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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その21


 どうしたい、そう問われても、いきなりの事では難しい。

 だからか、怖ず怖ずとリサの手が挙がる。


「あの、良さん? どういう、意味ですか?」 


 説明は既に受けている。

 今まで見ていた全ては、機械が作り出した幻に過ぎない、と。


「俺は……強制はしたくない。 だから、もし夢を見ていたいってんなら、止めやしない」


 首領とは思えない声に、組織がざわつく。


 いつもで在れば【俺に付いて来い】と言わんばかりの良だが、この時ばかりはそうも行かない理由が在った。


 例え幻想でも、素晴らしいモノは素晴らしい事に代わりはない。

 現実では起こって居ないかも知れないが、それ自体にせよ、脳が錯覚して居れば本物とそう違う訳でもなかった。


「俺は、直ぐに行くつもりなんだが、皆はどうしたい?」 


 在る意味、良は非道い選択を迫っていた。

 

 夢を選ぶならば、此処に置き去りにされるという事になる。

 だが、それと引き換えに手には入るのは、死ぬまで終わらない夢であった。


「あの機械に戻って、夢の続きが見たいんなら……好きにして良い」


 再びあの筒に入り、機械に繋がれば、命が続く限り、現実では有り得ない全てが手に入る。

 良の言葉に、壮年が鼻で笑った。


「なるほど……昔こんな話を聴いたな。 我々の想像に限界は無い。 我々の考え全てを描き写すだけの紙も無ければ、書き記せるだけのペンも無い。 我々の頭の中は、あの宇宙(ソラ)と同じだ……とね」


 壮年が語ったのは、古代ギリシャの賢人の言葉である。

 人が想像全てを現実にし得ないのは、単に人が短命過ぎるだけであった。


「実に難しい……無限の夢には後ろ髪引かれる思いだが、私は遠慮して置こう」


 先ず最初に、夢を捨てるとそう言ったのは壮年であった。


「良いんすか?」

 

 戸惑いを隠せない良に、壮年は苦く笑った。


「良いも悪いも無いよ首領。 私の死に場所は戦場(いくさば)と決めている。 ソレに、私一人が夢に溺れたと在っては、先に逝った者に示しが付くまい?」 


 剣豪(ソードマスター)という異名の如く、武人らしさを見せると、先に倉庫から出て行く。


 大幹部の背中を見送りつつ、良は振り返る。 ただ、何も云わなかった。

 既に説明は終えている。 後は、組織の面々が決める事だからだ。 


「……あの、私も、行きます」


 目を左右へと泳がせながら、ぼそりとリサがそう言うと、良は目を向けた。


「良いのか?」


 問われたリサだが、胸の中に想うのは以前の世界で出逢った自分である。

 ただ、その際には既に別の自分は死んでいた。


 言葉で話す代わりに、自分が書き残した手紙は読み終えている。


 夢を捨てるのは辛いが、それでも、生きようとする。

 苦境に立ち向かい、最期は病に倒れたが、それは負けではない。


「だって、私が居なきゃ、良さん駄目じゃないですか?」


 組織に置いて、一番年下のリサだが、彼女は彼女なりの考えを既に持っていた。

 自分から託された想いは、消えては居ない。

 

 パタパタと足音立てて、良の横を過ぎて倉庫を出て行く。


 リサが出たのを見届けてから、顔を向ける訳だが、川村愛は不安げな顔を見せていた。


「あの、篠原さん」

「ん?」

「それって……今すぐ決めないと駄目なんですか?」


 少女の呈した疑問は、周りからしても最もかも知れない。

 何故ならば、此処から出るという事は、夢を捨てるという事に成るからだ。


 そして、それはとてつもなく重い選択と言える。


「川村さん」

「……はい」

「駄目って訳じゃないが、たぶん、もう一回やったら……出て来れないと思うんだ」


 良にせよ、少女の悩みは理解は出来る。


 事実、今ですら良も内心では【後一回ぐらい入りたい】という願望が在った。

 どうせ夢なのだから、と。


 だが、悩むという時点で、選択の半分は決まっている。

 在る意味では、片足を夢に囚われている事に他ならない。


 だからこそ、良は今すぐの選択を迫っていた。


 でなければ、二度と夢から出られる自信が良には無かった。

 一回目を出て来れたのも、ほぼほぼ偶然の為せた業である。


 事実として、良が起こすまでは、誰一人として夢から出て来れなかった。


「でも、残りたいってんなら、俺は、止めないぜ」


 敢えて突き放す言い方を良はする。


 それは何故かと云えば、夢から出るという事は【現実と戦う】という事に成るからだ。

 暖かく、優しい夢とは違い、現実とは、冷たく非情である。


 決断を促すのも、あくまでも自分で責を負う事を求めていた。


 良の言葉に、愛は思わず振り返りそうになるが、踏み留まる。

 夢に入る事は、そう難しい事ではない。


 今一度筒へと身を預け、目を閉じるだけだ。 そうすれば、全ては忘れられる。

 何も無理をしてまで、辛い現実へと立ち向かう必要など無い。


 唇を噛んで夢の誘惑に耐える愛だが、そんな彼女の身体が、ドンと揺れた。


「……わひゃ!?」


 揺らしたのは、カンナがワザと肩をぶつけたからである。


「ほんっと……コッチの首領っていけずだよねぇ」

 

