表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界征服、はじめました  作者: enforcer
戦慄の作戦! 地球からの追放!?
47/145

戦慄の作戦! 地球からの追放!? その31


 国を挙げた決戦の筈が、蓋を開けて見れば結果は違う。

 総力戦と集めた筈の者達は、尽く捕まっていた。 

  

   *


 手足をへし折られ、痛みに呻く者も在れば、ただ心配そうに辺りを窺う者も居る。

 

 そんな中でも、荒縄と布でグルグル巻きにされた指揮官と、逆に手首だけを拘束された女騎士を、鬼神が見ていた。


『さぁてと……どうしたもんかね?』


 もはや戦の勝敗は決している。

 敵を皆殺しにするなり、全員を拷問に掛けるなり、煮るも焼くも自由であった。


 一カ所に集められた一団の前で、鬼神は左右へとゆっくり歩いていた。


『なぁ、お姉ちゃん。 どうしたら、止めてくれんだろうな?』

 

 指揮官が動けず喋れない以上、別の者に鬼神は交渉を持ち掛けていた。

 他の者に関して言えば、誰も喋ろうとはしない。


 其処で、唯一無傷の女騎士が歯を剥いた。


「貴様が……」

『お?』

「貴様が国を脅かす化け物だからだ! だから、我々はこうして……」

『で? 俺が何かしたのか? 女の下着でも盗んだってか?』


 声を遮られ、何も云おうとしない女騎士だが、実は答えに窮して居た。


 国の伝わる【シノハラリョウ】という魔人の伝説は数多(あまた)に渡る。

 専らは、その戦いの記録の様なモノだが、実は魔人が何かを仕出かしたというモノは多くない。

 寧ろ【勇者や英雄達が魔人へと向かって行った】という話は山ほど存在して居る。

 

 そんな伝説とも言える鬼神は、少し腰を折り曲げ膝に手を当てる。


『ことわっとくぜ、お姉ちゃん? 何時だって、襲って来るのはソッチさ』


 云いながら、鬼神は騎士を指差し、云われた女騎士だが、必死に頭を巡らせた。


 何か言い返せずには終われない。

 何も手が出せない以上、せめて口だけでも動かそうとする。


「……嘘だ! 貴様が、先に街一つ燃やしたんだろ! 記録だって残ってる!」


 火の無い所に煙は立たずと云う通り、物事には原因が在る。

 何も無ければ、何も起こらない。


 書物の中には、魔人が一つの街を焼き払ったという伝説も残されていた。 


 必死に文章を読みあさった騎士の声に、鬼神が唸る。


『街を燃やした?』


 数秒間、必死に唸った鬼神がハッと成った様に兜を揺らす。


『あぁ! アレかぁ……まぁ、確かにそういやそうだったなぁ。 別に放火なんざしちゃいねぇが……』


 何かを思い出した様に、ポンと手を鳴らす鬼神。


『……でもよ、俺がなんでそうしたのか、お姉ちゃんは知ってんのか?』


 問われた所で、答えられない。

 何故ならば、書物には【魔人か街を焼いた】としか書いていなかった。

 その理由についての詳細な記述は無い。

 

 ただ、坦々と如何に魔人が恐ろしいかが残されているだけである。


 何も言わない騎士に、騎士は鼻で笑う。


『知らねーみたいだな? 俺はこう見えて長生きでな、色々憶えてんだ。 だから、教えてやるよ。 あの街じゃな、彼奴等みたいのが大勢居てな、屑な連中に奴隷にされてた。 だから、ムカついたんで街ごと潰してやったんだよ』


 そう言うと、鬼神は自分の後ろに待機している黒装束達を示す。


 亜人の扱いに付いてだが、女騎士も知っては居た。


 単純な労働力として使われるモノも居れば、別の使い道も在った。


 見目優れるモノは、その容姿から愛玩物として飼われている者もいる。 

 だが、何にせよ扱いは誉められたモノではない。


 幼子の内から飼われても、気に入らなければあっさりと捨てられる。

 中には、玩具の如く扱われ死んでいった者も居た。


 歴史や記録を記す者が、都合が悪い事を削除するのは珍しくはなかった。


『あんた貴族ってんだろ? 知らねーとは言わせねえぜ?』


 表面的には整った貴族階級でも、ひと皮剥けば中身は変わらない。

 住む家や食べ物が違っても、生き物が変わる訳ではなかった。


 仮に、小さい鉢の中の金魚を大きい硝子の箱に移した所で、金魚は金魚に過ぎない。

 また別の場所へと移しても、本質はそのままである。


『ま、だからって今更特権階級はやめらんねーよなぁ? 辞められる様なら、お姉ちゃんはこの場に居ないだろ』


 戦う事でしか、生きる術を知らず、今までそうして来た。

 だが、事此処に至るまで【負けたらどうする?】という点が抜け落ちている。


 この場にて首を切り落とされても、文句は言えない。


「……どうしろと云うのだ」

『あん?』

「他に生きる道など、知らない……」


 騎士として産まれ、騎士として育てられ、今に至っている。

 何一つとして他を知らないという女に、鬼神は鼻で笑った。


『脳味噌どっかに置き忘れたか? 生きるだけなら難しい事じゃねぇだろ。 そんだけの器量が在りゃ、何やったって良いだろうに?』

  

 意外な程に、騎士の悩みを鬼神は文字通り吹き消した。

 

