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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その5


 紆余曲折は在ったが、後片付けも終わり団欒の時となる。

 その際、母は娘達に飲み物を用意していた。


 それをチラリと横目で見た良は、胸の内がホッコリする。

 なんだかんだ云っても、結局は娘想いの母親なのだ、と。


 しかしながら、往々にして事情は見えているモノが全てではない。


 何故ならば、アナスタシアが用意しているのは三人の分なのだ。

 この場には五人居るにも関わらず、数が合っていない。


 ソレは何故か、アナスタシアと良の分は無いのかと言えば、実は用意はして在った。

 ただ単純に、三姉妹の分とは僅かに隙間を設けて分けてある。


 そして、良の目が反れた時、母親がなにやらゴソゴソと娘達の飲み物に仕込んだ。

 軽くスプーンで掻き回す訳だが、その際、母はニヤリと嗤う。


「良、すまないが持って行ってやってくれないか?」

「あ、はいはい」


 三姉妹の飲み物を乗せたトレイを持ち上げる息子を、母はジッと見ていた。


   *


「ほいよ、お待ち遠さん」


 喫茶店の店員を真似る良。


「さんきゅー」「あんがと」「すみません」

 

 三者三様の反応と共に、飲み物は渡された。

 ソレは、ジッと台所の奥でアナスタシアが見ている。


 三姉妹にせよ【良が持ってきたから】という事実に注意が反れている。

 特に訝しむ事もなく、先ずは一口。


 その際、母親がコッソリとガッツポーズをしていたのは御愛嬌というモノだろう。


 時間にすれば、数分間が過ぎる。


 唐突に、カンナが大きく欠伸をした。


「……あれ、食べ過ぎかなぁ……なんか、眠い」


 急に眠気を催したのか、カンナがそんな言葉を漏らす。

 ソレを受けて、リサも眼鏡を外して目を擦った。


「あれ、なんだろ……」


 長女と末っ子が謎の眠気に悩まされる中。

 一人、次女の愛が頭を振って居た。


「……こんな、どうして……」

   

 食べてすぐ寝ると牛に成る、という言葉はともかくも、ヤケに眠い。

 その感覚に、ハッと成った愛は良を見た。


「お、どうした? 愛? おい?」


 視界がぼやけるが、兄は自分を心配している。

 となれば、犯人を探して別の方向へ目を向ける愛。


 其処では、何故だか無言にて勝ち誇るアナスタシアが居た。


「……あの年増……はめやがった……」


 娘の母に対する言葉としては些か問題が在るが、意識が混濁しているので無理もない。

 既に、愛も母の術中に堕ちていた。


「おいおいおい!? なんだ、どうしたってんだ!! 愛? おい?」


 意識を失い、崩れ落ちる妹を慌てて支える良。

 兄の腕の中で、妹はぐっすりと眠りの中へと落ちて行ってしまう。


 慌てて見渡せば、カンナもリサも既に寝入っていた。


「……なんだ、急に」


 巷では【ドカ食い気絶】と俗称される症状もなくはない。

 急激な血糖値の増加に因ってインスリンが不足、結果としてブドウ糖不足に陥った脳が機能を低下、意識を混濁させてしまう。


 とは言え、三姉妹はどちらかと言えば細身であり、成人病の毛はない。

 では何故急に姉妹は眠りに落ちたのか。


 困惑する良だが、肩に母の手が掛かる。


「母さん?」

「家事が出来ないどこらか、直ぐに寝落ちとは……我が娘ながら情けない」


 悪びれるどころか、余裕綽々と言ったアナスタシア。


「さ、仕方ないので運んでやらねばな……良、手を貸してくれ」

「あー、うん」


 勢いとは、時に恐ろしいモノでソレだけでも押し切ってしまう事もある。

 この時もまた、良も母親に押し切られ、事態の把握を怠っていた。


   *


 一人、二人、三人目と、最後にリサをベッドに寝かす。

 担がれても気付かない程に眠る三姉妹を部屋に送った後。


 一仕事終えた良は、肩を回す。


「ふぃ~……参ったね」

 

 意識を失った人間だが、実のところ重い。


 意識さえ在れば、本人がバランスを取ったりと手伝えるが、その意識が無ければ運ぶのも担ぐ人が一苦労である。


 妹達を運び終えた良に、母親が顔を向ける。


「ご苦労、風呂が沸いてるぞ。 一汗流すと良い」


 果たしていつの間に準備したらしい母に、良はウーンと鼻を鳴らした。


「いや、母さん先に入れば……」

「良いから、ほれ」


 促す為にか、アナスタシアは息子の尻をペンと叩く。

 妹達とは違うからか、母親から云われると良も強くは出られない。


 最もソレは、義理の母という他人にへの遠慮からであった。

 

「じゃあ、まぁ……」


 譲られた以上、下手な遠慮は寧ろ失礼と想ったからか、良は素直に風呂へと向かう。

 そんな背中を、アナスタシアはジッと見る。


 だが、背後からの視線が如何なる物か、良の背に目は付いては居なかった。


   *


 衣服を脱ぎ、脱衣場から風呂場へ。

 慣れたモノだが、ふと良には別の光景が浮かぶ。


 家族なのだから、当たり前といえば当たり前だが、この風呂場は家族共用である。

 つまりは、妹達や母親も使う。

 

 其処で良はふと、いつもとは違う家族の姿を想像してしまった。


 意識しなければ、大して気にしない問題だが、この日は違う。

 何故ならば、妹達の執拗な迫りを受けたからに他ならない。

 

