑んじゃいけないんですかぁ?」


 用意されていたモノの中には、カクテルといった度数が高くとも飲み易い種類が在ったのだろう。

 傍目には何かのジュースや清涼飲料と区別が難しい物もある。

 

 もしくは、彼女が確信犯で呑んで居たかも知れないが、全ては確かめようが無い。


「いゃ、まぁ、えぇと、な、なんつーかなぁ」


 散々アチラコチラに引っ張り回したのは他でもない良である。

 今更、愛に【お酒は駄目です】とは言えなかった。

 常識在る人間ならば、或いは愛を嗜めるかも知れないが、生憎と篠原良は悪の首領である。


 今更、法がどうのこうの言い出しても始まらない。


 どうしたものかと悩む良に、愛が詰め寄った。  


「ね、篠原さん、わたし、思うんですよ」

「えーと?」

「篠原さんは、酔わないですよねぇ?」


 今更な質問であった。

 改造人間は擬態の為に飲食いこそ出来るが胃や腸といった内臓機関は無い。

 だからこそ、人間ならば致死量のアルコールを摂取しても、素面のままである。


「うん、まぁ、な」


 苦く笑う良の腕を、愛が捕まえた。


「お? ちょっと、なんだ」


 慌てる良に、ニヤリとした笑いを向けられる。


「今日という今日は、逃しませんからぁ」


 そう言うと、愛は会場に居るであろう餅へと目を向ける。


「餅田さん? 餅田さぁんってば!? おい、餅田ぁ!!」 


 酔い為か普段はしないであろう言葉遣いも持さない。

 そんな声に、すっかり全身が桃色へと変わった餅田がズルズルと近付いて来た。


「なんや、川村はん。 えろうおっかない声に出してからに、若い娘がそないな声出したらあきまへん」 


 餅田も酔っ払うのか、いつもの饅頭型ではなく、パンケーキの如く身体が平たく成っている。

 何とも言えない光景だが、愛はそんな些細な事は気にせず、ジロッとした目を向けた。


「この前と、おんなじ事してあげて!」

「おん? こん前? 何やったかな?」

「もぅ! 見た目がお餅なら脳みそまで餅に成っちゃったの!? ほら、あの別の篠原さんだよ!」


 脳みそがお餅云々はともかくも、少女が言わんとして居る事を餅田も思い出していた。


「あぁ、せやせや、あんの渋い篠原はんなぁ!」


 異界で見た、歴戦の猛者といった風貌を忘れては居ない。


「そうそ! だからさ、あの時と同じ様にしてあげてよ!」

「はぁはぁ、そら、ワテも腹一杯なんでまぁ、ええですけど」


 酔っぱらいの勢いとは、恐ろしいモノがある。

 普段ならば、思い付かない様な突拍子もない事だろうと出来てしまうからだ。


 餅田の了承を得たからか、愛はチラリと目を向ける。

 其処には、椅子に座ってコップを傾けるリサが居た。


「ね! リサ! 良いよね!」


 愛の声に、良はハッとした。

 かの聡明な博士ならば、或いは酔っぱらい共を止めてくれるのではないかと。

 だが、良はある事を失念して居る。

 高橋リサもまた、生身の人間なのだ。


 呼ばれたからか、トンと持っていたコップを置くリサ。

 スッと顔が上がるが、彼女の目もまた、座っていた。  


「良いんじゃないですかぁ?」


 組織の頭脳とも呼べる存在の筈だが、どうやら酒がその理性を宇宙彼方へと放棄したらしい。

 全く調べもせずに【構わん】と言ってのけている。


 こうなると、実験材料である良からすれば堪らない。


「オイ待て、この前に言ってただろ? ろくに調べもせずに、何かしたら解らないってな」


 素面である以上、良は何とか事態から脱出せんと画策した。

 しかしながら、酔っぱらいからすれば、細かい事など頭から抜け落ちている。


「じゃあ、試せば良いじゃないですか」


 全く持って無責任なリサだが、実のところ当たり前なのだ。

 元々彼女は悪の組織にて、人間を改造していた。

 良が加入して以来、だいぶ変わったとはいえ、その本質は消えた訳ではない。


「ほら! アナスタシアもカンナも、手伝って!」


 業を煮やしたからか、愛は大幹部を平然と呼び付ける。

 ただ、良からすれば光明に見えなくもない。


 女患部と虎女は、良と同じく改造人間である。


 つまり、二人は素面であり、何とか酔っぱらいを止めてくれるのではないかと希望を込めた目を向けた。


「そう言えば」「そんな事も在ったよね」


