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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その16


 自分と相対するのは、コレが初めてではない。

 その筈なのだが、良はどうすべきかを迷っていた。

 

 殴るだけならば、難しい事ではない。 近寄ってそうすればいい。


 ただ、恐る恐る近付けば、見えてくるモノもある。

 

『コイツは……』


 座り込む自分は、全身至る所が焼け焦げて居た。

 その姿には、覚えが在る。


 座っているとは言え、それは単なる鎧の置物に近い。

 まるで誰かが、飾り用の大鎧を置くように。


 手が触れる程に近付いても、やはり動かない。

 思わず、良は手を伸ばすが、僅かに空気が乱れる。


『そうだ、察しの通りだよ』

 

 聞こえたのは、良と同じ様な声。


『……テメェ、何処からだ?』 


 慌てて辺りを探すのだが、何も無い。


『目の前に居るだろ?』

 

 居ると云われても、見えるのは焼け焦げた自分だけ。

 ただ、その後ろでは中枢らしい電柱の様な何かが在った。


 声は、其処から響いている。


『とっくに気付いてるだろうが、その篠原良はもう死んでるよ』 

 

 薄々と解っては居ても、直接云われると胸に何か感じるモノがある。

 見てみれば、座る姿の彼方此方に損傷が窺えた。


 かつて、大首領と戦った際にも、良は殆ど同じ事に成り掛けた。

 幸いな事に、その時の良は助かったが、座る自分は助からなかったという事になる。


 多次元宇宙に置いては、全ての可能性が在ると云う。

 良は、その事実を我が目で見ていた。


『ホントに……死んでんのか?』


 思わず、訝しむ良に、電柱擬きが僅かに明滅する。


『あぁ、もうずっと昔の事さ。 体の機械部分はまだ生きてるが、脳がね。 それでまぁ、俺が造られたんだがな』


 妙に怠そうに語る電柱擬き。


『造られた? じゃあ』


 電柱からは、ため息にも似た音が漏れ出る。


『……改めての自己紹介なんざどれくらいぶりかな? はじめまして、篠原良(オリジナル)。 俺は思考ルーチン、タイプR(リョウ)S(シノハラ)型、バージョンは7.9だ』


 全く同じ声で、そんな説明を受ける。


 細かい所はいざ知らず、在ることが良の頭には浮かんだ。

 何処の何奴が【自分のそっくりさん】を造ろうとしたのか、と。


『おい、一体全体どこの馬鹿やろうがそんなモン造ろうとしたんだ?』


 犯人を尋ねると、電柱はチカチカと光る。


『んぁ? あぁ、製作者の事を聞いてんのな。 構想はアナスタシア、設計と構築は高橋リサ、立案はカンナと川村愛だな』


 意外な程に、呆気なく自分を造ったであろう者達の名を語る。

 そして、その四人の名前を良は忘れては居ない。


『……ウソだろ』


 理由は知らないが、あの四人が自分の偽物を造ったと言われ、思わず我が耳を疑う良である。


『嘘なもんか。 第一、嘘をついて俺に何の得が在るってんだ? まぁ、最も、所詮は情報なんざ幾らでも改ざん出来るからな、ホントの所は俺も知らん』


 機械という割には、妙に良に喋り方は似ていた。

 ただ、全てが似ていながらも、何処かしら少しずつ違いが窺える。


『……なぁ、何だって俺を襲わせた?』


 偽物の自分がやった事に関して、良は釈明を求める。

 単なる娯楽の為ではないことは既に解っていた。


『あぁ、ソレな。 まぁ、分かり易く云えば……オリジナルのあんたのデータが欲しかったんだ。 なんせ、大元の脳味噌は焼けちまって何も残ってなかったからな。 レコーダーの情報だけじゃ、心の中までは見えない』


 どうにも、機械臭い声に、良は鼻を唸らせる。


 複製(レプリカ)に対して、原物(オリジナル)が世の中には存在する。

 その上で、目の前の複製品は良の事を知りたがっていた。


『解るだろう? 俺が如何にオリジナル似せたって云われても、所詮は他人の頭の中に在る篠原良に過ぎないってな。 本物にゃあ遠く及ばん。 そんな時だ、まさか天からそのオリジナルが降って来てくれた。 こりゃあ逃す手はねーってな』


 話す口振りは、間違い無く良に似ている。 だが、やはり違っていた。


『なんでだよ、なんだって……』

 

 何故、この世界の四人は自分の複製品を造ろうとしたのか、その理由は解らない。

 困惑する良に、電柱擬きから発せられる光が弱まった。


『なんでだ? そんなもん知るかよ。俺は彼奴等じゃないからな。 ただ、俺は四人から散々に云われたぜ? どうして違うの、とか……なんだって似てないんだ、とかな。 全く、良い迷惑だよな? 根本から違うんだから、当たり前だってのに』


 複製品には、複製品なりの苦悩が在ったのだろう。

 それでも、創造物は創造主の願いに応えようと努力と試行錯誤を繰り返したと語る。


 まるで、自分から責められるといった事に、良は何とも苦い味を感じていた。

 

 自分が居なくなった世界にて、彼女達は何を想ったのか。

 如何に想いを馳せようとも、想像する事しか出来ない。


 其処で、ふと良は在ることに気付く。

 

