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世界征服、はじめました  作者: enforcer
戦慄の作戦! 地球からの追放!?
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戦慄の作戦! 地球からの追放!? その21


 日が完全に沈み掛けた頃。

 空は僅かの時間、紫色へと染まる。


 そんな光景に見とれていたリサとクラウだが、ふと、背中からの足音に気付いた。

 ハッとなって振り返れば、其処に現れたのは、この世界で鬼神と呼ばれる良である。


「何時以来だろうなぁ……夕焼けなんて拝むのは」


 博士の修復が功を奏したのか、まるで動けなかった筈の良が洞窟から這い出した。

 その姿に、クラウは膝を着いて頭を垂れた。


「お帰りなさいませ」

  

 跪くという作法は、相手への最上位の礼とも言える。

 頭を垂れ、首を晒すという行為自体【命を差し出す所存】という覚悟を示して居た。 


 礼儀を怠らないクラウだが、スッと肩に触れられ、頭を上げる。


「そんな畏まる成って……何度も頼んだろ?」

 

 少し嗄れ声では在ったが、口調はリサも知っている。

 違いは在れども、今この場にいる良もまた、彼女の知っている良と同じであった。


 ソッとリサとクラウの間を抜ける良に、クラウが慌てて立ち上がる。


「鬼神様……急に動かれては」


 そう呼ばれた良は、少し目を伏せ苦く笑う。


「心配すんなクラウディア。 なんせ云十年ぶりだからな、少しは動かさないと馴染まない。 ただ、なんだろうなぁ、今更だけど……くすぐったい呼び名だって云った爺さんの気持ちが分かった気がするよ」


 良の言う爺さんが、誰を指しているのかは二人にも伝わる。

 決して本名を語ろうとはしないが、壮年もまた、剣豪(ソードマスター)という異名で呼ばれる事を嫌っていた。


「……では、なんとお呼びすれば?」


 悩むクラウに、鬼神は笑って見せた。


「決まってる。 今も昔も、俺は……篠原良さ」


 そう言う脇には、木箱が抱えられていた。


「さぁてと……里に顔出す前に……ひとっ風呂浴びるかなぁ。 なんせ、ずーっと穴蔵に居たんだからな」


 ポンと出された声に、リサがウンと鼻を唸らせる。


「お風呂ですか? 大丈夫だとは思いますけど……」

   

 果たして、この世界に風呂は在るのかとリサは疑問に感じた。

 まだまだ文明自体は未開の段階であり、熱交換装置ボイラーといった設備は遠い未来の発明である。


 疑問を呈するリサに、クラウが首を傾げる。


「……おふろ、とは……温浴の事でしょうか?」


 言葉の意味は、リサにも伝わる。


「んー、そう、だけど?」

「在りますよ、里の近くに温水が湧く泉が在りますから」

 

 当たり前の事だが、クラウは土地の者であり、詳しい。

 

「へぇ、天然の温泉なんて、贅沢だね」


 そう言うリサに、鬼神が振り返る。


「そうだ、どうせなら彼奴も誘ってやれ、一緒に入ると良い」

 

 ポンと投げられる声に、リサはウンと鼻を鳴らした。

 考えて見れば、自分も風呂が恋しい。


「温泉かぁ、そう言えば……」


 そもそも、異界に来る前には温泉地へ来る筈であった。

 在る意味では、それが叶ったと言えなくもない。


 何せかなりの間、洞窟の中で作業をしっ放しであった。

 そうなると、否が応でも身体の至る所に汚れが目立つ。

 

 となれば、やはりひとっ風呂浴びたいというのは、自然な欲求と言えた。

 加えて、【彼奴も誘ってやれ】と云われている。


 無論、直接的に名前を云われてはいないが、誰を指しているのかは明白だろう。

 

 ただ、リサは何かが引っ掛かる。


「あれ? なんだろ、何か……忘れちゃってる様な」


 頭脳明晰な筈のリサだが、疲れからその答えが湧いてこなかった。


   *


 大仕事を終え、博士は【悪の秘密基地(仮)】へと戻って来た。

 

「ただいまぁ」


 ドアを開けて中を覗くなり「よう」と声が掛かった。

 声を掛けて来たのは、良である。


「悪かったな……ろくに事情も説明しないでさ」


 詳細を告げなかった事を詫びる良に、リサは複雑な思いを抱く。

 目の前に立っている良も、彼女が直した良も同じ人物では在る。


 無論の事、何処が違うのかを問われれば、答えるのは難しい事ではない。

 目に見える違いは在る。 だが、彼女は何を云うべきか迷っていた。


「いえ、それは、まぁ……」


 何となく、バツが悪いと感じるリサだが、直ぐに在ることを思い出す。


「あ、そう言えば、この村の近くに、温泉在るみたいですよ」


 パッと顔を帰るリサに、良は目を丸くする。


「へぇ、そりゃあ初耳だったな」

「で、その……」


 要を得ない声に、良の鼻がウンと鳴る。


「えーと、誘ってやれって云われちゃって」

 

 本人が直接的に【一緒に入ろうぜ?】と誘うのは躊躇が在る。

 其処で、博士は誰かに云われました、という方法を取っていた。

   

