嘘か真か、理想の世界!?
以前の時には、気付かぬ内に異界へと飛ばされてしまった。
だが、今回は違った。
移送の為の装置を造ったのがリサだからか、それとも使用された技術が違うモノだからか、良はその目に在る光景を見ていた。
『おぉ……スゲェ』
悪の組織を乗せたバスの屋根の上で、良は声を漏らす。
宇宙の光景に関しては、良も一度はその目で見たことは在った。
だが、今見えている光景はまた違う。
光る粒子が、まるで星ごとく煌めくが、それは似ているが違う。
その違いだが、粒子は赤紫色に光る。
思わず手を伸ばすが、粒子は良に触れる前に反れてしまった。
仕方ないと、前を見れば、粒子は何処かへと集まって居るらしく、バスは自然に其処へと向かう。
実際に体感としては、吸い込まれているという方に近い。
段々と近付くに連れ、集まった粒子は巨大な穴にも見えた。
その穴は白く、仮説とされているホワイトホールを良に想わせる。
一瞬、粒子の一粒が良の直ぐ顔の横を過ぎるが、見てみれば、何かが一瞬見えた。
『……なんだ、今のは』
間違いが無ければ、それは何処かを映し出していた。
だが、既に確かめる術は無い。
バスの屋根に固定されている良は、そのまま動く訳にも行かない。
下手に離れようモノなら、この場に取り残されてしまう。
程なく、良を乗せたバスは、真っ白な光へと飲み込まれていた。
*
視界が開ける前に、良の視界は閉ざされた。
以前にも何度か経験しているが、蓄電が切れた症状である。
こうなると、如何に改造人間といえども動けない。
身体は勝手に動く事を放棄し、崩れ落ちて居た。
ガツンと音がして、ドサリと倒れる。
感覚的に、バスの屋根から落ちた事は解るが、何も見えない。
内心では【参ったな】と想いはすれど、良は動けなかった。
其処で想うのは、果たして自分達は【地球に戻れたのか?】である。
視界に頼れない以上、別の感覚を頼る。
背中から伝わるのは、自分は何処かに寝ているという事。
つまり、今居る場所には地面が在るという証明だった。
そして、次に聴覚頼れば、何かがくぐもって聞こえる。
ドタバタという音から、バスから誰かが降り立ったという事だろうと、良は当たりを付けていた。
「全員!! 辺りを見張れ! 散らばるな!」
唐突な号令は、声からしてアナスタシアだろう。
しかし、何故か声は焦って居た。
「良さん!? ダメ、バッテリー切れてる」
身体を誰かが揺さぶるが、声がリサだと教えてくれた。
但し、どう云うわけか彼女もまた焦りが窺える。
「ちょっと!! リサ! 篠原さん動かせないの!?」
次に聞こえたのは、川村愛の声。
「わてが運びまっせ!!」
餅田らしき声と共に、良が体が動かされるのを感じた。
どうやら、担がれて居るらしい。
身体に伝わる重力が、うつぶせ寝の状態である事を示していた。
全く状況が解らない良は【何が起こってる?】としか思えなかった。
蓄電が切れても、思考だけは残されている。
ガタガタと揺らされる事から、餅田は必死なのだろう。
「篠原はん!! 起きてんか!!」
必死に呼び掛けられるが、答えようが無い。 起きてはいるが、身体は動かせない。
「餅田!! 首領をバスの中に入れといて!!」
通り過ぎる様に聞こえたのはカンナの声だった。
此処で良が想うのは、何故組織の皆が焦っているのかという事だ。
確かに、バスは何処かへと辿り着けた事になる。
であれば、焦る理由が解らなかった。
口が利けず、目も見えない。
其処で、良は自分なりに事態を推察する。
恐らくだが、自分が電池切れを起こしたせいで、全員が焦っているのではないか、と考えた。
あの怪しい空間を通り抜ける際、黒焦げに成ってしまったのかも知れない。
だが、如何に表面が焦げようが、良自体は特に問題とは思っては居なかった。
精々が、動けない事に対して不具合が少々在るだけなのだ。
何とか自分は無事な事を説明したい。
だが、蓄電が切れては動けず、視界も不良かつ他の感覚も余り頼れないと成ると、時間の感覚が薄れていた。
そう悩む良が耳を澄ますと、何かが聞こえる。
「もしもし、其処のお人?」
低過ぎず、高過ぎない、それで居て柔らかい。
何処かで聴いたことが在る様な気がする声。
「……友よ、生きて居るか? 安心して良い、もう、大丈夫だ。 私が居る」
その声は、ヤケに近くから響いていた。
誰なのか、それを探る前に、何かが良の体に触れる。
フワリと重い筈の自分が浮くことだけは、良も気付いては居た。
*
眠りに落ちてから、起きる際何が起きてるのか把握する事は難しい。
チュンチュンという小鳥の囀りが、響く。
どうやら朝が来たと良は感じた。
目を開けて見れば、天井が見える。
どうやら、実家の見慣れたモノらしい。
「……ん?」
何かがおかしい。 それは解るのだが、何故そうなのかは解らない。
何かを忘れて居る様な気もするが、それが何なのか、湧いては来なかった。
ソッとベッドから身を起こすと、良は花を唸らせる。
