絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!! その2
本来、組織は温泉旅行へと行く為に外へと出た。
しかしながら、いざ蓋を開いて見れば事はそれに留まらない。
幾つもの未知の世界から、ようやく帰還を果たした悪の組織。
それでも、まだ全てが終わった訳ではない。
何故ならば、今の状況は【振り出しに戻る】という事に過ぎなかった。
*
屋根から降りるなり、今度はバスへと乗り込む首領。
「うぉーい、大丈夫かぁ?」
余り首領らしくない声だが、組織の面々は既にソレには慣れていた。
寧ろ、首領らしくない首領だからこそ、皆が良について来てくれている。
「は! 首領、我々は万全です!」
如何にも出撃前といった女幹部だが、良からすればまだその時ではない。
「お、おう。 無事なら良いんだが」
とりあえず事なきを得た良だが、まだまだ何も決まっていない。
「それで、どうしよっか?」
先の事を尋ねるカンナに、良は腕を組んでウーンと鼻を唸らせた。
現状は特に問題は無いのだが、先ずはとポンと手を鳴らす。
サッとポケットへと手を伸ばし、携帯端末を取り出す。
確かめるには、現実的ではこの方法が一番速い。
もしも、今居るのが別の世界ならば、地球の機械は役に立たないからだ。
パッと点る画面に目を向ければ、特段の変化は無い。
つまりは、今居るのが地球で、同じ技術を使っているという事になる。
「ん?」
何か変化は無いのかと見ていたが、在る一つの点に気が付いた。
ソレは、日付である。
記憶に残っている日時から察すると、此方では半年が過ぎていた。
「おいおい、うっそだろう?」
体感として、良が元居た世界を離れたのは数日間程である。
その筈が、実時間としては十数倍の時間が過ぎていた。
「どうかしたんですか?」
ポンと掛けられる声に、良さリサを見る。
口で言うよりも、実際の画面を見せた方が速いと判断した。
良に端末の画面を見せられたからか、リサも慌てて自分の端末を取り出す。
「……嘘」
僅かの操作の後、そんな声がリサの口から漏れていた。
当たり前の話だが、いきなり半年後に放り出されれば、驚くのも無理はない。
「良さん」
不安そうな顔を覗かせる博士の肩に、良はポンと手を置いた。
「落ち着けって」
「でも……」
「良いから、な? まぁ、ちょっと時間は過ぎちまったが……とりあえず、確かめないとな?」
良が力強く頷いて見せれば、リサも胸の不安が軽くなる。
半年という時間は過ぎていたが、逆に考えればそれだけとも言えた。
別の世界の自分と比べれば、遥かに失ったモノは軽い。
「まぁ、半年分……若返ったって言えば、良いんですかね?」
「おう、その意気だぜ」
物事を悪く捉えようとすれば、幾らでもソレは出来るだろう。
だが、いつまでも固執していては何も始まらない。
失った分を寧ろ肯定的に捉えれば、心は乱れない。
不安げなリサを元気付ける良。
在る意味では、微笑ましい光景かも知れないが、問題が一つだけある。
二人は何処かで逢い引きをして居た訳ではない。
二人が居るのは、悪の組織の乗り物の中なのである。
「あらあらあらあらあら……ずいぶん、いい雰囲気じゃあないかしら?」
普段ならば、どちらかと言えば男勝りでぶっきらぼうなカンナだが、この時の彼女の言葉はまるでお嬢様の如きである。
「おかしいなぁ? どうなってるのなかぁ?」
年頃に似合わず、やはり勝ち気な川村愛だが、如何にも何かを見てしまった小学生かの如き口調である。
そして、やはり言うべきか顔を見せるのはアナスタシア。
ただ、他の二人と違って、彼女は明るくも無ければ軽くもない。
何処から影が差しているのかは定かではないが、その顔は怨霊の如きだった。
「首領……どうしてなのですかぁ」
例えるならば、井戸から顔を覗かせる亡霊が如き声。
とてもではないが、細い神経では耐えられそうもない。
そうなるとどうなるか、答として、リサは思わず良に抱きついていた。
そして、ソレが余計に油どこらかガソリンブチ撒けるのと大差は無い。
せっかく静まっていた車内がまた騒がしく成る。
ソレを聴いてか、大幹部の壮年はフゥと息を吐いていた。
「首領……君は、やはり不器用な奴なのだな」
小さい声は、姦しさにかき消されていた。
*
先ずは、自分達の根城へ帰ろうとする悪の組織。
だが、此処で一つまた問題が持ち上がる。
「あ、やっべえ……」
首領がそう言えば、当然の如く幹部達も黙っては居られない。
「どうなされたんですか!? 首領!!」
すわ緊急事態かと慌てる女幹部に、良は困った顔を見せた。
「いや、このバス……レンタルだよな?」
「……はい?」
「だからさ、借り物、だよね?」
「それは、まぁ」
