嘘か真か、理想の世界!? その3
気付いた引っ掛かりは、小骨の様に喉につかえる。
そうなると、その引っ掛かりが何なのか確かめずには居られない。
だが、それが出来ない理由も在った。
長女と母親は少し話し合いが在るとの事で席を外している。
その代わりなのか、良はリビングにて、妹二人の監視を受けていた。
*
テーブルの上座という位置取りながら、別に居心地は宜しくない。
それどころか、四つの目が疑いを込めて良をみていた。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
やけに猫撫で声な愛である。
普段は良を兄貴と呼ぶが、敢えて別の呼び方をする時点で、彼女の精神状態が普通ではない事を示しても居た。
「はい、なんでしょう」
普段ならば、妹の手前【兄貴面】をする事も吝かではない。
しかしながら、血の繋がりは無い以上は愛が怒ると良は下手に出てしまう。
「お姉ちゃんとさ、なんかしてたの?」
声色は一応優しい。
だが、やっているのは質問というよりも尋問であった。
「あー、寝てたら、カンナが急に来て……」
下手な言い訳は敢えて止める。
何故ならば、その場しのぎの言葉では後で自分が困るからだ。
「兄さん」
良の答えに、リサも口を開く。
「そんな事はきいてません。 何をしてたんですか?」
事件の当事者以外から見れば、良とカンナは間違い無く抱き合っていた。
寧ろ【乱入によって行為が未遂で終わった】としか見えない。
「なあ、リサ……頼むから聴いてくれ。 俺は……」
「何もしてないって訳じゃないですよね?」
家族で一番聡明故か、眼鏡の奥のリサの目は鋭い。
ジッと良の顔を観察すると、目玉がグリッと動く。
「あ、そう言えば……」
「な、なんだ」
「唇のとこ……リップかなんか付いてますよ?」
リサの指摘に、良は慌てて唇を調べてしまった。
実際の所、大して何かが付いている訳ではない。
妹がしたのは、要は引っ掛け問題でもあった。
その回答は、分かり易い良の動揺である。
「えぇ!? じゃもしかしたら……キスとかしてたの!?」
「いや待て待て、アレはそんなん……いや、えと」
一度動揺すると、回復には時間が掛かる。
最も最善の手は【自分からではない】というモノだが、カンナに対しての立場もあり、良は言葉を濁していた。
良のしどろもどろな返答に対して、妹二人はそれぞれ反応が違う。
愛は胸の下で腕を組みながら顎を引いて目を瞑る。
リサは唇をギュッと噛みながら俯いてしまった。
こうなると、下手に怒り狂われるよりも重い。
殊更に自分が如何に悪いのかと痛感させられる。
詫びるにしても、ソレではカンナに失礼であり、尚且つ、何も云わねばこの場での弁明が立たない。
寧ろ、戦略的撤退として【家を出ようか?】という案すら浮かんだ。
しかしながら、何故だがそれはしたくない。
その場から【逃げる】という行為その物を、良の身体が拒否していた。
場の空気が凍るが、そんな中、スッと愛が立ち上がる。
「ね、兄貴……私さ、想うんだよね」
愛の言葉に呼応してか、リサも立ち上がる。
「誰かに取られるぐらいなら……いっそのこと」
ヤケに物々しい言い方をするなり、四つの目が良を捉える。
「どうせなら、丸ごとっていうのが良いんだけど……」
「……共有するのも、悪くありませんよね」
今にも【何か?】を始めそうな妹二人組。
互いが互いの欠点を補い合う時が在り、ソレは良ですら想像が及ばぬ力を出す。
左右に分かれ、ゆったりと近付く愛とリサ。
退路を塞がれてしまった良は、必死に目を左右へ泳がせる。
「お、おい、なんでそんな怖い顔してるんだ? 落ち着け、話し合おう」
もはや、まな板に乗せられた魚に等しい良。
後は、なんとか料理されぬ様に抗うしか方法は残されて居ない。
料理人が魚を捌く際、暴れる魚を先ずは抑える。
それと同様に、愛の手が良の肩を押さえた。
「愛さん?」
戸惑いを隠さない良だが、空いているもう片方の肩をリサが抑えてしまう。
「リサ?」
左右から、ガッチリと捕まった良である。
もはや、逃げ場は無い。
そんな義理の兄を抑えた妹二人は、互いに顔を見合わせる。
「さあて、それじゃあ」「どっちが先か、決めないと」
以心伝心なのか、二人は片手を挙げる。
「「じゃんけん……ぽん!」」
ごく単純な勝負だが、ソレは一瞬で決した。
*
女性から寄られれば、男性とは悪い気はしない。
至極単純な雄の性が為せる事だろう。
じゃんけんに勝ったのは、愛であり、そんな彼女は一応座っている。
では、何処に座っているかと問われれば、椅子に座らせた良の脚の上であった。
