絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その11
世界的に有名な企業相手に喧嘩をふっ掛ける。
そのやり方だが、証券取引を用いたモノでもなく、文字通り拳を交えたやり方である。
『良いね!! 喧嘩なんざ久し振りだぜ!』
そう言いながら、拳を繰り出す黒い自分に、良はソレを片手で流す。
装甲同士が擦れて、火花が散った。
『あぁ、そうかい? だったら好きなだけやってやるぜ!』
云いながら、良も同じ姿の自分へと拳を繰り出していた。
*
組織の長同士が戦いを始める訳だが、その子分達も黙っていた訳ではない。
先ずはとばかりに、アナスタシアが先陣を切っていた。
『とう!』
普段は妙齢の女性といった姿をして居る彼女だが、その正体はモンハナシャコである。
色鮮やかな外見はともかくも、元に成った生物そのままにパンチを放つ。
単純だが、凄まじい威力を誇るシャコパンチに、警備員が飛んだ。
一応は手加減もしては居る。
改造人間のパンチでは、生身の人間を撲殺する事は容易いからだ。
『フン、殺しはしない……其処で大人しく……』
殴り飛ばした相手に、勝ち名乗りを上げるべく声を掛けていたアナスタシアだが、言葉は途中で止まっていた。
何故ならば、殴り飛ばした筈の相手は立ち上がる途中なのだ。
この時点で、蝦蛄女は疑問を感じてしまう。
『……なんだと?』
果たして、生身の人間を自慢のパンチが確実に捉えたにも関わらず、その相手はよろめきながらも立ち上がる事が出来てしまう。
加減を間違えてしまったかと、疑問に思うが、そんなアナスタシアへ向かって、警備員は手持ちの銃の引き金を引いていた。
小銃弾程度ならば、変身したアナスタシアはビクともしない。
蝦蛄女の口から、舌打ちが漏れ出る。
今のは、偶々手加減をし過ぎたに過ぎない筈だ、と。
今一度、警備員に詰め寄ってパンチを見舞う。
やはり狙いは胸であり、絶対急所の頭部を狙ったりはしない。
射程圏こそ短いものの、絶大な威力を誇るシャコパンチ。
その威力に嘘は無く、警備員は倒れてしまうのだが、身を起こしていた。
『馬鹿な……そんな筈が』
改造人間が単なる歩兵程度に遅れを取ったと在っては、存在意義が無い。
それでも立ち上がる警備員の姿に、アナスタシアは内心ヒヤリしたモノを感じさせられていた。
*
同じく大幹部であるカンナも、虎女へと身を変えて応戦に励む。
腕に仕込まれた刃にて、警備員を致命傷に成らない場所を狙い斬り付けていた。
「……コレは!?」
刃と纏う装甲が当たる際、奇妙な手応えに虎女は気付く。
数ミリはめり込みこそするが、それだけなのだ。
直ぐ様、斬れた筈の装甲は刃を柔軟に受け止めてしまう。
鉄骨すら寸断せしめる筈だが、その切れ味は鈍った様であった。
思わず、サッと身を後ろへと下げて間合いを取りたいが、相手の得物が銃である以上、下手に距離は取れない。
何せ、その種類が何であれ、鉄砲とは本来離れた相手を一方的に射殺する為の道具なのだ。
仕方ないと、装甲の隙間である関節部狙う。
相手の纏う装甲が斬れない以上の策だった。
その筈だが、やはり刃が食い込まない。
「……嘘!?」
通常の対爆服ですら、関節部位は欠点の筈。
その筈が、なんと関節にまで装甲が及んでいた。
仕方ないと、警備員を蹴り飛ばす虎女。
一応相手は倒れはするが、この際、カンナは在ることを思い出していた。
*
大幹部二人が苦戦する中、善戦する者も居た。 それは、大きな餅である。
「こらぁ! 大人しゅうせぇよ!?」
独特の口調で声を発しながら、相手を包んでしまう。
無論、相手も黙って捕まってはくれず、餅田は撃たれるのだが、急所という部位その物が存在しない超人にすれば、小銃程度は驚異ではなかった。
少しの間、飲まれた相手はもがこうするものの、全身を飲み込まれてはそうも行かない。
やがて、餅田の身体から突き出していた二本の脚が、バタバタと動いていたが、その動きを止めていた。
如何に装甲が衝撃や斬撃を防いでくれても、酸欠までは防いではくれない。
なんとか警備員を気絶させた餅田だが、効率は著しく悪かった。
「あかん、どないします?」
餅田がソッと寄るのは、やはり大幹部の一人である壮年。
本人が異名本名関わらず名乗りたがらない以上、なかなかに呼び辛い。
ただ、声を掛ければ壮年はウームと鼻を唸らせていた。
「奴等の着ている服、覚えが在るぞ」
「せやなぁ、確か……タコみたいな?」
「そうだ。 以前の世界で見た、タコ擬きそっくりだよ」
剣豪という異名を取る壮年も、忘れては居ない。
虎女には無い技巧で戦う彼だが、斬れないという点は同じである。
そして、その手に伝わる感触は、液体装甲を有した機械蛸によく似ていた。
遅い来る衝撃に際し、極めて短時間に硬化して対抗する。
ソレだけでなく、伝わる筈の衝撃は拡散緩和し、纏う者にまでは届かない。