 如何なる夢を見ていたのかは、カンナ本人にしか解らない。

 ただ、云いながらも足は外へと向かっていた。


 リサの様にただ通り過ぎるのではなく、片手で服を掴む。


「付いてったげるけど……責任、ちゃんと取らせるからね?」


 普段の飄々とした顔ではなく、虎の異名の如く鋭い目線にてカンナはそう言う。

 対して、良は頷いて見せた。


「……おう」

「宜しい」

 

 短いやり取りの後、カンナは掴む手を緩めると、離れる瞬間まで手を良へと這わす。

 また一人出て行くが、良はまだ残った面々へと目を向けていた。


 愛と並んでウンウンと悩んでいたアナスタシアだが、突如として「ええい!」と声を挙げた。


「博士と泥棒猫などに首領を任せられるか!! 私は出るぞ!?」


 意地と夢が競り合って居たが、最後には意地が勝ったらしく、ズンズンと言った足取りで倉庫を出て行こうとする女幹部。

 足取りが重いのは、それだけ彼女が夢に惹かれて居るからだろう。


 それでも誘惑を振り切ったのは、胆力の為せる業だった。


 途中、アナスタシアはバッと振り返ると、戦闘員達を見渡した。


「総員! 何をして居るか!? 首領に御時間を取らせるではない!! 出陣だ!!」


 敢えて発破を掛ける事で、戦闘員を動かすのは流石の手腕と言える。


 戦闘員達の誰もが、今まで戦い抜いてきた精鋭揃いだからか、我先にと女幹部へと続いて倉庫を出て行った。

 

 残ったのは、餅田と愛である。


 未だに踏ん切りがつかないのか、少女は酷く困った顔を見せていた。

 餅田に関した云えば、元々表情が無い為に解り辛いが揺れている。


「なんで、みんな簡単に決めちゃうんですかね」

「せや、(つろ)うないんでっか?」

 

 問われた所で、良にも答えるのは難しい。


「俺だって、ほんとは少し……いや、だいぶ心残りが在るさ」


 既に何度となく問われている。

 それでも、良は自分を思い返していた。

  

 地下深く、命がけ尽きるまで戦った自分の抜け殻。


 あの自分は、夢に溺れて死んだ訳ではない。 

 最後の一欠片が燃え尽きるまで、戦い抜いた。


 見えては居ないが、そんな自分が夢から自分を引きずり出したのではないかと思えて成らない。

 聞こえはしないが【立って戦え】という声が胸の奥には在った。


「でも、まだ終わってない。 やられっ放しでってのは、性に合わないんだ」


 繰り返される良の声に、餅田が揺れる。


「わても!! こないな所で昼寝決め込んで終わっとれんですわ!」 


 急に闘志が湧いたのか、餅田は勢い良く動いた。

 それは、在る意味夢を振り切る為の動きである。


 留まれば留まる程に、夢の誘惑は強まる。

 それを振り切るには勢いに任せるしかないのだろう。


 ただ、全員が同じでもない。


 残った愛は、辛そうに目を伏せ、握った拳は震えが見えた。


「川村さん……」

「ずっと前、私達ってこんな感じでしたよね?」


 まだまだ首領としての自覚が無かった頃の事を、愛の言葉で思い返す。

 なんだかんだと理由を付けては、良は愛によく食事を集られていた。


「……あぁ、まぁなぁ」


 懐かしむ良だが、愛にしても、何かを想うのか口を真一文字に結んでいた。


「だからって訳じゃないんですけど、でも、あの夢……スッゴく良かったのに」


 余程夢が恋しいのか、愛は戸惑いを隠さない。


「だって、普通に二人で、普通にしてられたのに……」

  

 川村愛とは、魔法少女である。

 そんな異端の彼女にしてみれば【普通】という事は憧れなのだろう。

 

 故に、踏ん切りがつかない。

 

「一緒に残ってって言っても、篠原さん、嫌がるでしょ?」


 既に、同じことを何度となく云われている良からすれば、答えは決まっていた。


「だったら……お願いします……引っ張ってください……あの時みたいに」


 差し出される手を、良は見る。

 以前にも、良は終わり掛けた愛を捕まえていた。


 もしも、その時に良が少女を掴んで居なければ、今この場に愛は居ない。


 ソッと近寄ると、良は愛の手を掴んだ。


「良いんだな? 俺と来るって事は、楽じゃないぜ? それに、下手したら地獄に堕ちるかも知れない」

「知ってますよ、そんなの……」


 云いながらも、愛は袖で目尻を拭い去る。

 地獄へ行くかも知れないと云われても、手を振り払おうとはしない。


「だいたい、何回一緒にしたと想ってるんですか」


 そんな声に、良は苦く笑った。


「相も変わらず、人聞きの悪い言い方するよな?」 


 云いながらも、愛をの手を引き始める良。

 少女からすれば、力を借りねば成らぬ程に夢の誘惑は強かった。


「あ、そう言えば」

「お?」

「責任……取ってくれるんでしたよね? それなら、もし死んじゃって地獄へ行っても、寂しくないですから」


 生きるという事を選ぶ事は、死が常に付きまとう事に他ならない。

 だからこそ、生き物は生きようと足掻きもがく。

 

 覚悟を感じさせる愛の言葉に良は小さく「おうよ」と応えていた。

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