絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その12
魔法少女とは言え、その力は変身してこそのモノである。
つまりは、変身が解かれてしまえば、川村愛は単なる少女に過ぎない。
そんな彼女に向かって、拳銃が火を吹いていた。
乾いた破裂音に加えて、飛び散る赤い血が、良の目に否が応でも見える。
強化された神経は、極限まで高まった集中も相まって、僅かの間を長く感じさせた。
バタンと倒れる愛を見ていた良は、思わず走る足を止めていた。
改造人間にされたとは言え、実のところ良には余り能力が無い。
基本的な力こそ増幅されては居ても、ソレだけなのだ。
手から光線も出なければ、口から火も吐けない。
凄まじい何かが起こせる訳でもなく、何かしらの天変地異を起こせる訳でもない。
在るのは、人成らざる膂力だけであった。
そんな良は、愛に拳銃を向けた者へと近寄っていた。
無論の事、相手も慌てて近付く改造人間に拳銃を撃つのだが、改造人間を拳銃で倒せるならば存在意義が無い。
必死に成って撃っていた拳銃だが、弾はあっという間に無くなった。
『ソレで終わりか? おいテメェ、覚悟くらい在るんだろうな』
それだけ云うと、良は遠慮無しに警備員の頭を狙った。
液体装甲は優れた防御策だが、欠点が無い訳ではない。
先ずは装甲その物が如何に衝撃を拡散吸収しようとも、全くのゼロに出来る訳ではなかった。
小銃程度ならば、或いは受け止めてしまうが、果たして、改造人間の大砲の如き拳ならばどうなるか。
だが、良の拳は警備員には当たらず、別の手が止めていた。
『おおっと』
『この野郎!?』
警備員の前に立ち塞がったのは、篠原良であった。
『いっくら安いたってよ、タダじゃねぇんだぜ? そうポンポン殺されたら損だろ?』
軽い声に、良の頭にますます血が登る。
空いている左を打ち込まんとするものの、やはりそれも受け止められた。
色こそ違えども、二人の篠原良の実力は拮抗している。
『ざけんな!?』
『ふざけてなんざ居ねぇさ。 寧ろ、何の策も無しに敵陣に突っ込んでくる脳筋と一緒にすんなよ』
組み合う改造人間二人の後ろでは、それぞれ違う動きが在った。
*
警備員達だが、倒れた仲間を引きずり後退する。
残存の戦力の入れ替えるにせよ、その場に放置は邪魔に成るからだ。
対して、倒れた愛には、姿を変えたリサが駆け寄っていた。
『愛さん!?』
うつ伏せのままで動かない愛を、急ぎ調べる。
見てみれば、派手に血飛沫が飛んだのは、背中の一部が抉られたからだと解った。
不幸中の幸いかも知れない。
良が声を掛けた事に因って、瞬間的に身を捻ったのだろう。
更に、相手が用いたのが拳銃だったという事も、幸運かも知れない。
熟練者が用いれば、恐ろしい武器では在るが、逆に言えば練度が不足している者が扱えば狙いを定めても弾が明後日の方へ飛んでいく事は珍しくは無い。
だからこそ、背中を僅かに抉られただけで済んでいた。
よくよく見れば、愛も苦しげではあれど息をしている。
『愛さん! 引っ張りますから!』
リサの声に、頷くのは解った。
博士も変身出来るのだが、コレは身に着けている腕輪の効果である。
但し、黒い良の放った見えない波に因って、今のところ怪しい意匠のヘルメットと、タイツを纏って居るに過ぎない。
コレに付いては、他の戦闘員達も同じであった。
変身さえすれば、生身にも関わらず改造人間にも匹敵するだけの力が出せる筈。
だが、今やその変身は虚仮威しに過ぎない。
引っ張る愛の重さが解るからこそ、リサは慌てる。
『良さん! 引いてください!』
赤い外套を揺らす良の背に向かって、そう叫んでいた。
*
リサの悲痛な声だが、聞こえては居る。
ただ、かといって簡単には離れられない。
何故ならば、組み合っている自分は全くと云って良い程に同じ性能なのだ。
『よう、ああ云ってるぜ?』
そんな声に、兜からは舌打ちが漏れ出ていた。
『……わぁってる、よ!』
組み合っているとは言え、脚は動かせる。
一瞬膝をたわめて力を溜めてから、一気に前蹴りを見舞った。
腕と脚の力の差は言うまでもない。
組み合っていた手が放され、間合いが開く。
敵に背中を向けるのは、本意ではないが、今は贅沢を云って居られない。
『全員!! バスに戻れ!!』
そんな合図が、悪の組織に伝わった。
戦闘員達を先に車内に逃がしつつ、その周りを首領と大幹部、そして餅田が囲む。
円陣防御と言えば聞こえは良いが、実際には戦略的に追い詰められていた。
「ほら! 貸して!」
リサに手を貸す虎女に続いて、アナスタシアも乗り込む。
『首領!! お早く!』
壮年と餅田が乗り込むのを確認してから、良は自分も同じ形の兜を睨んだ。
『覚えてやがれ! この野郎!!』
捨て台詞とも取れる声に、黒い兜からは、フゥと息が漏れていた。