「そうか、じゃあ」「行ってくると良い」


 良の声に被せられる声。

 二人共に其方へ顔を向ければ、壮年が座って愛刀の手入れをしていた。


「他の三人なら、決戦だとか宣って出て行ってしまったからな。 気兼ねする必要は無いぞ? 私は後でゆったりと湯を借りるとしよう」


 どうやら、博士の居ぬ間に、大幹部二人と魔法少女は喧嘩に出掛けたという。

 壮年の声に、リサは思わず細い喉をゴクンと鳴らす。


 何せ悪の首領ですら止められない三人をどうにかする方が無理が在る。


「……じ、じゃあ、行きましょっか?」


 千載一遇の機会に、リサは迷いを捨てていた。

 ああでもない、こうでもないという言い訳は、時間の無駄に思えてしまう。

 

 それは、短くとも共に時間を過ごしたクラウの影響と言えた。

 

「あ、おう」

 

 勢いとは、時に大事なモノと言える。

 ソレさえあれば、動かないモノですら意外な程にあっさりと動かせる時もあるだろう。

 この時は、リサの勢いが良を突き動かしていた。

  

   *


「じゃあ」「行ってきます」


 合わさる良とリサの声に、壮年は手を軽く振って見せた。


 程なく、家から出て行く二人。

 そんなに二人の後を、慌てた様子で追いかけようとする餅田。


「あーもう! 待っとってくれたってええのに!」


 丸い身体の上に畳んだタオルを乗せて居る事から、餅田はリサと良の話を聴いていたのだろう。

 自分も温泉にありつかんとするとが、戸を開けようとしたところで、それは別の者の手によって遮られた。

 

「ちょ!? そーどますたーはん!?」


 止められる理由が解らない餅田だが、止めた本人は首を横へと振るう。

 家の奥から戸までほぼ一瞬にして動いて居たのだが、それは超人ですら見えていない。


「野暮をするものではない。 折角勇気を振り絞ったんだ、温泉なら後で一緒に入ろうじゃあないか」

「えぇ……そんなせっしょうなぁ……」


 温泉を楽しみにしていた餅田からすれば、まるで餌を食べる事をお預けを食らった犬の様な気分にさせられてしまった。


   *


 場所についてだが、事前にクラウから教わっている。


「あ、湯気が見えるから、あの辺……ですよ、ね?」

 

 行ってみて解ることもある。

 露天風呂という概念に付いて言えば、当然ながらリサは知っては居た。


 それを売りとする宿も在れば、特段珍しいモノではない。

 但し、この世界に【温泉宿】というが概念は、まだ無い。


 つまりは、単純に湯が湧く泉が在るだけである。 

 付け加えれば、其処には【男湯】や【女湯】といった区別も無かった。


 例えるならば、森の真ん中にドンとデカい風呂が一つだけ在る、という風に見えなくもない

 一応、脱衣場らしき小屋は在るのだが、それ以外は何も無かった。


「お着きですか、では、どうぞ」


 待っていてくれたのか、クラウはリサと良の顔を見るなりそう言った。


   *


 小屋の中、と言えば聞こえは良いが、実際には薄手の衝立が一枚在るだけで、殆どは吹き曝しと言えなくもない。


 事情、直ぐ隣に居るであろう良の気配はリサにも解ってしまう。 

 

 衣服を脱ぐ音や、それを置く音。

 良の気配に、動きを止めるリサだが、直ぐ隣のクラウはと服を脱ぐ事を躊躇わない。

 

 それどころか、不思議なモノを見るような目をリサへと向けていた。


「あの、どうかされましたか?」

 

 まるで躊躇が無いクラウだが、ソレは価値観の違いであった。


 男女別浴という概念自体、近代のモノであり、ソレまでは男女の区別など寧ろ無かったのである。

 現代人というリサからすれば、不思議そうな顔を見せるクラウの方が不思議に見えていた。


「えっとね……恥ずかしくない? だって、混浴みたいだし」


 遠回りせず、率直に思った事を尋ねるリサ。

 それに対する反応は、首を傾げるだけだった。


「ソレは……肌を晒す事が……という意味でしょうか?」

「あ、うん」


 思わずリサは頷くが、クラウはジッとリサの目を見た。


「別に、私は構いませんが」


 恥ずかしい恥ずかしくない以前に、構わないとの答え。

 リサが何かを問う前に口を開く。 


「逆にお尋ねしたいのです。 貴女に取ってしのはら様はどの様なヒトなんですか?」

「え? えーと、なんて云うか……」


 戸惑いを隠さないリサに、クラウは続いて下着を体から取り去る。


「鬼神様は私に取っては掛け替えの無い人です。 それに、本当に嫌なら、そもそも貴女は此処に来ないんじゃあないですか?」


 云われてみれば、当たり前の事だった。

 

 混浴云々以前に、相手が嫌ならば、何をするにせよ誘う事は無い。

 それこそ食事、娯楽、選択肢は一つではない。


 寧ろ、関わり合う事すら拒むだろう。


 それは、肌を晒す以前の問題と言えた。


 逆に云えば、リサが良を誘った時点で話は違う。

 自分から誘ったという事は、それなりの意味が含まれていた。

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