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世界征服、はじめました  作者: enforcer
嘘か真か、理想の世界!?
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嘘か真か、理想の世界!? その4


 良と比べると、妹二は小柄かつ細身である。

 にも関わらずその膂力は見た目に合っていない。


 両脇から良を抱えると、半ば引き摺る様な形で階段を上がり始めた。


 奇妙なモノだが、良はその階段を【処刑台】への十三階段を想像してしまう。

 カンナが強行に及んだ際などは、他の三人が慌てて駆け付けたが、同じ事が続くとは思えない。


「ほぉら兄貴。 もう観念しなって……」

「……大丈夫、私達に任せて」


 声色こそ優しい妹二人だが、良からすれば処刑宣告とも取れた。


「参ったなぁ……」

  

 如何なる苦境にもメゲない自信は在れども、女の子には弱いという良である、 

 

 距離にして後数メートル、という所で、二人は足を止めていた。


 何事かと、良は顔を上げる。

 すると、其処には笑顔で腕を組む母が居た。


「お、お母様」「どうして?」


 思わず、口々に信じられないと言う愛とリサ。 

 そんな二人の目には、筋肉だけで笑っている母が映る。 

 

「この、こまっちゃくれた小娘共が……良を連れて何処へ行こうと云うんだ?」


 いったい、いつの間にか移動したのかは定かではない。

 だが、確実にアナスタシアは其処に居た。


「えーと……あぁ! そうそう、お兄様に勉強なんか見てもらおうかなーって」

「そうそうそう、そうなんです」


 如何にも取って付けた言い訳だが、一応筋は通っている。

 良は二人の兄なのだから、勉強を見て上げたとしても、不思議ではない。

 最も、良は勉強が得意ではないのだが、それは些末な事だった。


 娘達の反応に、母は笑顔のままでウンウンと頷く。


「そうかそうか、それは良い心掛けだな……」


 まるで慈母の如き声。  ただ、直ぐに顔が変わる。


「……とでも云うと想ったか?」 


 そう言うと、アナスタシアは何処からともなく紙袋を持ち上げる。

 目線が向いて居なかったので、もしかしたら足元にでも置いて在ったのかも知れない。


「この中身のいかがわしいモノは、いったい何に使うつもりだったんだ?」 


 紙袋はビニールとは違い不透明である。 つまり、中身までは見えない。


 良からすれば、ただの紙袋では在るが、妹二人の反応は違う。

 しまった、という顔をしていた。


「あ、えっとね……拾ったの」

「ほーう? 拾った? では、誰かの落とし物かも知れんな? ならば、コレは保護者として預かって置こう」


 妹と母の間だけで何かが交錯する。

 果たして、紙袋の中身が何なのか、それは定かではない。


 仕方なしに、良は動かせる首を動かして妹二人の様子を探った。


 其処で解るのは、二人共に何か【重要なブツ】を母親に盗られたという考えが露骨に現れていた。


「てっゆーかさぁ……母親だからって、娘の部屋家捜しなんてして良いわけ? いっくら家族でもさ、そういうのは権利プライバシーの侵害って云うんじゃないの?」


 性格故にか、只では引くつもりは愛には無いらしい。

 寧ろ彼女の態度は、隙あらば謎の紙袋を取り返そうとすらしていた。


 娘の文句に対して、母親(アナスタシア)はと言えば、鼻でフンと笑う。


「家捜しをして良いのか? 勿論だ、当たり前だろう、そんな事は」


 悪びれるどころか、寧ろ悠然と構える

 