『コッチの台詞だ、馬鹿やろうが……』
そんな声は、周りで響く小銃の音に覆われて誰にも届かない。
*
バスに乗り込むなり、良は耳に手を当てる。
『エイト!! どうにかなんねぇのか!?』
自分で運転をしても良いが、元々バスを今の姿に変えたのは良に宿るエイトである。
そんな声に、耳の内側から『任せろ』とだけ応えがあった。
小銃で撃たれてもビクともしない時点で、その改造ぶりが窺える。
ただ、改造は装甲を足しただけではない。
車体下部に仕込まれた未来の技術が、僅かに唸り始めていた。
*
警備員達が必死に弾を撃ち込むが、バスには通じない。
多少は塗装を剥がせばするが、ソレだけである。
そして、バスにしてもただ、撃たれているという訳でもなかった。
重い車体が揺れ出したと思われた途端に、その重さを無視するかの如く浮き上がる。
有り得ない光景に、警備員の何人かは撃つ手を止めてしまう。
次の瞬間、垂直離着陸機の如く、バスが飛び去る。
目を疑う様な光景だが、その中でも、一人だけ大して驚いて様子を見せない者も居た。
変身を解いた篠原良である。
鼻からフンと息を漏らすと、周りをチラリと見やる。
後から駆け付けて来た警備員はともかくも、最初に投入された者の中には路上で寝かされて居る者も居た。
やいのやいのと騒がしい中、企業の長に近付く足音。
コツンという独特の音を立てるのは、高めのハイヒールである。
「お疲れ様でした。 社長」
そう言うのは、ビジネススーツに身を固めた妙齢の女性である。
一見する分には場に似つかわしくないが、その顔は、眼鏡を掛けたさせたアナスタシアと相違ない。
「おう、そういや……負傷者とかは?」
問われた秘書と言わんばかりの女性は、チラリと辺りを見渡す。
「死傷者は出て居りません。 ただ、重傷が数名、軽傷者が多数、でしょうか」
簡単な報告に、フーンと鼻が鳴る。
部下が傷付いたというよりも、死者が出ていないかが気になるのだろう。
「そっかぁ、なら、労災で良いかな? 下手に死んでたら、遺族厚生だのが面倒くさいからな」
「はい社長、ではその様に……ソレと、如何でしたか? 新製品の方は」
周りの騒ぎなど目もくれず、話し合う男女。
会話の内容から解るのは、先程の戦いは【新製品の試験】に過ぎないと言う。
「まぁ、向こうはだいぶ手加減してたからなぁ……」
直接見て、手を合わせて居たからこそ、解る事もある。
「……でもまぁ、実地試験としては十分じゃあないか? 良いデモンストレーションに成るだろ? あ、勿論、俺の映像はカットしてな? 一応、顔出してる方としては、あんまり喧嘩好きってのは宜しくない。 世間の皆様に怒られちまう」
掛けられる声に、秘書らしき女はペコリと頭を下げた。
「はい社長。 では、仰せの様に」
指示に対して、私見を挟まない。 ソレは、在る意味では忠実な駒を想わせる。
クルリと踵を返すと、来た時と同様に帰って行く訳だが、そんな魅力的な後ろ姿にも関わらず、出るのは溜め息であった。
「なんだかねぇ……彼奴も昔は、もっとツンツンしてたんだけどなぁ」
僅かの間とは言え、大幹部を見ていたからか、そんな言葉が漏れ出る。
ポスターや映像では、不敵な顔を浮かべるものの、この時は、飛んでいってしまったバスを名残惜しげに眺めていた。
*
バスが飛ぶという光景も非日常ながら、その車内では別の騒ぎが起こっていた。
「愛さん! しっかり!」
背中の傷口を抑えるリサの声に、抑えられる痛みに愛が呻いた。
「なんか……スッゴく……痛い」
口が利ける分、背中の傷は致命的ではない。
ただ、走る痛みに愛の額からは汗が滝の様に垂れていた。
呻く少女に、良はギシリと奥歯を噛み締める。
想定は出来た筈だった。
同じ顔、同じ声、同じ姿。 で在れば、同じ事が出来る筈だ、と。
そうしなかったのは、組織の長である良の落ち度でもある。
勢いに任せず、その気に成れば綿密な計画は建てられた。
しかしながら、全ては後の祭りであり、言い訳にも成りはしない。
「餅田! コッチも頼む!」
空飛ぶバスだが、医療用の設備などは付いていない。
そもそも、人を乗せるだけで空間は限られていた。
「解っとります! ちょっと待っとってや!」
餅田にしても、別に治療を渋った訳ではない。
戦闘員達の中にも、負傷者は居るのだ。
惜しむらくは、治療が出来るのは餅田一人しか居らず、手が足りない。
それを理解しているからこそ、これ以上は急かさず、その代わりに、良は愛の手を握っていた。
「……すまん」
詫びて少女の傷が癒えるならば、土下座も持さないが、効果は期待出来ない。
ギュッと強めに握られる事から、如何に痛みを感じているのかは想像に難くなかった。
詫びた良に、愛が苦しげながらもニヤリと笑って見せる。
「私、キズモノにされちゃった……責任、絶対取って貰いますから」
「……解ってる」
少女の苦しげな声に、良は深く頷いて居た。




