戦慄の作戦! 地球からの追放!? その28
準備に夢中で在れば、小さい事は見逃されるモノである。
ソレが例え、何処かの一件に男女が入って行ったとしても。
例え見られていたとしても、わざわざ口を出そうとする者は居なかった。
*
戸が閉じられるのだが、直ぐに外からは開かない様にと棒が立て掛けられた。
ソレをしたのは、クラウである。
「良いのか、鍵なんて掛けて」
厳密には施錠というよりも棒を一本立て掛けただけである。
それでも、外から開けるのは難しい事に違いはない。
敢えてソレを問い掛けるのは、相手の気持ちを尋ねる意味が在った。
問われたクラウだが、ジッと良の目を見る。
「……邪魔されたくないんです」
実に分かり易い答えは、そのまま彼女の意思を示していた。
「……そうか」
クラウからそう言われては、さしもの良も何も云わなかった。
ソレよりも、今の良は在る意味戸惑って居る。
どれだけ過去なのか数えるのを忘れたが、改造人間と成って以来、人間らしい欲求とは無縁の生活を歩んでいた。
飲食を忘れ、睡眠も僅か、そして性欲などはあって無いようなモノでしかなかった。
脳が必要とするからこそ、生き物には欲求が備わっている。
超人の細胞が如何なる変化をもたらしたのか、ソレは未だに未知数ながらも、確実に良の体に変化を起こしていた。
長く見続けて居ると、変化の違いに気付くのは案外難しいモノである。
だが、よくよく思い返して見れば、クラウは大分変わった。
十年以上前は、幼かった彼女も、今では立派な女性である。
何よりも違ったのは、眼だ。 時には口よりも雄弁にモノを語る。
そんな彼女の眼が、挑む様で同時に誘う様な瞳を覗かせていた。
あれやこれやと話す事も出来ない訳ではない。
ソレよりも、本能が身体を突き動かす。
良が一歩寄れば、クラウも同じく寄る。
程なく、良は腕の中に彼女をすっぽりと納めていた。
「ずいぶん……大きく成ったよな?」
「そうですよ、昔とは違います」
ぼそりと言葉を吐くと、クラウの踵が持ち上がる。
どちらが先に動くかといえば,先手を取ったのはクラウだった。
爪先立ちは不安定ながらも、相手の首に腕を回せば問題など無い。
加えて、良の腕がクラウの背中をソッとだが力強く支えていた。
重なっていた唇が、離される。
息が届く程に近いからか、普段以上に互いの顔がお互いの目には映る。
もはや語るよりも、行動が先に立つ。
「……ひゃ」
唐突に良がクラウを横抱きに抱え上げる際、小さな声が漏れた。
別に彼女を歩かせても良かったのだが、ソレよりも抱えてしまった方が速いと考えている。
ベッドへと、ソッとクラウを寝かせると、良が覆い被さる。
「……良いんだな?」
敢えて、良はそんな声を掛けていた。
何故そんな事をするのかと言えば、クラウは今までは弟子で在りながら、同時に娘の様な存在と言えた。
小さい頃は良が彼女の面倒を見て、少し前まではクラウが良の面倒を見ている。
その間は、男女のソレというよりも、親子という方が近い。
だからこそ、その一線を踏み越えるのは僅かだが戸惑いが在った。
声を掛けられたクラウだが、少し笑うと自分を見下ろす良の頭を抱き寄せ唇を重ねて塞ぐ。
以前に温泉に入る前、彼女はリサに語ったが、本当に嫌ならそもそも近づきなどしない。
寧ろサッサと他の者を当たるだろう。
そうしなかった事に、彼女の意思が示されている。
ゆったりと離される唇。
潤みを増した瞳で、クラウはジッと良の目を見た。
「構いません」
遠慮は無用だというクラウ。
今度は、良の方から唇を求める。
広めの背中に、クラウの腕が回された。
*
一つ屋根の下で過ごす良も居れば、違う屋根の上で過ごす良が居た。
空に輝く二つの月は、此処が違う世界であると示すが、今の良には違うモノに見えている。
果たして、餅田が異界の自分にどんな変化を起こしたのかを考える。
しかしながら、如何に考えたところで答えは出ない。
ソレよりも悩むのは【自分はどうすべきか?】であった。
頼めば餅田は快く細胞を分け与えてくれはするだろう。
それ自体は難しい事ではない。
問題なのは、未だに結果が未知数という点にあった。
組織を抱える長である以上、いきなり身勝手な真似は選べない。
何故ならば、今のところ組織の運営は問題無いのだ。
最も、組織の実質的な指揮を取っているのはアナスタシアである。
つまりは、良は御飾りと言っても差し支えない。
「どうしたもんかなぁ……」
そう言うと、良は長く息を吐いた。
迷いが在る自分と違い、別の自分は迷うことなく試していた。
同じ人物である以上、結果はほぼ同じ事だと推察は出来る。
実際、鬼神の腕や脚は良の予備部品か流用されていた。
元も同じ、規格も同じであれば、違いは年月だけと言える。
「もう、なんでこんな所に……」
ふと聞こえた声に、目を向ければ、誰かが屋根に上がって来た。
顔を見せたのは、博士である。
「……リサか、どうした?」
ウンと鼻を唸らせる良に、恐る恐るといった様子で屋根に上がるリサ。