『誰かに云われてそのままか? コレしろあれしろ、仰せのままにってな。 そんなもんはよ、家畜ってんだぜ? 奴隷以下だ』


 強制的に従わざるを得ない奴隷ですら、反目心は消えない。

 あくまでも、命を長らえる為に敢えて苦難に耐える。


 だが、それすら失せて相手の云うなりは、もはや奴隷でもない。 

 鬼神は、騎士を【家畜】と称した。


「私が家畜だと!? 無礼……な!?」

 

 流石に、鶏や豚、牛という扱いに騎士は激昂する。

 が、立ち上がった所で、その細首に鬼神の手が掛かった。


『どうする? なんなら、この場でバラバラにしてやろうか? 楽に成れるぞ』

 

 赤々と輝く目に、騎士の膝は震えた。

 今まで培った筈の気概など、何の役にも立ちはしない。


 恐怖から涙する騎士に、鬼神は手の力を緩めた。

 腰を落とし咳き込む姿に、兜からは溜め息が漏れ出る。

 

 元々脅しだけであり、本気で殺すつもりなど無い。


 そもそも全滅させる気だったなら、今頃、騎士を含めた全員が地面に虚ろな顔で転がっていただろう。


『どうしたもんかねぇ……』


 背中に【不殺】の看板を掲げている以上、殺す事はしたくはない。

 かといって、背負った看板を下ろす事もしたくない。


 唸り悩む鬼神の近くに、片角の壮年が近寄った。


「悩む事など無いぞ、首領。 いや、此方では……鬼神殿……かな?」


 掛けられる声に、鬼神は兜を指先で掻いた。

 実際には頭を掻いたつもりなのだが、癖でもある。


『随分と、懐かしいっすね、剣豪(ソードマスター)さん』

「君も、名前がこそばゆい様だな」


 古い友人同士といった二人。 

 時間がどれだけ経とうとも、それは問題ではない。


『まぁ、そっすけど……あ、そうだ、悩まなくて良いって、どういう意味っすか』

 

 問われた壮年は、チラリと一団を見る。

 中には自分では歩けそうもない者も居るが、全員がそうではなかった。

 

「簡単だよ。 解放してやれ」


 唐突な壮年の提案に、黒装束達も僅かにざわついた。

 だが、鬼神が手で制せば、声は止まる。


『かいほーたって……』


 単純に言えば、見逃せという。

 だが、それをするとなると、後でどうなるかが不安であった。

 

 それでも、壮年は余裕を崩さない。


「今更、彼等も抵抗はしまい。 痛い目に散々あったんだからな」


 そう言うと、壮年は息を吸い込む。 


「君達は、誰一人として殺さなかった。 それだけでなく、ほぼ一方的に彼等を制圧して居る。 コレだけで、国中の者達は君達を畏怖するだろうな。 国中の英雄達を歯牙にも掛けない魔人衆、とね」


 云われて見れば解ることだが、壮年の云うことも間違いではない。

 此処に集まった集団は、単なる寄せ集めではなく、魔人を倒す為に集結した精鋭である。


 その筈が、為す術も無く全滅させられた。

 この一点だけでも、あっという間に国中に話しは広まるだろう。


 伝説の魔人が復活しただけでなく、ソレが仲間を引き連れて勇者や英雄達を打ち倒してしまった、と。

 

 それだけでなく、殺さないという事はソレほどに戦力に差が在る事を示している。  

 壮年の声に、鬼神は兜を何度か縦に揺らした。


『それも、そうっすね……それに、看板を簡単に下ろしたら格好が付かねぇや』


 そう言うと、鬼神は英雄達に向き直る。


『ま、聴いた通りだ。 今日は、テメェらを生かしといてやる。 精々、俺様達の悪名を広めてくれや……ただな』


 一旦言葉を句切ると、鬼神は英雄達を見渡す。


つらは憶えたからな? もし、次に見掛けたら、その場で二度と歩けない様にしてやる』

 

 脅しを兼ねてそれだけ云うと、鬼神は一団に背中を向けた。

 誰もが見ている前で【不殺不敗】の四文字が踊る。


『野郎共! 帰って一杯やろうぜ! 祝杯だ!』


 そんな鬼神の声に、黒装束達は一斉に勝ち鬨の声を張り上げた。


   *


 去っていく悪の軍団と悪の組織。


 遠ざかる姿に、騎士は目が離せなかった。


 既に手首の戒めは解かれ、動きを遮るモノは無い。

 にも関わらず、騎士はジッと遠ざかる魔人を見てしまう。

 

 何故ならば、実のところ彼女には、伝説の魔人は別の姿に見えていた。

  

 英雄の軍団に混った凡人の彼女だからこそ、見えるモノも在った。


 件の魔人達は、徒手空拳にて、一切の武器を用いない。

 姑息な戦法も無ければ、念の入った計略も無く、虚仮威しではない。

 捉えた捕虜の女性を辱めもしない。

 

 ただ悠然と立ち、正々堂々と相手に立ち向かい、討ち倒してしまう。


 それだけでなく、決して相手を殺さず、あまつさえ倒した敵を逃がすという暴挙。


 軍人として言えば、愚か者どころの話ではなく、狂ってすら居ると思えてならない。

 しかしながら、同時に魔人は在るモノと重なる。


 幼子が親から読み聴かされる様な本に在る御伽噺。

 

 騎士は、かの魔人の背中に【英雄】という言葉を頭に想い浮かべ、重ねていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