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世界征服、はじめました  作者: enforcer
恐怖! 超人エックス出現!
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恐怖! 超人エックス出現! その2


 首領である篠原良は、一旦組織を離れ、一人在る場所を目指して居た。

 本人が脱走の為に組織が大騒ぎなのだが、遠く離れて居れば差ほど気にする事でもない。


 良を乗せた船が、とある国の港へと辿り着く。


 ガチャリと船室のドアが開き、良が顔を覗かせた。

 

「あー、船旅ってのも疲れるもんだなぁ」


 脱走をした割には呑気な良に、鼻笑いが届く。

 聞こえた音の方を見れば、其処には一人の青年が立っていた。


「そんなんだったら、飛行機で来りゃあ良いだろ?」

「橋本さん」


 差し出される橋本の手を、良は掴んだ。 


「よく来てくれたな、ほい……っと」


 本来なら重い改造人間を軽々と引き上げる膂力は、彼が並でない事を示す。

 そして、放られた良もまた、軽々と着地して見せた。


「ちょっと、いきなり投げないでくださいよ」

「いや、首領なんかやってると、鈍ってるじゃないかなぁってさ」


 軽い挨拶代わりのやり取りを終え、橋本はチラリと良が乗ってきた船を見る。

 傍目には、中型の巡航船クルーザーだが、良以外は乗っていない。


「篠原って、船舶免許持ってたっけ?」


 悪の組織が一々免許の有無を気にするのかは定かではないが、勿論無い。


「や、其処は自動って奴なんで」


 目的地さえ入力すれば、後は機械が連れて行ってくれる。

 そんな良の声に、橋本が肩を竦めた。


「良いねぇ、首領様ってのは金が在ってさ」


 言われた良だが、ウームと鼻を唸らせた。


「仕方ないじゃないっすか、そら飛行機乗ってビューンと来れりゃあ良いんですが、俺そもそも乗れるかどうかすら怪しいんすよ?」


 改造人間とは、傍目にはただの人間に見える。


 が、実態としては人の皮を被った別の者であった。

 マトモな空港ならば、在る程度の設備を備えているのは普通である。


 そして、金属探知機に改造人間が引っ掛かるかと言えば、思い切り引っ掛かる。


 衣服と持ち物没収されて丸裸にされた所で、尚引っ掛かるだろう。


 それどころか、エックス線検査をされようモノなら、中身すら見えてしまう。

 そうなってしまえば、果たしてどうなるのかは想像に難くない。

   

 かと言って、組織が保有する巨大ロボを出せるかと言えばやはり無理だ。

 目立つ所の騒ぎでは済まない。


 そして何よりも、今回の出動は首領の独断によるお忍びである。


「解ってるって、ちょっとした冗談だよ」


 橋本にしても、自分が良を呼んだことを忘れては居ない。 

 他でもない、悪の首領に助力を頼んだのは彼だった。

 

「そういや、俺を呼んだ訳を聴かせてくれます?」


 橋本は頷くと、片手を挙げて留めて置いたらしいバイクを示した。

 わざわざ取り付けられたのか、サイドカー仕様である。

 

「あぁ、とりあえず乗ってくれ。 行きながら話そう」


 ヒラリとバイクに跨がる橋本に、良もサイドカーへと乗り込んだ。


「ヘルメットって無いんすか?」


 そんな良の疑問、今度は橋本が唸った。


「お前さんさ、ホントに悪の首領に向いてないよな?」

「んなことは知ってますけど……うわ」

「なんだ? 何かあったか?」


 何事かと、問う橋本の横では、良が持参の携帯端末を見ていた。


「なんか、皆から着信が100件ぐらい来てて……参ったなぁ」


 今更ながらに、脱走したという事実が良へとのし掛かる。

 もし、今回の件を無事に終えた所で、幹部達から如何なる説教が待っているかを考えるだけで空恐ろしい。


 そんな良の苦労などどこ吹く風と、橋本が笑った。


「だから前も誘ってやったろうに? 何なら、今からだって良いんだぜ?」


 同じ改造された者同士として、かつて橋本は篠原良を誘った。

 一緒に悪の組織と戦おうと。


 最も、その際は既に良は首領に収まっていた。


 以前は、慌ただしさ故にその誘いを蹴ってしまったが、今となっては魅力的に想えてしまう。


「いや、まぁ……お気持ちだけ受け取って置きますわ」


 どうせなら、今の立場など放り出したい所では在るが、そうも行かない事情も在る。

 橋本にしても、良が誘いに乗らない事は既に承知していた。


「解ってるさ、今回の手伝いで、以前の借りは無しって事にしとくよ」

「あざまーす」


 良の声に、橋本はバイクのエンジンを起こす。

 派手な音がマフラーから吐き出され、一気に走り出していた。


   *


 移動の最中、良は今回の事の要件が気に掛かる。


「そういや、橋本さん」

「あん? なんだ」

「わざわざ俺を呼んだ理由ってのを聞きたいんですけど」


 尋ねられた橋本は、ウームと唸る。

 バイク故に、二人の周りは風が覆うが、改造人間の為に会話に支障はない。


「つい最近なんだがな、変な奴らがいきなり増えたんだ」

「変な? どんなです?」


 解らない以上、尋ねる他はない。

 どの道荒事に成るならば、その相手を知りたくもある。


「なんて言えば良いのかな……改造人間とは全然違うんだ」

「違うって言いますけど、どう違うと? いつもの残党じゃないってんすか?」

 

