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世界征服、はじめました  作者: enforcer
戦慄の作戦! 地球からの追放!?
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戦慄の作戦! 地球からの追放!? その16


 悪の組織が暗躍する中。 別の場所ではその事を危惧する者達が蠢いていた。


 組織に因って、襲撃を受けた要塞から離れた場所に在る其処は、その国の首都とも呼べる場所である。

 何よりも目立つのは、差して大きくは無いがそびえ立つ城。


 その城の中で、襲撃の報告が為されていた。


   *


 城の深部、最も防備が硬いであろう其処は、豪華な椅子が鎮座する広間。


「どういう、事だ? シノハラリョウが現れた……だと?」


 一報を受けてそう言うのは、王冠を頭に戴く長。

 土地の領有権を預かる国王とでも呼ぶべき者だが、声は驚きに満ちていた。


 王の前に膝を着くのは、まだ包帯が取れない少年指揮官。

 神童とも呼ばれた彼は、年若くとも爵位を賜る立場である。


「報告のままに御座います、陛下」


 悪の首領と対峙した時の情けなさは何処へやら、この場の少年は凛々しい。 

 周りが味方に囲まれているという点が、少年に安心感を与えているのだろう。


 少年からの言葉に、領主は悩む様に鼻を唸らせた。


「そんな事が有り得るのか? くだんの魔人に関しては数十年も前に、倒した筈だぞ? 以来、姿を見たものは居るまい?」


 伝説とは、人が伝言にて伝える説明である。

 但し、コレは文字通りの【伝言ゲーム】に等しい為、正確性には欠けていた。

 

 最初に伝言を伝えた者が大真面目であったとしても、後続がそうである保証は無い。


 時には、話を面白くしようと脚色を加える者も居る。

 もしくは、悪戯心から少しずつ話を変えてしまう。

 中には、単純に聞き間違えや書き間違いも多い。


 そういった事が重なれば【伝説】なるモノは信憑性に乏しい。


 事実【シノハラリョウ】なる言葉だけか先走り、その見姿や特徴なども情報が欠けていた。


「陛下……魔人が倒れたという伝説に付いては私も知って居ります。 しかしながら、この度現れた輩は、一部の特徴が一致して居りました」


 少年の声に、場がざわつく。


「それはまことか?」


 言葉から解る様に、領主ですら相手の姿すら知らない。

 場の面々にしても、伝説ではない本来の話を知っている者は多くない証明と言えた。


「伝説通りの赤目の黒龍では在りません。 寧ろ、その姿は単なる鎧を纏っただけの人という方が正しいでしょう」


 実際に見た少年は、伝説とは違う姿を伝えた。

 だが、場の一部からは「そんなバカな!」と声が挙がる。


「東西南北から選りすぐった英傑をかき集めて、それでようやく倒せた化け物だぞ」

 

 自分が知っている知識をひけらかす声を、領主が手を挙げて制した。


「……諸君。 今は、子供に聴かせる寝物語をしている場合ではないのだ」


 場が静寂を取り戻す。

 それを確認した領主は、少年へと眼を戻した。 


「だが、貴公が手傷を負ったことは何よりの証拠なのだろうな……」


 領主の悩む声に、先程よりは小さくともざわめきが起こる。


 膝を着く少年だが、今の今まで彼が手傷を負ったことは無かった。


 例え相手が大型の化け物であっても、飄々と依頼を受け、こなす。

 それだけでなく、若さに不釣り合いな知識を有し、みた事も無いモノを作り上げる。


 行く行くの将来は国を背負って立つかも知れないと噂される程である。

 

 その未来の英雄ですら、件の魔人には手も足も出せなかった。

 

 それらの事実を鑑みる領主だが、深く悩みを顔に浮かべる。


「しかし、解せないな」


 ポンと出された声に、場の面々は勿論、少年ですら思わず顔を上げる。


「陛下、何か?」

「確かに、我々の兵士が倒されたが、誰一人として死んでは居ないと聞いている」


 報告には【突如として現れた魔人に因って損害が出た】というのが要約である。

 とは言っても、この報告には別の事も含まれていた。


 激しい戦いともなれば、それこそ死傷者がどれだけ出るのか想像する事は難しい。

 その筈が、負傷者こそ多くとも、重傷を負った兵や死亡した者は居なかったのである。


「伝説に相違なければ、兵士は皆殺しでもおかしくなかったのではないか?」


 兵士達の言葉を思い返す領主。

 子々孫々に伝えられる程の怪物は【殺す】事を躊躇った事になる。


 伝説では、如何なる勇者も魔法使いですら歯が立たず、それどころか下手な者では皆殺しの憂き目に在ったという逸話も多い。


 その筈が、実に不可思議であった。

 人を簡単に殺せる筈の魔人は、寧ろ殺す事を嫌がり、兵士を退けただけ。


 そうなると【何故そんな事をしたのか?】という疑問が浮かぶ。


 悩む領主は、理由を考え始めてしまう。


「陛下!」


 思案に耽る領主に、少年は立ち上がっていた。


 少年からすれば、何故に件の魔人が暴れ出したのか、勿論その理由を知っている。

 但し、具体的な経緯は、余り詮索を受けたくない内容と言えた。


 特に、拘束した相手、然も女性を一方的に殴ろうとしたなど、貴族階級に取っては誉れとは真逆な卑劣な行為と言える。


「なにか、ヴァーデルハイト」

「この様な事に時間を割いている場合では御座いますまい? 今すぐ、国中から戦力をかき集めるべきではないかと」 


 少年の言葉は、上役への助力の申請である。

 その内容に関しては、在る意味では国の一大事と言えた。


 過去の伝説の如く、国中から人をかき集めると成れば、コレは大仕事である。

 

