絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その9
果たして、何処かの若い青年が、急に名を上げることは可能だろうか。
無論の事、何かを成し遂げればそれは可能と言える。
そして、かの篠原良が行った事の幾つかが、特に隠される事無くインターネットには載せられていた。
【核融合を始めとしたフリーエネルギー採用による電気料の引き下げ】
【メドベッドによる医療革命】
【幅広い事業展開による雇用の増大と積極的採用】
そんな言葉が目立つ。
「へぇ、随分とまぁ……立派なモンだな」
一見する分には、特に批判に値する様な事は見えない。
どれもこれも【世のため人のため】と言えなくもなかった。
良の感想に、リサも一応は頷く。
「そう、ですね。 特に何か悪いことしてるって訳じゃないみたいですけども……」
「ん? なんか、引っ掛かってるみたいだな?」
ピンと来ない良に、リサは怪訝な顔を見せた。
「変だと思いません?」
「お? あー、そうだなぁ……えーと……」
やはりというべきか、気付いて居ないという良に、リサはフゥと息を吐くと、また吸った。
「此処に載ってる事業と言うか、技術っていうか、こんな事半年そこらで出来るモノじゃないですよ」
「そうなのか?」
良の声に、リサは頷く。
「例えばですけども、このメドベッドなんて言うのが出たら、どうなると思います?」
リサの質問に、良は首を傾げる。
画面を見れば、簡単な説明が載せられている。
【メドベッドを用いる事で、以前では治療不可能だった難病や、致命的な損傷なども治癒が可能に成りました】
そんな説明に、良はフーンと花を鳴らす。
「こりゃあ、お医者さんが大変そうだ。 飯の食い上げかな」
パッと出された良の意見に、バスの座席に座りながらもリサは滑った様に身体揺らす。
「もぅ! そうじゃありません!」
サッと端末の画面に指を滑らせ、説明を飛ばす。
リサからすれば、在る一文を見せたかった。
「此処です、此処!」
「おん? えーと?」
【各国政府が隠蔽していた技術の一つです】
端的ながらも、分かり易い一文である。
それだけに、見た良は背中がゾワゾワとした感覚に襲われる。
「こんな事したら、マズいんじゃないのか?」
少しは問題を理解したらしい良に、リサは眉をハの次にしながらもウンウンと頭を縦に振っていた。
「マズいなんてもんじゃないです。 これ以外のどれ一つ取っても、世界が大騒ぎに成っちゃいますよ!」
リサの焦る声に、良は腕を組んで首を少し傾ける。
この体勢は良が思案する際の癖だが、それ自体は大した問題ではない。
問題なのは、良の頭の中の想像に在った。
もしも、技術が隠蔽されていたという情報が流されたなら、多大な影響が出てしまう。
それこそ、国に因っては国民が怒り、政府すら転覆させようとするだろう。
何故ならば、誰かが【役に立つ技術を独り占めしていた】と見えるからだ。
この際【実際に隠蔽して居たのか?】は、実のところ重要ではない。
あくまでも【善意の第三者に因る情報の開示】といった形がモノを云う。
想像に浮かぶのは、棍棒やバットといったモノを片手に、群がる群衆。
誰もが目が血走る程に怒り狂い、打倒せんと集まってしまう。
一度火が点けば、細かい事は触れられない。
【果たして、本当に為政者が隠蔽して居たのか?】と云う事など、些末な事だろう。
事実として、巷ではそういった事件は珍しくはない。
事の次第、事件の経緯、ありとあらゆる事が無視される。
人が見るのは、何が起こったか、という顛末であり、何がどうしてこうなった、という筋道ではなかった。
「でもよ、誰か止めなかったんかね? 警察とか、軍隊とか?」
良の素朴な疑問に、リサは眉を寄せた。
少女は眉間に皺を作りながら難しい顔を覗かせる。
「もしですけど、あの人が良さんと同じだとしたら……止められると思います?」
簡潔な説明は、分かり易い上に筋が通っていた。
勿論の事、誰かが混乱を止めようとはするだろう。
しかしながら、果たして改造人間が止められるかと云われれば、ソレは難しい。
良は自分を覆い隠す事に徹するが、仮に何処の国にせよその為政者を殴り倒そうとすれば、ソレは可能だろう。
通常の戦力では、改造人間を止めるのは無理が在る。
無理をすれば或いは止められるかも知れないが、ソレには多大な犠牲者が出てしまう。
出来ないと、しないでは意味が違った。
「……なるほどな、こら半年で世界がひっくり返った訳だ」
如何にして街で見掛けた別の自分が何をしたのかを知らされる。
それは、良にとってみれば余り気持ち良い事ではない。
全くの同じ顔をした者が、自分の意志とは違う事をして居た。
「ただ、彼奴はどっから来やがったんだ?」
良が云ったのは、自然な疑問で在った。
世の中に同じ人間は二人と居ないのが普通である。
遺伝子が共通している双子ですら、その人格は全く違い、同じではない。
問題なのは【果たして、別の篠原良は何処から来たのか?】というモノだった。
良の疑問に応えるべく、リサは鼻を唸らせるが、直ぐに思い当たる。
「確証が在る訳じゃないんですけど……たぶん、別の世界から、連れてきた、とか」
以前で在れば、そんなリサの仮説は鼻で笑われたかも知れない。
それでも、今まで別の世界を通り抜けて来た良からすれば、納得出来た。
*