「誰が貴様等小娘共の世話してると想ってるのだ? 愛にせよ、リサにせよ、カンナにしても、家事なんぞ全く出来ないではないか?」


 母親だからこそ、よく見ているのらしい。

 事実としてソレは出任せではない。


 長女のカンナ、次女の愛、末っ子のリサの三姉妹だが、ハッキリ言って家事不能者といって差し支えない。


 その事は、良も良く知っていた。

 基本的には【やらない】ので、専らは良が進んで家事をしている。


 その際など、女性比率のせいで洗濯物などは目のやり場に困るよりも、下着の丁寧な洗い方といった事とは無縁な姉妹達に困らされている。

 特に女性の下着の類い等は、そのまま洗濯に入れたのでは繊維や生地が傷むので洗濯ネットに入れて欲しいと何度となく頼んでも、馬耳東風であった。


 何度となく注意はするのだが、暖簾に腕押し糠に釘と無意味だと悟らされている。


「それは……おいおいって言うか、ぼちぼちというか、覚えて行こうと思ってるし」

「愛よ、思ってるだけでは出来る様にはならんぞ? という訳で、コレは没収する」


 決定権が母親に在る以上、愛とリサは何も言えなかった。

 あれやこれやの雑多な事を任せてしまっていた姉妹の落ち度でもある。


 リサなど、悔しげに唇を噛むだけで言葉を抑えていた。

 下手にこの場で言い合いに成っても、勝ち目は見えない。


「……ソレと、勉強するのは良いことだ。 ちょくちょく差し入れをしてやろう」


 高笑いと共に、階段を降りていくアナスタシア。

 勉強の際には定期的に監視をするという事を宣言してしまう。


 この時点で、勝敗は決していた。


「くそう!? いつか思い知らせてやるぅ!!」


 謎の紙袋を押収された愛は、地団駄を踏んだ。

 果たして、袋の中身は何なのか、それは謎のままであった。


   *


 勉強が進んだかどうかはともかくも、時間は無情に過ぎる。

 時間が過ぎれば、やはり現金なモノで腹は空く。


 その日の夕食の献立は、なんだかんだ良と母の合作である。 


 主菜(メイン)は良が作ったハヤシライスであり、副菜は彩りの野菜にカリカリに焼き上げたベーコン散りばめたサラダ。


 それらを並べられた際、三姉妹からはオォと声が挙がった。


「うーん、いい匂い」


 スンスンと鼻鳴らすのは、いつの間にか帰ってきたらしいカンナ。

 猫科に近い性格故か、時には家からプラリと出てしまうが、腹が空くと帰ってくる点は非常に似ている。


「コラ、まだ食前の挨拶が済んどらんぞ」


 娘を躾る母親の声だが、カンナは「はいはい」と受け流す。


 程なく、家族五人の「頂きます」が揃った。


「多めに作ったからな、お代わりしてくれよ」


 そう言うのは、良である。

 基本的な家事に付いては、アナスタシアと良が半々といった具合に分けられていた。


「いやあ……やっぱり兄貴料理上手いよね、良い旦那になれるよ」


 世辞なのか、愛はそんな事を感想として漏らす。


 大食らいの為か、誰よりも食事の歩調(ペース)は速い。 

 

「ホントに、美味しいですよ兄さん」 


 三姉妹それぞれからお褒めの言葉を頂いて、良もホッと胸を撫で下ろす。

 好みに付いては三姉妹それぞれでバラバラであり、全員を満足させるのは難しい。


 ソレが出来るのは、偏に努力の賜物と言える。


 トマト水煮を基礎(ベース)にし、隠し味にニンニクを忍ばせたハヤシソースだが、チラリと母にも目をやる。


「母さん……どうかな?」


 息子としては、一応母親の好みも熟知はしている。

 良の質問に、アナスタシアの鼻がウムと唸った。


「……まぁ、及第点だろう」


 芳しくない言葉だが、食べ進める速度が感想と成っていた。

 手放しの賞賛よりも、アナスタシアらしいと言える。


 だが、やはり良は引っ掛かる。


 母親とは言え、見えて居る彼女は若過ぎた。

 下手をすると、良と同じ年頃にも見えなくはない。


 無論、実の母ではなく、父が再婚した義母なのだから、仮に歳がそう離れて居なくとも不思議ではないのかも知れなかった。


 しかしながら、そうなると新たな疑問が湧いてくる。


 父の再婚相手はアナスタシアである。 では【その父親は何処にいるのか?】と。


 奇妙な話だが、この家には主である良の父が居るはずだった。

 だが、この場には居る筈の顔が無い。


 寧ろ【何故居ないのか? そもそも本当に居るのか?】と想えてしまう。


「良?」


 母親の呼び声に、ハッと成る。


「どうしたのだ? 急にボーッとして」

「え? あぁ、いやぁ、そういや……親父……どうしてるのかなーって想って」


 それとなく、母親へ父親の話題を振る。

 すると、アナスタシアは肩を竦めてフゥと息を吐いた。


「なんだ、そんな事か。 あの人は単身赴任だからな。 ま、仕事なんだから仕方ないさ」


 肩透かしを食らった様に、淡々と事実を告げる母親。

 云われてしまうと、良も自分の中で納得出来る。

 

「あ、でもホラ、あたし達が居るんだし」

「そうそう、賑やかでしょ?」


 カンナの声に、愛が同調した。

 そして、良の隣に陣取るリサが微笑む。


「寂しくなんかないでしょ? 兄さん」  


 確認する様なリサの声に、良は頷いていた。

 云われてみれば、寂しいどころの話ではない。

 

 三姉妹に加えて若々しい母親と、寧ろ良は賑やかを通り越して騒がしいとすら想えていた。


   *


 食後の片付けだが、ソレは良と母親が行っていた。

 三姉妹に任せても良いが、その場合、流し台に使用済みの皿と道具が放置されてしまう。


 がさつとまでは云わないが、武骨な性格故か、母親は余り娘達を躾て居ないらしい。


「すまないな、良」


 詫びる母に、良は苦笑を漏らす。


「いや、別にコレぐらいはね」

 

 使ったモノは片付けるという具合だが、息子の声に、アナスタシアは寛ぐ娘達を見渡す。


「くぉら貴様等!? 少しは兄を見習ったらどうなんだ?」


 母親と云うよりは、教官とでも呼ぶべきアナスタシア。

 そんな声に、リサは立ち上がろうとするものの、カンナがソッと抑えてしまう。


「良いの良いの、今時はね、男女だって家事半々って云うでしょうに?」


 自由奔放な長女らしいが、そんな声に、見る見るうちに母親のこめかみに青筋が浮く。

 唇こそ笑っているのだが、目は笑っていない。


 ソレだけでなく、唇の端がピクピクと蠢く。

 ただ、直ぐにアナスタシアはスッと肩から力を抜いた。


「……ほほう? そうかそうか、では、私と良は夫婦と言えるなぁ……ね、あなた?」

 

 そう言うと、アナスタシアは良へと一歩寄る。 二人の肩は触れ合った。

 母親の悪ふざけに、良は鼻唸らせるが、事はそれでは済まない。


「は? なに云っちゃってんの? 年増の欲求不満?」


 次女の抑えた声に、母は勝ち誇る様に鼻をフフンと鳴らす。


「何を云う? 私と良はそれぞれ家事を担当しているのだぞ? 可愛げの無い娘達の為に……な」


 こうなると、娘達も黙っては居られないのか、三姉妹が我こそはと慌てて後片付けに参加していた。

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