絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その3
首領である良が率いる悪の組織が驚く中。
別の場所では、やはり驚く者達が居た。
其処が何処かは、世界中でも指で数えられる程の人数しか知らない。
世界の何処かに在る、薄暗い会議室。
其処に、とある一報が届いていた。
「篠原良が帰還しただと?」
その声には、集まっていた誰もが驚きを隠さない。
「……バカな、奴は世界の外へ放り出した筈だぞ?」
ざわめきに、場の誰かが手を挙げる。
「静かに、論より証拠、先ずは此方を……」
その声を合図に、壁の一面に映像が映し出される。
それを誰が撮影したのかは定かではない。
ただ、揺らぎから、誰かが慌ててカメラを向けたという事は想像に難くない。
最初は、空を飛ぶ鳥を撮っていたのだろう。
直ぐ後に、僅かに空が揺れ、穴が開いた様に成る。
其処から、ヌッと姿を現したのは、原型を留めていないバスであった。
バスが空中から現れる時点で、大多数の人間は信じないだろう。
仮に見せても【へぇ、良くできたCGですね?】と言われるのがオチであろう。
しかしながら、この場に集まった者達は、在るところへ注目する。
ソレは、バスに未だに残されている【ナンバープレート】だった。
基本的に同じ番号を使用する事は先ずあり得ない。
そして、そのバスに付けられているのは、消した筈の二台の内の一台である。
加えて言えば、大型車両が空を浮いている事も異様であった。
それらを踏まえてか、場の者達は壁に映し出される映像に釘付けにされる。
「まさか、異次元からも帰ってくるとは」
自分達もそれなりの権力を持っては居るが、果たして、同じ様に外へと放り出されたなら、帰って来れる自信は無い。
そもそも、生きていたというだけでも、信じられない事である。
散々自分達を悩ました造反者の帰還に、誰もが唸る。
そんな中、部屋の空気を更に暗くする様な嗤いが響いた。
「は、し、真首領様!?」
怪しげな嗤いを響かせるのが誰なのか、それを知らぬ者はこの場には居ない。
全員が、慌てて壁に向かって平伏をして見せた。
『諸君。 ご機嫌よう』
そんな声は、酷く聞き取り辛いのだが、にも関わらず、理解が出来た。
単純に喋っていると云うよりも、頭に響いているという方が近い。
『どうやら、かの篠原某が帰って来た様だな』
真首領にしても、少しは驚いているのか、それとも興味が在るのか、声色が僅かに違う。
だからといって、それを問えるだけの者はこの場に居ない。
「は、して、真首領。 対処の方は如何に?」
駒である者は、自分達で考える事をしない。
指し手を無視して駒が勝手に動いたと在っては、存在意義が薄れる。
指示を仰がれ、空気が唸る。
『気にする程でも在るまい? 既に我々は勝っているのだ 』
そんな声に、場の誰もが異論を挟まない。
『確かに、わざわざ地球から放り出してやったと云うのに、のこのこ帰って来ようとは、我々も想定こそしては居たが、その可能性は限り無く低い筈だった』
真首領からしても、良達の帰還は意外なのか声が低い。
『とは言え、既に此方の準備は万端。 もはや少人数の造反者共など、恐るに足らん』
響く声に、場の一人が息を飲む。
「……恐れながら、真首領。 何か、秘策が?」
そんな声に、カツンカツンという音がする。
ソレは、堅い床と革靴の底が当たる音であった。
『おっと、遅れたが紹介して置こう。 諸君等も、よく知っている筈だ』
影の権力者達からすれば、一体誰が新たに自分達に加わるのか。
程なく、足音の主が場に現れる。
「あ!? 貴方は!!」
思わず、現れた者の顔を見て一人が声を上げていた。
『落ち着きたまえ。 其方へ送るのは遅れたが、彼は、此方側の……だよ』
真首領の紹介に、現れた人物は軽く手を挙げて見せた。
「こんにちは。 真首領から紹介が為されたと想いますが、今後皆様との同胞と成ります」
一旦言葉を句切ると、にこやかに微笑んで見せた。
「篠原良です。 以後、どうぞ宜しく」
受注生産によって仕上げられた仕立ての良い背広に身を包み、朗らかに挨拶をする。
その声と顔は、悪の組織の首領である篠原良に酷似していた。
*
世界の何処かで、怪しい会議が為される中。
別の場所では、悪の組織の面々が見える光景に目を疑っていた。
遠目から見ても、街の様子が以前とは違う。
「なんだよ? また別の世界に来ちまったってのか?」
自分の目で見ても、信じられないからか、良はそんな事を呟く。
「どうします? 何人か、偵察にやりましょうか?」
女幹部の声に、良は目を向ける。
「いや、俺が行くわ」
やはりと言うべきか、真っ先に先陣を切ろうとするのが良である。
その事に関しては、組織の面々も知っては居ても唸らされた。
本来、将棋やチェスといったゲームの王は、後ろに引っ込んでいる者である。
