絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その14
少女の素朴な疑問だが、説明するだけならば、難しい事はない。
細かい技術的な観点を省けば、良の中に居るエイトがバスを操作していた。
この技術に関しては、現代でも大して珍しくは無いだろう。
製造元が何処で在れ、形状が何であれ、する事は同じと言える。
対話型音声装置といったモノにせよ、同じ様な事が出来る。
【アレをして】や【コレをして】と。
良からすれば、その発展型が体内に在ると言えた。
「うんまぁ、アレだよアレ……ネットとかでも、見たことあんだろ? こうさ、色々云うと、話してくれる……すぴーかー? みたいのがさ、だから、云えば一応は、な」
しどろもどろな説明である。
だが、それでも、云わんとしている事は理解は出来た。
何せその手の商品は、各種の企業が競って商品の開発発展型を世に送り出している。
街角で、偶々見掛けた動画で。
良の説明に、愛はフゥンと鼻を唸らせた。
「え、じゃあ、私がなんかしてって頼んだら、出来ますかね?」
年頃の少女故か、好奇心は旺盛なのだろう。
見知らぬモノに出逢えば、それに興味を持つのも無理はない。
「え? あー、うん、まぁ、出来ると……想うよ……たぶん」
「そうですか、じゃあ、音楽、映画……なんにしようかなぁ」
どうしたモノかと悩む良の見ている前では、愛が腕を組んでウーンも唸る。
在る意味では、良は胸を撫で下ろす事が出来ていた。
少し前に、愛は背中を抉られている。
餅田の治療の甲斐も在り、今では傷を負った事などお首にも出さない。
それだけでも、良にとっては心にのし掛かる重さが緩和される気がした。
*
時間にすれば、数時間は飛んでいただろう。
バスが太平洋を横断するという時点で大分異様だが、今更ソレを気にする様では悪の組織をやって居られない。
以前ならば、船で来た国へと、今度はバスが到達する。
「えーと……橋本さんが云ってたのは……何処かなぁ」
そんな声は、一見すると良の独り言にも周りには聞こえる。
ただ、実のところでは別の意味があった。
自分の中に居るエイトへと話し掛けるのである。
『もう直ぐだ、友よ』
そんな声だが、骨振動技術を利用しているのか周りには漏れでない。
『我々は不法入国という事になるが、何、誰が見て話した所で、信じる者は居ないさ』
もしも、何処かの国に【空飛ぶバス】が急に現れたならどうなるか。
恐らくの所、ソレを見てしまった者は驚くかも知れない。
もしくは、慌てて撮影をするかも知れないが、映像処理の技術が進んだ現代では、先ず信じる者は居ないだろう。
事実として、何人かの子供は、空を悠々と飛ぶ怪しいバスを見送っていた。
*
様々な州を内包する国としても、実情としては空き地だらけである。
基本的には平地で、其処に水が無ければ、幾ら広くとも人は住もうとはしない。
だからこそ、怪しいバスはそんな街から離れた場所に着地をしていた。
周りを見るが、特に何もない。
遙か先にまで伸びる道路は在れども、ソレだけなのだ。
「なんつーか……映画とかじゃよく見るが……マジで何もねーんだな」
険しい山間地でもやはり人は居ないが、何も無くとも人は居ない。
送られて来た座標が正しいのか疑わしいが、程なく、遠くから何かが走ってくるのが見えた。
よくよく目を凝らせば、走ってくるのはバイクであった。
「あらら、ライダー様の参上ってとこかな」
救援の騎馬隊と云いたい所だが、贅沢出来る立場ではない。
ともかくも、近付くバイクがバスの側へと止まった。
ゴーグルを外せば、顔が見える。
「よう、待たせたか?」
橋本の声に、窓を開けて良は少し会釈を返す。
「いやぁ、そんなでもないっすね」
相も変わらず、首領らしさが無い良に、橋本は軽く笑うと、バスを見た。
「しっかしまぁ、何処からこんなモン引っ張って来たんだよ? 税関通んねーだろ」
見慣れた者にすれば、どうという事はないかも知れないが、初見では無理もない。
車体の至る所全てが改造されたバスは、怪しい事この上ないだろう。
「まぁ、それもそうなんですけど」
「おっと、そうだったな。 付いて来てくれ、直ぐ其処だからな」
そう言うと、バイクのエンジンを吹かして動かす橋本。
誰に云われるでなく、バスは勝手に追走を始めていた。
*
直ぐ其処という割には、大分走った気もするが、目的地に着ければ問題は無い。
すっかりと日は落ち、辺りは暗くなるが、ふと見えるモノがある。
光る看板に、大きめな建物。
ソレは所謂、宿泊所であった。
煌びやかなホテルとは違えども、今の組織にすれば闇に輝く光と言えなくもない。
程なく、橋本の案内によって、バスが到着した。
ゾロゾロと降りてくる悪の組織を、橋本は腰に手を当て見守る。
その中でも、代表である良が手を挙げた。
「あー、受付とかは?」
「あぁ、済ませて在る」
どうやら手回しは済んでいるらしい。
ただ、良とは別の手が挙がるが、挙げたのは餅田である。
