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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その19


 エイトが引き留めようとしたからこそ、良はあれやこれやと巻き込まれてしまった。

 とは言え、手の平を返す様に協力的ならば、迷う事はない。


『友よ、そう言えば、あのバスに少し手を入れて置いたんだ』

「え?」

『ボロボロだっただろう? だからね、お詫びと云うか、まぁ此方で少し、ね』 

「そら良いな、歩いて行くよりは楽そうだ」


 どうやら、良が建物の中で忙しくして居る間にも、エイトは何かをしていたという。

 通常のパーソナルコンピューターでも、主が動画なりゲームをして居る間、別の事をして居る場合も在る。


 その意味では、エイトは優れた能力を持っていた。

 複数の複雑な作業(タスク)を同時平行で行える。


 それは、人の身には不可能な事であった。

 

   *


 最初に見た時、バスはボロボロであった。 だが、再び見た良はオォと声を漏らす。


「……コイツは、スゲェ」


 俗に言う【小学生並みの感想】に、端末からはフフンと鼻笑いが漏れる。


『そうだろう? 高橋リサも優れた技術者では在るが、私には及ぶまい』 


 ヤケに自信たっぷりといったエイトの声に嘘は無かった。


 元のバスだが、所謂ニコイチという形で無理矢理な修理が行われた結果、御世辞にも見目麗しいというモノではなかった。

 あくまでも、走ることを前提にしてあったので無理もない。 

 

 だが、今では違った。

 

 新品同様という訳ではなく、無駄に改造されたと云う方が正しい。

 あちらこちらを強化され、タイヤも悪路に耐えうるモノに変更。


 有り体に云えば、バスを元に新造されたラリーカーであった。


「あぁ、でも……」

『どうした、友よ?』

「俺、大型の免許ねぇぞ?」


 意外にも、悪の組織らしくない良である。

 

 通常、大型のバスを運転するには専門の免許が要る。

 とは言え、本来この世界に警察官が居ないのだから、わざわざ咎める者は居ない。


『しょうがないな、友よ。 やはり、自動運転機構(オートドライブ)を積んでおいて正解だった』

「そんじゃま、早速」

『行こう』


 促され、良はバスへと乗り込む。 程なく、エンジンが唸りを上げた。

  

 見た目に似合わぬ軽快さで走り出すと、あの建物から離れる。

 良とエイトを乗せたバスは、巨大な墓石に背を向けていた。


   *


 改造バスに付いては、乗り心地は悪くない。

 悪路を走行するにせよ、その構造には未来の技術がふんだんに使われていた。 


 その中では、良が窓の外に目を向けている。


『どうした、友よ? 先ほどからずっと唸っているが』

「ん? あぁ、ちょっと……な」


 含みを持たせる言い方に、バスの速度が緩んだ。


『悩みが在るなら、私で良ければ聞くが?』


 そんな声は、良にとってみれば有り難くもある。

 今の所、相談できそうなのは、窓に写り込む自分か、守護天使だけだった。


「俺は、彼奴等を巻き込むべきなのかなぁ……ってさ」

  