 良にせよ、男である以上は意識してしまう。

 そんな自分の頬を、良は軽く叩いた。


「ばっかやろう……なに考えてんだよ」


 自分を戒める為だが、余り効果は無い。

 何せ家族とは言え、それは名目上のモノでしかなく、4人もの女性が側に居るという事が良を悩ませた。

 

 然も、妹達三人からは露骨なまでに言い寄られてしまっている。

 仮に良が、三姉妹の内の誰かに【お付き合い】を申し込んだとしても、拒否されるどころかその場で何かが始まり兼ねない。


 だが、それがいけないのかと問われれば、別に法的には何の問題も無かった。


 義理の兄妹の関係だが、基本的には他人である。

 父親と母親が婚姻関係に在ろうとも、その子供達は偶々同じ屋根の下で暮らしているだけなのだ。


 カンナに至っては、本人の了承さえ在れば年齢的には問題無い。

 他の姉妹にしても、アナスタシアの許可が在れば許婚も可能だろう。


 つまりは、良がその気になりさえすれば良いだけの話であった。


 加えて、カンナからは【全員でも良いよ】とまで云われてしまっている。

 無論、倫理的には問題は在るかも知れないが、他人が関知する問題でもない。 


「……どうしたもんかなぁ」


 問い掛けた所で、答えは無い。

 それでも、胸の内では答えは出口を求めていた。


 欲求が在る以上、それは解放を求めてしまう。

 ソレが溜まった際など、夜中にコッソリ、という事も無くはない。


 モヤモヤと浮かぶ想像を振り払わんとした時、風呂場の出入り口が開いた。


「おい、今入って……」


 すわ誰かが入って来てしまった、そう思う良だが幾つか問題が在る。

 確かに、時折妹達が乱入するという珍事も無くはないが、専らは他の妨害にて未遂で終わる事が多い。


 では、父親が居るかと言えば、今は家には居ない。

 そして、妹達は原因は不明だがぐっすりと寝入っている。


 そうなると、答えは一つしか無かった。


「うん? あぁ、気にしなくて良いぞ」


 慌てて顔を前へと向ける良だが、確実に背後をアナスタシアに取られていた。

 コレが真剣勝負ならば、背中を盗られる事自体は不覚でしかない。


「いや、気にすんなって……てか、なんで」


 何故に母親が息子の入浴中に乱入してくるのか。

 慌てる良の背後から、フフンと抑えた笑いが聞こえた。


「なに、いつも手伝って貰ってるからな。 労いとして、背中でも流してやろうかと思ってな」


 仮に、良が幼児か小学生低学年ならば有り得なくも無い。

 父親が不在なのだから、母親がその子の面倒を見る。

 

 とは言え、良は別に幼子ではない。 世間的には青年である。


 ハッキリ言えば【母親が何をトチ狂ったのか?】とすら思えてしまった。

 父と母であれば、二人は夫婦なのだからそういった関係であっても問題は無い。

 しかしながら、良の場合は事情が違う。


「えぇと、困るよ?」


 実際良は酷く困っていた。 何せ今手元に在るのはタオル一枚しかない。

 布切れ除けば、良は素っ裸である。


「何を困る事がある? 単に息子の背中を流してやろうしているだけではないか」


 なんとも言えない声にて、気配が近付く。

 湿った空気は重さを増し、それは良にアナスタシアが近付く事を肌に伝えていた。


 ジャボっと、湯を汲む音。 

 それに続いて、垢擦りを泡立てるのが聞こえる。 


「さてさて……」


 もはや息子の言葉など届いて居ないのか、アナスタシアの手が良の肩に掛かった。

 下手に身動きが取れない良の背中に、泡立つモノが触れる。


「そう怖がる事はないだろう?」

「あー、まぁ」


 怯えて居るかと問われれば、別に怯えて居ない。

 強いて言えば、非常に困っているだけである。


 ゴシゴシと背中を洗われる中、良はただただ口を真一文字に結ぶ。 

 胸の奥では心臓が既に踊り始め、血の巡りを活発にしていた。


「……おっと」

  

 急な声と共に、良は背中に軽い衝撃を感じた。

 それと共に、抱きつかれるのが解る。


「すまないな、滑った様だ」


 一応は事故を装うアナスタシアだが、故意なのは明白だった。

 余程の急激な動きをしなければ、そうそう足が滑る事はない。  


 そんな事よりも、良が困るのは背中への感触である。


 衣服の上からでは解らない事も、直接となれば見ずとも解る事も在った。

 一応はバスタオルは巻いて居るらしいが、それ以上に困るのは、背後から回された腕だ。


 放す気は無い、と言わんばかりに、アナスタシアの腕が良を抱き締める。


 腕をより絡めれば、必然的に身体も密着してしまう。

 思わず、良は唾を飲み込んでいた。


「か、母さん…マズいって……」

  

 男女である前に、親子である。

 そう自分へと言い聞かせつつ、アナスタシアを説得するのだが、離れてくれない。


「私は別に構わない」

「いや、俺が構う……っていうか……親子だろ、俺たち」


 このままでは事態が悪化しかねず、何とか策を考える良。

 だが、当のアナスタシアはと言えば、クスッと笑っていた。


「親子ではある。 だが、男女でもある」


 そう言うと、良を捕まえる片手が動いて胸板をさする。


「お前の父さん……あの人がいけないんだ。 私をこんなに放って置いて」


 耳元で囁かれると、良の中で何かが蠢く。

 

「私だって、寂しいんだぞ? だったら慰めてくれても良いじゃないか」


 懇願する声に、良は戸惑いを隠せなかった。


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