絶体絶命!? 悪の組織壊滅の危機!!
世界と世界の合間を抜ける。
その際、目が眩む程に視界が白い光に包まれた。
思わず、腕で目を庇うが、光は何時までも続かない。
*
初めて異界へと放り出された際、バスは空を舞った。
奇しくも、視界が開けるなり、解ったのはまた空に居るという事だった。
『またかよ!?』
思わず、そんな声を良は漏らす。
以前ならば、車内に居た為に皆に指示を飛ばせた。
しかしながら、移送機起動の為に外に居ざるを得ない。
どうしたものかと考えるが、答えを出すより速く、耳に音が響いた。
『案ずるな、友よ。 こういう事も在ろうかと、既に準備はしてある』
エイトの声を合図に、バスに変化が起こった。
空中にて変形をするという程には大事でもないが、底面に新たに設置された機器が唸りを上げる。
本来ならば、バスは星の引力に因って引かれて落ちる筈が、浮いていた。
『おぉ、スゲェ……ってか、良いのかよ?』
『何がだ、友よ?』
『いや、ポンポンと未来の技術ひけらかしてさ』
良からすれば、エイトが居た時代の事は忘れて居ない。
時代が一世紀も進めば、それだけ技術は進歩を見せる。
怪しげなバスが空を浮いているという事だけでも、大問題に思えた。
『ん? まぁ、そういえばそうか……ただな……』
『ただ、なんだよ?』
『この時代にも無線のネットワークは在る筈だろう? 今、少しそれを調べて居るんだが……』
細々とした事は良は得意ではない。
であれば、それは得意な者に任せる。
『なぁ、とりあえず……下におろせるか?』
浮いたままでは、目立つ事この上ない。
下手長時間浮いていれば、遠目にも目立ってしまうのは明白だろう。
それこそ、数時間後にはインターネットに【変なのが浮いてた!】とニュースが流れるのは想像に難くない。
『そうだな友よ。 先ずは、降りるとしよう』
作業を一端中断したかは解らないが、エイトはバスを降下させてくれた。
*
少しずつ、地面へと近付くバス。
この間、良はついでとばかりに目を周りへと向けていた。
空からならば、遠くまで見通せる。 其処で解るのは、街の景色だった。
よくよく見れば、其処は依然見た様な未来の死んだ街ではない。
多少見辛いが、動くモノが窺える。
『な、エイト。 俺達は、帰って来れたのか?』
思わず、良はそんな事を口走っていた。
何故ならば、街があるからといって、此処が地球で、自分が居た所かは解らないのだ。
下手をすれば、ただ良く似た場所へと放り出されたかも知れない。
『君の内部記録装置と、時系列の整合性は取れている。 緯度も経度もを』
そんな答えは、正にエイトらしい答えと言えた。
時間と位置は合っているという事から、良は在ることが思い浮かぶ。
『……もしかしたら、彼奴が送り返してくれたのかな』
『アイツ? 誰の事を言ってるんだ、友よ?』
問われた所で、答える事は出来るだろう。
但し、恐らく世界中の誰に言ったところで、信じて貰えるかは怪しい。
そもそも、あの会合自体、良が見ていた夢かも知れないのだ。
寧ろ、その方が現実的である。
『いや、まぁな』
曖昧な返答に、良の耳にフゥンと音がする。
『そんな事よりも、友よ。 下の皆に何か伝えた方が良い』
『へ?』
『君には見えてないかも知れないが、お祭り騒ぎだぞ』
*
良は外に取り付いて居る為、周りは見える。
では、バスの車内ではどうかと言えば、騒がしかった。
「ちょっと!? どうなってんの!!」
当たり前の話だが、いきなり空中へと放り出され、フワフワ浮いているともなれば、誰で在れ驚くだろう。
事実、虎女のカンナは慌てていた。
「ええい!? 落ち着けぃ!! 博士! どうなっている!?」
落ち着けと言いながらも、自分が落ち着いていない女幹部アナスタシア。
普段は滅多に取り乱したりはしない彼女だが、この時は焦りが隠せない。
「どうなってるって言われたってぇ、私だって解りませんよ!?」
組織の頭脳ではあるが、なんでもかんでも解る訳ではない。
博士という呼び名で勘違いされているが、高橋リサ自体は聡明さを除けばその辺の少女と基本は同じであった。
「まぁったく……あんなに騒いじゃってさぁ」
降下速度が緩んだ事から、とりあえず一安心といった声を漏らす川村愛。
必要ならば、その正体である魔法少女への変身も考えていたが、今のところその必要は無いと安堵していた。
「そないに言わんと、せやけど、川村はん落ち着いてまんなぁ?」
微妙に喋り口調が変わっているのは組織の新入り超人である餅田。
そんな声に、愛はウーンと鼻を唸らせる。
「餅田さんだって落ち着いてない?」
意外な事に、魔法少女と餅型超人は仲が良かった。
立場的なモノも在るかも知れないが、単純に友人同士とも言える。