 期待とは全く違う反応を見せる大幹部達。

 寧ろ、彼女達にせよ、興味は在ったのだろう。


【自分の中に、超人細胞を受け入れたなら、どうなるか?】と。


 何せ、忘れては居ても飲食と言った本能に根差す感情は捨て切れて居ない。

 意味が無いからこそ、無理に忘れたフリをして居るだけなのだ。


 こうなると、大幹部達までもが良を抑えに掛かる。


「え、あ、ちょ?」


 改造人間とはいえ、四人掛かりで捕まってしまえば身動きが取れない。

 無論の事、振り払うつもりなら可能だが、それが実行できる性格を良は持っていなかった。


 もはや、まな板の上の魚同然だが、まだ良は諦めて居ない。

 唯一動く首を振って、何かないかと探す。   

  

「あ! ソードマスターさん! ちょっと!!」


 大幹部の一人である剣豪を目に留めた良は、何とか救助を懇願した。

 それに対する反応だが、壮年は静かに首を横へと振る。


「首領、君も男子(おのこ)だろう? 往生際は、弁えねば……な?」


 良の言葉を蹴るだけでなく、ヒョイとグラスを挙げて見せる。

 もはや、この場に良を助けようとする者は居なかった。


 最後の希望すら絶たれたからか、良は全身の力を抜いた。

 見上げれば、灯りが少ない分だけ空に輝く星が見える。


 そんな空は、以前に見た真っ黒で何も無い宇宙(ソラ)とは違っていた。

 

 瞬きの数だけ、ソレは可能性ではないのかと思えて来る。


「……やって見なきゃあなぁ……」


 可能性を放棄した自分に、やって見ろと言った以上、今更吐いた言葉は飲めない。

 更に言えば、背中に背負う【不撓不屈】の四文字が目に浮かぶ。

 

 別の世界に放り出されて【不殺不敗】を背負った自分の姿を、良は忘れては居ない。

 何が在ろうとも、立ち上がる。


 如何なる絶望にも、立ち向かう。


 何かを得る為にも人は戦うが、生きるという事もまた戦いと言えた。

 もしソレを放棄したなら、全てを失った自分が重なる。


 腹が座ったからか、良は顔をあげる。


「おっしゃ、じゃ、やってくれ」


 以前に見た自分に倣い、良はそう言っていた。

 やらずに終わって後悔するぐらいならば、先ずは試す。 


「さいですかぁ、ほんなら、失礼しますわ」


 ピンク色の餅田が、良の体に覆い被さる。


 其処で感じるのは、横で見ているのと、実際にやるという感覚の違いであった。


 身体の各部を開放する事は、整備性の確保の為に容易である。

 何度となく、損傷を負ったことから、リサが良の身体を整備し易い様にと変えていた。


 問題なのは、その先である。


「んぁ〜、こん前も見さしてもろうたけど、やっぱり篠原はんの中身はゴチャゴチャしとんなぁ」


 元から不定形である餅田からすれば、狭い場所でも大した問題でもない。

 但し、入られている方からすれば、正に異様な感覚と言えた。

 痛覚が切られて居るからこそ、痛い、と言うことはない。


 だが、自分ではない何かが身体に入り込むというのは、言い様の無い感覚である。


「んぐぁ、こら、キツイぜ……」


 何かが身体の中を這い回る。 

 ソレに対して、思わず感想を漏らす良に、餅田が唸った。


「はぁ? 何言うてまんねん。 女が男受け入れるんと比べりゃ、おんなじ様なモンでっせ? 文句言うたらあきまへん」

 

 餅田だが、実のところ男女という概念が無い。

 様々な人間が実験材料として加えられる内に、一つ統合されており、故に、餅田はどちらの意見も言えるのだ。


 そんな声に、思わず良を囲む四人は外方(そっぽ)を向いてしまう。

 何を想像したのかは定かではないが、良にはソレを見る余裕が無かった。


 身体の中を少しずつ 少しずつ、何かが深く深く入り込む。

 ソレが、喉の奥辺りまで広がる。


「あはぁ、在った在った……でと、篠原はん?」

「……なん、だよ……」


 返事を返すだけでも、一苦労である。


「前の篠原はんにも尋ねたんですけど……ええんですか?」


 身体の中を這い回られては、ソレこそ今更である。

 それでも、何とか良は笑った。


「……やってくれ」


 そう頼むと、何かがグンと頭の中へと入り込む。

 思わず、良は意識を手放して居た。

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