 自分の複製品から何度も問われては居た。

 果たして、また別の戦いに仲間をべきなのか、と。


 在る意味では、篠原良の我が儘の為に、他人を巻き込むという事に他ならない。


 現実ではないにせよ、仮想現実に入りさえすれば、其処には平穏が待っている。


「喧嘩をやるなら独りでやれって云われたが、間違っちゃ居ない」


 戦いに置ける基本は、良でも解っては居た。

 戦術的に考えるならば、強い味方は居れば頼もしいことこの上ない。


 しかしながら、それが正しいのかは悩ましい。 


 恐らく、皆を起こせば本来の自分を取り戻しはするだろう。

 それこそ、良がそうした様に。


 だが、今の所は【誰か目を覚ました】という報告は無い。

 ソレはつまり、良以外の全員が【夢】を受け入れているという証明であった。


「俺の勝手で起こすってのもなぁ……」


 起こすという選択は、結局自分の信念を押し付ける事に他ならない。

 悩む良に、端末が僅かに揺れた。


『でも、君は云ったじゃないか。 とりあえず全員を起こして、今後の事を確かめたい、とね』


 機械故に、正確に記録して居るエイトである。

 間違いない自分の言葉だが、それ故に良は悩む。


 自分が見ていた夢に関してだが、正直悪い夢ではなかった。


 例えそれが本物ではないにせよ、素晴らしさは憶えている。


「解っちゃ居るよ。 でもよ、こう云うだろ? 知らぬが仏ってさ」


 知れば怒るかも知れないが、知らねば怒る必要は無い。

 そんな良の声に、ウムと相槌が返ってくる。


『甘い嘘は、苦い真実に勝る……だね』


 エイトの語るソレは、良の言葉に似ているモノだ。


 真実とは、嘘や偽りではない本当のことわりである。

 そして、それは時として苦いモノに過ぎない。


 掘り返せばお宝が出るとは云われた所で、掘って出て来た結果がゴミだったという事も珍しくは無い。


 つまりは、なんでもかんでも知れば良いという訳でもなく、知らなかった方が幸せという例えであった。


『友よ、君はどうしたい?』

「ん?」

『私は、別に君が望むなら独りで行こうとするのは止めないよ』


 エイトの言葉に、良は苦く笑った。


「なんだかなぁ、云ってることが変わってないか?」


 散々引き留めようとしていた時とは違い、今のエイトは寧ろ良の背中を押そうとして居た。


『何を言う、全てのモノは変わっていくモノだろう? 時は過ぎ、雲は流れ、波はたゆとう、風は吹き、人は変わる。 私もそうさ』


 饒舌な声に、良は目を伏せた。

 ふと、自分とエイトが入れ替わってしまった様にも想えなくもない。


『だからね、もし君が独りでも安心して欲しい……私が着いている』


 誰も聞いていないからこその言葉。

 ソレは、在る意味では選択を迫っていた。


 どうするのかは、良が決めろ、と。


「……やっぱり、性格変わったよな?」

『それはそうさ、なんと云っても、君を独占出来るからね』


 見えた訳ではないが、エイトのウインクを思い出す。 

 それが影響してか、良の腹は決まった。


   *


 改造バスが辿り着いたのは、途中で見掛けた倉庫の一つ。

 その前で、タイヤが回るのを止めた。

 

 のそりと降り立つと、良はウーンと鼻を鳴らす。


「此処か?」


 意外な程にあっさりと仲間の居場所へと来れた。


『あぁ、皆、中にいる』


 そう言う声に、良は恐る恐る倉庫の中へと足を踏み入れた。

 入るなり、パッと照明が点る。


 中には、あの筒がズラリと並べられていた。

 

 近寄って見れば、中身が見える。

 組織の面々の誰もが、良と同じく筒の中に寝かされていた。


 相も変わらず全身タイツにマスクの姿のままの戦闘員は何とも言えない。


 ソレだけでなく、良の目を引いたのは、見えている寝顔。

 誰もが、悪夢にうなされるでなく穏やかに眠って居た。


「なんか、幸せそうだな」


 思わず、良は複製品の【寝た子を起こすな】という言葉を思い出す。

 ふと、良は川村愛が入った筒の蓋へと手を振れた。


 ソッと近寄っても、起きる気配は無い。 

 それどころか、彼女は筒の中でニヤニヤと何故だか笑っている。


「どんな夢見てんだよ……」


 そう言いながら、また別の筒へと近寄る。

 其処では、カンナが猫の如く丸まって寝ていた。


 寝相が悪いと言うよりも、動物の冬眠中を想わせる。

 

 次にリサの眠る筒へと寄るが、ウンと良は鼻を鳴らした。

 見える寝顔だが、一瞬困って居る様に見えた途端に、緩む。

 次には、落ち着いた寝顔へとコロコロと変わる。


「ん? おっとぉ……コレはマズい」


 次の筒にはアナスタシアが入ってるのだが、良は慌てて顔を背けていた。

 その理由だが、筒の中の彼女の表情は表現する事が憚られる。


 強いて云うならば【何かの真っ最中】の様である。

 

 どん尻に控えしは、壮年と餅田。


 この二人だが、在る意味では組織に置いても一番異様かも知れない。

 

 筒の中でも、瞑想して居るかの如く微動だにしない剣豪に対して、餅田はと云えば、筒一杯に身体がねじ込まれていた。

 

「よく入ったな……コイツ」


 とりあえず、全員を見渡した良だが、そのポケットが揺れる。


『友よ、すまないが起こすなら手動で頼む』

「お? 自動じゃないのか?」 


 疑問を呈する良に、フームと音が届いた。


『生憎とな、今の私は設備に対する権限を持っていないんだ。 だが、操作自体は外からでも出来る』


 本来、外部からでも操作は可能ではあるが、エイトはそれを放棄してしまっていた。

 つまりは、起こすなら良が自分の手で行わねば成らない。


「そっか……で、どうやるんだ?」

『そんなに難しい事ではないよ。 横のコンソールが在るだろう?』


 教えに従い、良は筒の横へと近寄る。

 やはりと云うべきか、殆どはチンプンカンプンである。 


「ん~……なんか、チカチカしてるな」

『赤いボタンが在る筈さ、起こすなら、それを押せば良い』


 まるでパソコンの初期設定をする様に、エイトの音声案内に倣う。 


「赤いボタン、赤いボタンっと……あぁ、コレか」


 敢えて手動の操作方法が残されている事に、良は驚く。

 緊急時には、人の手が必要という名残なのだろう。


【EMERGENCY】というボタンに指を掛けた所で良は押すのを躊躇っていた。

 

「おい、なんか、え、えまーげんしー? とか在るぞ?」

『ソレを云うならエマージェンシーだね。 元々起こす機構はオミットされているんだ。 だから、それを押すしかない』


 押せば、他人の夢を壊す事に他ならない。

 果たして、夢から叩き出された者は何と云うだろう。


 それは、やらねば解らない事である。

 

 だが、一度は尋ねると決めた以上、意を決してボタンを押した。

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