 訝しむ良に、橋本は眼を細めた。


「俺の感想で良いなら、たぶん……アレは……超人かな?」


 なるべく分かり易い表現をしているつもりなのだろう。

 しかしながら、橋本の言葉は意図を得ない。

 

「ちょうじん? ソレは、アレですかい? 緑色した変な……」

 

 思い付く記憶を頼りに、良は何となく浮かんだままを言う。

 対して、橋本の反応は微妙であった。


「まぁ、ソレも強ち、間違ってもねーだわ」


 そう言われた良は、サイドカーの中で腕を組んだ。

 昔見た記憶の中にいる超人は、凄まじい力を持っていた。


 そうなると、果たして自分達は勝てるのか怪しい。


 改造人間は確かに強力なのだが、実のところ無敵でもない。

 戦力的に言えば、あくまでも強化された人間に過ぎないのだ。


「それ、俺らで何とか成るんすか?」


 良からすれば恩人には報いたい。

 とは言っても、無鉄砲に突っ込むほどに馬鹿でもない。


 もしも、橋本の語った超人が以前潰した組織の残党が造ったモノならば、或いは応援を要請する必要が在る。


「……兎に角、今は大人しく乗っててくれ」


 やけに勿体ぶる橋本の声に、良は片方の眉を上げた。

 

 言葉を吟味すると、どうにも橋本は事を荒立てたくないと見えてしまう。

 その理由は、今の良には解らなかった。


   *


 かくして、組織から脱走した改造人間である橋本に、同じく脱走?した篠原良は、在る場所へと連れて来られた。


「はえ~、こらすげーや」


 遙々、組織から離れてやって来たのは、とある国の街。

 総人口は一千万に迫ろうという、大都市であった。 


「これぞアレっすかね、ビッグアッポー! って奴かな」 


 何となく、知っている言葉を選ぶ良だが、橋本の反応は芳しくない。


「御登りさんな所で悪いんだが、観光の案内はしてられないぞ?」

「えぇ? せっかく来たのに」


 もしも、良が鞄でも片手にカメラでも首から下げていたなら、海外旅行に来たと言えなくもない。

 せめての心残りだからか、辺りを見渡す。


「……なんか、そこら中に壊れた跡が在るな」


 良の言う通り、本来なら派手な筈の街の彼方此方に補修が目立つ。

 未だに、直し掛けという光景。

 

「あぁ、前の化け物が来た際に、ここら辺もドンパチかましたって話さ」


 橋本の語る化け物騒動だが、良も一応の関係者ではある。

 その際、良は自分達の近くの護りは出来たが、世界中を網羅するのは組織の規模的に無理があった。


「橋本さん」

「うん?」

「行きましょう」

「あぁ、そうだな」


 短い会話を終え、またバイクが動いた。


  *


 左右の通行が逆というだけでも、良には何とも言えない不安を感じさせる。

 普段ならば、左側通行を逆に行く。


「なんか、逆走してるみたいで落ち着かんすね」


 しっかりと道路交通法を考える良に、橋本は苦く笑った。


「なぁ篠原。 もう悪の組織なんか辞めてさ、マジでラーメン屋でも始めろよ」


 茶化す橋本に、良はムッと顔を向けようとするが、在る一点に目が向いた。


 通常の人間よりも、改造人間はよく見える。

 望遠鏡並みの眼は、良に在るモノを見せていた。


「橋本さん!」

「解ってる!」


 とりあえず、バイクを路肩へと留め、橋本も顔を上げた。

 

 二人の改造人間が見たのは、空を舞う人間の姿である。

 ただ、舞うと言っても飛んでいる訳ではなかった。


 文字通り、パッと腕を糸の如く伸ばし、ビルの壁面にそれを貼り付け、ブランコの如く移動をする。


「なんだありゃ!? 蜘蛛人間か!? ホントに居たのか!」


 思わず、見たまんまを語る良に、橋本は小さく頷いた。


「アレが、正義の味方だってんなら……な」  

「え? 違うんすか?」


 困惑する良の後ろ方から、声がする。


「おーい! 誰か! 彼奴を捕まえてくれ!」


 ヤケに焦った様子で、一人の男性が走っていく。

 異国の言葉ながら、体内の翻訳機のお陰で言葉は伝わる。


 そして解ることだが、かの男性はさっきの怪しい者に何かを盗られたらしい。


「仕方ない! 篠原! 追うぞ!」

「解ってますよ!」


 既に知らない間柄でもない。

 事前に申し合わせたかの如く、二人はバイクとサイドカーから跳び降りる。


 スッと降り立つなり、同時に駆け出していた。

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