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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その8


 やはりと云うべきか、この世界にも自分と同じ名を持つ者が居る。

 想像はしていたが、やはり事実として突きつけられると何とも言えない。


「……やっぱりなぁ」


 同じ世界に、別の自分が居るという不思議。

 とは言え、既に一度経験している為に其処まで驚きは多くはない。


 ただ、疑問に成るのは、自分と同じ筈の者は、自分と同じ良は全く違う考え方をしているという点である。

 何を思って居たのか、それを知りたくなる。


「なぁ、俺……あー、こっちの俺と話せるか?」

「……少し、待ってくれ」


 問われた女は、一瞬目を伏せた。

 ただの人間ならば、少し俯いているというだけだが、彼女の場合は違う。


 敢えて例えれば、指示を出されたパソコンがその指示を実行中の様なモノだ。

 数秒間経った所で、俯いていた顔が上がる。


「折り返しで掛けるそうだ」

「かける? 電話か?」


 程なく、良のポケットに収まっている携帯端末(スマートフォン)か鳴った。


「お? なんだ」


 鳴り響く着信音に、良はその音の元を取り出す。 

 映る画面には【篠原良】と表示されていた。


 機械に疎い良からすれば、どうやっているのか不明だが、相手は確実に良の持ち物を操っていた。

 恐る恐る、通話を繋げた。


「……もしもし?」


 話し掛けると、通話の向こうから鼻笑いが僅かに聞こえる。


『よう、奇遇って云うのかな、こう云うのは?』


 実に奇妙であった。 自分の声が、向こうから聞こえてくる。


『ま、今更自己紹介なんて要らんだろ? それで、要件はなんだ』


 自分と話すのはコレが初めてではない。

 それでも、以前に話した鬼神とは違い、聞こえる声は何処となく冷たい気がした。


「それじゃあ云うぜ、仲間は何処だ?」


 聞きたいことは山ほど在るが、今は一番大事な事だけを伝える。

 ただ、返事は返ってこない。


「……おい? もしもし?」

『聞こえてるよ。 ただ、な……』

「ただ、なんだよ?」

『皆は出たがらないと想うんだ』


 どうやったのか迄は解らない。

 それでも、やはり良の仲間達は何処かで筒に入れられているという。


 捕まっているという事実に、良は眉を寄せた。


「出るか出ないのか、そんなのは直接本人に聞けば良いだろ? で、何処に居るんだよ」


 組織の者達、そして客分の少女の行方を尋ねる。


『なぁ、俺は想うんだ。 もう、十分戦ったじゃあないか、だったら、休んだって良いってな』


 どうにも、電話をしている良は仲間を居場所を教えてくれない。

 それどころか、はぐらかそうとすらしていた。


「おい、そんな事は俺達が決めりゃ良いことだろ?」

『そうは云うがな、俺だって篠原良なんだ。 だったら彼奴等の為を思っちゃおかしいか?』


 自分と言い合うという事実は、良を混乱させた。

 全く同じ声が、互いに違う意見を呈している。


『どうせお前の事だ、サッサと皆を起こして、喧嘩しに行こうってんだろ?』

「当たり前だろ? 売られた喧嘩は、買ってやるもんだ」


 良の言葉に、通話の向こうからは抑えた笑いが聞こえた。


『……若いな、昔の自分を見ている気分だぜ』

「おう、そらそうかい? んなことよりも、皆は何処なんだ?」

 

 重ねて尋ねると、笑いは止まった。 


『お前の身勝手で仲間を巻き込むなよ。 どうしても喧嘩したいなら、独りでやったらどうなんだ?』


 自分からの指摘に、良は言葉に詰まってしまった。

 もしかしたら、間違っているのは自分なのではないか、と。


 良の仲間達は、全員が夢の中に居るという。


 仮想現実とは、あくまでも仮想であり夢には違いない。

 だが、其処には苦しみらしい苦しみは無く、それどころか永遠に浸りたくなる誘惑が在った。


 俗に言う【普通に幸せな人の条件】が全て揃っている。

 

 格別な悩みは無く、精々が献立の組み立てや休日の予定程度の事にしか頭を悩ます必要は無い。

 他人から見れば、取るに足らない事に日々を費やす。


 他者への僻み、妬み、辛み、怨みといった負の要素が其処には無く、悠久のぬるま湯。

 誰もが夢見た、終わらない夢。


 内心【もう一度見たい】という気持ちが良にも無くはなかった。


 だが、別の世界にて、決して諦めなかった自分が思い出される。

 絶望し、全てを投げ出したくなるなか、それでも奮い立ち、立ち上がる。


 腕と脚を失っても、心は屈して居なかった。


 ふと、良はそんな自分から贈られた【不撓不屈】の四文字を思い出す。


「……だったら、なおのこと聞かなきゃなぁ? どうせ、彼奴等には聞いてないんだろ?」


 敢えて細かい事を省くのは、話している相手が自分だからである。

 だからこそ、その自分が何をしたのかが想定出来た。


 何故、この未来に来た際、皆は慌てて居たのか。

 何も無ければ、今更驚く様な弱気な者は組織には居ない。


 つまりは、何者かが組織の面々を半ば強制的に拘束、あの筒へと放り込んだのは容易に想像が出来た。


「強制的じゃなきゃ、彼奴等があの筒になんか入るかよ」


 一度出した上で、もう一度入りたいという者はそうすれば良いと良は考えた。


「手荒な真似はしたくねぇ、答えろよ、彼奴等は何処なんだ?」

 