 そして、大仰な事をぶち上げるのには実は裏の意図が在った。

 大きな事が目の前に降れば、小さな事は目に入らなくなる。


 例えそれが【何故、魔人は襲撃を仕掛けたのか?】という疑問でも。

  

 理由の如何を問わず、伝説の怪物が復活したと有れば大事に変わりはない。


「貴公の云うとおりか、解った。 早速触れを出そう」

 

 少年の言葉に、領主は動き始める。 王が動けば、臣下は従うのが仕事であった。


「では、失礼致します」


 増援の申請は領主に任せ、少年は踵を返す。

 大きな仕事は、自分で手間を掛けずにそれなりの権力者に任せれば良い、と。 

 

 広間から出た所で、待っていた少年の臣下が足早に近寄ってくる。


「や、お待たせ」

「……あの、どうでした?」


 不安そうな女騎士の顔に、少年はにこやかに微笑む。


「大丈夫だよ、カタリナさん。 まさか、剣が使えなく成ってたんだから、君の責任じゃあないから」

「申し訳在りません」


 詫びこそすれど、騎士の顔には安堵が窺えた。 

 少年が報告さえしなれば、彼女の失態は外へは漏れでない。


 無論の事、そうしないのには訳がある。


「あ、ところで、剣を直さないと……ね?」

 

 少年は声を掛けながら、騎士の腰に手を回す。

 

「あの、此処では……」


 頬を染める何とも初々しい反応に、少年はニヤリと笑う。


「じゃあ、どうせ時間掛かるだろうし……部屋で休もうか?」


 単純に言葉を解釈するのであれば、休息を取ろうという意味ではある。

 しかしながら、少年に仕える者に取っては、別の意味が含まれていた。


「……はい」

「うん、それじゃ行こう」


 護衛としての同伴者であれば、例え少年の側を騎士が歩いても詮索する者も居らず、また、咎めもしない。

 寧ろ、関わりたくないと顔を背ける者も居た。


 騎士を伴い、部屋へ向かう少年。


 本来ならば、未だに根強い国への反逆者狩りを楽しむ筈であった。

 尋問に事掛けて、捕まえた捕虜に手を下すのも、楽しみの一つと言える。

 

 それを邪魔された少年は、顔には出さないがどす黒い何かを胸に秘めていた。


   *


 一つの国が、慌ただしい動きを始める。

 とは言っても、それは余程近くなければ気付けるモノではない。

 

 洞窟の奥に居た別世界の魔王との対談を果たした良は、あてがわれた宿に戻って居た。


 部屋に帰れば、相も変わらず壮年は壁に凭れたままで動かない。

 隣の部屋だが、長話に疲れたのか静かである。


 今は、とりあえず寝床へと行こうと足を向けた。


「……どうだった?」

「うおっと!?」


 唐突に尋ねられ、良は思わず声を上げた。


「ちょっと、脅かさないでくださいよ」


 胸を手で抑える良に、壮年は肩を軽く揺すった。


「いや、すまない。 ただ、暫く経ったからな。 もしかすると、あのお嬢さんとお近づきに成れたのかと期待していたんだが……」


 珍しく、壮年は饒舌である。

 とは言え、その話の内容には良は鼻唸らせた。


「いや、そんな、ことは」


 歯切れの悪い声に、壮年はまたしても肩を揺すった。


「まぁ、首領が誰と何処で過ごそうと、私なら気にはしないな」


 そんな声に、自分が誰と逢っていたかを離そうかと良は悩む。

 ソレを口に出すよりも早く、壮年が口を開いていた。


「魔法使いのお嬢ちゃんなら大丈夫だよ。 新入りと随分と熱心に話していたが、その内静かになった。 今頃は、ぐっすりと寝ているだろう」

 

 疚しい事は断じてして居ないという良からすれば、壮年の言葉は心外である。


「あの、なんつーか……」

「うん? なんだね?」


 意外だという顔を向けて来る壮年に、良はウーンと唸る。


「案外、俗物っすね?」


 良の指摘に、壮年は口を手で抑え笑いを隠した。

 必死に堪えているのか、肩の揺れは隠せて居ない。


 其処まで笑われると、良もムッと成ってしまう。


「……其処までウケる事は云ってないっすけど」

   

 眉を寄せて不機嫌さを隠そうとしない首領に、壮年は首を横へと軽く振った。


「いや、すまない。 ただ、余計なお世話でも言わせて貰えるか、首領」

「えーと、はい」


 笑いを飲み込んだ壮年はスッと息を吸う。


「人は生きている内に楽しめるなら、楽しんだ方が良い想うんだ。 死んでからでは、恋も愛もないのだからな」


 今まで笑っていた壮年の真面目な声に、思いの外重く、良は背筋に寒気を覚える。 

 何故なら、この世界の自分から、当の昔に全てを失ったという事を知らされていた。

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