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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その13


 大幹部ブレードタイガーと対峙した経験は在る。

 ただ、それが二人居るとなると、話は違った。


 以前の戦いでは、良の圧倒的な装甲が勝った故に勝利だが、果たして、その相手が二人居るとなるとどうなるか。


 それは、未知数である。


   *


『二人……だと?』


 当たり前の認識として、カンナは本来一人しか居ない。 

 最も、良が二人に同時に存在する事に成った世界も在る。


 この場合に関しては、事情は違った。


~驚く事か? 複製品(コピー)だからな、別に二人居たっておかしくはないだろ? それに、もっと出す気ならもっと作れるぞ? 時間さえ在れば……~


『い喧しい!!』


 勢いで相手を黙らせんと良は叫ぶ。


 大声を出すのは一見無駄に想えるが、胸の蟠りを吐き出すというでは意味がある。

 無駄を絞り出す事で、良は頭を冷やそうとしていたのだ。


 数を増せば、確かに戦略上の意味は在る。

 

 戦術の基本は、多数を持って少数に当たるというモノがあるからだ。

 しかしながら、其処まで正しいにせよ、やはり間違いが在る。


 もし、良を殺さずに捕らえようとするのなら、もっと多くの兵を用意すべきだろう。

 

 アナスタシアやカンナといった大幹部の精巧な複製品を作り上げる迄もなく、圧倒的な数で攻めれば事は済む。


 その方が、効率的かつ確実性が高い。

 にも関わらず、この世界の自分は非効率的なやり方を選んでいる。

 

 その真意が、何かしら引っ掛かった。


 だが、引っ掛かりを確かめるより速く、虎が動き始める。  

 左右へと散りながらも、確実に間合いを詰めてくる。


『今度は、尻叩いたって止まってくれねぇよな』


 以前にも、良はカンナと戦い勝利した。

 その際の勝ち方だが、取っ捕まえてからの俗称【お尻ペンペン】である。

 何よりも自由を愛し、強さを誇る虎だからこそ、そのやり方は効果的であった。


 事実、カンナは首領である良に屈服し、忠誠を誓っている。


 しかしながら、今相対している虎には、その魂は無い。

 あくまでも、見姿だけを真似した模造品であった。


 ジリジリと迫ってくる虎二人に、それぞれ目を向けて牽制しつつ、策を練る。

 

 とはいえ、考えて見れば、それが無駄と悟った。

 頭だけで幾ら考えた所で、相手はその通りには動いてはくれない。


 ならば、全てを相手の動きに委ねる他はない。


 ああしたらこうする、ではなく、ただ無心成って身体に任せる。


 バッと左右から虎が仕掛けて来るが、そのやり方はモンハナシャコと大差が無い。

 つまり、身体の性能だけで戦い方に工夫が無かった。


 良を挟む形で、跳び掛かる虎の動きは見事という他はない。

 何せ、機械さながらに微塵の乱れもなく同じ拍子(タイミング)、同じ方向へと跳ぶ。


 だが、このやり方は重大な欠点を抱えていた。

 全く同じ軌道で跳んでしまった以上、互いの線は重なっている。


 もしも、虎がカンナならば、その様なバカ正直な真似はしない。


 其処へ、良はスッと軽い足取りで下がる。

 ボクサーなどが用いる回避方の一つ【スウェイバック】である。


 至極当然だが、攻撃の間合いに入りさえしなければ、その攻撃は当たらない。

 それが剣であれ、槍であれ、拳であっても。


 だが、虎同士は違う。


 互いに、一つの的へと向かって跳んだ以上、やり直しは効かない。


 当たる筈の的である良が避けてしまった以上、虎同士は自分達でぶつかり合って居た。

 高速でぶつかり合うという事は、単にぶつかる以上の結果をもたらす。


 最初に虎が良にぶつかった時、余り効果が無かったのは、良が後ろへ下がりつつ受け止めたからだ。

 ソレは、緩衝材(クッション)とブレーキを兼ねていた。


 今度は、それ無しでぶつかる。


 装甲の厚いモンハナシャコならばいざ知らず、機敏に動く事に特化した虎は殆ど装甲を纏って居ない。


 顔を覆う仮面が砕け、腕や足が千切れ飛んだ。


 生々しい音を立てながら、虎同士が床に落ちる。

 その様を見てか、良の顔を覆う兜から漏れ出る光が窄まった。


『……嫌なモンだな……偽物だって、解ってるのに』


 原形を留めていない虎二人だが、まだ動いていた。

 

 片方の頭が持ち上がるのだが、仮面が砕けた事から、中身が覗く。

 其処には、カンナの眼ではなく、何かのカメラの様なモノが覗いていた。


 急造品故か、その理由を良は知らない。

 

 だが、全身がボロボロに成っても、カンナの偽物は良へと向かう。

 千切れた腕で床を掻き、残った脚で身体を前へと押し出す。


 もはや、戦える状態ではない。 にも関わらず、虎の模造品は良へと向かう。


 もしも、良が異界の自分の様に【不殺不敗】を掲げて居たならば、或いは無視を決め込んだかも知れない。

 勝ちはしたのだから、と。


 だが、良の背中の文字は違う。

 

