戦慄の作戦! 地球からの追放!? その25
異界にて、見知らぬ相手と対峙する。
顔こそ仮面に覆われ見えないが、実のところ虎女に余裕は余りない。
その理由は、過去に在る。
篠原良が首領へ収まる以前、当然だが、別の首領が居た。
その頃からカンナは大幹部である古参と言える。
その際、首領は大幹部達に在る言葉を云い置いていた。
【異能力者と戦う事は厳禁とする】と。
首領がそう言えば、組織に置いては新しい掟と言っても差し支えない。
何故そうなのか、当時の虎女は考える事を許されずに居た。
だが、時が経ち【魔法少女】という異能とも出逢っている。
その時は既に味方の側に居た為、戦闘には至っていない。
ついさっきまで、一応の【決戦】こそして居たが、その際は川村愛は決して本気は出していなかった。
*
対峙する虎女に、相手は流石に警戒したのか間合いを詰めて来ようとはしない。
一瞬にして全く違った姿へと変える能力者を彼は知らなかった。
対して、虎女は少しずつ身を縮める。
「さてと、手品は終わり?」
敢えてそう呟くのは、実のところ相手に【撤退して欲しい】という含みが在った。
今の段階では、敵の実力全てを判断出来た訳ではない。
精々が【相手はよく解らない力を持っている】という事だけである。
野生の虎ですら、勇猛果敢と想われるが、実のところは慎重と言えた。
まかり間違えば自分が被害を被る。
それ故に、虎女は威嚇に留めている。
「みた事も無いスキルだなぁ……随分と、変わってるね」
口調から察するに、多少は驚きはしたものの、それだけである。
こうなると、虎女も後には引けない。
ただ、幸いな事に、この場に首領は居なかった。
「変わったのは……見た目だけじゃないよ!!」
言い終えた途端に、虎の足が地面を蹴る。
跳び上がる虎は、あっという間に相手へと肉迫していた。
七歩程度の距離ならば、虎に取っては間合いの内であった。
「ひぇ……」
慌てた様な声を漏らす相手だが、また指を打ち鳴らす。
すると、周りに散った筈のネズミが、壁と成った。
「……しゃらくさい」
先と同様に腕から出した刃にて壁を切り裂く。
次の瞬間、何かの塊が虎女を弾いた。
空中へと押しやられたが、身を捻り着地する。
見てみれば、其処には猪に似た何かが相手を守る様に立ち塞がっていた。
その後ろでは、腰を抜かした様にへたり込む姿が在る。
「ふぃ……危ない危ない……まさか、あんな一瞬で来るとは思わなかったなぁ」
言葉程に焦りを感じさせない声に、虎女の口からは舌打ちが漏れる。
通常、動物が人間を守るのかと問われれば可能性は在るだろう。
よく訓練を受けた犬などは、主の命令に従い相手を襲う事もある。
但し、果たして斬り散らかしたネズミや、カンナを弾いた猪擬きが訓練を受けたのかと言えば、それは怪しい。
「あんた、ソイツ等を操ってるでしょ?」
見て感じた事をそのまま伝えると、相手はゆったりと拍手をした。
「そ、御明察。 コレが僕の力だからね」
特に隠す事でもないからか、平然と自分の力を明かす。
単純ではあるが、その使い道は膨大及ぶ。
動物を【意のままに操れる】という事だけでも、異能力の恐ろしさが垣間見えた。
ただ、それに対して虎女が気落ちするかどうかと言えば、逆である。
見てみれば解るが、動物達は本来の意志に反して操られて居るのは明白だろう。
でなければ、見ず知らずの人間を庇う理由など無い。
その事実に、カンナは奥歯をギシリと軋ませた。
「卑怯な奴……喧嘩したいなら自分だけでやれば?」
以前の記憶が、虎の中から消えてはいない。
本来、生き物は自分の意志を持っている。
それは、例え胡麻粒程の虫でさえも。
それを力で無理やりに操るという事が、虎の神経を逆撫でしていた。
「いやほら、めんどくさいでしょ? そんなの」
そう言う足元では、切り裂かれたネズミがまだ生きていた。
身体が半分に成ってなお、もがいて居る。
そのネズミを、相手は蹴飛ばした。
ボールの如く蹴られたネズミは、カンナの足元へと転がる。
胴体半ばから寸断されても、まだ足掻こうとする。
次の瞬間、屈んだ虎がトドメを刺した。
激痛に喘ぐ姿を見かねての行為だが、そもそもネズミを斬ってしまったのも虎だった。
すっくと立ち上がる虎は、再び相手と対峙する。
本来ならば、今すぐにでも踵を返し、里へと撤退するのが最良で在ろう。
だが、それは断固として出来ず、したくなかった。
「前の上司からはさぁ、あんたみたいのとやるなって云われてたけど……」
そう言いながら、虎は爪を立てる様に刃を突き出す。
「……無理だね、我慢出来そうもないや」
意に反して操られる辛さ。
ソレは、自由奔放な虎にしてみれば何よりも辛い事である。
ましてや、それを平然と行う相手を、虎は見過ごす訳には行かなかった。
最良の選択が常に最高な訳ではない。
例えそれが最低な選択で在ろうとも、自らが選ぶ事に意義があると虎は想う。
誰に従うでなく、自らそれを選んだ。
「……あっ、そう」
つまらなそうにそう言うと、また相手は指を打ち鳴らした。
それを合図として、動物も動き出す。
猪擬きに気を取られては、ネズミの大群の動きは見えない。