気の抜けたアナスタシアの声に、良はウーンと唸った。
「マズいよなぁ? 勝手にどっかに借り物持ち出した挙げ句さ、元のバスの影も形も残って無いんだぜ? どう言い訳すっかなぁ」
何とも気の抜けた首領の悩みに、女幹部は思わず唇の端と挙げた拳を震わせた。
「首領……貴方という人はぁ……」
幾つもの世界を乗り越えた割には、首領自体は相も変わらず首領らしくない。
いっその事、この場で説教の一つも始めたくなる。
本来、首領とはもっと威厳を持ち、恐れられるべきなのだ、と。
ただ、直ぐにアナスタシアは肩の力を抜いていた。
悪の組織ならば、そもそも他人の都合など気にしない。
極悪な悪巧みを企て、悪行の数々を行うべきだろう。
しかしながら、その筈の悪の組織は、どちらかと言えば呑気な集団である。
世界征服の計画どころか、そんなモノをほっぽりだし温泉に出掛けてしまう。
例え異界に放り出され様が決して諦めず、帰ろうと努力する。
次にまた別の世界に放り出され、ほぼ全員が夢に捕らわれた。
それでも、甘い夢の誘惑を断ち切ってまでこの世界へと帰って来ていた。
ソッと唸る良へと近付くと、アナスタシアは肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ、首領」
「お?」
「だいぶ期限は過ぎてしまいましたから、買い取りに成ってしまうかも知れませんが、その時は、私もついて行きますから」
「マジか? いや、助かるわ」
こっそりと、良と出掛ける算段を決めたのはアナスタシアの狡猾さを示していた。
問題と成り得る三人のお邪魔虫だが、現在は他の事に忙しい。
ああだこうだとリサにブー垂れる愛とカンナだが、それだけに気付けない。
リサにせよ、二人掛かりで説教食らっている為に余裕が無かった。
そんな三人をチラリと横目で流しつつ良へと目を戻す。
レンタル会社には菓子折りの一つも持って詫びに行けば良い。
悪の組織が詫びに参上するというのもおかしな話だが、それが嫌ではない。
寧ろ、苦楽を共にするという事が、大事に思えてしまう。
思えば、アナスタシア自身も大分変わっていた。
以前の彼女ならば、前首領の命令に従うだけであり、他の事を考える事も無かった。
思考を放棄し、改造人間として首領の命のままに動く駒。
それが今では、女幹部としての自分よりも、アナスタシアという彼女自身の意志を尊重して居た。
何をどうしたいのか、それを他人には委ねない。
どうすべきなのかは、自分で決める。
そんなアナスタシアに、良は苦く笑った。
「悪いな、世話掛けちまってさ」
労いの言葉一つにしても、現在の首領である良は違っていた。
前首領ならば、如何に困難を達成しても【ご苦労】の一言で済まされてしまった。
それが当然だった頃から比べると、今は大分違う。
たった一言が、アナスタシアの胸の奥を震わせてくれる。
「あ、そう言えば」
「お? まだなんか在ったか?」
良は首を傾げるのに、アナスタシアが軽く笑う。
「温泉旅行、駄目に成ってしまいましたから」
そう言われれば、良も本来の目的を思い出す。
「……そういやあ、そうだったな」
忙殺されていたからこそ、忘れていたが、元々は温泉旅行へ行く為にバスを借りていた。
「大丈夫ですよ。 また、何か考えましょう?」
「そうさな、あでも、何が良いかなぁ……」
二人で意見を出し合い、色々考える。
その事に、アナスタシアは何とも言えない気分であった。
何故ならば、それこそ彼女が以前の世界で見ていた夢に他ならない。
特に難しい事を悩むでなく、人に言えば笑われそうな事に頭を悩ませる。
日々の食事の献立や、休日の過ごし方。
偶には意見のぶつかり合いが在っても、二人で乗り越える。
それを思い返すと、口惜しさが湧き上がった。
もしも、良に起こされずに、夢の中に留まっていたならどうだったのか。
下手に女幹部としての意地など張らず、素直に残っていれば。
そう考えた所で、アナスタシアは少し頭を振って迷いを振り払った。
今更、小さい事で悩んでいる暇はない。
「首領! アナスタシア様! アレを!?」
唐突に、運転手から掛けられる声に、良とアナスタシアは揃って顔を向けていた。
当然ながら、いつまでも山の中には居られない。
先ずは根城である基地へとバスは向かうのだが、山道を降り、街へと差し掛かった所で、運転手は自分の驚きを上司へと告げていた。
水を差された事から、最初は運転手を始末しようかと考えたアナスタシアでも、見えた光景に目を剥いていた。
そして、それは良も同じで在る。
「おぉ? どうなってんだ? コレは」
街を見たところで、良は思わず驚きの声を漏らす。
何故ならば、辿り着いた街だが、其処は自分が知っているモノとは違っていた。




