戦慄の作戦! 地球からの追放!? その22
リサが混浴という事に悩む中。
誘われた良はと言えば、特に何も考えず先に湯を目指す。
流石にいきなりドボンと飛び込みはせず、備え付けらしい桶で湯を汲み、身体を流してから湯に浸かった。
「おぉ……」
足を入れた途端、なんとも言えない声が良の口から漏れ出る。
考えても見れば、この世界に来てから初めての湯であった。
「いやぁ……まさかまさか、風呂に入れるなんてなぁ」
精々が川で沐浴か、桶に湯を溜めたモノかと想像していた良だったが、想像に反して天然の温泉は快適である。
「……だろう?」
ポンと返された返事に、良は首を傾げる。
先に誰か入って居たのかと、其方を向けば、思わず言葉が詰まった。
其処には、変身を解いたこの世界の自分が居たのだ。
「……えーと」
果たして、自分をどう呼ぶべきか迷う。
一人称という言葉は数あれど、別の世界の自分は前代未聞であった。
「ま、俺達だからな……そんなに気兼ねする必要も無いさ」
そう言う自分の見た目は、良のソレとは違っていた。
良が青年ならば、見える姿は歴戦の猛者に見える。
それ程までに、二人の良の見た目は違った。
*
並び合う二人の良だったが、顔は違う。
片や余裕綽々と湯に浸かり、片や困った様な顔だった。
此方の世界の良はと言えば、寧ろ大幹部の一人である剣豪を想わせる風貌である。
「よく……こんなん在ったな?」
自分と対して、果たして何を話すべきか。
先ずはと、良は当たり障りの無い所を選んでみる。
口調に関しても、敬語か迷ったが、自分に気を使うというのも変なモノで止めていた。
問われた鬼神は、少し鼻を鳴らす。
「……どれだけ前かなぁ……ホントはさ、井戸を掘ろうとしてたんだ。 でも、掘ってたら湯が湧いて来ちまってな……あんときゃ驚いた」
天然温泉の由来を語る良だったが、逆にそれは、以下にこの世界の自分が永い時を過ごしたのかを現しても居た。
自分と会話するという事に、良は何とも言えない気分にさせられる。
似ている様で、やはり違いが在る。
其処に居るのは鏡写しの様な精巧な自分ではなく、良く似た誰かという方が正しい。
「なんだか、変な話だ」
「何がだ?」
「自分と風呂に入って、話してる」
「そりゃあそうだ、こんな事が起こるなんて想像すらしてなかったわ」
どちらが喋って居るにせよ、会話は不思議と成り立つ。
全く同時に同じ事を云ってしまうといった事もない。
ふと、そんな良の耳に、何やら会話が聞こえる。
「ほら、せめて巻いた方が……」
「どうしてそんなに恥ずかしがるんです? 別に胸の大きさなどは……」
「ちょ!? そんな事云わなくたって良いでしょ!?」
「気にせずとも、いずれ成長しますよ? それに、大きければ良いと云う訳では……」
「そう言う事じゃなくて……」
湯気に隠されては居るが、誰が話してるのかは声で伝わる。
程なく、湯気を分けて姿が露わになる。
現れたのは、布で鎖骨から下腹部までを覆い隠したクラウとリサであった。
流石に素っ裸というのもマズいと感じたのか、半ば無理矢理の形でクラウの身体を隠させたリサ。
但し、布一枚という事もあって、二人の体躯の差は歴然でもある。
大人の女性といったクラウと、まだ発達の途上なリサ。
ともかくも、二人は良達と目が合った。
「失礼致します」「し、しつれいしま~す!」
堂々としたクラウとは違い、リサは声が裏返しに成ってしまっていた。
二人の対照的な姿はともかくも、良はお互い顔を少し見合わせる。
今更、断る理由も無い。
「「どうぞ」」
合わないと想っていた良達だが、その声は奇しくも一致を見た。
*
良達を真ん中に、それぞれ左右へと分かれるクラウとリサ。
それぞれ二人を良達は目で追うのだが、違いは在る。
思わず目を泳がせる良に対して、鬼神はただ眉を少し寄せていた。
「まぁた、新しい傷こさえやがって……嫁入り前の身だろう?」
クラウの身体に残る痕を見てか、鬼神は寂しそうな顔を見せた。
その声に、寧ろ飄々と微笑みが返る。
「構いません」
果たして、何に対して構わないと云っているのか、それが解るのはクラウだけだ。
そんな堂々とした立ち居振る舞いとは対局的なリサ。
単純に風呂に浸かるというだけの筈だが、動きはおっかなびっくりである。
必死に体を覆い隠す布を手で抑えつつ、歩幅は小さめ。
「ちょっと、そんなにジロジロ見ないでください」
「あー、すまん」
良が目を反らした隙に、リサは意を決し湯へと入る。
入ってしまえば、それ程までに恥ずかしいという事もなかった。
