新たなる伝説!? 魔人の帰還!!
戦いから数日が過ぎた。
装置の取り付けや、調整にだいぶ時間が掛かってしまったが、無理もないだろう。
いきなり使って、失敗しました、では目も当てられない。
*
以前の如く、並び立つ黒装束と戦闘員。
ただ、前回の様に戦いの前のにらみ合いではない。
里の者達からすれば、友人を送り出す心境であり、組織からすれば、出逢えた友人達と別れねば成らない。
だが、悪の組織は留まれない。
「総員! 乗車せよ!」
女幹部アナスタシアの号令に、戦闘員達が改造バスへと向かう。
その際、黒装束達と互いに手を合わせ、別れを惜しんだ。
無論の事、戦闘員達だけが別れを惜しむ訳でもない。
「おねーさん、いっちゃうんだ」
狼を想わせる幼子の声に、後ろ髪引かれる想いのリサ。
それでも、彼女にはやるべき事が在る以上は留まれる事が出来ない。
「ごめんなさい」
謝るリサに、クラウがソッと近寄る。
「色々、お世話に成りました」
長い挨拶ではないが、リサの声にクラウは頷く。
「此方こそです。 もし、貴方が居なければ、鬼神様も外には居ないでしょうから」
寂しそうに笑うクラウに、リサは用意していたモノを手渡す。
ソレは、かの装置が入っていた木箱。
「これは?」
「中にね、色々入れといたから。 整備マニュアル……あー、説明書とか、工具とか」
とりあえずと、出来る出来ないは本人の努力次第に任せ、リサは用意できるだけのモノを渡す。
自分が居なくなれば、鬼神を直せる者は居なくなるのだ。
「難しいと思うけど……大丈夫そうかな?」
心配そうなリサに、クラウは小さく頷いた。
「頑張ってみます。 私……もう直ぐ暇が出来るでしょうから」
含みを持たせる声だが、クラウが何を言おうとしているのか、リサは知っていた。
ソレは、過去の自分が望んでも果たせなかった事でもある。
一瞬、胸の内で【自分は残るべきか?】と悩んだ。
だがそれをリサは選べない。
自分が居なくては、組織の皆が困ってしまうのは明白なのだ。
「……そっか」
それだけ云うと、リサは木箱から手を離した。
*
別れを惜しむとクラウとリサとは別に、二人の良もまた、互いに顔を合わせる。
「悪いな。 お世話に成っちまって」
「いやぁ、お前が来てくれなきゃ、俺はあのまま穴蔵で腐ってた」
すっかり回復したのか、鬼神の声は強い。
「おっと、そういや、土産を用意して置いたんだ」
「みやげ?」
首を傾げる良に、鬼神は畳まれた赤い布を手渡した。
広げて見れば、ソレは真新しい布に【不撓不屈】と印された外套である。
「コイツは……」
「同じだったら、つまんねーと想ってな……大急ぎで用意させたんだぜ?」
自分から贈られた赤い布を、片手に持つ。
「早速だが、着させて貰うわ……変身」
素早い動作にて、瞬く間に姿を変える良。
異界にて【魔人】と称される姿に変わるなり、外套を纏う。
【不撓不屈】の四文字が染め抜かれた赤い布が翻る。
『おぉ……なんか、すっげーしっくり来るわ』
「そらそうだろ? 背格好は同じなんだからな」
向き直る二人の篠原良。
片方は人のままであり、もう片方は装甲に包まれる。
何を云うでなく、二人は互いに手を合わせていた。
『すまねぇな。 全部手伝ってやれなくて』
「そら俺の台詞だぜ? コッチは任せな」
軽い言葉を交わすと、手を離す。
ソッと離れると、良はバスの上へと飛び乗った。
件の装置だが、車内では使えないとして、その結果屋根に装着されている。
そして、何故良が屋根に上がるのかと言えば、改造人間の動力源を装置の電源として用いる為である。
装置から伸びる線を、自分へと繋ぐ良。
この間、組織の面々はバスの窓を開け、里の人々へと手を振っていた。
「おーい! 頑張れよー!」