かと言って、ネズミを見ていれば、猪擬きが見えない。
生半に手を出そうとしないカンナだが、迷いは在った。
如何に自分へと向かってくるにせよ、それは、相手の意志ではない。
無理に操られ、傀儡と化した生き物を殺す事に迷いが生まれる。
だが、かといって何もしなければ自分が死ぬだろう。
仮面の中で、虎は目を一瞬閉じた。
仮に目を閉じても、そよぐ髪や匂いが相手の位置を教えてくれる。
目を閉じたのは、自分へと覚悟を促す為であった。
例えそれが如何に残酷な行為で在ろうとも、生きねば成らない。
虎はカッと目を開く。
押し寄せる波に、迷いを捨てて斬り込んだ。
*
相手にとって、未知の存在である虎女だが、其処まで不可思議な力を用いない。
全身から刃物を出して、ソレにて相手を切り裂いていく。
今までとは毛色が違うが、其処まで化け物という程でもない。
だが、単純が故に崩すのが難しい。
「うーん……どうしようかなぁ」
自分で戦わないからか、冷静に状況を判断できる。
その様は、将棋かチェスを指している者に近かった。
戦うのは自分ではなく、あくまでも指示を出す。
考えるべきは損害ではなく、如何にして勝つか。
但し、如何に自分が手を出さないとは言え、其処まで余裕もない。
何せ虎女は向かってくる動物達を次から次へと斬り倒してしまう。
このままでも、いつかは虎の爪が自分へと届くだろう。
『どうもこうもねぇよ。 ゲームは終わりだ』
戦略に耽っていた男は、背後から掛けられた声に慌てて振り向く。
「な!? なんだ!!」
『思案中に悪いんだが、お邪魔するぜ?』
唐突に現れた謎の鎧を纏う者は、そう言うとポンと男の肩を叩く。
決して力を入れず、寧ろ、単なる挨拶に等しかった。
肩を叩かれたとは言え、特に何かがあるわけではないだろう。
だが、それは間違いがある。
今まで、虎女を囲っていた動物達だったが、動きを止めていた。
「……急になに?」
すわ何事かと驚くカンナだがよく見れば相手の方に首領の姿。
ただ、少し違いも在る。
『悪い、待たせたな?』
そう言って、虎女の横に現れたのも、首領である良。
「へ? しゅ、りょう? でも、アッチは……」
いきなり良が二人現れた事に、驚きを隠せないカンナに、良が兜を縦に振った。
『話すと長いが……アッチも俺さ』
顎をシャクって見せる良の声に、虎女は促されるままに顔を向ける。
よく見てみれば、違いは在った。
相手の肩を叩いた良だが、見てみれば外套を首から下げている。
風が布を翻すのだが、ソレには【不殺不敗】と文字が在った。
「なんだ!? どうなってる!?」
相手にしてみれば、起こっている事が理解出来ない。
今まで意のままに操れた筈の動物が、一切云うことを聞かなくなってしまった。
『おっと! そうだ、忘れてたわ』
マントを纏う鬼神だが、そう言うと、いきなり男の膝を蹴り砕いた。
単なる蹴りでは在っても、改造人間の蹴りは普通のソレとは段違いである。
当然だが、いきなり膝を砕かれては人は立っては居られない。
暗い森に、引きつった悲鳴が轟く。
激痛に膝を抱える男だが、その近くへと、鬼神が屈んだ。
『安心しろって、膝くらいなら死にゃあしないさ』
同じ篠原良では在っても、此方の良には相手への配慮は余りない。
精々が死なない程度に留めているだけである。
そんな光景に、虎は言葉を失うが、その隣の良はカンナの肩に手を置いた。
『すまん……迎えに来るのが遅く成っちまった』
詫びる良に、思わずカンナは頷いてしまう。
「ソレは、別に良いんだけど……」
今まで張っていた気が、一気に緩む。
そうなると、疑問が次から次へと湧き出した。
首領が何故二人居るのか、そもそも向こうの良は誰なのか。
それに応えるかの如く、鬼神がマントを揺らしながら近寄ってくる。
『カンナ……随分とひさびさに逢えた。 元気そうだな?』
「えと、あと、うん」
困惑する虎女だが、無理もない。
いきなり現れた首領二人に囲まれているのだ。
そんな虎の惑いを掻き乱すのは、膝を砕かれ倒れ伏した相手である。
「ちきしょ……不意打ちなんて……卑怯者が……」
痛みに呻きつつも、不意を突いた事に恨み節を漏らす。
聞こえた言葉に、鬼神は振り向いた。
『卑怯だ? 俺は悪の大魔王様だぜ? 卑怯で何が悪いんだよ』
【鬼神】と亜人達から崇められる良だが、別に正義の味方等ではない。
正道を通し、世界を平和へと導く者ではなかった。
寧ろ、世界を脅かす悪の魔人でもある。
『おっと? そういや、此奴等がお前に話が在るんだってよ』
そう言うと、鬼神は再び踵を返す。
歩く魔人には道を譲る動物達だっだか、その目は直ぐに倒れた男へと向いていた。
操られて居た時ならば、動物達も男の庇い盾にすら成った。
男の意志のままに、使い捨ての駒として。
しかしながら、その呪縛が解けたなら、話は違う。
弱肉強食に置いて、弱った獲物は格好の餌と言えた。
静かながらも、段々と近寄ってくる大群。
「お、おい? なんだよ、なんだ」
鬼神の纏う外套には【不殺】の文字は確かに在った。
しかしながら、それは、あくまでも自分が【殺さない】という事に過ぎない。
*
程なく、森の中で長い悲鳴が上がるが、ソレは誰にも届かなかった。




