戦慄の作戦! 地球からの追放!? その33
読み終えた手記は、箱へと戻し蓋をする。
この扱いに付いては、リサに委ねられていた。
果たして、過去の自分が残した手記を此方の世界の良は知っているのかは定かではない。
勿論、尋ねれば答えは解るだろう。
そうすべきか、リサは迷う。
悩む中、トントンと戸を叩く音にハッと成った。
「おーい、リサ? おう、此処に居たのか」
呼び声の主だが、良である。
何故かは知らないが、彼の顔を見た途端、リサは立ち上がり抱き付いて居た。
「……良さん」
「お、おいおい……なんだ、急に?」
鬼神ではない良は、過去のリサが残した手記に付いては知らない。
反対に、リサは自分の手紙を読み終えていた。
「私、どうしたら良いと思います?」
唐突な質問に、良は腕をバタバタとさせていた。
「いや、えーと? どう、したら……どうしたら良いんでしょうね?」
慌てふためく良だか、リサは放そうとはしない。
手記を読んでしまったからか、自分の寂しさや悲しみが想像出来てしまう。
それでも、リサの知っている良はその場に居て、幻想ではない。
「もし、ですけど」
「へ、はい」
「私が、誰かのお嫁に成るって言ったら……どうします?」
別に意地悪をしているつもりはリサには無い。
にも関わらず、敢えてその質問をしたのは、過去の自分を知りたかったからである。
「なんだよ、誰か、好きな奴でも出来たか?」
良からの問いに、リサは答えを迷っていた。 居る居ないで言えば、居る。
だが、今すぐにこの場で尋ねたくも在った。
「例えばですよ……どうします?」
過去に起こった出来事だが、今のリサとは無縁でもあった。
何故ならば、過去の自分は何処まで同じでも、違う。
しかし、それは良もまた同じである。
異界に置いて鬼神と呼ばれる良と、首領と呼ばれる良は別なのだ。
それでも、二人は出逢い、互いに変化をもたらしている。
「……まぁ、とりあえず……先ずは俺を倒してみせろって、云っちゃうかな」
良の答えは、リサの思い描いた理想とは違った。
どうせなら【お前は俺のだ】といったハッキリした言葉が欲しい。
それでも、手記に在った良と、リサが抱き付く良の答えは違っていた。
違うのであれば、結果も違う。 ソッと、良から離れるリサ。
「あ、ところで、用が在って来たんじゃ?」
「お? あぁ、おお、そうだった……飯喰うだろ?」
云われてみれば、思い出す事もある。
装置と説明書と手記を読み込んでいたリサは、時間を忘れていた。
「そう言えば……お腹空きました」
「だろ? じゃ、行こうぜ」
先に家を出る良を見てから、リサはチラリと残した箱を見る。
「私も……頑張ってみるから」
その言葉は、既に居ない自分へと向けたモノだった。
*
家の外では、里の宴会が催されていた。
滅多に出ることの無いご馳走や酒樽が、この時ばかりはと解放される。
すっかり出来上がって居るのか、黒装束とピチピチタイツの戦闘員が肩を組み、互いに讃え合っていた。
なんとも賑やかだが、ふと、リサはパタパタと寄ってくる幼子に気付いた。
ジッと純粋な瞳に見詰められ、戸惑いが湧く。
「……えーと?」
何事かと焦るが、幼子の一人がスッと前に出た。
「おねーちゃんが、きじんさまをなおしてくれたんでしょ?」
尋ねられたリサは、相手の要件を悟った。
「あー、うん、そうだけど」
リサの肯定する声に、幼子はソッと胸に抱いていたモノを差し出した。
「はい……コレ」
ソレは、素朴な花束である。
花屋で売っている既製品とは違い、必死に集めたのか種類は整っていない。
それでも、子供が必死にかき集めたで在ろう事が窺える。
「ありがと」
「ううん! こっちこそありがとう!」
花を手渡した子の声を合図に、集まって居た子供達も続く。
「「ありがとう! おねーさん!」」
耳や尻尾が目立つ亜人の姿に、リサは唇をキュッと閉じた。
既にこの世には居ないが、もし、居たならば、自分の子供はどの子に似ているのかと思えてしまう。
しかしながら、それを確かめる術は無い。
「どういたしたまして」
こみ上げる想いを飲み下し、リサはそう答えた。
*
宴会は派手だが、その中心とも云える場に、二人の良が居た。
片方は何も手に付けず、片方は堂々とコップを傾ける。
「……くぅ~……なんつーか、染みるなぁ」
グッと口の中の酒を飲み込んだ鬼神は、長く息を吐いた。
餅田の細胞を分け与えられたからか、酒の味が解ると見える。
「なぁ、どんな感じだ?」
解らないのであれば、尋ねる方が速い。
良が仮に同じ酒を飲んでも、意味が無かった。
問われた鬼神は、ウーンと鼻を唸らせる。