そんな声援に、里の人々も応える様に手を振る。
「そっちこそな!」
そして、手を振る中にはクラウも居た。
ジッと見詰める先には、リサ。
互いに、別れを惜しみつつ手を振る
最期に、良は見える全員に手を振った。
『湿っぽいのは嫌いでな! じゃあ!! また会おうぜ!!』
別れの言葉だが、再会出来るかは限り無く可能性が無い。
それでも、良は敢えて言葉を選んでいた。
動力源から供給を受けて、怪しげな装置が動き出し、僅かに周りの空気が歪み出す。
程なく、淡く光る球体がバスを一瞬にして飲み込んだ。
里の者達が見守る前で、大型の車体が一瞬にして消え失せる。
僅かではあるが、車体の下も半球状に抉れた。
「おじちゃん、おねーちゃんたち、いっちゃった……」
消えてしまった悪の組織に、幼子がそんな事を云う。
その声を受けてか、鬼神が消えた跡へと近寄った。
何も云わずにしゃがみ込むと、地面に手を着く。
其処へ、クラウが近付いた。
「鬼神様……」
呼び声に、立ち上がると顔を向ける。
「なぁ、クラウ」
「はい」
「前も教えたが、俺は……篠原良ってんだよ。 そう呼んでくれないか?」
良と名乗った鬼神に、クラウは目を落とす。
だが、直ぐに顔を上げた。
「えっと……りょう、さん?」
無意識なのか、クラウはリサの真似をしてしまう。
その呼び声に、良が立ち上がった。
「そろそろ……支度しねぇとなぁ」
「したく? 何のです?」
「決まってんだろ? 喧嘩だよ」
いきなりの良の宣言に、クラウは目を丸くした。
*
伝説の魔人が、勇者の一団を退けた。
その一方は、壮年の思惑通りに国を駆け巡る。
誰かが数人に話せば、その数人がまた別の数人へと伝える。
電話もインターネッとすら無いとしても、その話は素早く伝播していく。
そうして、果たして人が畏怖するかと問われれば、する者が居れば別の者も居るだろう。
中には【自分ならば勝てる】と言い出す者も多かった。
無論、中には単なるほら吹きも含まれるが、全てがそうでもない。
確かに、国中から精鋭をかき集めたが、国が一つとは限らない。
其処から離れれば、また別の国がある。
早馬の伝令、船乗り、そういった人々もまた、別の国に魔人の逸話を広めて回った。
その結果は、直ぐに解る事に成った。
*
隠れ里の筈が、今では【魔王の住む土地】として広く認識される。
其処へ向かって、馬を駆る者も居れば、空を飛ぶ者も居た。
馬鹿げた巨体で空を舞うのは、人に飼われる飛竜。
それも、一匹ではない。
地上に影が差すほどの数が、栄光を求めて集まりつつ在った。
巨体が空を飛ぶというだけでも、壮観に違いない。
実際、それを見たクラウですら、思わず良の腕に縋る程である。
「そんな……あんなモノが飛ぶなんて」
存在自体は知っていても、見たことがない。
怯えるクラウだが、ふと顔を向ければ、良は嗤っていた。
「馬っ鹿やろう共が……生かして置いてやったってのに……お祭り騒ぎにしちまいやがる」
恐れるどころか、不敵に笑う良に、クラウは理由が解らない。
もはや友人である悪の組織は別の世界へと旅立ってしまった。
である以上、手助けは望めない。
里の戦力に関していえば、誰よりもクラウが知っている。
「なぜ、笑ってるんですか」
彼女からすれば、笑う理由が解らない。
今度の敵は、なんと空を飛ぶ竜すら引っ張り出して来た。
魔人の強さを信じない訳ではないが、果たして良が竜に勝てるかと問われれば、答え辛い問題と言える。
「なんで? まぁ、チョイと離れてな、クラウディア」
ソッとクラウを押しやり、良は構えを取る。
「……変……身!!」
起動の動作は、此処へ来てからも何度も何度も繰り返した。
もはや、呼吸と同様に出来る。
僅かな光を放ち、姿を変える良。