 数秒間、返事は無かった。 ただ、唐突溜め息が聞こえる。


『……やっぱり、話し合いじゃ耳を傾けちゃくれんか』

「んなことは解ってんだろ? 俺なんだからな」


 お互い同じ篠原良で在りながら、その意見は違った。


『そらそうだ、なら……多少力付くでも俺はお前を止めるぜ』


 通話が切られる。

 携帯端末をポケットへと戻し、静かに待っていた女へ目を向ける。


「な、駄目もとで聞くんだが、彼奴等が何処に居るのか、教えてくれないか?」


 良の声に、女は複雑な顔を覗かせる。 目蓋を落とし、深く悩む様に。


「……すまない、友よ。 私には……」


 機械に取っての数秒間は、人間のソレとは大分違う。

 それでも、数秒間悩んだという事は、人間にすれば数時間は悩んだのと変わらない。


「解ってる、彼奴に義理立てしてんだろ? あんたらしいぜ」


 自分を彼奴アイツと呼ぶのも奇妙な話だが、女の事は良も知っていた。


「こっからは、俺が勝手にやる事さ」


 それだけ言い残すと、居間を出て行く。

 ただ、完全に出る前に、良はふと在ることを言い忘れていた事に気付いた。


「……っと、お茶、美味かったぜ。 また頼む」


 何も云わずに別れたのでは、余りに寂しい。

 だからこそ、良は再びの再会を約束していた。


 居間から出て行ってしまう良を、女も見守る。


「……変わらないんだな、君は」


 その言葉は、良には聞こえていなかった。


   *


 平屋を出たが、問題は残っていた。


 ハッキリ言って、手掛かりらしいモノは何も無い。  

 そもそも、東西南北どちらへ向かえば良いのかすら、定かではなかった。


「……あー、くそ。 どっち行きゃ良いんだろうなぁ」


 当て所無くさ迷うのは意味が無い。

 仲間達を見つけ出し、次にあの改造バスも回収する必要が在る。


 やるべき事は山積みながら、何から始めるべきかが解らない。


「コレがゲームとかなら……楽なんだろうけどなぁ」


 目的(クエスト)を与えられるゲームであれば、何処へ行き、何をしろ、という事が定められては居る。

 その為の案内(ガイド)まで懇切丁寧に設けられている場合すら在った。


 だが、今の良はそんなゲームの主人公ではない。

 寧ろ、荒野に放り出されただけである。


 うんうんと唸りつつ、何処へ行こうか悩む良の耳に、何が聞こえた。

 フイと其方を振り向けば、なんとリサが立っている。


「……え? リサ?」


 いきなりの事に、頭が追い付かない。

 それでも、良はリサへと駆け寄る。


「おい、リサ! 大丈夫か!?」

 

 近寄った途端、リサは良へと抱き付く。

 

「お、おいおい? いきなり……」

『良さん』


 聞こえた声には、違和感が在った。

 生身の人間の発声と違い、今見えるリサの声は機械から発せられたモノである。


「あ? なんだ」

『お願い、一緒に居て』


 ぎゅっと抱かれる事に、よくよく見れば違いにも気付く。

 密着したからこそ解るが、ソレはよく似ているだけの紛い物だった。


『何処にも行かないで』


 必死な懇願は、良を揺さぶる。

 よく似ただけの偽物程度ならば、改造人間の敵ではない。


 ただ、良は迷っていた。


 偽物である事は解るが、どうしたものかと悩む。

 払い除けるなり、力付くで振り払うのも可能では在るだろう。

  

 しかしながら、それが出来ない。


「……放してくれ」


 良がそう言うと、偽物のリサは嫌がる様に頭を左右へと振る。


『いや、絶対やだ』


 明確な拒否に、良は苦渋の決断を迫られていた。

 このまま偽物に抱き付かれたままでは一歩も動けない。

 

 であれば、多少の事はやむなしと意を決する。


「……すまねぇ」


 必要が無いにも関わらず、良は偽物の腕を掴んだ。

 グッと力を込めて、巻き付く腕を外しに掛かる。

 

 元々大して強い力ではないからか、外す事は難しい事ではない。

 だが、偽物の抵抗は強く、肩から腕が取れてしまった。


 ボトリと、細い腕が地面に転がる。


 その様には、思わず良は背筋に寒いモノを感じてしまう。

 

 腕をもがれた偽物だが、その場へと転がった。


「お、おい?」


 思わず、手を差し伸べそうになる良だが、次の瞬間、悲鳴が上がる。

 紛い物である筈だが、その悲鳴は良を震わせた。


『……どうして? 痛い、痛いよ、良さん……』


 電話での会話の際、この世界の良は在ることを云っていた。


【力付くでも、お前を止める】と。

  

 その言葉に嘘は無かったが、やり方は良の想像を超えていた。


 大掛かりな仕掛けや、重装備の機動兵器といった派手はやり方をしない。

 寧ろ、知っている者のそっくりさんを差し向ける。


 同じ篠原良だからこそ、相手の嫌がるやり方を熟知していた。


「……くそったれが……」


 そう言う良の目の前で、リサに良く似た紛い物が転がる。

 ただ転がるだけでなく、痛みに呻く声を漏らす。


 紛い物の腕をもいでしまったのは、他でもない良であった。

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