戦慄の作戦! 地球からの追放!? その18
馬は丸一日を掛ければ数百キロは移動が可能ではある。
では、自動車ならばどうかと言えば、遥かに速く、遠くへ行けるだろう。
だからこそ、人は馬から自動車へと移動手段を移して行った。
そんな地球の歴史を示すが如く、唐突に現れたのはバスという巨体。
ただ、里に入った段階で、車体は止まっていた。
*
当然ながら、里を守ろうと黒装束に身を包んだ者達は立ち塞がる。
そして、バス降り立った戦闘員達も相対する。
真っ黒な集団と、ピチピチタイツの集団が睨み合うという、不気味な光景。
一見する分にはふざけて居るようにも見なくもないが、実は大問題である。
首領捜索の為に奔走している戦闘員に対して、里の者達は侵入者に警戒していた。
このままでは一触即発であり、無益な戦いが始まり兼ねない。
そんな中、慌てて駆けてくるのは二人。
「ちょいちょいちょい、待て~い!! ちょーっと待て!!」
そう言って、ピチピチタイツの集団の前に立つのは、首領である良。
「皆、待って! 違うんだよ!! 敵じゃないの!!」
黒装束の前に立つのは、里の者であるクラウ。
「首領!? 御無事でしたか!!」
良が顔を見せれば、戦闘員達も武器を下ろす。
対して、黒装束達も、仲間のクラウが必死に訴えれば耳を傾けてくれる。
「クラウ、彼らを敵ではないと云うが……その証拠は在るのか?」
一応は構えを解きはするが、まだ疑いは晴れていない。
其処で、クラウは妙案を思い付いた。
言葉で証が立たないならば、直接見せれば良い。
「しのはら様! アレ、ピカッと光る奴を!」
異界の者にすれば【変身】という概念とは縁が無い。
それでも、彼女は見たままを良へと伝えた。
「へ? あ、あぁ、はいはい……そんじゃあ、まぁ」
別に出し惜しみする事でもないからか、良は起動の構えを取る。
「……変っ身っと」
戦いの最中でないなら、其処まで気合いを入れる必要は無い。
ともかくも、起動動作を終えれば、良の体は応じる。
クラウの言葉通り、黒装束達の見ている前で、良が一瞬光った。
瞬く間に姿を変える良は、バツが悪そうに片手を振って見せる。
『えーと、コレで良いのかな?』
変身して見せた良の声に、黒装束達が一斉に声を漏らす。
「鬼神様?」「嘘、でも、あの御姿は」
訝しむ者は居るが、その中の一人が覆面を取った。
中からは、年老いてもなお凛々しい狼の様な亜人が顔を見せる。
先ずはとばかりに、膝を着いた。
「……お戻りに為られましたか、御懐かしゅう御座います」
彼が一番の古株年長者なのか、周りの者達もその言葉を聴いて覆面を取り去っていた。
場に集まった黒装束達は、一人残らず良の前へと膝を着く。
周りから見れば、荘厳に見えなくもない。
全身を装甲に覆われた魔人の前に、黒装束達が跪く光景。
しかしながら、当の本人である良にとっては想像すらしていなかった。
『え、ちょ、えぇ……参ったなぁ』
相も変わらずの御神体扱いに、素直な感想が漏れた。
*
里の者達の説得はクラウの一計によって見事に叶った。
だが、それで全てが丸く収まった訳ではない。
当然ながら、良には別の者達の説得という仕事が残されている。
更に言えば、今度は仲介役が居ない。
空間を確保する為か、座席がとっ払われた事によって意外に広い。
そんなバスの車内にて、なんと悪の首領は正座をさせられていた。
正座をする良を取り囲むのは、悪の組織の大幹部達である。
右から、虎女、博士、女幹部と揃い踏み。
この場に剣豪が居ないのは、良が見捨てられたという事に他ならない。
先ずはとばかりに、先制して虎女が気怠そうに息を吐いた。
「なんかさぁ、酷くない? あたし達さ、一生懸命に来たってのにぃ」
「悪かった、色々在って、ちょっとその……」
恨みがましい声だが、それは他の二人も変わらない。
「良さん、解ります? ろくに道具も設備も無い中、車を直すのって、スッゴく大変なんですよ?」
如何に機械に詳しいとは言え、ほぼ大破したバスをろくな設備無しで直した手腕は、博士が如何に優れた技術者であるかを示していた。
「すみません。 あ、でも、よく、此処に居ることが解ったな?」
何とか話を変えて矛先を反らしたい首領。
だが、そうは女幹部が簡単に許してくれそうもない。
「簡単でしたよ? この前、首領に発信機を入れさせて頂きましたから」
「あ、そう、ですか」
にこやかに笑って居る様で在りながら、相も変わらず顔の筋肉だけで笑う女幹部。
綺麗な花には棘がある、そんな言葉を、良は身を持って体験していた。
在る意味修羅場な中、バスの奥からゆらりと近寄ってくるモノが一つ。
ソレは、分身に因って分かれた餅田の片割れである。
「まぁまぁまぁ、そう怒らんと。 みーんなこないな事言うとりまっけど、やれ早うせぇの、首領が危険かも知れへんだの、お三方はほんまに焦ってましたでぇ?」
場を和まそうとする餅田Bだが、そんな声に、虎女と女幹部がゆらりと顔を向けた。
「れ? ちょお、お二人共、そないに怖い顔せんでも……」
幹部から発せられる気に晒されてか、餅田の体がプルプルと揺れる。