『……なぁ、コッチの彼奴等は、どうしたんだ?』


 思い付いたままを尋ねると、電柱擬きが光った。


『どうもこうも、其処の筒ん中に入ってるぞ? 組織の連中も、まだ何人かは生き残ってるぜ? 全員高齢者だがな。 出したところで、歩けるかも怪しいもんだ』


 特に隠し立てする事も無く、複製品はこの世界の四人の場所を教えてくれる。


『なんだって、そんな簡単に教えてくれるんだ? 機密事項ってんじゃ……』

『あ? 聞かれたから答えただけだろ?』

 

 至極当然ながら、今まで良は【その質問】をしていなかった。

 つまり、質問されていないのだから答える義務は存在しない。

 

 言葉が足りないのは、嘘ではない。


『だがよ、会いたいってんなら無理だぜ? それに関しちゃ俺は権限を持ってないからな』


 どうやら、筒の中の四人はこの複製品よりも立場が上だという。

 それに加えて、良も今更この世界の四人とは会いたいとも想えなかった。


 会おうとすれば、それは可能ではある。


 誰もが、恐らくは自分の理想の中に浸っている。

 今更、そんな理想から引きずり出した所で、得られるモノは無いだろう。

 

 悩む良に、軽い笑いが届く。


『でも良かったぜ、あんたのお陰でたっぷりと新しいデータが取れたからな。 早速更新したから、皆喜んでくれてるよ。 バージョンは8.0って事にしとこう』


 果たして、喜ぶべきか悲しむべきか、どうにもこうにも良には解らない。

 恐らくは、原物である良から記録を取ることで、より複製品は本物に近くなったのだろう。


 だが、ソレよりもと、顔を上げる。


『なぁ、俺の連れは、何処に居るんだ?』


 此方の世界の四人に関して、もはや良が感知する事はない。

 で在れば、自分の連れである仲間の居場所を尋ねる。


『お? それに関しちゃ、向こうに聞いてくれ』


 向こうという声に、良は振り向く。

 だが、其処には先程脱いだ鎧が在るだけだ。


 とは言え、誰も居ないという訳ではない。

 良の纏う鎧には、その意志足る守護天使が付いている。


『エイト……にか? でも、なんで』

『ああ、彼女は俺なんかより上位の権限持ちだからな』


 云われ見れば、当たり前事だった。

 思い返して見れば、この未来に辿り着いた時、誰が最初に声を掛けたのか。


 そして、良が目を覚ました際も、エイトは直ぐ側にいた。


 それだけでなく、何度も何度も、彼女は良に問い掛けている。


【諦める訳には行かないか?】【何故其処まで意地を張るのか?】


 今この時まで、良は微塵も不思議に思って居なかった。

 寧ろ、身を案じて気を使っているだけではないのか、と。

  

 だが、考えて見れば不思議でもない。

 全て見て、知っているからこそ、窮地に現れている。


『機械仕掛けの神様……って訳か』

『そう言うのは、デウスエクスマキナってのさ。 解決困難な局面に陥ってしまった際、神として降臨し、その力を振るって解決に導く…ってな』 


 良の声に、即時に豆知識を披露し応えてくれる複製品。


『……ありがとよ、勉強になるぜ』

『なぁに、気にしなくて良いぞ? 俺の方こそあんたに礼を云いたいんだ。 彼奴等の為に、貴重なデータありがとよ』


 複製品の喋り方は、より良に近くなっていた。

 ソレは、新しい記録によるモノと推定は出来る。


 もはや、あれほど湧いていた怒りも何処かへと霧散していた。

 此処に来てからの全ては、壮大な茶番劇であった。


 クルッと電柱擬きに背を向け、鎧の方へと向かう。


 ほぼ中間の位置に来た時、良はフッと背を捻って後ろを見た。


 やはりと云うべきか、この世界の自分は初めて見た時と変わらない。

 機械の身体は未だに生きて居るとは言え、それを司るべき脳は焼けていた。

 脳というソフトウェアが無ければ、身体というハードウェアは動かない。


 もう動く事もないであろう姿に、良は軽く手を振る。


『なんてったら良いんだろうな……何も出てこねーや』

 

 何を云ったところで、何も起こりはしない。

 

 座るその姿は、一見する分には、地球を支配下に置いた支配者にも見えなくもない。

 荘厳な鉄の要塞の奥深くにて、機械の兵隊に護られる。


 ただ、誰に寄り添われるでもなく座っているその姿は、ヤケに寂しげに見えた。


  *


 鎧に戻れば、開いていた部分が閉じる。

 一瞬視界が暗くなるが、直ぐに周りが鎧の中へと映し出された。


 グンと音を立てて、立ち上がる鎧だが、直ぐには動かない。

 何故ならば、動かすべき良が動こうとしないのだから無理もない。


『……なぁ、聞こえてるよな?』


 静かに良が問い掛けると『聞こえているよ』と返事が返ってくる。


『聞くのが恐いんだが……其処の電柱が云ってた事は……本当なのか?』


 あの良の複製品は、嘘を語っては居ない。

 問われれば、それこそバカ正直に答えてくれる。


 それを考慮するとなると、嘘を付いているのはエイトという事になってしまう。


 だからこそ、良は本人にそれを確かめたい。

 問い掛けに対して、長い沈黙。


 機械が何かを考える際、それは人よりも遥かに速い。 

 つまり、沈黙が長ければ長いほど、人の何倍も考えている事に他ならなかった。 

 

『友よ、出来れば、言い訳をさせて欲しい……』


 何とも言えない申し出に、良は苦く笑った。


『……良いさ、俺と、あんたの仲だ』


 敢えて、良はエイトの名を知ったにも関わらず、その名を呼ばなかった。

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