 スッと未だに動く事を止めない模造品へと近寄ると、その背中へと膝を乗せて動きを止めた。


 この時、模造品の身体からは本物同様に刃が突き出す。

 その刃が如何に鋭くとも、良の纏う装甲には僅かな跡しか着かない。


 相手の首へと、肘を引っ掛け、頭頂部を空いている手で抑える。

 腰の回転を生かして、良は模造品の首をへし折った。


 一瞬、司令塔である頭と分断された身体がバタバタと暴れたが、直ぐにパタンと動きを止める。


 本来なら、放置しても問題は無かったのだが、敢えてトドメを刺す。

 ソレは、余りの無惨さに見かねたからだった。


 動きを止めた模造品から離れ、スッと息を吸い込む。

 不思議なモノで、怒っている筈なのに、頭は冴えていた。


『……で? コレで出し物は終わりか?』


 肩を竦めてそう言うと、辺りを見渡す。


~何とも思わないのか?~


『あ?』


~カンナを殺したんだぞ?~


 そんな声に、良の兜からは鼻笑いが漏れる。


『いや、めちゃくちゃに怒ってるぜ? わざわざ俺の手で直接やらされたんだからな。 ただ、喚いた所でどうにもなんねぇ事もある』


~なら、何故トドメを刺したんだ?~


 自分の手で、カンナの偽物を壊した事に関しては、良は憤っては居た。

 ただ、玩具を強請る子供の如く、駄々を捏ねようとはしない。


 何故ならば、そんな事には何の意義も無いからだ。


『何でって……あんまり苦しそうだったからな』


~そんな事は……お前は~


 困惑する声に、良はバッと背中の外套を翻る。


『おいこら! 俺様が正義の味方にでも見えんのか? 何処に目ぇ付けてんだよ、俺様よ、悪の組織の首領だぜ』


 正義の味方であるならば、或いはやり方も在るかも知れない。 

 ただ、良は正義の味方などでは無かった。


 世界征服を企む悪の組織の首領である。


『ついでだが、見えた事もあんだよ……お前、篠原良(オレ)じゃないだろ?』

 

 今までの全てから解るのは、相手は決して自分ではないという事だ。

 喋り方や声は真似しているが、全く違う。


『なぁ、いい加減正体明かしたらどうなんだ?』


 良の問い掛けに、部屋の空気が揺れた。


~俺は俺だ。 そんな事は……~


『いいや、絶対違うな。 世の中に絶対なんざねーとは云うが、断言出来るぜ。

お前は、俺じゃない』


 確信めいた何かが、良の中には在った。

 話すだけでなく、戦ったからこそ解る事もある。


 直接的に相対した訳ではないが、間接的には戦った事に相違ない。

 其処から見えるのは、相手の考え方や物事の捉え方。

  

 全てを統合して解るのは、相手は篠原良ではない【何か】だと云う事だった。


『俺は、リサほど頭は良くねーが、脳味噌は一応残ってる』


 そう言いながら、良は自分の兜を指先でコンコンと叩いた。


『だから解んだよ、お前……もしかしたら俺の偽物だろ?』


 ソレが、良が導き出した答えだった。


 相手が異様な迄に複製品(コピー)に拘るのは、其処に理由が在るからだ。

 でなければ、そもそも大幹部達の偽物を用意する意味が無い。


『で? 俺の何を知りたいってんだ? こんな真似までして』 


 問い掛けはした。 だが、長らく返答が無い。

 いちいち相手の答えを待っているつもりは、良には無かった。


『おい! 俺も暇じゃねぇんだ、サッサと皆を返してくれ。 そしたら、こんな所サッサと出てってやるぜ』


 良からすれば、世界中の人間が仮想の現実に入り浸って居ようが、そんな事はどうでも良かった。

 仮に今更、仮想現実から人類を解放したところで、毛ほどの意味も見えない。


 女からも云われたが、本来生きるという事は辛い事に他ならない。

 その辛さに耐え、尚且つ立ち上がるからこそ生きていける。


 その生きるという事を放棄した者達など、良からすればどうでも良かった。

 この世界の行く末など、微塵の考慮にも値しない。


 何故ならば、星に居た全ての人類は滅びたのと同義である。


 良の声に、また空気が揺れた。


~本音を言えば、俺もそうしてやりたいのは山々なんだがな。 そうもいかないんだ~


『んだコラ!! どういう……』


 急な気配に、辺りを見渡す良。 其処で見えたのは、開く壁である。


『……なんだ? アレは』


 壁に開いた穴からは、何かが這い出して居た。

 厳密にソレが何なのかを、良は知らない。


 ただ、頭に浮かぶのは、蛸か火星人であった。


『オイオイオイ、なんだなんだ』


~すまないな、ホントなら、もっと遊んで居たいんだが……そうも行かなくなっちまった~ 


 壁から這い出した何かは、蛸にも似ているが違いも在る。

 表面が何で造られて居るのか定かではないが、目らしき部分はギョロッと動く。


 一体二体ならば或いは良も驚きはしなかったかも知れないが、数が違った。

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