そして、元が粘着性に富む液体状で在るために、多少の破損部位は直ぐに周りが埋めてしまう。
有り得ない筈の装甲だが、事実として警備員達はソレを纏っていた。
「わてなら、どないにも料理出来まっけど……」
餅田の声に、壮年は渋々と愛刀を鞘へと納めていた。
「致し方ない」
それだけ云うと、壮年は地面を蹴って警備員へ向かう。
小銃に素手で向かう事は、普通ならば愚か者だろう。
ただ、その実態が槍の延長に過ぎないというのも確かな事実である。
向けた先が、当たらなければ意味を為さない様に、銃もまた、銃口さて向けられなければ弾は当たらない。
並みの人間では不可能な程の動きにて、警備員の背後へと回ると、その首へ腕を回す。
首を絞めるのではなく、腕と力こぶにて首の血管を強烈に締め上げる。
僅か数秒で、脳への血流を絶たれ意識を飛ばす。
ぐったりと動かない警備員をソッと押し放す壮年。
「この様な無様な戦いは、好きになれん」
彼なりの美学だろうか、以前に、良に格闘を披露せよと頼まれても嫌がっていた。
それは、単に戦い方が美しくないという理由である。
とは言え、他に選択肢が無ければ、やらざるを得ない。
鼻を唸らせる壮年に、餅田の声が上げていた。
「ちょお!? あいた!? そーどますたーはん!? いだだだ!? てつどぉてんか!?」
二、三人を纏めて抑える餅田だが、抑えている以上動けない。
つまりは、その間は撃たれ放題であった。
如何に超人とは言え、痛覚自体は残されており、それが何にせよ痛みは在る。
その傷が致命傷に成らないだけなのだ。
そんな新入りの超人に、壮年は思わず笑いを漏らし掛けた。
「頼りになるよ」
「お世辞はええから! はよう! 痛!?」
相手からすれば、良い的である餅田の声は悲痛なモノであった。
*
一見優勢に見える悪の組織だが、実のところ劣勢と言える。
相手を生かしたままに戦闘不能にするという戦法は、著しく効率が悪いのだ。
では、殺せば能率が上がるかも知れない。
但し、その為には首領が【殺せ】と指示を出す必要が在った。
『どうしたい? なんか、ヤケに拘ってるみたいだが?』
そんな問い掛けに、良はフンと鼻を鳴らす。
『ビッグなお世話だぜ』
良の声に、同じ形からは溜め息が漏れていた。
『なんだかなぁ? 脳改造されてねぇと、此処まで融通が効かないモンかね?』
『あん? 脳改造だぁ?』
驚きを隠さない良に、黒い兜がヤレヤレとばかりに左右へ揺れた。
『受け入れれば楽だぞ? ああだこうだ悩まずに済む。 それに……』
『それに、んだよ?』
『なんだってそんなに殺すのを嫌がるんだ?』
何故と云われても、答えるのは難しい。
至極単純に言えば【寝覚めが悪そうだから】という事でしかない。
『コッチ来てから解ったぜ。 あー、コイツは融通が効かねえんだなってよ』
『悪かったな、強情でよ?』
外套を翻し、構え直す良に、やはり同じく構えを取る。
『わっかんねぇなぁ……人間なんざ掃いて捨てるほど居るんだ。 直ぐに次が見付かるぞ? 金さえ出せばな』
全く同じ声が、全く違う意見を呈する。
言葉を交わす上では、この上なく奇妙に思えた。
しかしながら、如何に自分の意見とは言え、良が受け入れるかは別である。
『金だけは腐るほど持ってるみたいだな……でもよ、そんなもんに価値が在んのか?』
そう言う良の背後では、組織の者達が戦いを続けていた。
倒すのは困難とは言え、不可能な訳ではない。
中でも、特に目立った戦いを見せるのは、魔法少女だろう。
「マジカルぅ……ロープ!!」
大幹部達ですら、締め技といった地味な戦いに徹するのに対して、川村愛は違う。
原理不明の魔法にて、液体装甲をモノともしない。
片手の杖から、青白い怪しい光線を放つが、ソレは通常では有り得ない動きを見せていた。
光線が屈曲するだけでも、物理法則に反している。
それだけに留まらず、その光は縄の如く相手を拘束してしまうのだ。
場違いどころの話ではなく、正に異能の化身である。
ただ、そんな少女の戦いを見ても、黒い良は驚かない。
それどころか、兜からは笑いが漏れ出ていた。
『川村……だったかな? なんだ、コッチじゃ生きてたのか』
『あ? どういう意味……』
良が尋ねる声を無視して、黒い良は両手を広げると、一気にそれを打ち合わせる。
同じ改造を施されているからか、不可視の波が唐突に広がった。
本来、良の中には【異能に対抗する為】の装置が備え付けられている。
起動自体はそう難しい事は無く、両手を合わせるだけだ。
発せられた波は、ソレが何で在れ異能を打ち消す。
瞬く間に、変身が解かれた愛は、慌てた。
「え!? 何、まさか」
慌てた少女は、自分と戦っている筈の良へと目を向ける。
すると、慌てて駆けてくる良が見えた。
『川村さん!? 伏せろ!!』
慌ててそんな声を掛ける良の見ている前で、怪しい光の拘束を解かれた警備員の一人が、拳銃を少女に向けて居た。




