絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その6
由々しき事態に、偵察隊の誰もが悩む。
本来ならば、偵察とは隠密で行うモノの筈が、その中の一人がやたらと目立ってしまえば偵察にも成りはしない。
そして、本の当人が一番頭を悩ませていた。
「なんなんだ? どうなってんだ?」
元の世界に帰って来た筈が、どうにもそうは思えない。
本人の感覚で言えば【此処は別の世界である】という方が余程信じられた。
「ホンッとマズいかも」
「ですよねぇ」
何とか凌いでは居るが、かえってそれが難しい。
戦いならば、場慣れして居るカンナと愛ですら、今の状況は慣れていない。
「とりあえず……良さんなんとかしないと」
リサの声に、良は「じゃあ」と上着を脱ぐ。
サッと頭から被れば、一応顔は隠れた。
「コレでどうだ?」
どうだと言われても、返答に困る三人。
傍目には【逮捕されて護送される容疑者】としか見えないのだ。
つまりは、どこからどう見ても怪しい。
「いや、それはマズいっしょ?」
かと言って、何か方法が無いものかも悩む。
そんな中、ポンと何かを思い付いたらしい愛が目を輝かせた。
「良いこと思い付いた! 篠原さん、ちょーっと待ってて!」
そう言うと、愛が駆け出す。
何か妙案を見出したらしい少女だが、彼女が駆け込んだのは近場のコンビニエンスストアだった。
*
少し後、三人の後ろでは珍妙な者が歩く。
愛が思い付いた案だが、特に難しいモノではない。
「どうです! バッチリじゃないですか?」
如何にも自信満々な魔法少女。
愛が買って来たのは適当な帽子にサングラス、鼻と口を覆うマスクである。
どう見ても不審者にしか見えないが、とりあえず顔は隠せた。
『なんだかなぁ……何もしてねぇってのに、こんな格好するなんて』
「もう! ごちゃごちゃ言わないでくださいよ! 良いじゃないですか! 一応は顔とか隠れてんですから! あと、ちゃんと代金請求しますからね!」
メディアに露出の多い者達も、私生活では顔を隠す者も居る。
良の場合もまた、在る意味同義と言えた。
「ガメツいなぁ……まぁでもほら、あたし達も居るから、大丈夫じゃない?」
「そうですね、たぶん……ですけども」
良を覆い隠す様に、前を行く三人。
その後ろから、コッソリとついて行く良。
ただ、この図は御世辞にも宜しいとは言えないモノがある。
何故ならば、街を散策する女の子達を、不審者が後ろから追跡して居るとも見えるのだ。
しかしながら、良の顔を変えるという事でもしない限り、この場は仕方ないと流された。
顔を隠すのは不服とは言え、何もかもが悪い事でもない。
何せ、口が覆われているという事は良にとって使い道が在る。
『……エイト、どうだ?』
流石に、大っぴらには呼び出しが出来ないが、口が覆われていれば多少の声はかき消される。
良の呼び掛けに、耳が少しチリチリと感じた。
『頼まれて調べた結果だけを率直に述べよう。 友よ、君は今、とても有名人なんだ』
『……おい? なんだって?』
思わず発した声に、三人が振り向く。
「どうかしました?」
「あ、いや、こんなん付けてなかったからさ、顔がなんか痒いってさ」
慌てて誤魔化す良である。
本来ならば、仲間に秘密を持つことは性に合わないが、事が事だけに、下手に外には出さないのだ。
「いっつも変身してるじゃん?」
鋭いカンナの指摘に、良はグムムと唸る。
唸った所で、良の顔は見えていない為に、腕だけをパタパタさせている様には見えた。
「我慢してくださいよ、仕方ないんですから」
愛がそういえば、カンナもウンと頷く。
とりあえず散策へと戻り、ホッと成る良。
『……あぁ、参った参った』
『友よ、別に私を紹介してくれても良いんだぞ?』
『まぁ、そうなんだけどな』
『二心同体とは言え、気にする事でもあるまい?』
エイトなりの価値観を示されるが、良も気が気ではない。
便利さと引き換えに、常に自分の中に別の誰かが居ると言うのは、なかなかに慣れないモノであった。
『まぁ、良い。 私が現状を説明するから、君は適当に聴いててくれ』
エイトの声に、良は小さく頭を縦に揺らした。
『さて、現在確認出来るだけでも、この世界には二人の篠原良が居る。 一人は君で、もう一人だが、やはり篠原良らしい』
らしいという曖昧な言葉に、良は鼻を唸らせた。
果たして、そのもう一人の自分は、何時から存在して居るのか。
口を閉ざしたまま、エイトの言葉を待つ。
『経歴を調べたが、殆どは君のモノだな。 どうやら、向こうは君に成り代わったという事になる』
当たり前として、顔がソックリならば、ソレは可能だろう。
何処其処の誰々さんが居たとして、顔が同じならば判別は難しい。
しかしながら、此処で問題なのは、ただ似ているだけでは無理が出て来る。