電灯といった大きな光源は無く、松明が幾つか在るだけで明度は高くない。
湯へと肩まで入るなり、リサは大きく息を吸い込む。
「えっと……良い湯……ですよね?」
「おう」
「あ、なんて云うか、ホントに温泉来ちゃったみたいで……」
リサの感想に、良はウンと頷く。
「まぁ、なんて云うか、コレも温泉旅行って言えなくもないか?」
そんな良の言葉に、博士は思わず微笑んだ。
「そうかも、知れませんね」
些か旅路は色々在り過ぎたが、間違いなく温泉には来ている。
期待した形とは些か違いは在れど、その事にリサは目を頷いていた。
加えて、いつもで在れば邪魔が入る筈が、この時はそれが無い。
コッソリとだが、リサは良の方へと寄っていた。
*
直ぐ隣では、鬼神がクラウを見ていた。
勿論、彼女の肢体を舐め回す様に眺めている訳ではない。
どちらかと言えば、その視線は娘を案じる父親の様なモノである。
何せ、鬼神はクラウを幼い頃から知っていた。
里の外へ出る度に、愛弟子が傷を増やす。
ソレは、鬼神にとって自分が傷付く以上に胸に刺さる。
「クラウディア」
「はい」
「そろそろ、お前も里で落ち着いたらどうなんだ?」
鬼神にしてみれば、彼女の身体に新しい傷が刻まれる事は勿論、何処か知らぬ場所で命を落とすかも知れないという危惧していた。
実際、塞がってこそ居るが、腕と脚の矢傷は生々しさが在る。
問われた意味だが、勿論クラウには鬼神が云わんとしている事は理解は出来た。
里に落ち着けとは【嫁に行け】もしくは【婿を取れ】という含みが在る。
そしてそれは、里の者に取っては【現役引退】を意味していた。
要約すれば、鬼神はクラウに危ない事をさせたくない。
だが、それに従うかどうかは別の話である。
「私が止めてと言っても……貴方は止めてくださいませんでしたよね?」
クラウがぼそりとした声に、鬼神は眉を寄せる。
「なんか、人聞きの悪い言い方するなぁ……」
実際に他人が聴いたなら、それはそれはいかがわしい話に聞こえなくもない。
聴く者によっては、鬼神がクラウに手を出したと捉えられるだろう。
但し、二人の間では意味が違う。
かつて、クラウは良に語ったが、数えるのを忘れる程に鬼神は戦い続けた。
その際に、彼女は何度も何度も【戦うのを止めて】と頼んだが、拒まれている。
「ですから……もし、止めろと仰いますなら……」
其処まで云うと、クラウは鬼神を見る。
鎧に閉じ込められるずっと前、僅かの間だけ見えた顔が今は見える。
湯に暖められたせいか、彼女の白い肌は僅かに赤みが帯び、湯気のせいか瞳は潤みを増していた。
「頑固者め……参ったなぁ」
ぼそりとそう呟く鬼神に、クラウは躊躇い無く身を寄せた。
幾度の戦いの最中で在ろうと、決して弱音を吐かない魔人が、女の一声には容易く弱音を漏らしてしまう。
お互いに近寄られる中、良はふと自分を見る。
「なぁ、ところでさ」
「うん?」
「どんな相手なんだ?」
唐突な質問に、鬼神は鼻を唸らせた。
「俺も色々とやり合ったが、そんな強いのが居んのか?」
場違いな話では在るが、良は折角の機会だからと尋ねていた。
改造人間を相手に、深手を負わせられる化け物の存在を良は危惧している。
この間、クラウとリサは、互いにムッとした様な顔を見せているが、良同士はお互いの話で二人の顔は見えていない。
二人の女性の怒りはともかくも、鬼神は苦く笑った。
「あぁ、その事か……」
手足を失う程となれば、大事である。
修復が困難な程に鬼神へと手傷を負わせたのは何なのか。
「頼むよ」
良は答えを欲していた。
「そんな難しい事じゃないんだ……アレは……」
クラウは目を潜め、スッと息を吸い込んだ鬼神が話をしようとした時。
「爆弾投下!」と空から唐突に声が響いた。
何か大きなモノが、温泉目掛けて投下される。
そしてソレは、派手な水柱をブチ上げた。
すわ何事かと、湯に浸っていた四人は驚きを隠さない。
バッと立ち上がるクラウに対して、思わず良に抱きつくリサ。
そして、湯へと投下されたのは、モンハナシャコである。
「なんだ!? 此奴は!?」
流石に未知の者の登場に、クラウは驚きを隠せない。
みた事もない大型の蝦蛄が、唐突に現れたのだ。
そして、四人と相対するモンハナシャコは、ジロリとクラウとリサを睨む。
『どぉいう事だぁ!? コレは!?』
まさに異世界の怪物といった風貌ながら、ソレから漏れ出る声は女性のモノである。
「喋るだと? でも、その声は……」
クラウにしても、一応アナスタシアの声は知っている。
しかしながら、彼女は女幹部が変身した姿をみた事が無かった。