別の篠原良はともかくも、悪の組織を乗せたバスは基地へと走る。
その筈なのだが、何かがおかしい事には乗っている誰もが気付いていた。
見慣れた道が、全く違うモノへと変貌している。
だからか、似非バスガイド兼、女幹部は運転手である戦闘員へと近寄った。
「おい、どうなっている? 道を間違えたのか?」
とりあえず、一番可能性が高いであろう事を確かめる。
だが、運転手は首を横へと振った。
「いえ、そんな筈は在りません。 現に、標識などはそのままでした」
戦闘員の声に嘘は無い。 憶えている通りの道を帰ってきた筈である。
にも関わらず、見慣れた筈の景色は、見慣れないモノへと変わり果てていた。
「アナスタシア様、如何に?」
指示を仰ぐ部下の声に、女幹部はチラリと良へ目をやる。
組織の運営はアナスタシアが担っている部分が大きいが、その意志決定は基本的には首領である良が決めねば成らない。
「まぁ、今は行ってみるしかねぇだろ?」
そんな良の声に、アナスタシアは頷いた。
今更、何処へ行こうにも目的地が無い。
で在れば、多少の不安は在っても道を行くしかなかった。
「構わん、そのままやってくれ」
女幹部の指示に、運転手はバスを進める。
そんな車内では、愛がリサと外を眺めていた。
「ねね、こんなんじゃなかったよね?」
以前の基地周辺だが、そもそも陰徳の為に余り整地はされていなかった。
雑木林が乱立するからこそ、誰も入って来ない。
その筈が、今やすっかりと変わり果てている。
至る所は整地が行き届き、見栄えは悪くはない。
「あ、リサ! ね、アレ!」
何かを見つけ出した愛が、指し示す。
其方へと目を向けて見たリサだが、思わず目を疑った。
道の端に、看板が増えていたのだ。
単にソレだけならば、或いはリサも驚きはしないかも知れない。
問題なのは、その看板には【篠原コーポレーション】と印字されている事に在る。
「まさか……」
「どうすんの?」
どうと問われても、答えが思い付かない。
バスに窓が在る以上、乗っている全員には見えているのだ。
「今は……まだなんとも」
起こった事態を把握しようにも、それは難しい。
で在れば、流れに身を任せる他はなかった。
言葉に詰まる二人は、思わず良へと目を向ける。
座席に座る良だが、特に何かをして居る訳ではない。
ただ、腕を組んでどっかりと椅子に座ったまま黙っていた。
意外な事に、良がどっしりと構えてさえ居れば、二人の不安は少しは和らぐ。
もしもああだこうだと良が慌てて居たなら、車内は混乱状態だっただろう。
「大丈夫……だよね?」
確認する様な愛に、リサは頷いて見せた。
「当ったり前じゃないですか。 今までだって、乗り越えて来たんですから」
小柄な少女では在れど、リサはリサなりに不安を振り払う。
例え見知らぬ世界に放り出されても、悪の組織は挫けなかったのだ。
*
バスは基地だった筈の場所へと辿り着く。
但し、其処はすっかりと様変わりしていた。
うっそうとした雑木林に代わり、其処に在ったのは何処かの企業の土地である。
その証明なのか、敷地の出入り口にはわざわざ守衛係詰める小さな小屋すら用意されて居た。
仕方なしと、バスが敷地に近付くと、小屋から警備員らしい男性が出て来た。
警備員は怪訝な顔を浮かべるが、無理もない。
何せ運搬車ではなく、過剰なまで改造が施された怪しげなバスが現れたのだ。
ソッと警備員がバスへと近付くと、降車口が開かれる。
「あー、ちょっと? 此処は観光地じゃないんですが?」
とりあえずと、当たり障りの無い言葉を掛ける警備員。
ただ、バスから降り立ったのは、篠原良である。
「どうも」
「あ、社長さん?」
依然と同じく、警備員までもが篠原良を知っていた。
同じ顔なのだから、当たり前と言えばそうなのだが、僅かに違う。
服装、髪型、様々に違うが、ソレは別に法律に反しては居ない。
「あー、えと、コレは……見学会……とかでしょうか?」
事前に何も云われて居なければ、警備員も知りようもない。
とは言っても、わざわざ自分の雇い主に喧嘩を売る訳にも行かなかった。
「……えっと、そうなんですよねぇ」
警備員にしてみれば、本来ならば上司に確認を取るべきだろう。
だが、その上司の上役が今此処には立っている。
組織の長が【こうである】と言えば、それに従うのが部下の役目と言えた。
「はぁ、そうですかぁ……あ、でも、出来ますれば、前もって云って置いて頂ければ良かったのですが」
「ちょっと……急に決まっちゃって、悪いんだけど、通して貰えるかな?」
良からそう言われれば、警備員も無碍には断れない。
通しませんでした、などという事をしようモノなら、後が怖い。
「は、どうぞ」
そう言うと、警備員は急いで車止めの門を開いてくれた。
*
バスへと戻った良に、カンナが寄る。
「やるじゃん、首領」
虎女からしてみると、良が顔を出しただけで簡単に潜入が出来た事は幸いと言える。
下手に事を荒立てず、洗練されたやり方と言えよう。
ただ、それを為した筈の良は不機嫌そうであった。
「どしたの?」
「何でもねぇ……と、云いたい所だが、気分が悪いぜ」
キョトンとするカンナに、良は苦く笑った。
「自分じゃないのにさ、其奴のお陰様なんて、気持ち良くないだろ?」
云わんとして居る事は、カンナも解る。
利用出来るモノはすべきとしても、それが自分となれば話は違った。