相も変わらず、背中には擦り切れた赤い布が揺らめく。
何とも頼もしい姿に、クラウは思わず胸の辺りを握るが、それでもやはり、相手が竜とあっては不安が強い。
そんな彼女へと、良は兜を向ける。
『……なぁ、クラウ。 想うんだよな、なんで、竜って空飛べんだってさ』
「はい?」
問われた事の意味が解らないからか、いつもは済ましたクラウと素っ頓狂な声を出してしまう。
そんな彼女の意外な一面を見たからか、良の兜が僅かに揺れた。
『鳥が空を飛べるのはさ、理由が在ってな、クジラが大きいのもそう、ついでに、象が立っていられるのにだって、全て理由があんだよ』
鳥は骨格をマカロニ状にする事によって軽量化と強度を保つ。
取り分けて胸の筋肉は羽を動かす為に著しく発達を見せた。
代わりに、脚は極端に細い。
クジラがその巨体を保てるのは、海水の塩分による浮力が強く作用している。
深海まで潜れるクジラだが、砂浜には上がると何も出来ない。
何にせよ、その全てには理由が存在した。
『まぁ、攻めてくるって事は……覚悟は在るよな、自分だって死ぬってさ』
そう言うと、良は両腕を広げる。
勢いを付けて、両手を胸の前で強く強く打ち付けた。
以前に、良は二人で互いの両腕を使用する事で胸の奥の装置を起動して見せたが、元々は一人で可能である。
不可視の波が、良を根源として一気に広まった。
*
意気揚々と里を目指していた空の竜達が、急に飛び方を忘れたかの如く墜ちていく。
それは何故かといえば、元々の身体の構造が飛ぶ様には出来て居ないからだ。
「なんだ!? 急にどうした!?」
竜を操って居た者は騒ぐが、悲しいかな、彼は落下傘を持っていない。
発明されるのは、数百年は先であろう。
何もしなければ、地面に向かって真っ逆様に落ちるだけである。
飛竜の羽は、身体を浮かすには余りに小さく、仮にそれだけの翼が在っても、それを動かすだけの筋力も無く、加えて巨体は重い。
何もかも全てが、空を飛ぶには余りに足らなかった。
そうなるとどうなるのか、星の引き寄せる力に引っ張られ、地面に叩き付けられる。
低い場所を飛んでいたならばいざ知らず、高所に居た者は目も当てられない。
加速度を付けて全身を強く打ち付けてしまい、骨が砕け内臓が体の中で爆ぜた。
当然ながら、竜を操ろうとしていた者も。
運良く地面に着地出来ても、今度は立ち上がる事も出来ない。
マトモに動こうとするには、巨体は重りでしかなかった。
*
文字通り、あっという間に飛竜の軍団を落としてしまう良。
その様は、伝説に伝わる魔人に相違ない。
伝説を疑っていた若い黒装束の中には、思わず一歩足を引く者も居たが、クラウだけは寄り添った。
「良さん」恐る恐ると、声を掛ける。
近付けば解るが、兜から覗く赤い光は弱まっていた。
『嫌なモンだな』
「え?」
『操られてるのか飼われてるのかは知らねーけど、それだけだってのに、生き物をやっちまうのはさ、気分が悪いぜ』
意外な事に、良は竜達を落とした事を誇るどころか後悔すら見せた。
何の怨みも無い相手と戦うなど、無益なのだ。
姿は変わっても、そのままの心を持つ良に、クラウは手を添える。
「あなたは、誰も殺してなんか居ません。 皆、自分から落ちたんです」
良から放たれた不可視の波にせよ、装置についてもクラウは知らない。
だからこそ、彼女はそう言った。
竜達は、自ら望んで墜ちていったのだ、と。
掛けられる声に、良は兜を上げる。
『……そうだな。 解ってる』
そう言うと、一歩前へと踏み出す。
『さぁて、だいぶ時間を無駄にしちまったが……魔人様の御帰還って奴だ』
改めて、良はこの地へと残った目的を思い出していた。
戦が終わらぬなら、力付くでも終わらせる。 例えソレが、世界征服という形で在っても。