何せ顔が同じでも、同じ人物ではないのだ。
記憶が違えば、全てに違いが出て来てしまう。
飲食の好み、普段の所作の機微、言葉遣いと、何もかもが。
では次に疑問に成るのは、果たして街で見掛ける顔や、人々が見ている篠原良は誰なのかという事になる。
『なぁ、エイト』
『ん? どうした、友よ?』
『コッチにも、エイトが居る筈なんだが?』
思い返して見れば、名前こそ教えてくれなかったがエイトは居た。
常に良を手助けし、組織の資金提供者でもある。
良の問いに、エイトは沈黙してしまった。
『……おぃ?』
『ソレなんだが……』
何かをエイトが応えようとした時、三人の足が止まっていた。
すわ何事かと見てみれば、行く手を阻む者が居る。
「すみません、ちょっと後ろの方にお話を聴きたいんですが?」
声を掛けて来たのは、巡回中の警察官二人組であった。
『えっと? あ、俺?』
「うん、そっちのお兄さんは、何をしてるのかな?」
当然と言えば、当然だろう。
エイトと話をする為に、良は少し三人から距離を取っていたのだ。
つまりは、女の子の集団を後ろから追跡して居る良は不審者としか見えない。
もし、顔を晒していれば、或いは警察官も気にしなかったかも知れないが、良は顔を隠していた。
流石に、慌てた三人が割って入ろうとする。
「あ、大丈夫ですよ!」
「その人、私のお兄ちゃんですから」
とにかく慌てたのか、愛とリサが良を庇った。
女の子達に被害が出て居なければ、警察官も其処まで問題視はしないだろう。
「あ~はぁはぁ、ご兄妹で」
納得してくれたのか、そんな事を漏らす警察官である。
ただ、スッと良を見る。
「でも、確認の為に、ちょっとだけマスクとサングラス、取って貰えますか?」
そんな言葉は、特段に不思議でもない。
巡回中とは、散歩ではなく職務なのだ。
つまりは、不審に感じた時点で確かめる義務が在る。
この時点で、良は焦っていた。
もし、見に覚えが無ければ、別に恥ずかしがる事でもない。
疚しい事が無いのであれば、見せるだけである。
とは言え、良からすれば問題であった。
「あの、あたし達急いでんですけども?」
カンナと、何とか場をやり過ごしたい。
それで引き下がってくれるのかと問われれば、そうは問屋が卸してはくれないモノである。
「申し訳ないですが、一応の確認ですので」
『あー、はい』
下手に隠し立ては、事を大事にしかねない。 仕方なく、良は変装を取った。
顔が外に晒される訳だが、警察官達は良を見るなり、目を丸くする。
「あ! 篠原良……さん、でしたか!?」
「ぇ、あぁ」
曖昧な良の返事に関わらず、警察官達はサッと一歩引くと、敬礼をした。
「お休みの所、大変失礼致しました!」
「お手間を取らせて申し訳在りません!」
急に詫びると、警察官達は慌てて離れて行ってしまう。
助かったとは言え、コレがまた疑問を呼んだ。
「おいおいおい、どうなってんだよ?」
実に奇妙な話だろう。
仮に良が有名人であっても、国家権力の一つである警察官が敬礼をする事自体有り得ない。
コレが一般人ならば、職務質問を掛けられた所であれやこれやと尋ねられても、礼の一つも無いのが常である。
だが、警察官達の反応を見る限り、其処には畏怖があった。
つまりソレは、この世界の自分はとてつもない力を持っているという証明でもある。
「助かった……けど」
チラリと見てみれば、三人はそれぞれ良を見ていた。
其処には、普段とは違う色が窺える。
「おいおい、オレオレ、俺だって! ソックリさんじゃあないぞ?」
良が慌ててそう言えば、三人もフゥと息を吐く。
別にオレオレ詐欺をして居る訳でもない。
「そう言えば、そうだよね」
「や、でも、ホントにびっくりしちゃった」
カンナと愛だか、納得はしてくれたのかいつもの彼女達に戻る。
ただ、リサは不安げな顔を見せていた。
「なぁ、リサ?」
「解ってますよ、良さんは良さんだって……ただ……」
「ただ、なんだい?」
「どんな人なんでしょうか? 別の篠原良って人は」
リサの呈した疑問だが、それは良からしても尋ねたい事である。
果たして、自分のソックリさんは何を仕出かしたのか。
*
とりあえず、良の変装を戻し、また少し歩く。
その内、四人は在るモノを見掛けた。
ソレは、ビルの壁に取り付けられた大型の電子看板であった。
其処では、様々な広告が映し出されるのだが、何も映されるのは広告ばかりではない。
なんと、何かの会談が番組として映されていた。
『本日はどうもお忙しい中、よくお越しくださいました。 では、先ずは本日のゲストを御紹介致しましょう。 若き実業家の一人、篠原良さんです!』
そんな挨拶を贈る司会の近くに座る人物の顔に、四人は釘付けにされる。
『いえいえ、此方としても、お呼び頂いて光栄ですよ』
意外な形で、良はこの世界の篠原良を目の当たりにさせられた。