「いやいや、そらわてもいざっちゅう時はこう、体膨らませて風船替わりに成るのも考えとりましたけど」
不定形である以上、特に身体の形に制約が餅田には無い。
依然と同様に、いざとなれば組織の面々の為にエアバッグならぬ餅田バッグに成ることも覚悟はしていた。
ワーワーキャーキャーと騒がしいのは、大幹部三人。
そんな中、落ち着いて居るのはやはり大幹部の一人である剣豪
愛刀を抱えながら、静かに外に目をやっていた。
「お嬢さん達、そろそろ落ち着いてはくれまいか?」
大幹部がピーチクパーチクと騒いでは、部下である戦闘員達に示しが付かない。
まるで熟練教師といった声に、さしもの大幹部達もハッと成っていた。
「ごめんなさい」「面目ない」「あーいすいませーん」
三者三様の謝り方は微妙ではあるが、一応平静は取り戻される。
そんな中、車体前面の窓ガラスに現れる者が居た。
装甲に包まれたままの姿を晒すのは、何を隠そう組織の首領である篠原良である。
片手で器用に捕まりながら、中を見渡す。
『おーい! 聞こえっか?』
ガラス越しとはいえ、密閉されていなければ声は通る。
車内の目が自分に向いた事から、良は組織の無事を確かめていた。
『もうちっとで降りるから! 大人しくしてろよ!』
今更窓から飛び出す様な者は居ないが、一応の声掛けをしておく。
サッとバスの屋根へと上がる姿に、組織は安堵する事が出来ていた。
騒ぐ事を止めて、新しく増設された席へと座る大幹部達。
「ま、首領がああ言ってる事だしぃ」
「我々が取り乱してはいかんな」
先程の騒ぎは何処へやら、如何にも大幹部といったカンナとアナスタシア。
そんな二人とは別に、博士であるリサも席に着くが、その顔は浮かない。
一度は大破したバスを直したのは彼女だが、だからこそ解るのは今の異変だ。
走るまでに直しはしたが、それ以上の機能を付け足した覚えなど無い。
にも関わらず、リサを乗せたバスは宙空をフワフワと漂って居た。
ソッと上を見ても、落下傘の類は取り付けられていない。
つまりは、リサの知らない何らかの技術にて、バスが浮かされている事になる。
「なんかなぁ……」
思わず、自信が揺らぐのだが、そんなリサの背中がバンと叩かれた。
「わ! っと、愛さん?」
「どったの? 暗く成ってさ、せっかく帰って来れたかも知れないのに」
年頃が近いせいか、なかなかに深い付き合いの二人である。
「いえ、別に……」
「えー、良いじゃん? 言ってみなって」
軽い口調は、魔法少女が組織の客分だからこそである。
組織に身を置いて居ないから出来る無礼講と言えた。
「少し前ですけど、私達、夢の中に居ましたよね?」
ふと、以前の世界の事を思い返すリサに、愛はウーンと鼻を唸らせる。
「まぁ、ね」
組織の面々程に、思い切りが良くなかったからか、その際には、愛は夢に引きずり込まれそうに成っていた。
その際、自分を引っ張り出してくれたのは良である。
「で、その夢がどうかした?」
思い返すだけでも、垂涎の想いだが、既にその為の機器は此処には無い。
愛の声に、リサは目を落とす。
「私達、ずっと寝ていて……その間も、良さん独りきりで戦ってたみたいで」
先程、姿を見せた際、博士であるリサだからこそ見えたモノもある。
彼方此方に残された真新しい戦闘の痕跡。
「うーん、まぁ……」
「だから、少し考えちゃったんですよ。 もしかしたら、良さん、私達を起こさないって事も出来たんじゃないかって」
リサの懸念に、愛は目を剥いた。
「どういう意味? 起こされた事、怒ってんの?」
問われたリサは、小さく首を横へと振っていた。
「そうじゃないんですけど」
「けど?」
続きを促す声に、リサは顔を上げた。
「あの人、放って置いたら、独りで何処までも行っちゃいそうですから」
リサからすれば、良は自分勝手という事でもない。
ただひたすらに、止まることを知らないという想いである。
そう言うリサの背を、愛の手が撫でた。
「だったらさぁ、付いて行こうよ」
短くとも、少女なりの決意でもある。
その声に呼応する様に、リサは首を縦に振っていた。
「勿論ですよ」
*
『……ぶえっくしょい!?』
車内にて、少しの話が交わされる間。
バスの屋根に乗ったままの良だが盛大にくしゃみを漏らしていた。
『あっるぇ? なんだ、風邪か?』
改造人間が風邪に掛かるのかは定かではないが、兜の上から鼻を擦ってみる良。
そんな彼の兜の中では、軽い笑いが響く。
『友よ。 私が言うのもなんだが、君は、やはりいけずだよ』
『あん? なんだそりゃ?』
『無知は罪だぞ、友よ』
エイトの苦言に、良の兜が傾く。
程なく、フワフワと浮いていたバスは地球へと降り立った。