「あんの~、すんまへんけど、なんか食い物在りまへん?」
「おう、その声は久し振りだぜ。 ま、一応、食事の支度は済ませてあるから、中庭の方へ頼む」
そんな声に、一同は示される方へと目を向けた。
見てみれば【歓迎! 悪の組織御一行様!】という垂れ幕が在った。
文字に関して云えば、配慮の為か日本語である。
異国の宿泊所にて、歓待されるというのも奇妙だが、有り難い事に代わりはない。
「はぁ、随分とまぁ、手回しが良いんすね?」
疑っているという訳ではない。
ただ、橋本一人が其処まで何もかも段取りが出来るのかと云えば難しい。
彼もまた、改造人間では在れども、細かい事が得意という質ではなかった筈である。
良の声に、橋本は苦く笑う。
「ま、とりあえず食いながらでも良いから話そうや」
促された良は、組織の面々に目を向ける。
「あー、みんな、と云う事なので、各自お願いしま~す」
指示と言うよりは、何処かの旅行の引率者の様な良。
それでも、組織の面々からは「首領万歳!」の声が上がっていた。
*
さて、用意されていたというモノだが、パッと見では【バーベキュー大会】と言えた。
炭火が燃えるグリルに、立食用のテーブルの上には各種の料理から、焼く前の素材が皿に盛られている。
有り難いと云う事は嘘ではない。 わざわざ誰かが用意してくれたのだ。
問題なのは【誰かそうしたのか?】である。
「スッゴい! どれにしようかな!」
「もうわてたまりまへんわ、早速頂かせて貰いまっせ!」
健啖家な少女と、組織一番の大食い故か、猛然と進み出る川村愛と餅田。
そんな二人に、戦闘員達も続く。
端から見れば、突撃を仕掛けている様に見えなくもないが、強ち間違いでもない。
直火で何かを焼く、という事にさして難しい事はない。
各々が各自が好きな様に焼いて食べれば良いのだ。
戦闘員達が早速とばかりに食事を始める中、良は橋本から瓶のビールを受け取る。
「ほいよ」
「うっす」
本来ならば、栓抜きを用いるべきだろうが、改造人間にはその必要は無い。
指に力を入れれば、蓋など簡単に開けられる。
寧ろ、瓶を粉砕しない様に力加減に気を付けていた。
「で、さっきの続きなんすけどね」
良の声に、橋本はビールを一口含む。
別に一気飲みをしても良いのだが、あくまで場の空気に合わせているだけだった。
「おう、こんな宴会、誰が用意したのかってんだろ?」
「えぇ、まぁ」
問われた事に、苦笑いが浮かぶ。
「勿論、俺じゃあないぜ? こんな手配だの予約だの、よっぽど手間賃貰わなきゃな?」
そんな説明は当たり前と言えた。
宿泊所にせよ、宴会の準備にせよ、慈善事業ではない。
対価が支払われるからこそ、人は仕事をしてくれる。
無賃で手間暇掛けられるのは、余程の暇人か、何か別の意義が在る場合だろう。
「じゃあ、誰なんです?」
「ソレなんだが、向こうには向こうの事情が在るんだろうが、云うなってさ」
言葉から察するに、その誰かは【名を知られたくない】という事になる。
そうすると、幾つかの候補が良の頭には浮かんだ。
先ずは、組織の大幹部の一人、剣豪だが、本人がこの場に居るのではそれはおかしい。
ではと、次に頭に浮かぶのは、一人の女性である。
厳密に言えば、女性の格好を取っているだけであり、本来の姿は見たこともない。
そしてその誰かと同一の者は、良の中にも居た。
電子の妖精か、科学の幽霊なのか、呼び方は様々だが、それは問題ではない。
「連絡付けろってんなら、無理だぜ? 淡々と向こうから指示が来るだけだからな」
「話してないんすか?」
「いや、少しは話すさ。 ただ、どうやってんのか解んねぇけど、ほぼ一方通行だな」
橋本に指示を飛ばして居たのは、間違い無くこの世界のエイトで在ろう。
その力が何を何処まで出来るのかは未知数ながら、今までも良は助けられている。
但し、以前にエイトからも【着信拒否】をされたと告げられてもいる。
「ところで、篠原」
「はい?」
「コッチの篠原良とは会ったんだよな?」
橋本の質問だが、良からすれば、少しの間は忘れて居たい事と言えた。
無計画に突っ込んでしまった挙げ句、組織に負傷者まで出している。
リサの進言と餅田の奮闘が無ければ、下手をすればこの場には何人かが居なかったという可能性は否めない。
「えぇ、まぁ」
難しい顔を見せる良に、橋本は軽く笑った。
「やっぱり、お前さんが本物らしいぜ」
「どういう意味っすか?」
「お? そいや、まだ帰って来たばっかりだったな……」
多少は調べては見たが、まだまだ解らない事だらけである。
悪の組織が居ない半年間、ソレが良は気になった。
「教えてくれます? 何かあったなら」
問われた橋本はビールを呷った。
「長くなるぞ? なんせ半年だからな」
「良いっすよ、時間なら在りますから」
互いに声を掛け合うと、良と橋本は宴会を眺める。
一見すると、和気あいあいとした楽しい空気が其処には在るが、ソレが仮初めのモノでしかないと良は知っていた。