次の瞬間、虎女と女幹部の拳が身体にめり込んだ。
「口が軽いって良くないと思うんだよねぇ?」
「貴様も悪の組織の一員ならば、もう少し自覚を持つのだ」
元々が不定形だけ在り、柔軟な餅田はパンチ程度では痛手ではない。
それでも、幹部二人のお叱りは伝わっていた。
「すんまへん、堪忍してつかぁさい……以後、自重しますよってに」
餅田が倒されれば、この場に良を庇う者は居ない。
「で、何か弁解は在りますか?」
まるで最後通告の如き博士の声だが、良は在ることを思い付く。
「そうだ! リサ、今すぐ修理の用意してくれ!」
ポンと思い切った良の声には、流石の幹部達も面食らっていた。
*
組織の首領が同じ組織の大幹部から説教を喰らってから暫し後。
里から少し離れた所では、珍妙な光景が在った。
真っ白な髪の毛が目立つクラウの後ろでは、普段は滅多に荷物を持たないで在ろう博士が、背中に大きな荷物を背負って歩いていた。
この二人の面識はほぼ無い。
だが、目的の一致が二人を同じ道に歩かせる。
山道の途中、元々体力に乏しい博士は足を止めていた。
首領から直々の【診て貰いたい】という指令とあっては、断れない。
「……ちょと……まだ、なんですかぁ?」
普段から、余り外で活動する方ではない博士は、息が上がる。
対して、博士の倍は荷物を持っているにも関わらず、クラウは涼しい顔である。
「……もう少しです」
良の知り合いだからこそ、一応は丁寧な言葉遣いを心掛ける彼女だが、正直な所は半信半疑であった。
鬼神と同じ姿を取る良から【彼奴なら治せる】という言葉を受けたからこそ、案内人をかってでている。
「なんか、さっきも聴いた様な気がするんですけど」
実際に計って居ないのだから、後何キロと正確には言えない。
あくまでも、距離感はクラウの体感によって述べられている。
露骨な博士の愚痴にも、何も言わず案内に努める。
本来、里の者達ですら洞窟の存在を知っている者は多くない。
それはそのまま、彼等に取っての聖域とも呼べる場所だからだ。
良が来訪を許されたのは、それを許可した者が居るからに他ならない。
「あの……」
「え? なに?」
「もし、アレでしたら荷物を持ちますが?」
流石に見かねたのか、クラウがそんな事を申し出る。
「いや、でも」
既に倍以上荷物を持っているにも関わらず、更に博士の分まで持つという案内人。
何故そんな事を云うのかと、リサが顔を上げれば、理由が見えた。
クラウは、言葉にこそして居ないが、急いでいる。
【治る】という言葉を聴き、それを信じたからこそ、顔にそれは現れていた。
「ね、なんでそんなに急いでるの?」
息も整いつつあるリサが尋ねると、クラウは眉を寄せた。
「……あの人の為です」
厳密には【誰々】とは言っては居ない。
だが、何故だがリサにはそれが誰を指しているのかが解った。
博士の脳裏にポンと浮かんで来るのは、首領にして篠原良である。
ろくに知りもしない筈なのに、妙にクラウが癪に触ったリサは、グッと膝に力を入れた。
空元気ではあるが、意地を見せたいという意味でも在る。
「……さ、行きましょ」
少しずつではあるが、足を前に出す博士に、クラウはフゥと息を吐くと直ぐに博士を追い抜いていた。
*
目的地まで辿り着いた所で、博士が額に浮いた汗を拭う。
「……こんなに動いたの、ひさびさかなぁ」
そう言ってから顔をあげると、洞窟か見える。
「わぁ、凄い……こんな所なんだ」
専らの職分からして、基本的には基地に入り浸りな少女からすれば、自然が作り上げた洞穴は新鮮である。
だが、いつまでもそうはして居られない。
何故ならば、クラウは観光案内の為に来た訳ではないのだ。
「少し入った所です、急ぎましょう」
「えぁ、どうせならちょっとだけ写真とか……」
せっかく山登りをしたのだからと、博士は声を漏らすが、クラウの眼はそれを許さぬ色が在った。
写真という言葉自体を、彼女が知っている訳ではない。
ただ、切実に【急いで欲しい】と訴えている。
「……はいはい、解りましたよぅ」
休憩もそこそこに、クラウとリサの二人は洞窟の中へと姿を消した。
*
流石に、改造人間をとは違い暗視が出来る訳ではない博士は、ペンライトにて暗闇を照らす。
途中、みた事も無い道具を用いる博士に、クラウは目を丸くしていた。
「それ……凄いですね、魔法ですか?」
「んぇ? んーとね、マホーとか、そう言うのじゃなくてね……えーと……」
科学のかの字も知らない相手に、どう説明すべきかリサは悩む。
説明は出来るのだが、専門用語を如何に噛み砕いても、理解出来るかは怪しい。
如何にして説明すべきなのかを悩んでいると、ハッと在ることに気付いた。
『……どうした? 何か在ったか?』
洞窟の奥から聞こえて来る声を、リサは知っていた。
「鬼神様……お医者をお連れしました」
『医者? 俺にか?』
クラウの言葉に返ってくる返事に、博士は慌てて駆け出す。
程なく、ペンライトの灯りが声の元を照らし出した。
「……良、さん?」
『その声は……リサ、なのか?』
思わぬめぐり逢いに、鬼神と博士は互いに言葉を失った。