「なんつったら良いんだろうな、解るんだよ……ずっと昔に忘れてた感覚って所かな」
鬼神の説明は、理解は及ばない訳ではない。
だが、実感として感じるには、やはり同じ事をする必要が在った。
「どうせなら、お前も分けて貰ったらどうだ? 案外悪くないぞ」
そんなに、良も悪くないと思える。
特段の不調は無く、素人目にも寧ろ良好に見えた。
「そうなんだよなぁ」
曖昧に答えつつ、良は在ることを尋ねるべきか迷っていた。
戦いの前の晩、鬼神はクラウを誘って居た。
改めて、二人が何をしていたのかを問うつもりは無い。
わざわざ人目を離れたのだ、言わずもがな、という事である。
知りたいのは、何をしていたというよりも、どうだった、という感想だ。
「聞いても良いかな?」
良の声に、鬼神はウンと唸る。
「なんだよ、改まって、一々鏡に問い掛けんのか?」
別に良には鏡に向かって喋る趣味は無い。
今隣に居るのは、鏡写しといった虚像ではなく、本物の自分でもある。
「俺達の仲だろ? 別に隠すことなんざ無い」
自分との仲、というのも奇妙な言葉だが、強ちまちがっても居なかった。
それでも、自問自答というモノとは違う。
鬼神と呼ばれる良は、首領と呼ばれる良とは違うのだから。
「この前、見ちまったんだ。 あの子とさ、家入るの」
ぼそりと独白にも近い声に、鬼神は空を見上げた。
「あぁ、まぁ、そらバレバレだよな……」
見上げれば、地球とは違う月が二つ見える。
厳密に云えば、月とは違う衛星だろうが、傍目には月と良く似ていた。
スッと顎を引くと、自分と目を合わせる。
「で? おおかた、どうだった……って聴きたいんだろ?」
問い掛けて来たのが自分だからか、鬼神は正に良が云わんとしていることを当てた。
何も云わず、頷く自分に、鬼神は目を窄める。
「いやぁ、まぁ、なんつーか……良かったよ」
少し気恥ずかしいからか、ぼそりと言葉を漏らす。
自分からの感想の割には曖昧だが、理解は出来た。
「そうか……」
自分にも、同じ事が出来る可能性は在る。
見た目こそ多少違うが、二人の良にとっての違いは精々が過ごした年月の長さだった。
「寧ろな、何悩んでんだ?」
今度は、鬼神から質問を振った。
「え? 何が」
「何が、じゃあねぇよ。 解ってんだろ? ホントの所は?」
自分だからこそ、見える事も在った。
過去の鬼神は、それこそ篠原良と瓜二つどころかその物である。
だからこそ、自分が何を悩んで居たのかを知っていた。
「つまんねー事で悩んでるなんざ時間の無駄だぞ?」
意外と云えば意外である。 なんと、鬼神は壮年と同じ事を言った。
その事に、良は苦く笑う。
「参ったな……あの爺様とおんなじ事を云うんだな」
如何にも困りましたといった良に、鬼神は笑う。
「そらそうさ、俺だってもう結構な歳なんだからな。 誰も選びたくないってんなら、全員捕まえろよ、ソレで解決だろ」
そんな声は、良に何かを想わせる。
やはりと云うべきか、鬼神は壮年と同じ事を言ってのけた。
「これじゃ、どっちに似てるか判んないな」
「そうか? まぁ、俺からも言えるが、無くしてからじゃ後悔しても遅いんだぜ?」
重い声に、良は自分と目を合わせた。
其処には茶化したりふざけたりといった色は無い。
寧ろ、本当に失った事がある者にしか出来ない重さが在った。
「明日とか、来週とか、来月とか……そんなモンはただの言い訳さ。 どうしても体験したいってんなら、止めやしないが、お勧めもしないぜ」
鬼神の声は、まるで【今すぐ決めろ】と決断を促している様でもあった。
ソレは、過去に起因する。 過去の鬼神は全てを無くしていた。
無論、新しい出逢いも在れども、胸の奥の傷は癒えることはない。
何も云わなくなった良に、鬼神はコップを手に取りグイと呷る。
今悩む良が、何を悩んでいるのかは手に取る様に解ってしまう。
同じ自分とは言え、若僧と呼べる程に二人には差が在った。
「……ま、そんなに焦る事もないか、だいたい、帰る支度だって要るだろ?」
ポンと出された言葉に、良はハッと顔を上げる。
当たり前の話だが、良には帰るべき場所と理由が在った。
「そういや、そうだった。 危うく、目的忘れる所だったぜ」
元々、良も鬼神も、来たくてこの異界へと来た訳ではない。
何者かの手によって、無理やり放り出されたのだ。
「俺は、コッチでやる事があるからな。 ソッチはそっちに任せるさ」
既に首領としての立場など忘れ、今は鬼神として生きている。
で在れば、二人の良の目的は違っていた。
自分からの激励に、良は頷く。
「あぁ、あんたの分まで、ぶん殴っておくさ」
静かに互いを見る二人の良。
既に、行くべき先も違うが、その目は良く似ていた。