「どうもこうも……何だってこんな所に登ってんですか?」
チラチラと屋根の下を窺う様子から、彼女の必死さが窺える。
当たり前の話だが、普通の人間にとってみれば高所は怖い場所と言えた。
安全保障など端からなく無く、転落防止の柵もなければ、そもそも登る様には造られて居ない。
梯子を用いて上がっては来たが、リサは恐る恐るであった。
「あー、まぁ、なんつーかな……ちょっと、考え事が在ってさ」
そう言う良の隣に、ソッと腰を下ろすと、リサはジッと目を向けてくる。
「なんです? 考え事って」
自分よりも改造人間に詳しい博士ならば、相談の相手としては申し分ない。
だからか、良は別の自分が入って行った家に目を向けた。
中で何が在るのか、外からは見えはしない。
ただ、クラウが一緒に入って行った事は知っている。
「いや、もし、俺も餅田から少し貰ったら……どうなんのかなぁってさ」
専門的な事は解らないからか、良の言葉は抽象的である。
それでも、リサは良が何を云いたいのかは伝わった。
「……解りません」
決して嘘ではなく、答えようが無かった。
如何に専門家な技師でも、出来る事には限りが在る。
もし、鬼神を本格的に調べようとすれば、設備が要るが、この世界では望むべくも無い。
仮に造るとしても、どれだけ掛かるのか解らなかった。
「そうだよなぁ」
解らないと云われれば、納得をするしかない。
悩みを見せる良に、リサは腰を浮かして少し身体を寄せた。
「あ、でも、良さん」
「うん?」
「少しだけ、待てません?」
「お?」
首を傾げる良に、リサは空を見上げて腕を伸ばす。
「もしかしたら……あの何処かに太陽が光ってるかも知れないでしょ?」
可能性としては薄いかもしれないが、リサは星空を示した。
「おー、うん」
いまいちピンと来ていない良だが、それはリサには問題ではない。
大事なのは、別の事にある。
「ですから、もし戻れたら、試して見ません?」
首領の状態を預かるのも、博士の勤めである。
現状で問題が無ければ、悪戯に余計な真似は出来ない。
万が一にも不備が起こったなら、只でさえ整備が難しい状況なのだ。
リサの説明に、良は腕を組んで何度か首を縦に揺すった。
だが、直ぐに顔をリサへ向ける。
「もし、とかじゃあない。 必ず戻るさ」
そう言うと、良は在る家の方へと目を向ける。
誰かが視線を向ければ、それに釣られてしまう事もあるが、リサも例外ではない。
「そう言えば、さっきから見てましたけど……何か在るんです?」
知らぬ者から見れば、家が在るだけである。
「……いや、別に、な」
答える事は難しくは無い。
ただ、云うべきかどうかは別の問題である。
「あれ、そう言えば、あの二人は何処でしょ?」
屋根の上だからか、里の様子は丸見えである。
誰が何処で何かをして居るのかを把握する事は難しい事ではない。
そして、賢しい者であれば、幾つかの要素をから事を察する事も出来る。
「あ、もしかしたら……」
異界の良は居らず、クラウも居ない。 そして、良が在る家を見ている。
其処から導き出される答えに、リサは思わず口を噤んだ。
既に本人の口から聴かされて居るが、クラウは良との混浴には戸惑うどころか率先して入ろうとすらして居た。
然も、リサが半ば無理やりに布で身体を隠させた程である。
それだけの彼女が、何かをして居たとしても、不思議ではない。
思わず、リサはチラリと直ぐ横の良を見た。
すると、良もまたリサを見ていた事に気付く。
二人の視線は交差するが、其処に言葉は無い。
もし、どちら側かが少し身体を傾ければ、直ぐに触れ合う距離である。
しかしながら、実のところ博士は在ることを失念して居た。
「あ! あんな所に居た!」
唐突な声に、良とリサは慌てて屋根の下を見てみる。
すると、其処では愛が怖い顔で立っていた。
当たり前の話だが、なに言わずに居なくなれば、それを探す人が現れても不思議ではない。
そして、組織とは一人ではなかった。
愛の発見の合図に、屋根の上へと跳び上がってくる影が二つ。
「みーつけたぁ……」
おどろおどろしい声で髪を逆立てるのは、虎女。
「首領……どうして勝手な真似ばかりするんですぅ?」
言葉こそ丁寧だが、声色は恐ろしい女幹部。
大幹部に左右を挟まれ、二人に逃げ場など無い。
「いやぁ、なんて云うか……ちょっと、夜風に当たりたくなって」
急いで弁解をするが、余り効果は見えない。
それどころか、良は大幹部に追い詰められてしまう。
「そう言えば、この近くに温泉在るんだよね?」
「そうですよ、せっかくの機会ですし、ねぇ?」
有無を云わせぬ声でそう言うと、カンナとアナスタシアは同時に首領を捕まえる。
如何に改造人間でも、左右から捕まっては脱出は難しい。
「ま、待て、俺さっき……入っ……」
本来、首領の云うことは絶対が悪の組織ではある。
しかしながら、逆に考えれば言わせなければ良いのであった。
来た時と同様に、あっという間に消えてしまう大幹部。
「……もぅ、いっつも邪魔されてる気がする」
一人残されたリサだが、溜め息が漏れていた。