何せソレを取られてしまえば、其処で終了なのだ。
その筈が、王駒自ら先陣を切ろうと云うのだから、アナスタシアも苦労が絶えない。
ウンウン唸る横から、愛がヒョイと顔を出す。
「えー、このバスで行っちゃダメなんですか?」
少女からすれば、一々ああだこうだと面倒くさい事は避けたい。
で在れば、特に手間を掛けずにバスで直接行けば良いと思えてしまう。
「いやまぁ、そう言うけどさぁ。 このバス、目立つんだよなぁ」
良の声に、嘘は無い。
以前の世界にて、エイトが詫び代わりにと改造を施した結果、今のバスは元の原型とはかけ離れた外観に変わっていた。
そこかしこが変えられ、車体の中も外も手が入れられている。
有り体に居えば、バス型の装甲車とも言えなくもない。
つまりは、そのまま街を走ろうものならば否が応でも目立ってしまうだろう。
無論、堂々と街の中を突っ切る事も出来るが、警察官に止められでもしたら面倒くさい事になる。
愛に合わせてか、ヒョコッとカンナが顔を出す。
「じゃあさ、何人かで行こうよ」
そんな提案に、良は首を傾げた。
*
偵察という体裁はともかくも、行くとなると面子が問題である。
先ずはと却下をされてしまったのが餅田。
「そんな殺生な……ようやっと真っ当な食いもんにありつけると思うとったのに」
理由に関しては言わずもがな、その見た目である。
本人が如何に頑張った所で、その外見は巨大な餅であった。
そんな者が堂々と街を歩いては、目立ってしまう事この上ない。
次にと却下を食らったのは、壮年である。
「……是非も無く」
イマイチ残念という大幹部だが、傍目には人でも目立つ特徴が在る。
ソレは額から生えた角。
果たして、何故その様な角が生えてしまったのか、それを問う時ではない。
然も、愛刀を片時も離そうとしないのだから、職務質問待った無しである。
そして、戦闘員達も、ピチピチタイツは厳禁だろう。
この事に関しては、今後の組織の運営方によって改善していくしかない。
現状で【普通の衣服】が無いので在れば、居残りを食らう。
そして、最期に問題視されたのは、女幹部だった。
「アナスタシア、あんたも居残りね?」
当然といったカンナの声に、当たり前だが、不服を顔を出す女幹部。
「いきなり何を言うのだ!? 私が行かねば、誰が首領を御守りする!?」
フンフンと鼻息荒い彼女だが、そんなアナスタシアに、愛がソッと指差した。
「だって、そのカッコじゃあ……」
本人の趣味なのか、それとも制服なのか、それは不明だ。
問題なのは、その際どい格好その物である。
仮に、場がプール際や砂浜、或いは仮装会場ならば、多少は人の目も眩ませる事は出来るが、街を歩くには不適切この上ない。
二人掛かりの指摘に、アナスタシアもグヌヌと唸る。
「な、ならば!」
然らば、旅行用にと用意して置いた【似非バスガイド】の服を取り出す。
今着ている女幹部の格好よりは、確かに大分マシかも知れない。
今にも着替えを始めそうだが、そんなアナスタシアを小さな手が押し止めた。
「駄目ですよ、だって……それでもコスプレじゃあないですか?」
最後に控えていた博士の指摘に、女幹部がグゥと唸る。
カンナもそれなりに派手なのだが、旅行の際には控えていた。
有り体に言えば【ちょっと派手なお姉ちゃん】程度である。
「それに……私見てましたよ? さっき、コッソリと何かしてたの」
リサの声に、愛とカンナも目を向ける。
「それじゃあ、女幹部としての職務が在るよね?」
「ね、アナスタシアさん?」
三人掛かりで、女幹部を抑えに掛かる。
「き、貴様等……計ったか」
口惜しさから、唇を噛む彼女に、カンナがフフンと笑った。
「だから言ったじゃん、もうちょっと普通の用意しときなってさぁ」
この指摘には、流石の女幹部もグウの音も出せなかった。
俗に言うTPO、つまりは【時間と場所と場合】を普段から考慮していなかった結果である。
悲しいかな、本人の意志とは無関係に【バス防衛の任】にアナスタシアは付かざるを得なかった。
*
バスに関しては、街を迂回させる事で余計ないざこざを回避させる。
ソレとは別で、偵察隊が組まれた。
「うわー、なんかさ、こう云うの、ひっさびさかも!」
一番手にはしゃいだのは、意外にもカンナである。
悪の組織の大幹部に就任して居来、外を歩く事自体久しい。
「偶には良いですよね」
「ってか、滅多にないでしょ?」
声を上げる三人に、良は在る光景が重なる。
ソレは、かつて見た仮想現実での夢。
その中で、良は三姉妹の兄であった。 思わず、捨てた筈の夢がチラつく。
惜しくないと云えば、嘘であった。
「ちょーっと、首領?」
「篠原さーん!」
「良さん、どうかしましたか!」
掛けられる声に、良はハッと成った。
今更、捨てた夢に逃げ込む訳には行かない。 やるべき事がある。
「今、いくよ」
何かを吹っ切る様に、良は足を前へと進めた。