何故、自分は実家に居るのか。
「そう言えば……そうか」
篠原良が篠原家に居ること自体は特段に変な事ではない。
問題なのは、其処には強烈な違和感が在るという事である。
「あれ? 俺……どっかで……」
必死に成って、思い出そうとするが、部屋のドアがドンドンと叩かれ集中が途切れてしまった。
「あ、はい?」
何の気なしに、ノックへの返事を送る。
すると、バタンとドアが乱雑に開かれた。
「あーもう、兄貴! 起きてたんなら降りて来てよね?」
顔を覗かせたのは、愛だ。
「愛? だよな?」
「は? 何? 私の顔になんか変かな?」
良が訝しむからか、愛は慌てて顔を手で調べる。
何故彼女が此処に居るのか、考えるとその理由は頭に浮かんだ。
彼女の名前だが、篠原愛という。
父親が母を亡くしてから久しく、縁があって再婚をした。
その義理の母親の連れ子である、と。
頭にはそう答えが浮かんだ。
「えーと……」
「もう! ほら、早くしてよね! リサも姉さんも母さんも待ってんだから!」
そう言うと、愛は来た時同様にパタパタと走っていってしまった。
「……あん? 母さん? 姉さん? 後はリサ……か」
家族構成について言えば、忘れる方がどうかしている。
もしかしたら、自分は痴呆症にでも成ったのかと良は自分を疑っていた。
*
とりあえず、着替えを済ませ、階段を降りていく。
見慣れた筈の実家ではあるが、やはり細部がおかしい。
どことなく、記憶に在る光景とは違いが在るのだ。
トンと降り立つと、一階の居間が見える。
其処で見た光景に、良は言葉を失った。
広めにテーブルには、六つの椅子が在るのだが、既に三つは埋まっている。
やいのやいのと話し合うのは、二人の義理の妹の愛とリサ。
そして、対面側に座るのは、良より少し若いカンナである。
一見すると虎を想わせるカンナが、良を見て目を細めた。
「あらら、お寝坊さんが起きてきたみたい」
軽く笑う彼女の声に、台所で何やら支度しているらしい義理の母が見えた。
「なんで男の子が一番寝起き悪いんだ」
トントンという音から、何かを包丁で切っている。
フッと振り向く義理の母だが、良を見るなり眉を寄せた。
「ほぉら、早く座れ。 皆、良を待っていたのだ」
一見すると、母と呼ぶにはヤケに若々しい顔付きのアナスタシア。
外国人とのハーフらしく、名前も独特と良は知っている。
喋り口調がおかしいのも、そのせいらしい。
知っている筈なのに、妙な感覚が良を襲う。
在る筈の無い物が、其処にあるという強烈な違和感。
だが、そんな違和感を感じる良に、妹の一人が近付いてきた。
「兄さん? どうかしたんですか?」
「おう、リサ。 いや、なんか、頭でも打ったかなぁ……」
自分を疑う良に、妹は抱きついてくる。
「そんな、お医者さん行かないと……」
心配そうなリサだが、そんな彼女の懸念にカラカラといった笑いが聞こえた。
「気にすることないのリサ、どうせ昨日飲み過ぎたんでしょ?」
カンナの指摘に、良は唸った。 云われてみれば、そんな気がするのだ。
何を飲んだのかまで、忘れたのか、と。
困惑する良の鼻に、食欲をそそる香りが漂ってくる。
「ほら、みんな、速く座れ。 朝飯にするぞ」
母親と呼ぶには、アナスタシアは実に妙齢かつ色っぽく見えた。
*
家族の団欒が始まるのだが、やはり違和感が在った。
アナスタシアが連れて来たという三姉妹だが、どうにも年齢が思い出せない。
そもそも、義理の母親であるアナスタシアですら、どう見ても若い。
寧ろ、長女であるカンナとそう年齢が離れているという方が無理がある。
そんな風に見ていたからか、母が良の視線に気付いた。
「どうしたのだ良? そんなにジロジロ見て」
問われた良は、思わず鼻を少し鳴らす。
「あ、いや……か、母さん……若いな……って」
良の言葉に、空気が一瞬固まる。
だが、直ぐにアナスタシアが頬を染めて手をパタパタと動かす。
「な、何を言い出すのだ!? 貴様……そんなお上手云っても何も出んぞ」
ヤケに物々しい言い回しだが、その様は軍人か、何かを想わせた。
それが何なのかを、良は知っている気がするが、思い出し掛ける。
「ね、兄貴」
思考に耽り掛けた良に、愛が声を掛けてきた。
「お、なんだ?」
「兄貴ってさ、もしかしたら……お母さん好きなの?」
性格故か、回りくどい言い方をしない愛。
そんな声に反応したのは、良ではなくアナスタシア。
ガタンと椅子を倒して立ち上がると、顔を真っ赤にして愛を指差す。
「コラ!? 何を勝手な事を云っとるんだ!? 息子が母親に欲情する訳無いだろう!」
「誰も欲情してるなんて云ってないですけどぉ?」
「貴っ様!? ようし! 今月の小遣いは無しだな!」
「はぁ!? 意味わかんないけど!!」
混乱状態に陥った母親と言い合う妹に、長女が笑う。
「あーあ、まぁた始まったよ……ご飯くらい静かに食べさせてよね」
我関せずといったカンナだが、末っ子のリサはと言えば、何故か良をジッと睨んで居た。