離れて見れば、俗に言う【対面座位】に等しい。
口をぐっと噤んで目を必死に反らそうとする良だが、その頭は愛が既に抑えていた。
「な、なぁ、マズいんじゃないかな? こういうのは」
何が拙いと言えば、そもそも二人の位置関係が大問題である。
着衣の状態だからこそ、偶々兄妹が悪ふざけをしていると見えなくもないが、実際に愛の目は真剣であった。
良の指摘に、愛の鼻がフゥンと唸る。
「まずいって? 何が?」
「いや、だからな。 兄妹で、こういうのは……」
なんとか妹に道徳教育を施そうとするが、そんな良の肩をリサの手が抑えた。
「ソレこそ、今更ですよね? 姉さんと、何かしてましたし」
「そうだよ、姉さんとは良くて、私達じゃあ駄目なわけ?」
駄目と云われると答えにくい問題でもあった。
無論の事、法律に置ける年齢上の云々を説くことは出来はするだろう。
だが、そんなモノは基本的に露呈するか、しないか、という問題でもある。
人間の本能は基本的に人が想う程にはお綺麗なモノではない。
腹が空けば飯を食い、眠たければ眠る。
そんな三代欲求の二つと同様に、性欲もまた本能的に強いモノと言えた。
妹二人組に魅力が無い言えば嘘になる。
寧ろ、良は理性と欲求の狭間にて酷く悩まされていた。
羽の生えた天使の良は【駄目よ我慢しなきゃあ】と気軽に言ってのける。
角の生えた悪魔な良は【据え膳食わぬは男の恥】とまで宣っていた。
内心では【このまま意地を張るなど止めておうか?】という言葉が浮かぶ。
寧ろ、下手に我慢などする方が女性に失礼だとすら思えた。
如何に妹とはいえ、それは戸籍上の事に過ぎず、仮に二人が年頃に成るか、或いは今すぐカンナと婚姻を結ぶ事も法律上は問題無い。
で在れば、我慢などしてる方が馬鹿らしく感じられる。
ただ、ふと良は何かを頭に浮かべた。
端的に【意地を張る】という言葉が引っ掛かる。
その言葉は、単純に痩せ我慢する事以上に何かを良に訴え掛けていた。
「ねぇ、兄貴?」
ピシピシと頬を叩かれ、ハッとなる良。
見てみれば、目の前で愛が露骨に頬を膨らませていた。
「ちょっとぉ、酷くない? 私がこんなに一生懸命に上に成ってるのにさ」
妹の訴えに、良は苦く笑う。
「なんか、人聞きの悪い言い方するよなぁ……」
またしても、何かが引っ掛かる。
今初めて云ったはずなのに、そうではないという既視感。
一度も云ったことがない筈なのに、云ったこと在る気がする。
戸惑いを隠さない良に、愛が痺れを切らしたらしい。
「あー、そう、わかった」
「お? 解ってくれたか?」
どうやら、解放されるのかと期待を抱く良だが、妹は実に悪そうな顔を覗かせる。
「アレでしょ? どうせこのまんま上手いことやり過ごそうとか……思ってんじゃあない?」
愛の指摘に、良は図星なのかギクリと成った。
そして、密着していれば相手の機微は丸見えでもある。
僅かな振動ですら、そのまま伝わってしまう。
「そんなの許すわけないじゃん」
ムッとしながら、愛が身体を揺する。
ただ単純に揺すっただけなのだが、コレが良にとっては辛い。
一応は愛の腕が良を捕まえる事で補助には成っているのだが、その他の全ては接地面が支えている。
そうなると、接地してる部分は必然的に集中的に力が及ぶ。
その位置こそが、良に取っては大問題なのだ。
人間の反応は、様々在るが、基本的には二つである。
受動的と能動的と分けられる。
この内、本人の意思とは無関係な受動的な反応が良には在った。
外からの刺激に対して、反応も変わる。
熱ければ自ずと手を離し、不味ければ吐き出す。
そして、体感的に【良い】と成ると、身体は反応してしまう。
その事に付いては、密着している愛が誰よりも感じ取っていた。
一瞬キョトンとした顔を見せたと思った途端に、目が細められる。
「あは……なんだ、兄貴だってさ、その気なんじゃん」
生理的な反応に過ぎないにせよソレは誤魔化せない。
何せ勝手に身体は呼応してしまうのだ。
「こ、コレはだな……おま…むご!?」
言い訳をさせる気は無いのか、リサの手が良の口を塞いだ。
「愛姉さん、もう、さっきから自分ばっかり……」
今までは良を抑える事に終始していたリサだが、とうとう痺れを切らしたらしい。
妹の切ない声に、愛はやれやれと首を振る。
「もう、しょうがないなぁ」
そう言うと、愛は何かを思い付いたのかウンと鼻を鳴らした。
「じゃあさ、部屋行こうよ、部屋。 それなら、鍵掛けちゃえるし」
「何でも良いから早くしてください」
如何にも妙案を思い付いたという愛に、急かすリサ。
血気盛んという妹二人なのだが、良の意思は考慮がされていなかった。




